愛おしい彼

SHIZU

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愛おしい彼

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「なぁ、けい。父さん、再婚しようと思う」
突然の報告だった。親父は俺にそう告げた。
大学の入学時に、近くがいいだろうと徒歩圏内のマンションの1LDKの部屋を俺のために借りてくれた。
親父はホテルを何店舗か経営していて、普段は忙しく一緒に暮らしてはいないため、少し時間ができると時々この部屋に来る。
俺が20歳の誕生日を迎えてからは、毎回酒を持参して来ていた。今日もお気に入りのウイスキーのボトルとつまみを持って訪ねてきた。
「いいんじゃない?20歳にもなって親の再婚に反対とかしないし…」
ソファに腰かけ、テーブルの上の氷の入った2つのグラスにウイスキーを注ぎながら俺が言うと、親父は
「そうか」
と言ってつまみの封をあけた。
テーブルの上にはミックスナッツとエイヒレとさきイカの天ぷらが並んでいる。
俺の好きなつまみばっかだな。機嫌を取ろうとしたのか?と思ったが口にはしなかった。
「んで?お義母さんになる人はどんな人?」
「LISA MURAKAMIってゆうブランド知ってるか?」
ブランドにそう詳しくない俺でも知っている。
30代から40代に人気のファッションブランドだ。
幼なじみのメイがよく読んでるファッション雑誌にも時々載っていたのを見たことがある。
「うん。有名だね。俺でも知ってるくらいだから」
村上むらかみリサ、その人だよ」
と返ってきた返事に驚いて、俺は漫画みたいにウイスキーを吹いた。
「汚いなー」
と笑いながら、風呂上がりに首から下げたままでいた俺のタオルを奪って、親父は自分の顔を拭きながら
「仕事には厳しいが、気さくで面白い人だよ。いきなり家族になりますって言われても困るだろうから、来週の土曜日、一緒に食事しないか?リサにも高校3年生の息子さんがいるんだ。お前と同じ大学が志望校らしい。ただ芸能関係の仕事をしているから、今のままでは合格は厳しいようだ。だから時間のある時に勉強を教えてやって欲しい」
一通り俺にいきさつを話した親父は、リサさんに電話し「こっちは問題ないよ」
と言いながら少し談笑し電話を切った。
「リサ達も楽しみにしてるって」
と言いながらウイスキーを飲み干した。

翌週、食事は18時からの予約で、都内のレストランで待ち合わせだった。俺はその前に手土産でも買おうと思い早く家を出た。
すると5階でエレベーターが止まり、メイが乗ってきた。
「おはよ!京。オシャレしてどっか行くの?」
「おはよ!って。もう13時だよ」
「まーまー。で?どっか行くの?」
「今日親父の再婚相手とその息子さんと食事会なんだ。だからその前にどっかでお茶して少し課題やってから、何か手土産でも買って行こうと思って」
「えー!おじさん再婚するんだー!良かったねー!相手どんな人?うちのお父さん、何も言ってなかったなー」
メイと俺は同い年で幼なじみだ。
メイの父・立花慎太郎たちばなしんたろう|と母・陽子ようこ俺の親父・冴島裕司さえじまゆうしも中学からの同級生で、昔から家族ぐるみの付き合いだった。
メイの両親と弟のかおるは都内の戸建てに住んでいる。親父が俺のためにこのマンションを借りたと知り、大学の近くだし京がいるなら安心だと、おじさんもメイのために同じマンションに部屋を借りた。
「そういえば今日行くお店、おじさんのお店だよ。こっからそう遠くない、1番最近出来たとこ」
「そうなの?」
「てことはおじさん達には話してるんじゃないか?再婚のこと。相手デザイナーさんで息子さんも芸能人らしいし」
「え!?マジ?誰?誰?」
「村上リサって人。メイが読んでる雑誌とかにも時々載ってるよな」
「えーーー!村上リサなの!?すごーい!てことは息子ってRYO!?」
とメイは大興奮だ。
「詳しい話聞きたい!買い物も手伝うから私も一緒にお茶する!」

マンションを出た俺たちは、行きつけのカフェに行った。
「ソイラテとアイスコーヒー。どっちもトールで」
「あと、私タマゴサンド!」
「じゃあそれも。以上でいいです」
いつもの窓際の奥の4人がけの席にメイに先に座ってもらい、ドリンクができるとそれを持って俺はメイの前に座った。
「タマゴサンド、10分くらいかかるって」
「ありがと!」
とメイは俺の差し出したソイラテを受け取り言った。
「で?おじさん達どうやって出会ったの?」
「なんか2年位前に親父のホテルの制服を一新したんだって。その時デザインをリサさんのブランドにお願いしたらしい。それがきっかけみたいだよ」
「へー!」
「仕事には厳しいけど面白い人だって親父は言ってたよ」
「今回初めて会うの?」
「うん。今までそんな話全然しなかったから、そんな相手がいるのも知らなくて。こないだ初めて聞いて、びっくりして飲んでた酒吹いた」
「ふふ。まーびっくりするよね!京はおじさんの再婚、嫌じゃないの?」
「親父には何不自由なく育ててもらってるし、親父の人生は親父のもんだから。好きにしたらいいと思う」
「でも有名なデザイナーが急にお義母さんで、モデルとか俳優やってる有名人が弟になるなんてなんかもう漫画だね(笑)」
ニヤついているメイの表情から何かを察した俺は
「そういや息子さんの方も結構有名なの?」
と気を逸らすために聞いた。
メイは持っていたスマホでササッと検索して俺に見せる。
「超イケメンでさ!基本はモデルの仕事がメインだけど、化粧品のCMとかやってたりして、10代からお母さん世代までが、今大注目の俳優さんだよー!デビューしてまだ5年くらいだったかなー。今までは学業がメインだからなかなかドラマとか時間が取られる仕事は出来なかったけど、大学生になったら俳優業を頑張りたいって雑誌のインタビューで言ってたの読んだよ!」
と言いながら見せられた顔写真を確認すると、たしかにCMやらコンビニにある雑誌の表紙とかで見た事ある顔だと思った。
店員さんが持ってきたタマゴサンドを頬張りながらメイはまたニヤニヤとなにか妄想しているようだった。

