5 / 8
花笑み
しおりを挟む
社会人になれば、あっという間に時間が過ぎる。
早いもので、隆平さんが亡くなって5年が経った。
先輩の中には、きっとまだ隆平さんがいる。
でも、元の笑顔が戻ってきて、俺は嬉しかった。
亮はこの5年間、時々だけど日本に帰ってきた。
1年に1回か、多くて2回くらいか。
仕事がメインだけど、会える時は会った。
その度に飲んでは、酔った勢いでベッドに縺れ込む。
好きな人とは、まだうまくいってないんだと。
ずっと返事をくれないらしい。
亮が日本に帰ってくる度、俺はその誰かの代わりに抱かれているのか?
まあ亮がいいならそれでいい。
来年には日本に仕事の拠点を移して、その人と一緒にいたいと言ってた。
「蒼さぁ。遊んでばっかいないで、そろそろ本気で相手探したら?」
片付けながら先輩が言った。
あんたが言うかね…
「まあ、そのうちね」
「あのさ、今度の土曜日、街コン?ってやつの予約入れといたから、行って来なよ」
「は?なんで?」
「亮と別れてから、何人かいたみたいだけど、どれも長くは続かなかったでしょ?」
「まあ…」
ここ何年かは本気で付き合うってしてこなかった。
いや、どれも本気だったのかも。1番じゃなかっただけで…
「だからそろそろ本腰入れて探さないと、あんたもすぐにおっさんよ!」
「ひどい…」
「わかった?次の土曜日だからね!そんな土まみれのツナギじゃなくて、もうちょい良い格好して行ってよ?」
「わかったよ。本当に母親みたいだな…」
無理矢理入れられた予約を、キャンセルするのも面倒で、とりあえず俺は行ってみることにした。
初めて行った街コンは、なんかよくわからないまま終わった。
でも色んな人と話せて、人脈を広げるって意味でも、もう1度行ってみようと思った。
2度目の街コンで、俺は彼に出会った。
背の高い、爽やかイケメンに話しかけられている男の子がいた。
たぶん、自分がそう言う目で見られてるって、気付かずに相手してるんだろうな。
後に植本新と名乗った青年は、花が咲いたように笑う人だと思った。
図書館を探す俺に、話しかけた先輩の笑顔を思い出させるような。
その向こうに、視線を送る彼が目に入る。
入り口で2人で話してたな。あの子の連れか…
爽やかイケメンが去ったタイミングで、俺は話しかけた。
新は旅行会社の営業だと言った。
陶芸体験にも興味を示した。
ただの社交辞令で終わると思ってた。
次の土曜日に体験がしたいと、まさか予約を入れるなんて。
しかもあの友達も一緒に。
もうすぐだな。
店から顔を出していると、新が手を振ってやって来た。
「川辺聡です。今日はお世話になります」
と彼はぺこっとお辞儀した。
「田中蒼です。よろしくね」
新は店内の、いろんな手作りの陶器やガラスの食器が並んでいるのを見て、目を輝かせていた。
「聡!見て。全部すげーかわいいな?」
「そうだな」
はしゃいでる新は可愛いな。
「新は何作んの?」
「お猪口と徳利」
「酒飲みだな。俺より弱いくせに。しかも何ニヤけてんだよ」
「これが完成したら、お前がこの間お土産でくれた日本酒、一緒に飲もうよ!」
本当に楽しそうだ。
俺は新に話しかけた。
「新…楽しんでもらえて何よりだよ。お、ちょっと触るよ」
と言って新の後ろから、徳利の形を綺麗に直した。
隣の川辺くんの視線が痛い…
「先生。ここどうしたら良いですか?」
と彼は聞いてきた。
「ちょっといい?」
と言って隣から形を整えながら、
「先生じゃなくて、蒼で良いよ、川辺くん。あと、あんま睨まないでよ。新にはなんもしないから」
と小声で言った。
彼は俺の顔を見た。いや、睨んだ?