メイの勧めで話題のチョコレートのお店で手土産を買いお店に向かった。
15分前に到着し、時計を見ながら
「早かったかな」
と呟いた俺の後ろで声がした。
「京…君?」
振り返った俺の目に映ったのは、40歳くらいの黒のワンピースを着た女性だった。
「はい」
と応えると、
相手の女性がほっとした顔で
「初めまして。村上リサです。こっちは息子のりょう…」
とちょっと離れたところでスマホをいじっていた男性を引っ張り
「息子の諒です。」
と紹介をしてくれた。
「初めまして。冴島京さえじまけいです。父がいつもお世話になっております」
「こちらこそ!」
と彼女は笑顔で言った。
デザイナーって職人気質で気難しいと勝手に思っていた俺はその笑顔に少し緊張がほぐれる。
ただじっと見つめる隣の男性に
「冴島京です。よろしくね」
と微笑みながら自己紹介をしたら
「諒です。どうも」
と彼は無表情で言った。
そのとき、親父がタクシーから降りてきて
「京!みんなも!中に入ろう!」
とレストランの中にいざなった。
2時間ほど食事をした頃、立花のおじさんも挨拶に来てくれて、今度うちにも遊びにおいでと言っていた。
会計をする親父の横に立つ。
「立花のおじさん達にも再婚の話したんだな」
「したよ。お前に話したあと電話で話した。喜んでくれてた」
「昼間メイにあったとき、何も知らなそうだったから話してないのかと思ったけど、ここおじさんのお店だもんね」
「そうだな。急だったし、リサ達は2人とも有名人だから。相談したら新しくできた店舗なら個室が空いてるって言って用意してくれたんだ」
店から出て、俺はリサさんと諒君に手土産のチョコレートを渡した。
諒君は甘いものが好きなのかちょっと嬉しそうだった。
「じゃあ!リサを送ってくから、諒君をよろしく!」とタクシーにリサさんを乗せたあと同じタクシーに親父は乗り込みそそくさと帰って行った。
「諒君はリサさんと一緒に帰らないの?」
「俺、今は一人暮らしなんで」
「家どこ?電車で帰る?タクシー乗る?」
と聞いたとき俺のスマホが鳴る。
「メイ?…うん。終わった。今から帰る。…薫が?まあ明日日曜日だしいいよ。」
電話を切った後、俺は少し考えて
「幼馴染と今からうちで勉強会するんだけど、諒君も良かったら一緒にどう?あいつらは家族みたいなもんだから、諒君にもちゃんと紹介したいし」
と言うと
「うん」
と小さく頷いた。

帰る途中、諒君も一緒に勉強することになったとメイに電話すると、電話の向こうのメイの声のテンションが上がっていくのがわかったが、構わず電話を切った。
15分位歩いてマンションに着くと、エントランスでコンビニから帰ってきたメイに会った。
「何してんの?」
俺はメイの持っていたエコバッグを取って中身を見ると、たくさんのお茶や酒とツマミが。
「だってお客さん来るのに飲み物いるでしょ?」
「お茶、お水、コーヒー、紅茶、飲み物くらい家にあるよ。てか勉強すんだろ?なんで酒とつまみ?」
「いーじゃん。薫ももうすぐ着くって!」
とメールを見たメイが言った。
薫は学校からこっちに向かっている途中だった。俺は
「メイ。彼、弟になる村上諒君。薫と同じ高3ね。こっちは立花メイさん…」
すると紹介している俺の言葉を遮って
「立花メイです!京と同じ〇〇大学の教育学部2年です。京と同じマンションに住んでるから何時でも遊びに来てね!雑誌で見るより本物の方がカッコいいね♡」
ミーハーなメイは目をキラキラさせながら自己紹介をした。
「ありがとうございます。村上諒です。よろしくお願いします」
と俺に話した時よりは柔らかな声と笑顔で話をしていた。
そんな顔出来るのか。
部屋に着くと早速メイはキッチンで手を洗い、俺が置いたエコバッグの中を探りながら、カシスオレンジの缶とつまみを出してソファに座ってテレビを付けた。
「どうぞ。ゆっくりくつろいで」
と氷を入れたグラスを渡しながら、嫌味で言った俺の棒読みの言葉に
「はーい♡」
と右手を上げて応えるとリモコンで番組を切り替え始めた。
「諒君はそっち座って」
とダイニングテーブルの方を指差して言った。
俺とメイのやりとりを見ながら
「…うん」
「何飲む?」
「アイスティーある?」
「あるよ。入れてくるからまってな」
諒君にアイスティーを渡して、エコバッグの中身を冷蔵庫に入れようとした時、インターホンが鳴った。
「あ、薫だ。メイ、出て」
「はーい!…薫、お疲れー」
ちょうど中身を冷蔵庫に入れて立ち上がると
「アニキ!」
薫は俺に抱きついてくる。
「今日は忙しかったんだろ?それなのに勉強会頼んでごめん」
「いいよ。ちょうどよかった。彼を紹介したかったし、勉強も教えなきゃだったから」
「彼って、弟?義理の?」
薫は大まかな話をメイから聞いていたらしい。
「そう。紹介するよ」
と言って俺は薫と諒君を向かい合わせに立たせた。
「立花薫です。薫でいいよ。アレの弟です」
とソファでくつろぐメイを指差しながら薫が先に言った。
「高3で、親父の会社を継ぐのにアニキと同じ大学の経営学部に行きたくて、ちょこちょこ勉強教えて貰ってるんだ」
「俺は村上諒です。俺も高3で、○○大学の人間科学部で心理学を勉強したいんだけど、ちょっと成績微妙だから、これから毎日兄さん…に勉強教えてもらおうと思って」
「毎日アニキと勉強すんの!?じゃあ俺も毎日来る!」
「薫はもう大丈夫だろ?メイもいるし」
と俺が言うと、わかりやすく拗ねていた。
「薫は?数学?諒君は英語だったな」
と俺は言いながら薫の前、諒君の隣に座って勉強を始めた。
「てか同時に見るの?」
「アニキは高校在学中、誰にも一度もトップを譲らなかった秀才なんだぜ。だからこんくらい余裕だよ!」
「すごいんだな」
それまでテレビを見ていたメイが席に座り、4人で勉強を始める。
0時を回ったころメイが
「こんな時間までごめんね。勉強会はここまでにしよう!帰るよ!薫。ほら」
と帰る用意を始めた。
「電車ないし、アニキんちに泊まる!」
「ベッド1つしかないし無理でしょ!諒君もいるんだから。あんたは私の家に泊まるの!」
とメイに引きずられ慌ただしく出て行った。
「俺らも片付けようか?風呂どうする?湯船派?シャワー派?」
「湯船派…」
「じゃあ待ってな。すぐ溜めるから。テーブルの上片付けといてもらえる?」
諒君が風呂に入っている間に下着とスウェットとメモを置いた。
“下着は新品だから安心して。スウェットは俺ので申し訳ないけど”
リビングに戻った諒君は
「これ、ありがとう」
と言った。
「今度はちゃんと準備しておくよ。それか何日か分の着替えをうちに置いといてもいいよ。毎日着替えを持って行き来するの大変だろ?」
「いいの?」
「もちろん。あと今から俺も風呂入るから先に寝てて。寝室あの扉んとこだから」
「ありがとう。あ、あと…諒でいい。君はいらない。慣れてないから。」
「ん。わかった。だったら俺も京でいいよ。兄さんって呼ばれるの慣れてないし。じゃあ、おやすみ」
シャワーを浴びながら俺は考えていた。
諒は意外と真面目で素直なんだな。
芸能人だしもっと生意気かと思ってた。
リサさんもデザイナーだし、キツくてもっとツンツンしてる人かと思ったけど気さくでいい人だった。
親父、今度こそ幸せになれたらいいな。
バスルームから出てくると俺は毛布を用意し、ベッドもう1台いるかな…と思いながらリビングのソファに横になり眠りについた。


案内された部屋のドアを開ける。
「ダブル…いやクイーンサイズのベッドかな。あと机と椅子と本棚か」
とつぶやきベッドの上に腰を下ろした。
「ふー。メイと薫は面白いな。家族みたいなもんだって言ってたか。あと京…いいやつだな。母さんの為だし、上手くやっていかなきゃな」

朝、起きると京がリビングのソファで寝ていた。
「ここで寝ていたのか」
しばらく寝顔を見ていると、京が目を覚ました。
「おはよ」
「おはよ」
と言いながら洗面台に向かう京に着いていく。
「これ」
と京は新しい歯ブラシを差し出した。
「ありがとう」
「使い終わったらそこね」
京の歯ブラシの入ったコップを指さした。
ドクン
何だ。ドクンて。
慌ててダイニングに戻り椅子に腰かけながら無意識に言ってしまった。
「こういうの久しぶりだな」
京は飲み物を準備をしている。
「どういうの?」
「誰かと一緒に生活?みたいなこと」
「あー。お母さんと一緒に住んでないんだっけ?ずっと一人?」
「いや、小さい時は母さんとばあちゃんの3人で一緒に住んでた。俺が産まれる前から父親はいなかったから、家族はばあちゃんと母さんだけで…母さんは仕事場からは遠いからって、忙しくなってからは職場の近くにマンション借りてて、俺は高校からも近いしばあちゃんとそのまま実家に住むことにした。…でも俺が高1の夏休みに入る終業式の日、帰ったらばあちゃん倒れてて…病院運んだけど…そのまま…脳梗塞で。それからはあの家に俺一人」
「つらいな。身内の死は」
言葉が出なくて、黙っていると京は俺の前にアイスティーを運びながら、
「これからは俺がいる。あとメイたちも。お母さんも親父も。みんなお前をひとりにしないから」
そう言われて、自然と涙が出た。
頭をポンポンとすると京が言った。
「気が済むまで泣いたらいいよ」
「大丈夫、ありがとう…」
ひとりにしない…か。


しばらくするとメイたちが家を訪ねてきた。
「アニキ!おはよう!!」
「京、おはよう!ちょっと早いけど、お昼たべた?今から薫とランチ行くけど京たちもいっしょにどう?」
「待って、諒に聞いてみる…」
と言ってリビングにいる諒に聞こえるように叫んだ。
「諒!メイたちがランチ行こうって!どうする?」
「ランチ?食べる…」
「食べるって。店は決めた?もしまだならデリバリーでもいいか?」
「まだ決めてないけど、デリバリー?珍しいね!私、韓国料理がいい!」
「わかった。じゃあ入って座って。料理を選ぼう」
「おじゃましまーす」
といって2人は部屋に入り、諒がいるダイニングに来ると、昨日と同じ席に座った。
メイは諒の眼がほんの少しだけど赤いことに気が付き、同時に俺がデリバリーにしようといった理由にも気が付いたようだった。
それからずっとニヤニヤしている。
食事を済ませると俺とメイは薫と諒を駅まで送りに行った。
「諒、これ。俺がいない時勝手に入って先に勉強してていいから」
と俺は合鍵を渡す。
二人を送った帰りにメイが冗談ぽく言った。
「弟泣かすとかダメじゃん!なにしたのー?あと諒って呼び捨てしてたね♡」
「なんもしてないよ。名前は君付けて呼ばれるの慣れてないって言うから。てか、さっきまたなんか妄想してただろ?」
「ばれちゃった?あんたたち見てると創作意欲を掻き立てられちゃって…昨日も部屋に戻って朝方まで漫画書いちゃった!」
「勉強しろよ…」
メイはいわゆるオタクってやつだ。
漫画を読むのも書くのも好きで、昔から趣味で書いていた。
漫画サイトに投稿したりもしているらしい。
今どんな漫画を描いてるかは知らないが、よく一人で妄想したり街で人を観察したりしている。
結婚するまで、ギャラリーで働いていたというおばさんの血を引き継いだのか、絵は上手かった。
でもほんとに教師になれんのか…
「そういやお父さんからおすすめのCDと本を渡してほしいって言われてたの。後で持っていくね」
「いいよ。重いだろ?取りに寄るから」
「じゃあついでに昨日書いた漫画読んでく!?」
「それはいい」
「ちぇ」
っとメイは拗ねていた。
「そういえばピアノ、調律してる?」
「してるよ!」
「ちょっと弾いていい?」
「いいよ!久しぶりに京のピアノ聴く気がする!」
メイは音楽好きなおじさんの影響も受けていて、ピアノを習っていた。
俺も同じピアノ教室に通っていて、高校生の時に二人ともやめたが、時々趣味で弾かせてもらっている。そんなに上手くはないがピアノを弾くと落ち着いた。
少しメイの部屋に寄って、ピアノを弾いてコーヒーをご馳走になると自分の部屋に帰った。