「大丈夫だよ」
と一言だけ俺は言った。
「川辺くんは、新と違ってすごく器用だね」
「ありがとうございます。まーでもあの不器用さが新のいいとこでもあるんで」
と言った俺たちに
「ちょっとー!聞こえてるぞー!」
と口を尖らせて新は言った。
次の土曜日、新はまた友達を連れて来た。
小学生みたいだな。
次々と家に友達を呼ぶような…
今回の彼は高岡総司くんと言うらしい。
「どうも」
とお互いに挨拶をした。
あーこの人、こないだの街コンで、新に話しかけてた爽やかイケメン…
なるほど。
それで川辺くんは、あんな顔になっているのか。
面白いな。
昼間新たちが来た。
今日は小物を作ろうと提案した。
2週間後に絵付けできる。来週は、この間の徳利とお猪口が出来上がるから、取りにおいでと言っておいた。
店を閉めて帰ろうとした時。
あれ?帰ったはずの川辺くんがふらふら歩いてるのが見える。
近付くと、泣いているようにも見えた。
「川辺くん?どうしたの?」
「お疲れ様です。今帰りですか?」
「そうだけど…君、何で泣いてんの?」
「え?」
「…時間ある?飲みにこない?うち、この近くなんだ」
ほっとけば良いのに、なんで声をかけたんだろう。
途中のスーパーでいくつかの酒と、つまみを買った。
自転車を押しながら歩いている。
その日、彼は新との思い出を楽しそうに、でも少し苦しそうに語った。
わかった。
ほっとけなかった理由。
似てるんだ。どこか俺に。
「着いたよ」
とアパートを指差して言った。
「適当に座って」
俺は買って来たスーパーの袋を漁りながら
「川辺くん、何飲む?ビール?」
と聞いた。
「何でも良いです。でも出来れば、1番強い酒をください」
と彼は答えた。
アイスペールに入れた氷、泡盛、ウイスキーと2人分のグラスをテーブルに置いた。
「どっち飲む?」
彼は泡盛を指差した。
俺は2人分の泡盛をグラスに注いだ。
「さっき普通に新のこと好きだって話してたね?」
「あ…」
「まあいいよ。気付いてたし」
「蒼さんもですよね?新のこと…聞いてもいいですか?」
「何?」
「蒼さんは昔から男性が好きなんですか?」
「そういうわけじゃないよ。付き合ってきた人も、色々だしね…」
「じゃあ今回はたまたま新が目についたってことですか?」
「俺ね。可愛い人が好きなんだよ…ご飯が美味しい時、友達と話してる時、面白い映画観た時。可愛いは…簡単に言えば、心から嬉しい、楽しい、面白いっていう気持ちを、素直に表現出来る人って感じかな」
屈託なく笑う新に、あの日の先輩を見たんだと思う。
「君は?男が好きなのか?」
「わからないです……あいつのこと諦めようとして、でもまた復活してってそれを繰り返して、拗らせちゃってるんですよ。親友に片想いなんて、ロクなもんじゃないですよ…」
そうか…亮にも似ている。
「そっか。苦しいな…じゃあ聡は俺のこと嫌いだろ?」
新に声をかけた俺を、彼は嫌っていると思った。
「嫌いならこんなとこまできて、一緒に飲んだりしてませんよ」
彼は、どうして新を口説くのをやめたのか、と聞いてきた。
「んー、自分で言うのもなんだけど。俺がさ、本気出したら、だいたいの子は落とせるかもと思うんだよねー。実際、狙って落とせなかった人は、1人だけだったし。けど新は、あんまり嬉しそうに陶芸してくれてたから、あぁ、この子はやめとこうって思った。性格的に、気まずくなったら来てくれなくなっちゃうタイプだろうし、誰かさんが黙っちゃいないだろうしね」
「たしかに。出来るだけの妨害はしたと思いますよ。もう…俺にはそんな権利、無くなっちゃいましたけど」
と聡は切なく笑った。俺は彼の頭を肩に引き寄せて、
「お疲れ様。泣けるなら泣いても良いんだよ」
と言った。
俺は泣けなかった。
先輩に失恋した日も、亮と別れたあの日さえも。
彼は泣いていた。大丈夫だ。泣けるなら。
どのくらいそうしていたかわからない。
彼は涙で濡れた俺のTシャツに気付いて、慌てて離れた。
「ごめんなさい。俺のせいで、Tシャツが濡れて…」
俺は彼の唇にそっと自分の唇を重ねた。
「蒼さん?酔ってるんですか?」
そして強く抱きしめた。
なんでそんなことしたんだろうか。
酒に酔うと人肌恋しくなるんだろうな。
でも今日はそれだけじゃない。
俺になんとか出来るなら、彼を救ってあげたいと思った。
いつかの俺に似た彼を。
そして、俺を愛し過ぎたせいで壊れそうになった、亮のような彼を。
「濡れてるのはシャツだけじゃないよ」
そう言うと、俺はTシャツを脱いだ。
「ちょっ!何ですか?」
そりゃ驚くよな。
「静かに…」
と俺は人差し指を立てる。
そしてさっきよりも、深く、そして激しく彼にキスをした。
同時に、着ている彼のシャツのボタンを外していく。
変な感じだ。いつもの感じとは違う感覚に戸惑う。
初めてでもないのに、なぜか緊張している。
中学生じゃあるまいし。
きっと酒のせいだ。
キスをすると彼の唇から吐息が漏れる。
だんだんと呼吸が荒くなる。
「ちょっ!蒼さん、やめてください!こんなの蒼さんを、新の代わりにしてるみたいで、ダメですよ…」
彼はふと我にかえり、引き離そうとした。
「代わりでもいいよ。君がそう望むなら…」
ふと、昔の記憶が頭をよぎった。
前にもあったな、こんなこと。
「そんなこと…」
「いいから。俺に任せて?」
そう言って彼を立ち上がらせ、手を引いてバスルームに連れて行った。
ザーっというシャワーの音だけが聞こえる。
「蒼さん。俺、やっぱり…」
「蒼でいいよ。新のことも呼び捨てだろ?」
そう簡単に、心は動かせないことは知っている。