次の日から、諒は仕事がない日は学校帰りに俺の部屋で勉強して帰り、週末は薫も一緒に勉強して、泊まってから日曜日にメイと二人を駅まで送っていく。
それが習慣になっていた。
変化と言えば、ソファで寝ていた俺に気を遣って、
「自分がソファで寝る」
という諒に、
「受験生にそんなことさせられないよ。もう1台ベッド買おうか」
と言ったら
「邪魔になると思う。俺は気にしないから、京さえ嫌じゃなければ同じベッドでいいんじゃない?広いし」
と言われて同じベッドで眠るようになった。
そんな日々が夏休み前まで続いた。


夏休みは仕事と勉強で忙しかった。
京も夜は近くのバーでバイトをすると言っていた。
だから基本的に京に勉強を教わるのは少しで、わからないとこはメイに聞いたりして、自宅にいることが増えた。
「なあ。なんでバイトするんだ?バイトなんてしなくても大丈夫だろ?生活困ってるなら家庭教師代払おうか?」
「いや、ありがたいことに親父が生活費は入れてくれてるからそこは困ってないよ」
「じゃあなんで?」
「欲しいものがあるんだ。それは自分で買わなきゃいけないと思って」
「真面目だな。でもなんでバーで?」
「知り合いのお店で、たまに手伝ったりしてるんだ。長い休みになると絶対ヘルプの連絡が来るから、今回も手伝うことにしたんだよ」
「でも京がカウンターにいたら、女の人がいっぱい寄ってくるんじゃないの?そんでお兄さんも1杯どう?とか言われて…売上の為とかで断れなくて、たくさん飲まされて、お持ち帰りされちゃったりするんじゃ…」
「諒。想像力というか妄想がすごいな。なんかメイに似てきたんじゃないか?」
「なんでだよ。ありえない話じゃないだろ?」
「ありえない話だよ」
と京は笑って言った。

俺と薫は電車が同じ路線で、途中まで帰り道が一緒だったからよく話をした。
「心理学を勉強ってのはどうして?デザイナーの母親がいるし、そっち系の大学とか考えなかったの?」
「確かに全く興味がないわけじゃないけど、仕事で知り合った人の話聞いて、心理学に興味が沸いたからかな」
「そうか…なあ、モデルとか俳優の仕事ってやっぱ大変なの?」
「大変なこともあるけど、楽しいよ」
「きれいな女優さんとかにも会えるんだろ?」
「そりゃ美人だらけだよ」
「いいなー!大学生になったら合コンしよ!アニキも一緒に連れて」
「いいのか?京はメイと付き合ってるんじゃないの?」
「アニキと姉ちゃんが?ないよー!ない!ない!」
「あんな仲がいいのに?お互いの部屋の鍵まで持ってるし」
「まぁ昔からいろいろと噂されんのよ。ずっと一緒にいるし、絶対付き合ってるーって」
「うん」
「2人とも顔もいい方だしモテるんだ。アニキは頭も良いし、後輩やら先輩やら学校で1番の美女とか演劇部のヒロインとか。姉ちゃんはサッカー部のエースとか他校の生徒とか近所の大学生とかね」
「へー」
「でも2人とも誰とも付き合わない。俺も昔姉ちゃんたちが高校生くらいの時に聞いたんだ」
「なんて?」
「物心ついた時からずっと一緒なのに、付き合ったりしないの?って。アニキは姉ちゃんを女として見てないわけでもないのかなって思ったけど、恋人とか通り越してもう家族だからって。姉ちゃんは一言、素材だからって言ってた」
「素材?」
「ま、それはおいおい。姉ちゃんに聞けばわかるよ。」
「ふーん」
「アニキは家族思いなんだ。俺たちのことも含めてさ。姉ちゃんと付き合ってうまくいかなかったら、みんなをギクシャクさせて傷つけるとか思ったんじゃない?それか近すぎて自分の気落ちに気付いてないとか。あ。もう降りなきゃ。お疲れ!」
「うん。お疲れ様」
付き合ってなかったんだな。ほっとしたけど、薫の話だと京がメイを好きじゃないと決まったわけではないんだよな。
「はぁ…」
と俺は思わずため息をついた。
ふと我に返った俺は、顔が熱くなっているのを感じた。