でも体を合わせれば、少しは寂しさを紛らすことが出来ることも知っていた。
俺はボディソープを手で泡立てると、首からゆっくりと、彼の全身を洗っていった。
そして、右手で彼のを握り、ゆっくりと動かす。
「蒼…」
まだ少し戸惑いが見える。
でも体は正直だった。
「んん…」
シャワーの音がまだ響いている。
俺は手についたものを洗い流し、ゆっくりと彼の体を流しながら聞いた。
「少しは落ち着いた?」
「こんなことされて、落ち着くわけないじゃないですか…」
「俺は新の代わりになれたか?」
「…」
「心と体は別なんだよ。だから気にするな」
亮だって、もう好きな人がいるのに、帰って来るたびにここに来る。みんなそうやって、空いた隙間を何かで埋めてるんだ。
「…じゃあこんなことしておきながら、あなたは俺のこと、なんとも思ってないと?」
「そうだよ。何?好きだって言って欲しかった?」
そんなこと言っても、なんの意味もないだろ。
俺は彼を好きじゃないし、彼も俺を好きじゃない。
俺がリビングに向かうと、彼は新と電話していた。
「あなたは何があったか、聞かないんですね」
「話したくなれば、自分から話すだろ?無理に聞いても解決しないだろうし」
聡は数時間前に見た新の話をした。
楽しそうに並んで話す2人の姿。
自分に嘘ついてまで、高岡さんに会ったこと。
少し息を詰まらせながら話す彼を、俺は抱きしめた。
しばらくして
「聡。笑ってみ?」
と言うと、彼は引き攣った笑顔を見せた。
「まだまだだな」
「蒼さん。そういやさっきのって本気、出したんですか?」
と聡が聞いて来た。
「ん?」
「さっき、俺が本気出したら、だいたいの子は落とせるって…」
「あぁ」
と俺は少し笑いながら、
「いや、1割くらい」
と言った。
「なんすか、それ。俺、だいぶチョロいですね」
と言った彼に、
「落ちたのか?」
と俺はまた笑った。
「違います!」
聡は面白いな。
慌てた彼に、俺は新しいシャツを渡した。
また少し飲んで、彼は自宅に帰って行った。
家はそう遠くないらしい。
見送る時、彼の背中を見て思った。
なんでこんなことしたんだろうか。
少しでも彼の役に立ちたかったが、結局苦しめただけだったかもしれないな。
次の土曜日。もう店を閉めようと言う頃。
聡から電話があった。
「遅くなってすみません。今日お皿取りに行くってお約束でしたよね?今から行っていいですか?」
しばらくすると、聡が店に来た。
何かあったことは、その顔を見てわかる。
聡は自分の皿だけを持って帰ろうとした。
徳利たちは、直接、新に渡してくれと言う。
本当に拗らせてるな。
陶芸教室も今月いっぱいで辞めると言った。
「聡!」
店を出る聡を呼び止めて、俺は自分の家の鍵を投げた。
「先に俺の家行ってて。店閉めたら、酒買って帰るから」
聡が家に着いたそのすぐ後に、俺も家に着いた。
「早いっすね」
「自転車、必死に漕いだらこんなもんよ」
俺は酒をテーブルの上に置いた。
「あつー!あ、つまみ買うの忘れた。聡、料理うまいんだよな?なんか作って」
夏に自転車でダッシュなんかするもんじゃないな。
俺は汗で濡れたTシャツを、洗濯機に放り込んだ。
つまみを作っている聡の後ろ姿を見て考えていた。
今度は何があった?
寂しそうな背中を見て、俺は彼を後ろから抱きしめた。
「蒼さん。何してるんですか?料理中ですよ…」
「いいじゃん。お前も心のどっかで期待してた。だからここに来たんだろ?」
聡は黙ったままだ。
「…」
「その沈黙は、YESと受け取っていいよな?」
そう言って、俺はシャツの下から彼の胸元に触れ、首筋にキスをした。
心音さえも伝わりそうなくらい、俺の心臓は激しく鼓動する。
コンロの火を止め、後ろを向いたまま聡が聞いた。
何が目的か、と。
暇つぶしか、欲求不満解消の相手か、もしくは自分をおちょくっているのか。
俺は聡を自分の方に向け、息するのも苦しいほど、激しく口づけをした。
「…どんな答えなら満足?俺になんて言って欲しいの?」
「わかんないよ!ただ、この前、新の代わりにしたいと望むなら、それでいいって。そう言ったじゃないですか」
やっぱりそうか。
「言ったね」
「それって、俺があなたを好きになってもいいってことですか?」
「あぁ…なるほど。それで答えが欲しかったの?俺に好きだって言って欲しかった?もう辛い片想いは嫌だから?」
「…」
「俺が好きだって言えば、聡も俺を好きになるのか?身も心も俺の物になるのか?違うだろ?」
「でも今日、1人でいたくなかった。苦しくてどうしようもなくて。そんな時、蒼の顔が浮かんだ。忘れさせてもらえませんか?あいつのこと…あなたなら出来るでしょう?」
「俺はお前が好きだよ?苦しんでるなら、出来る限りのことをして、助けてあげたいくらいには好き。…時間はかかるかもしれないけど、気が済むまで一緒には居てやるから」
と言うと俺は聡を抱きしめた。
彼は俺の手を引っぱって、ベッドに連れていく。
シャツを脱ぎながら、横になった俺の上に跨る。
ふと我に帰った彼は、すぐに上から退こうとした。
このまま彼が立ち上がると、全て終わってしまう。
俺は何故かそれが嫌で、彼の腕を掴み自分に引き寄せてキスをした。
聡のベルトを外し、ズボンのチャックに手をかける。
「はぁ…はぁ…」
呼吸が荒くなる。
自転車を必死に漕いだせいで、まだ体が火照っている。でもそれだけじゃない。
「蒼、顔赤いよ?呼吸も荒いし、今日はやめとこう?」
そう言った彼の言葉を無視して、俺は続けた。
聡の下着の中に手を入れながら、
「誰のせいだよ…それにお前も、もうこんなになってるのに、今更やめるとか無理だろ?」
今日は同時に、お互いの体を洗っていく。
手で触ると、聡が少し表情を変える。
感じている彼を見ると、俺も興奮した。
俺はちらっと聡の目を見て、上からゆっくりと、全身にキスをしながらしゃがみこむ。
手で触って、少しずつ固くなってきた彼のを、ゆっくり舐め始めた。
嫌がるならやめようと思ったが、そうはならなかった。
「ちょっ!蒼?」
びっくりはしていたが、間もなく彼は俺の頭に手を添えた。
咥えて、上下に動かし、舌を使うと、彼は体を捩らせる。
「んっ…あっ…いい…」
口の中に、独特な匂いと味が広がる。
しばらくして、そっと立ち上がった俺は
「すごく、感じてたな。だからこんなにも早く…」
と耳元で言った。聡の顔が赤くなった。
「じゃあ俺も…」
と彼は言ったが、俺は彼を抱きしめて、この間と同じで良いと言った。
俺はやっと冷静になった。
先にバスルームを出た聡が、つまみの続きを作っている。
「座ってて。もう出来るから」
俺たちは出来たつまみを食べながら、また泡盛で乾杯した。
俺は今日も、自分からは何も聞かなかった。
聞いても、俺に出来ることは、たかが知れてる。
「俺、わかってるよって言われたから、もっとハードなのを想像してました」
「ハードなのって?」
「いや、だからその…」
と聡は言いにくそうにした。
「…そういうのが良かった?」
と俺は笑った。
「いや、よかったっていうか、男同士ってそれがスタンダードだと思ってたんで…」
「ちなみに聡はどっちがいい?」
ただの興味本位で聞いた。
「え?」
「挿れたい?それとも挿れられたい?」
「わかんないです。どっちの経験もないんで…」
「でも、さっきもっとハードなのを想像してたって言ったよな?」
「はい」
「そん時、君はどっち側だった?」
「…覚えてないです」
「ふっ。嘘つき」
聡は何かを考えている。
しばらくして口を開いて、どこが1番感じるか、と聞いてきた。
「ん?そうだなー」
と彼の手を掴んで、
「キスしてくれたら教えてやるよ」
と言ってみる。
ちょっとからかっただけだった。
何言ってるんですか!って冗談にすると思ったのに…
聡はそのまま、俺が掴んだ腕を、背中まで回して抱きしめると、俺の唇に自分の唇を重ねた。
びっくりした。俺は腕をそっと彼の首に回す。
ここで止めるべきか…
でも昂ってしまった感情を、抑えられなくなっていた。
俺は、横たわる聡の首に、きらりと光った汗を舐めた。
「んっ…!」
そのままゆっくりと、鎖骨や胸、下腹部とまたゆっくりキスをする。
「聡は首筋から鎖骨にかけて、すごく感じるよな?」
「蒼はキスが好きですよね?」
俺は、さっきと同じように口で咥えて、ゆっくり動かし始めた。
「あ…待って、蒼。次は俺も…」
「じゃあ…」
とそのまま体の向きを変えた。
聡は俺のを咥えて、ゆっくり上下させながら、時折舌を動かす。
「はぁ…あっ!…んっ…」
「蒼、そんなにも感じてくれてるの?」
「ん。だって…お前…」
どうしよう…
「蒼…もうダメ。我慢出来ない…」
と聡が言った。
「じゃあ一緒に…」
しばらくして
「聡。笑ってみ?」
と言うと、まだぎこちない笑顔を返された。
「まだ不合格だな」
「それ合格する日くるの?ところで今日のは、5割くらい?」
と聞いてきたから、
「んー?3割」
と笑って答えた。
2人で並んで横になっていると、聡に、狙って落とせなかった人はどんな人かと聞かれた。
俺は先輩の話だけをした。
無理矢理襲われたことや、亮のことはまだ話せないと思った。
彼は何を思ったのか、俺にキスをした。
慰めるつもりだったのか?
同情したのか?
あるいは俺がそう感じていたように、彼も俺に自分を重ねたか…
俺は目を閉じてキスを返した。
「落ち着いた?」
「おう」
「そうか…」
「あんなの反則な。あんな風にキスされたら、また興奮するだろ。次やったら犯すぞ?」
「やれるもんならやってみろ」
そう笑いながら聡は立ち上がると、帰る準備を始めた。
「帰るのか?」
「今週中に仕上げたいプレゼンの準備があるから、そろそろな」
「わかった…」
こんなに誰かと離れがたいと思ったのは、いつ以来だろう…
俺は聡を玄関まで見送った。
次の日、新が店に来た。
聡の作った皿の、後ろのメッセージを見せると、あいつは慌てて飛び出した。
自転車を貸してやった。
2人はどうなったかな。
2時間くらいして、聡から電話が来た。
どうやらうまくいったらしい。
良かった…
でも少し心がズキズキする。
嫌だ…こんなのダメだ…
そのあと2人で作品を取りに来た。
陳列された食器を、楽しそうに見ている新を、聡は見ている。
「聡」
と俺は声をかける。
「ん?」
と目があった聡の笑顔を見て、つい思ったことを口にしてしまった。
「やっと合格だな。けど、そんな可愛い笑顔向けられたら、本気で好きになっちゃうよ?」
と耳元で囁くと、彼は俺の顔を見て、
「…何言ってんだよ。バカだな」
と微笑んだ。
その微笑みに、その言葉の奥に、俺は何かを期待してしまった。
早いもので、隆平さんが亡くなって5年が経った。
先輩の中には、きっとまだ隆平さんがいる。
でも、元の笑顔が戻ってきて、俺は嬉しかった。
亮はこの5年間、時々だけど日本に帰ってきた。
1年に1回か、多くて2回くらいか。
仕事がメインだけど、会える時は会った。
その度に飲んでは、酔った勢いでベッドに縺れ込む。
好きな人とは、まだうまくいってないんだと。
ずっと返事をくれないらしい。
亮が日本に帰ってくる度、俺はその誰かの代わりに抱かれているのか?