勉強したり仕事したりで忙しい日々だったけど、夏休みは充実していた。
でも京との時間は少なかった。
だから俺はこの日がくるのが嬉しかった。
また前の生活に戻れるのが嬉しかった。
新学期、最初の金曜日、少し雑誌の撮影が入っていたが、さくっと終わらせて京のマンションに行くと親父さんが遊びに来ていた。
俺が着いたとき、すでに2人は酒を飲みながら盛り上がっていたから、ダイニングの椅子に座って勉強を始めた。
久しぶりに3人で話もした。
母さんたちは来週から仕事とハネムーンを兼ねてヨーロッパとアメリカに行くらしい。
後日母さんから、
「誕生日、一緒に居られなくてごめん」
と電話があった。
しばらくして親父さんは眠ってしまった。
「うちに来るとすぐ調子乗って飲むんだよ」
「親父さん、酒弱いの?」
と聞くと笑いながら
「俺よりは。弱いわけじゃないけど、最近は家で飲むとすぐ寝ちゃうって。歳のせいかなぁって嘆いてたよ。あっ。ベッドに運ぶの手伝ってくれる?」
「うん」
2人で担いでベッドに運ぶと親父さんは俺たち2人をベッドに引き寄せて
「俺は今幸せだぞ!一緒に寝るぞ!」
と言ってまた寝てしまった。
「わかったから、おやすみ」
と言って京は、親父さんの肩をポンポンとたたいて横に寝転んだ。
俺も反対側に寝転んで、そのまま暫く3人で寝てしまった。


午前0時頃、俺が目を覚ますとソファに諒が座っていた。
「クイーンサイズでも、さすがに3人は狭いな」
と諒は笑った。
「ごめんな巻き込んで。勉強したかっただろ?」
「明日もあるし、大丈夫」
「この後親父の寝てるベッド戻るか?あの人寝相悪いけど」
「いや、ソファで寝るよ。京は?」
「この時間ならメイが起きてるかもだから連絡してみるよ」
「いや、それなら俺がメイのとこに…」
「なんでだよ。今をときめくスターが1人で女の子の家に出入りとか、誰かに見られちゃまずいだろ?」
と俺は笑いながら言った。
メイにメールするとやっぱりまだ起きていた。
「おいでー」
と言ってくれたのでシャワーを浴びた後、枕代わりのクッションとブランケットを持ってメイの部屋に向かった。
諒の誕生日プレゼントの腕時計をどれにするか相談しよう。
受験に時計は必要だけど、諒が時計をしているのを見たことがないから、持ってないのかも。きっと喜んでくれるだろう。
夏休み前に一度、諒が落とした学生証を拾ったことがある。
ふと誕生日が目についた。
10月15日だった。今年は土曜日だ。


俺は後悔していた。
親父さんの隣で寝ると言っていれば、京はメイの部屋には行かずソファで寝ていただろう。
それか、京が親父さんの隣で寝ればと勧めてみたら素直に従っただろうか。
というか、なぜ自分から親父さんの隣で寝ようとしなかったんだろう?
そんなにメイのところへ行きたかったんだろうか?
今頃二人は…
あー!考えれば考えるほどおかしくなりそうだ。
今日のことは忘れてとりあえず眠ろう。
翌朝一睡もできなかった俺の顔はヒドイものだった。


朝5時、親父を起こしに自分の部屋に戻った。
親父を起こすのは6時だが、3人分の朝食を作る為少し早く戻った。
とりあえず今日は和食でいいかと鮭を焼いていると、玄関の扉が開いて諒が帰ってきた。
「早起きだな。どっか行ってたのか?」
「アイスティーきれたからコンビニに」
「もう無くなってたか。ごめん。気付かなかった」
「大丈夫。俺が飲みすぎただけ…いい匂いする。朝ご飯?」
「そう。ありあわせだけど。焼鮭と卵焼きと味噌汁とサラダ。足りないか?」
「十分すぎるよ。京は料理うまいよな」
「あるもの焼いただけだけど。親父は昔から忙しかったから、1人の時間多かったし、母さんが出て行ってから雇った家政婦さんと2人で過ごすことも多かったんだ。仲も良かったからいろいろ教えてもらった。卵焼きはマヨネーズ入れるとふんわり焼けるってさ」
「へー。じゃあ今度は京が俺に教えてよ」
「そうだな」
「そういえば、昨日親父さんが寝る前に、俺は今幸せだぞって誰に言ったんだろう?」
「想像だけど、俺の母さんだと思う」
「どうして?」
「親父は昔から本当に仕事人間で、あんまり家に居なかったんだ。俺も男だし、今なら親父の大変さもわかる。でも母さんは、大学在学中に親父と結婚して、卒業後すぐ専業主婦になった。俺が生まれて育児と家事と妻としての立場で心が疲弊ひへいしてたんだろうな。真面目な人だから余計に。でもそれを気遣ってやるだけの、時間とか余裕が親父にはなかった。母さんは友達から、ストレス発散に近所のカルチャースクールに誘われて行ったら、そこで絵を教えてくれてたアメリカ人に猛アタックされたんだって。普通なら結婚してるし子供もいるから、一緒に行こうなんて思わなかったと思うよ。でもあんときの母さんは限界だったんだ。自分のことを誰より考えてくれて、親父が今までたとえ思ってても言ってくれなかったことを、ストレートに伝えてくる。それだけで彼を選ぶには十分だった。そういうことだと思う。それで2人は離婚して、母さんはその人とアメリカに行ったよ」
「京は自分を置いて出て行ったお母さんの事、恨まなかったの?」
「俺には父さんが居たし、メイやメイの家族もいた。本当にひとりぼっちだったのは母さんの方だと思うと恨めないよ。それに誕生日には毎年電話をくれるし、何年か前に電話で話したとき、俺を連れて行かなかった理由を言ってたんだ」
「なんで連れて行かなかったの?」
「子供は俺だけだろ?その俺を連れて行くってことは親父は跡継ぎも失うってことだ。そうなったあとの親父の事を考えると、置いていくしかなかったって。でもその時母さんは言ってた。どこにいても俺を愛していることに変わりはないって」
「でも、そんなのきれいごとじゃないか?」
「そうだな。実際周りの人は、子供を置いて他に男作って出ていくなんて、最低の母親だって言う人もいたしな」
「そうだよ。よくグレなかったな」
「…俺さ思ってるんだ。俺が2人を映す鏡になろうって。俺がしっかりしていれば、2人を悪く言う人はいなくなると思ってるよ。忙しさを理由に家庭を顧みなかった親父と、さみしさに耐えきれず逃げた母さん、今の俺にはどっちの辛さも解るから」
「すごいな」
「だから親父もあんなこと言ったのかなって。ありがとうとごめんねの代わりに。本当のとこはわからないけどな。もう出来るから親父を起こしてきてくれる?」
「わかった」
そのあと3人で朝食を食べた。
親父は仕事があると言って、シャワーを浴びるとすぐ出て行った。
見送りに出て戻ると、諒はベッドで寝ている。
「腹一杯になったら寝るって。子供だな」
と思わず笑ってしまった。
昼過ぎに諒が起きてきた。
寝室に今まで無かったポラロイドカメラを見つけたみたいだ。
「欲しかったものってこれ?」
と聞かれてお前の誕生日プレゼントとはまだ言えなかった。
「そう」
「どうしてこんなの?デジカメの方がいいんじゃん?」
「ポラロイドカメラって、画質は良くないけど趣があっていいだろ?加工とか出来ないから、その人や物がありのまま写されてる。撮ってすぐ写真が出てくるから現像行かなくていいし、結構好きなんだ。カフェとかのコルクボードにお客さんとの写真飾ってあったりするの、ちょっと憧れてたりして。この家インテリア少ないし、みんなで撮った家族の写真、そういうの飾ってみるのもいいかなって」
「へー。俺もポラロイドって結構好き。早速撮っていい?」
と言って俺の写真を2、3枚撮っていた。
俺も諒の写真を撮って、1枚ずつコルクボードに写真を貼った。
「俺の1枚だけ?何枚か撮ってなかった?」
「もう1枚は失敗したから」
そう言って諒はポラロイドカメラを部屋に置きに行った。