まあ亮がいいならそれでいい。
来年には日本に仕事の拠点を移して、その人と一緒にいたいと言ってた。
「蒼さぁ。遊んでばっかいないで、そろそろ本気で相手探したら?」
片付けながら先輩が言った。
あんたが言うかね…
「まあ、そのうちね」
「あのさ、今度の土曜日、街コン?ってやつの予約入れといたから、行って来なよ」
「は?なんで?」
「亮と別れてから、何人かいたみたいだけど、どれも長くは続かなかったでしょ?」
「まあ…」
ここ何年かは本気で付き合うってしてこなかった。
いや、どれも本気だったのかも。1番じゃなかっただけで…
「だからそろそろ本腰入れて探さないと、あんたもすぐにおっさんよ!」
「ひどい…」
「わかった?次の土曜日だからね!そんな土まみれのツナギじゃなくて、もうちょい良い格好して行ってよ?」
「わかったよ。本当に母親みたいだな…」
無理矢理入れられた予約を、キャンセルするのも面倒で、とりあえず俺は行ってみることにした。
初めて行った街コンは、なんかよくわからないまま終わった。
でも色んな人と話せて、人脈を広げるって意味でも、もう1度行ってみようと思った。
2度目の街コンで、俺は彼に出会った。
背の高い、爽やかイケメンに話しかけられている男の子がいた。
たぶん、自分がそう言う目で見られてるって、気付かずに相手してるんだろうな。
後に植本新と名乗った青年は、花が咲いたように笑う人だと思った。
図書館を探す俺に、話しかけた先輩の笑顔を思い出させるような。
その向こうに、視線を送る彼が目に入る。
入り口で2人で話してたな。あの子の連れか…
爽やかイケメンが去ったタイミングで、俺は話しかけた。
新は旅行会社の営業だと言った。
陶芸体験にも興味を示した。
ただの社交辞令で終わると思ってた。
次の土曜日に体験がしたいと、まさか予約を入れるなんて。
しかもあの友達も一緒に。
もうすぐだな。
店から顔を出していると、新が手を振ってやって来た。
「川辺聡です。今日はお世話になります」
と彼はぺこっとお辞儀した。
「田中蒼です。よろしくね」
新は店内の、いろんな手作りの陶器やガラスの食器が並んでいるのを見て、目を輝かせていた。
「聡!見て。全部すげーかわいいな?」
「そうだな」
はしゃいでる新は可愛いな。
「新は何作んの?」
「お猪口と徳利」
「酒飲みだな。俺より弱いくせに。しかも何ニヤけてんだよ」
「これが完成したら、お前がこの間お土産でくれた日本酒、一緒に飲もうよ!」
本当に楽しそうだ。
俺は新に話しかけた。
「新…楽しんでもらえて何よりだよ。お、ちょっと触るよ」
と言って新の後ろから、徳利の形を綺麗に直した。
隣の川辺くんの視線が痛い…
「先生。ここどうしたら良いですか?」
と彼は聞いてきた。
「ちょっといい?」
と言って隣から形を整えながら、
「先生じゃなくて、蒼で良いよ、川辺くん。あと、あんま睨まないでよ。新にはなんもしないから」
と小声で言った。
彼は俺の顔を見た。いや、睨んだ?
「大丈夫だよ」
と一言だけ俺は言った。
「川辺くんは、新と違ってすごく器用だね」
「ありがとうございます。まーでもあの不器用さが新のいいとこでもあるんで」
と言った俺たちに
「ちょっとー!聞こえてるぞー!」
と口を尖らせて新は言った。
次の土曜日、新はまた友達を連れて来た。
小学生みたいだな。
次々と家に友達を呼ぶような…
今回の彼は高岡総司くんと言うらしい。
「どうも」
とお互いに挨拶をした。
あーこの人、こないだの街コンで、新に話しかけてた爽やかイケメン…
なるほど。
それで川辺くんは、あんな顔になっているのか。
面白いな。
昼間新たちが来た。
今日は小物を作ろうと提案した。
2週間後に絵付けできる。来週は、この間の徳利とお猪口が出来上がるから、取りにおいでと言っておいた。
店を閉めて帰ろうとした時。
あれ?帰ったはずの川辺くんがふらふら歩いてるのが見える。
近付くと、泣いているようにも見えた。
「川辺くん?どうしたの?」
「お疲れ様です。今帰りですか?」
「そうだけど…君、何で泣いてんの?」
「え?」
「…時間ある?飲みにこない?うち、この近くなんだ」
ほっとけば良いのに、なんで声をかけたんだろう。
途中のスーパーでいくつかの酒と、つまみを買った。
自転車を押しながら歩いている。
その日、彼は新との思い出を楽しそうに、でも少し苦しそうに語った。
わかった。
ほっとけなかった理由。
似てるんだ。どこか俺に。
「着いたよ」
とアパートを指差して言った。
「適当に座って」
俺は買って来たスーパーの袋を漁りながら
「川辺くん、何飲む?ビール?」
と聞いた。
「何でも良いです。でも出来れば、1番強い酒をください」
と彼は答えた。
アイスペールに入れた氷、泡盛、ウイスキーと2人分のグラスをテーブルに置いた。
「どっち飲む?」
彼は泡盛を指差した。
俺は2人分の泡盛をグラスに注いだ。
「さっき普通に新のこと好きだって話してたね?」
「あ…」
「まあいいよ。気付いてたし」
「蒼さんもですよね?新のこと…聞いてもいいですか?」
「何?」
「蒼さんは昔から男性が好きなんですか?」
「そういうわけじゃないよ。付き合ってきた人も、色々だしね…」
「じゃあ今回はたまたま新が目についたってことですか?」