ある日の家までの帰り道、薫とカフェに寄ってから帰ることにした。
「カフェラテ、レギュラーサイズ2つ」
「お会計はご一緒でよろしいですか?」
「お願いします」
「俺払うよ」
と薫は言ったが、前は薫のおごりだったから
「今日は俺が」
と言って支払いを済ませた。
席に座ってしばらくして薫が言った。
「なあ。間違ってたらごめん。お前さ、アニキのこと好きなの?」
心臓が止まるかと思った。
「どうして?」
「いや、さっきコーヒー買ったときチラッと財布の中が見えちゃって。ポラロイドカメラで撮ったアニキの写真が一瞬見えたんだ。いくら家族でも財布に写真は入れないかなって。そうする理由は好きだからかなって」
見られたのか。
どうしたらいいんだろうか?
言い訳するか。
上手く撮れたから、記念に…ちょっと違うな。
メイにあげるためだよ!…それも変だ。
いっそ認めてしまおうか。
でももう友達でいられなくなるかも。
「確かにアニキ、かっこいいよな。顔も良いし。頭もいいし。ピアノも弾けちゃうし。まあ運動は人並みだけど。面倒見良いし。料理できるし。よく気が付くし。俺もアニキ大好きだよ」
「…!」
「でも、さすがに財布に写真は入れてない」
と笑ったあと、こう続けた。
「例えばLGBTQ?それかSOGIEって言うんだっけ?最近そういう言葉よく聞くよな。俺は男で女の子が好き。でも今はそうでも、次俺が好きになるのが女の子とも限らない。男かもしれないしそれ以外かも。神様が人間に心を与えた時点でこうなることもありえたんだよ。つまり何が言いたいかっていうと、俺に話したところでお前が楽になるとは言えないけど、ちゃんと話は聞くよ。お前が誰を好きでも、馬鹿にしたり軽蔑したりしない。あ…でも姉ちゃんはやめとけよ。オタクだし、お前のこと兄さんとか呼びたくないからな。あと姉ちゃんにはしばらく黙ってろよ。めんどくさいから」
と笑った。
涙が出た。俺は自分の心配ばかりして、言い訳することしか考えていなかったな。
「ごめん。せっかく出来た友達だから、普通じゃないと思われて、失うことになったらと思うと言えなかった。…俺、京が好きだ。男だからとか、女だからとか、そんなんじゃなくて、京だから好きなんだ」
「うん。解るよ。話してくれてありがとう」
俺はまた泣いてしまった。カフェを出て
「こんな顔で電車乗れないからタクシー拾うよ」
と言って薫と別れた。

10月に入ってからは、ほとんど仕事も入らなくなった。
事務所の人も気を遣ってくれているらしい。
10月14日の金曜日はメイや薫も集まって4人で勉強会を開いた。
メイと京は論文を読んだり課題をしたりしている。
あっという間に時間は過ぎて、0時になるとメイはキッチンへ行き、京は部屋の電気を消した。
するとメイが歌いながらロウソクの刺さったホールのショートケーキを持ってキッチンから出てきた。
「Happy birthday to you!Happy birthday to you!Happy birthday dear Ryo! Happy birthday to you!」
みんなの合唱を聞いて笑ってしまったが、薫に願い事しながら消してって言われて、火を吹き消した。
嬉しかった。
「誕生日おめでとう。これ良かったら使って」
と京が俺に箱を渡した。
「中見ていい?」
「もちろん」
箱を開けると腕時計が入っていた。
「こんないい物貰っていいの?」
「当たり前だろ。諒が時計してるの見た事ないから嫌いなのかと思ったけど、受験の時は無いと困ると思って」
「ありがとう。大事にする!」
と言って思わず抱きついてしまった。
カシャっと音がしてそっちを見ると、薫が持っていたポラロイドカメラで俺達を撮っていた。
「何撮ってんだよ」
「これも思い出だろ」
と言ってコルクボードに貼った。
楽しくて。嬉しくて。ありきたりな言葉だけど、時間が止まればいいと思った。