「俺ね。可愛い人が好きなんだよ…ご飯が美味しい時、友達と話してる時、面白い映画観た時。可愛いは…簡単に言えば、心から嬉しい、楽しい、面白いっていう気持ちを、素直に表現出来る人って感じかな」
屈託なく笑う新に、あの日の先輩を見たんだと思う。
「君は?男が好きなのか?」
「わからないです……あいつのこと諦めようとして、でもまた復活してってそれを繰り返して、拗らせちゃってるんですよ。親友に片想いなんて、ロクなもんじゃないですよ…」
そうか…亮にも似ている。
「そっか。苦しいな…じゃあ聡は俺のこと嫌いだろ?」
新に声をかけた俺を、彼は嫌っていると思った。
「嫌いならこんなとこまできて、一緒に飲んだりしてませんよ」
彼は、どうして新を口説くのをやめたのか、と聞いてきた。
「んー、自分で言うのもなんだけど。俺がさ、本気出したら、だいたいの子は落とせるかもと思うんだよねー。実際、狙って落とせなかった人は、1人だけだったし。けど新は、あんまり嬉しそうに陶芸してくれてたから、あぁ、この子はやめとこうって思った。性格的に、気まずくなったら来てくれなくなっちゃうタイプだろうし、誰かさんが黙っちゃいないだろうしね」
「たしかに。出来るだけの妨害はしたと思いますよ。もう…俺にはそんな権利、無くなっちゃいましたけど」
と聡は切なく笑った。俺は彼の頭を肩に引き寄せて、
「お疲れ様。泣けるなら泣いても良いんだよ」
と言った。
俺は泣けなかった。
先輩に失恋した日も、亮と別れたあの日さえも。
彼は泣いていた。大丈夫だ。泣けるなら。
どのくらいそうしていたかわからない。
彼は涙で濡れた俺のTシャツに気付いて、慌てて離れた。
「ごめんなさい。俺のせいで、Tシャツが濡れて…」
俺は彼の唇にそっと自分の唇を重ねた。
「蒼さん?酔ってるんですか?」
そして強く抱きしめた。
なんでそんなことしたんだろうか。
酒に酔うと人肌恋しくなるんだろうな。
でも今日はそれだけじゃない。
俺になんとか出来るなら、彼を救ってあげたいと思った。
いつかの俺に似た彼を。
そして、俺を愛し過ぎたせいで壊れそうになった、亮のような彼を。
「濡れてるのはシャツだけじゃないよ」
そう言うと、俺はTシャツを脱いだ。
「ちょっ!何ですか?」
そりゃ驚くよな。
「静かに…」
と俺は人差し指を立てる。
そしてさっきよりも、深く、そして激しく彼にキスをした。
同時に、着ている彼のシャツのボタンを外していく。
変な感じだ。いつもの感じとは違う感覚に戸惑う。
初めてでもないのに、なぜか緊張している。
中学生じゃあるまいし。
きっと酒のせいだ。
キスをすると彼の唇から吐息が漏れる。
だんだんと呼吸が荒くなる。
「ちょっ!蒼さん、やめてください!こんなの蒼さんを、新の代わりにしてるみたいで、ダメですよ…」
彼はふと我にかえり、引き離そうとした。
「代わりでもいいよ。君がそう望むなら…」
ふと、昔の記憶が頭をよぎった。
前にもあったな、こんなこと。
「そんなこと…」
「いいから。俺に任せて?」
そう言って彼を立ち上がらせ、手を引いてバスルームに連れて行った。
ザーっというシャワーの音だけが聞こえる。
「蒼さん。俺、やっぱり…」
「蒼でいいよ。新のことも呼び捨てだろ?」
そう簡単に、心は動かせないことは知っている。
でも体を合わせれば、少しは寂しさを紛らすことが出来ることも知っていた。
俺はボディソープを手で泡立てると、首からゆっくりと、彼の全身を洗っていった。
そして、右手で彼のを握り、ゆっくりと動かす。
「蒼…」
まだ少し戸惑いが見える。
でも体は正直だった。
「んん…」
シャワーの音がまだ響いている。
俺は手についたものを洗い流し、ゆっくりと彼の体を流しながら聞いた。
「少しは落ち着いた?」
「こんなことされて、落ち着くわけないじゃないですか…」
「俺は新の代わりになれたか?」
「…」
「心と体は別なんだよ。だから気にするな」
亮だって、もう好きな人がいるのに、帰って来るたびにここに来る。みんなそうやって、空いた隙間を何かで埋めてるんだ。
「…じゃあこんなことしておきながら、あなたは俺のこと、なんとも思ってないと?」
「そうだよ。何?好きだって言って欲しかった?」
そんなこと言っても、なんの意味もないだろ。
俺は彼を好きじゃないし、彼も俺を好きじゃない。
俺がリビングに向かうと、彼は新と電話していた。
「あなたは何があったか、聞かないんですね」
「話したくなれば、自分から話すだろ?無理に聞いても解決しないだろうし」
聡は数時間前に見た新の話をした。
楽しそうに並んで話す2人の姿。
自分に嘘ついてまで、高岡さんに会ったこと。
少し息を詰まらせながら話す彼を、俺は抱きしめた。
しばらくして
「聡。笑ってみ?」
と言うと、彼は引き攣った笑顔を見せた。
「まだまだだな」
「蒼さん。そういやさっきのって本気、出したんですか?」
と聡が聞いて来た。
「ん?」
「さっき、俺が本気出したら、だいたいの子は落とせるって…」
「あぁ」
と俺は少し笑いながら、
「いや、1割くらい」
と言った。
「なんすか、それ。俺、だいぶチョロいですね」
と言った彼に、
「落ちたのか?」
と俺はまた笑った。
「違います!」
聡は面白いな。
慌てた彼に、俺は新しいシャツを渡した。
また少し飲んで、彼は自宅に帰って行った。
家はそう遠くないらしい。
見送る時、彼の背中を見て思った。
なんでこんなことしたんだろうか。
少しでも彼の役に立ちたかったが、結局苦しめただけだったかもしれないな。
次の土曜日。もう店を閉めようと言う頃。
聡から電話があった。
「遅くなってすみません。今日お皿取りに行くってお約束でしたよね?今から行っていいですか?」
しばらくすると、聡が店に来た。
何かあったことは、その顔を見てわかる。
聡は自分の皿だけを持って帰ろうとした。
徳利たちは、直接、新に渡してくれと言う。
本当に拗らせてるな。
陶芸教室も今月いっぱいで辞めると言った。
「聡!」
店を出る聡を呼び止めて、俺は自分の家の鍵を投げた。
「先に俺の家行ってて。店閉めたら、酒買って帰るから」
聡が家に着いたそのすぐ後に、俺も家に着いた。
「早いっすね」
「自転車、必死に漕いだらこんなもんよ」
俺は酒をテーブルの上に置いた。
「あつー!あ、つまみ買うの忘れた。聡、料理うまいんだよな?なんか作って」
夏に自転車でダッシュなんかするもんじゃないな。
俺は汗で濡れたTシャツを、洗濯機に放り込んだ。
つまみを作っている聡の後ろ姿を見て考えていた。
今度は何があった?
寂しそうな背中を見て、俺は彼を後ろから抱きしめた。
「蒼さん。何してるんですか?料理中ですよ…」
「いいじゃん。お前も心のどっかで期待してた。だからここに来たんだろ?」
聡は黙ったままだ。
「…」
「その沈黙は、YESと受け取っていいよな?」
そう言って、俺はシャツの下から彼の胸元に触れ、首筋にキスをした。
心音さえも伝わりそうなくらい、俺の心臓は激しく鼓動する。
コンロの火を止め、後ろを向いたまま聡が聞いた。
何が目的か、と。
暇つぶしか、欲求不満解消の相手か、もしくは自分をおちょくっているのか。
俺は聡を自分の方に向け、息するのも苦しいほど、激しく口づけをした。
「…どんな答えなら満足?俺になんて言って欲しいの?」
「わかんないよ!ただ、この前、新の代わりにしたいと望むなら、それでいいって。そう言ったじゃないですか」
やっぱりそうか。
「言ったね」
「それって、俺があなたを好きになってもいいってことですか?」
「あぁ…なるほど。それで答えが欲しかったの?俺に好きだって言って欲しかった?もう辛い片想いは嫌だから?」
「…」
「俺が好きだって言えば、聡も俺を好きになるのか?身も心も俺の物になるのか?違うだろ?」
「でも今日、1人でいたくなかった。苦しくてどうしようもなくて。そんな時、蒼の顔が浮かんだ。忘れさせてもらえませんか?あいつのこと…あなたなら出来るでしょう?」
「俺はお前が好きだよ?苦しんでるなら、出来る限りのことをして、助けてあげたいくらいには好き。…時間はかかるかもしれないけど、気が済むまで一緒には居てやるから」
と言うと俺は聡を抱きしめた。
彼は俺の手を引っぱって、ベッドに連れていく。
シャツを脱ぎながら、横になった俺の上に跨る。
ふと我に帰った彼は、すぐに上から退こうとした。
このまま彼が立ち上がると、全て終わってしまう。
俺は何故かそれが嫌で、彼の腕を掴み自分に引き寄せてキスをした。
聡のベルトを外し、ズボンのチャックに手をかける。
「はぁ…はぁ…」
呼吸が荒くなる。
自転車を必死に漕いだせいで、まだ体が火照っている。でもそれだけじゃない。
「蒼、顔赤いよ?呼吸も荒いし、今日はやめとこう?」
そう言った彼の言葉を無視して、俺は続けた。
聡の下着の中に手を入れながら、
「誰のせいだよ…それにお前も、もうこんなになってるのに、今更やめるとか無理だろ?」
今日は同時に、お互いの体を洗っていく。
手で触ると、聡が少し表情を変える。
感じている彼を見ると、俺も興奮した。
俺はちらっと聡の目を見て、上からゆっくりと、全身にキスをしながらしゃがみこむ。
手で触って、少しずつ固くなってきた彼のを、ゆっくり舐め始めた。
嫌がるならやめようと思ったが、そうはならなかった。
「ちょっ!蒼?」
びっくりはしていたが、間もなく彼は俺の頭に手を添えた。
咥えて、上下に動かし、舌を使うと、彼は体を捩らせる。
「んっ…あっ…いい…」
口の中に、独特な匂いと味が広がる。
しばらくして、そっと立ち上がった俺は
「すごく、感じてたな。だからこんなにも早く…」
と耳元で言った。聡の顔が赤くなった。
「じゃあ俺も…」
と彼は言ったが、俺は彼を抱きしめて、この間と同じで良いと言った。
俺はやっと冷静になった。
先にバスルームを出た聡が、つまみの続きを作っている。
「座ってて。もう出来るから」
俺たちは出来たつまみを食べながら、また泡盛で乾杯した。
俺は今日も、自分からは何も聞かなかった。
聞いても、俺に出来ることは、たかが知れてる。
「俺、わかってるよって言われたから、もっとハードなのを想像してました」
「ハードなのって?」
「いや、だからその…」
と聡は言いにくそうにした。
「…そういうのが良かった?」
と俺は笑った。
「いや、よかったっていうか、男同士ってそれがスタンダードだと思ってたんで…」
「ちなみに聡はどっちがいい?」
ただの興味本位で聞いた。
「え?」
「挿れたい?それとも挿れられたい?」
「わかんないです。どっちの経験もないんで…」