翌日、目を覚ますと珍しく京がまだ眠っていた。寝顔を見ながら、頬に触れた。あったかい。
自分の鼓動が高鳴っていく。
俺が今どういう顔をしてるのか自分でもわかった。
京が今目を覚まして、俺の顔を見たら、きっと全部知られてしまう。
慌てて俺は寝室を出た。
30分くらい経つと京が起きてきた。
「おはよ。昨日ははしゃぎすぎたな」
と笑った。
「楽しかったよな。あと嬉しかったし。そういや時計、俺の好みよくわかったな」
「それ、実はメイに選んでもらったんだ。時計をあげることは少し前から決めてたけど、どういうのがいいか、好みとか流行りとか全然わかんなくて。メイならお前の載ってる雑誌とか見てたし、流行りも詳しいと思って相談した。決めるのに朝までかかったんだから」
と笑った。
「みんな俺のために考えてくれたんだな」
「当たり前だろ。家族なんだから」
家族なんたから…か。自分の中でその言葉を繰り返して心が潰れそうだった。
俺はもうお前を兄としては見れないよ。
でもこの気持ちを伝える気は一生ない。
京が運命の相手を見つけたら、俺の恋も終わらせられる、そう思った。


ふと考えた。もうすぐクリスマスだ。
最近、諒は仕事を減らしていたし、平日は自宅で勉強し、週末は俺の家で過ごしていた。
どうしようかと悩んだ。
たまには息抜きも必要だから、またみんなで食事して、それから勉強すればいいかと思った。イブは土曜だった。
メイに料理のデリバリーを頼んで、俺はケーキを予約しよう。
メイのお気に入りのケーキ屋さんに電話し、
「18時受け取りでクリスマスケーキを1つお願いします」
と予約をした。

クリスマスイブの日、俺がケーキを取りに行こうとすると部屋の前でメイに会った。
「どこ行くの?」
「ケーキ取りに行ってくる」
「あ、そうか!薫、ちょっと遅れるって」
「分かった。諒はもう来てるから、2人で料理の準備しといて」
「了解!気をつけて」
「ありがとう」
と俺は言ってケーキを取りに向かった。
意外と店は空いていて、予約もしていたせいか、すぐに店を出られた。
家に入ると、メイと諒の声が聞こえた。
俺が帰ってきたことには気付いてないみたい。
「ねぇ、諒。正直に行って。本当はどう思ってる?」
「どうって?」
「何の気持ちもないってことないよね?」
「気持ちって。大事には思ってるよ」
「そういうことじゃなくて!恋愛対象として好きか嫌いかって話をしてるの」
そんな会話が聞こえてきた。
おれはまずいとこに帰ってきたと思ってとりあえず隠れる。
メイは諒を好きだったのか。
会話からすると諒もまんざらではないってことかな。
こんな話立ち聞きするのダメだよな。
とりあえずそっと玄関を出て、しばらくして戻ってこようとドアノブに手をかけた時、メイの声がして俺は動けなくなった。
「ねぇ。京のこと、本当は好きなんでしょ?」
お、俺?
「…好きだよ。もう、どうにも出来ないくらい好きだよ」
と一瞬躊躇したが、諒ははっきりと答えた。
ケーキを落としそうになったが、かろうじて耐えた。
ここで俺の存在が知られたら、それこそ何とも言えない空気になってしまう。
そっと、そっと、玄関を出た。


イブの日、簡単だけどクリスマスパーティーをしようと京に誘われた。
プレゼントとかそういうのは無しで、みんなでご飯食べて息抜きしよう、ってことだった。17時ちょっと過ぎに京の家に着いた。
「俺、18時に予約したケーキ取りに行って来るよ。もう少ししたらメイが来るから一緒に準備してて。デリバリーも届くと思うから留守番しててな」
と言って京は出て行く。
入れ違いにメイが来た。
「いらっしゃい」
「お疲れー!やっと冬休みだね。ま、もうすぐ受験だし冬休みらしいことは出来ないかもだけど、今日は楽しも!」
デリバリーが届いて、メイが持参した荷物や飲み物をダイニングに並べていた時、ふと聞かれた。
「諒はさ、好きな人いる?」
ドキッとした。
単純に俺の恋愛に興味があるのか、クリスマスってゆう雰囲気に流されての質問か、京を好きだから手伝ってとかか、あるいは…と頭の中がとんでもない事になっていた時、メイが口を開いた。
「諒はさ、京が好きだよね?」
どう返事するか困っていると
「ねぇ、諒。正直に行って。本当はどう思ってる?」
「どうって?」
「何の気持ちもないってことないよね?」
「気持ちって。大事には思ってるよ」
「そういうことじゃなくて!恋愛対象として好きか嫌いかって話をしてるの」
どう答えればいい?もしかしてメイも京が好きなのだろうか。
「ねぇ。京のこと、本当は好きなんでしょ?」
「…好きだよ。もう、どうにも出来ないくらい好きだよ」
もう勢いで言った。
「やっぱりー!そうだと思った!」
ん?なんか反応が…
「メイも京が好きなのか?」
「違うよ。違うってことも無いか。友達として、家族としては大好き!でももう愛とか恋とかではないよ」
「そうか…」
「だから安心して!京を盗ったりしないから♡協力もする。その代わり参考のために色々話聞くからね!」
あ、薫の言ってためんどくさいってこれのことか、と俺は納得した。

部屋を出てきてしまったものの、どうしてまた戻ればいいか考えていた。
とりあえず酒屋とスーパーでウイスキーとその他の飲み物やつまみを買って30分ほど時間を潰してから家に帰った。
「ただいま」
「おかえりー!ちょうど薫も着いて、料理も並び終わったとこだよ!あれ?お酒買ってきたの?」
「うん。飲みたい気分だったから。メイのカシスオレンジもあるよ。とりあえず冷やしとく。」
「さすがー!」
と言いながらクラッカーをみんなに渡した。
「じゃあメリークリスマス!」
と薫が叫んでみんなでクラッカーを鳴らした。
チキンやピザを食べながら普通に話をしていたが、さっきの会話が気になって仕方なかった。
つまり、諒はメイではなく俺を好きってことだよな。
好きってゆうのは家族としてってことでいいよな。
深い意味はないよな?
「もうどうにも出来ないくらい好きだ」
どうにも出来ないってなんだよ。
どうにかしろよ。
俺はどうしたらいいんだよ。
とりあえず飲もう。
俺はまだ少し残っていたグラスにウイスキーを継ぎ足した。
しばらくして薫がケーキを持ってきて切り分けてくれた。
俺はグラスを片手に苺のショートケーキを食べている。やっぱここのケーキうまいな。
「京、付いてる」
「お、おう」
「写真撮ろう!」
薫がまたポラロイドカメラを構えて皆を撮っている。
「薫、2人と並んで。今度は俺が撮る」
といって諒が俺たち3人を撮っていた。

メイと薫がメイの家に帰ったあと、俺はパニックだった。2人きりになってしまった。今まで2人の時はどんな話をしていたのか。それすら思い出せないほどパニックだった。
「京、ウイスキーの瓶1人で全部空けたのか?」
「そうだな。こないだ親父が買ってきたやつの残りもあるから、それも飲もうかな」
全く酔えない。
「強いんだな。バーで飲まされても大丈夫って言った理由がわかった」
「そうだ。冬休みの間、またバイトするから夜は俺、家にいないよ」
さっきスーパーに行った時電話をして、バーのバイトに入らせて欲しいと頼んだ。
これでしばらく諒と会わずに済むと思ったから。
「うん、受験まであと少しだから頑張るよ」
と諒は言った。


2,3日して、京に電話した。
「ちょっと教えてほしいとこがあるんだけど」
「あー、今からバイト行かなきゃだから、ちょっとメイに聞いてくれる?、それでもわからなければメール入れといて。休憩時間に確認して送るから」
「わかった。いってらっしゃい」
いつも俺が電話を切るのを待つ京が、今日は自分から電話を切った。


1週間経って大晦日の日。俺はバイト先にいた。今年の大晦日は本当に忙しかった。店も大晦日から3日まで昼も夜もずっと営業すると言っていた。俺は遅番で元旦の明け方帰り、また夕方に出勤するシフトだった。諒とは会いはしなかったがメールや電話はしていた。大晦日のバイトが始まる前に
「バイト行ってくる」
とメールをしたが、いつまで経っても返信がなかった。仕事が終わって朝、電話をすると
「熱…薬…」
といって電話が切れた。
俺は急いで解熱剤とスポーツドリンクを持って諒の家に向かった。
前に住所は聞いていたから辿り着けたけど、インターホンを押しても出てこない。
5分程ずっとインターホンを鳴らしながら呼びかけていると、フラフラの諒が鍵を開けてくれた。
諒を支えながら部屋に行き、とりあえずお粥を作って食べさせ薬を飲ませる。
しばらくすると熱は下がり落ち着いたようだった。
とりあえず店長に電話して、今日は休みを貰うことにした。
「もしもし、冴島です。すみません。今日、お休みいただいてもいいですか?弟が熱出して、看病出来るの俺しかいないんです」
「おー、それは大変だ。ついててあげな!お大事にな」
と言ってくれた。

「熱は36、8℃か。だいぶ下がったな」
夜、諒が目を覚ました。
「具合は?」
「だいぶ良くなった」
「いつから熱が?」
「30日、の夜」
「なんでもっと早く言わないんだよ!」
「だって、京、バイトあるって言ってたし」
「そんなの…どうにでもなるよ。バイトの代わりなんて探せばいくらでもいるんだから」
暫く沈黙の後、諒が言った。
「…なぁ、京。俺にはお前しかいない。お前の代わりはいないんだ。俺、京が好きだ」
と言って抱きしめられた。
面と向かって言われるとは思って無かった。
しかも病気で弱っている時に言うなんてずるいぞ。
俺は諒の背中をさする。
「俺は…俺にとっても諒の代わりなんていないよ。お前は大事な弟だ」
「弟か…大事な弟なのに避けてた?」
「え?」
「何となく気付いてたよ。俺の事、避けてるかなって。俺の気持ち知ってたんだろ?だから気まずかった?」
「そんなこと…」
「ないか?」
と言って体を翻し、ベッドに俺を押し倒した。
「俺はお前が好きだ。もうどうしようもない所まで来ちゃったんだ。兄としてなんて思えないよ」
と言ってキスをしようとした。
「ちょっ…待って。無理!」
と言って、咄嗟に突き飛ばしてしまった。
「無理、だよな。わかってたよ。とりあえずもう大丈夫だから帰って」
と諒は俺の荷物を差し出して言った。
どんな言葉も出てこない。
荷物を受け取った俺は諒の家を出る。
どうしたらいいのかわからないけど、諒の体調は気になる。そうだ…
「あ。もしもし、薫?京だけど。お願いがある」


俺、どうしちゃったんだろ。伝える気なんてなかったのに。
「やっちゃったなー」
と呟いたときスマホが鳴った。
「もしもし?」
「お、諒?1週間ぶりか。最近どうしてる?」
「最近すこぶる絶不調。熱出して寝込んでるし」
「すこぶるの使い方おかしいけど、まーいいや。熱?勉強し過ぎか?もうすぐ試験なのに大丈夫か?お前ん家行こうか?」
「風邪だったらお前にうつすかもだから、来なくていいよ。けど…このままもう少し俺の話聞いてくれない?」
「うん」
「俺、さっき兄貴に、京に告った」
「え?」
「熱出して年末年始で病院もやってないから朦朧としてたら、メールに返信が無いのを心配して京が電話くれて、俺の様子おかしいのに気付いて家まで看病しに来てくれた」
俺はさっき起きた出来事を、薫に全部話した。
「クリスマスぐらいから、なんか避けられてるかなって感じてた…このままずっとこんな感じなら、いっそ告白でもして振られたら楽になるかもって思った。でも実際に無理って言われると…」
もう言葉が出なくなった。
「アニキは、お前が男だから無理って言ったわけじゃないと思うよ?」
「…うん。わかってる。兄弟だから、弟だから無理なんだ。どっちにしろ辛いよ。出逢わなければ良かったな…そうすれば…」
と言うと涙が止まらなくなった