「でも、さっきもっとハードなのを想像してたって言ったよな?」
「はい」
「そん時、君はどっち側だった?」
「…覚えてないです」
「ふっ。嘘つき」
聡は何かを考えている。
しばらくして口を開いて、どこが1番感じるか、と聞いてきた。
「ん?そうだなー」
と彼の手を掴んで、
「キスしてくれたら教えてやるよ」
と言ってみる。
ちょっとからかっただけだった。
何言ってるんですか!って冗談にすると思ったのに…
聡はそのまま、俺が掴んだ腕を、背中まで回して抱きしめると、俺の唇に自分の唇を重ねた。
びっくりした。俺は腕をそっと彼の首に回す。
ここで止めるべきか…
でも昂ってしまった感情を、抑えられなくなっていた。
俺は、横たわる聡の首に、きらりと光った汗を舐めた。
「んっ…!」
そのままゆっくりと、鎖骨や胸、下腹部とまたゆっくりキスをする。
「聡は首筋から鎖骨にかけて、すごく感じるよな?」
「蒼はキスが好きですよね?」
俺は、さっきと同じように口で咥えて、ゆっくり動かし始めた。
「あ…待って、蒼。次は俺も…」
「じゃあ…」
とそのまま体の向きを変えた。
聡は俺のを咥えて、ゆっくり上下させながら、時折舌を動かす。
「はぁ…あっ!…んっ…」
「蒼、そんなにも感じてくれてるの?」
「ん。だって…お前…」
どうしよう…
「蒼…もうダメ。我慢出来ない…」
と聡が言った。
「じゃあ一緒に…」
しばらくして
「聡。笑ってみ?」
と言うと、まだぎこちない笑顔を返された。
「まだ不合格だな」
「それ合格する日くるの?ところで今日のは、5割くらい?」
と聞いてきたから、
「んー?3割」
と笑って答えた。
2人で並んで横になっていると、聡に、狙って落とせなかった人はどんな人かと聞かれた。
俺は先輩の話だけをした。
無理矢理襲われたことや、亮のことはまだ話せないと思った。
彼は何を思ったのか、俺にキスをした。
慰めるつもりだったのか?
同情したのか?
あるいは俺がそう感じていたように、彼も俺に自分を重ねたか…
俺は目を閉じてキスを返した。
「落ち着いた?」
「おう」
「そうか…」
「あんなの反則な。あんな風にキスされたら、また興奮するだろ。次やったら犯すぞ?」
「やれるもんならやってみろ」
そう笑いながら聡は立ち上がると、帰る準備を始めた。
「帰るのか?」
「今週中に仕上げたいプレゼンの準備があるから、そろそろな」
「わかった…」
こんなに誰かと離れがたいと思ったのは、いつ以来だろう…
俺は聡を玄関まで見送った。
次の日、新が店に来た。
聡の作った皿の、後ろのメッセージを見せると、あいつは慌てて飛び出した。
自転車を貸してやった。
2人はどうなったかな。
2時間くらいして、聡から電話が来た。
どうやらうまくいったらしい。
良かった…
でも少し心がズキズキする。
嫌だ…こんなのダメだ…
そのあと2人で作品を取りに来た。
陳列された食器を、楽しそうに見ている新を、聡は見ている。
「聡」
と俺は声をかける。
「ん?」
と目があった聡の笑顔を見て、つい思ったことを口にしてしまった。
「やっと合格だな。けど、そんな可愛い笑顔向けられたら、本気で好きになっちゃうよ?」
と耳元で囁くと、彼は俺の顔を見て、
「…何言ってんだよ。バカだな」
と微笑んだ。
その微笑みに、その言葉の奥に、俺は何かを期待してしまった。
0
あなたにおすすめの小説
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
親友が虎視眈々と僕を囲い込む準備をしていた
こたま
BL
西井朔空(さく)は24歳。IT企業で社会人生活を送っていた。朔空には、高校時代の親友で今も交流のある鹿島絢斗(あやと)がいる。大学時代に起業して財を成したイケメンである。賃貸マンションの配管故障のため部屋が水浸しになり使えなくなった日、絢斗に助けを求めると…美形×平凡と思っている美人の社会人ハッピーエンドBLです。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる
水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。
「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」
過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。
ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。
孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。
蒼と向日葵
立樹
BL
梅雨に入ったある日。新井田千昌は雨が降る中、仕事から帰ってくると、玄関に酔っぱらって寝てしまった人がいる。その人は、高校の卒業式が終わった後、好きだという内容の文章をメッセージを送って告白した人物だった。けれど、その返信は六年経った今も返ってきていない。その人物が泥酔して玄関前にいた。その理由は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる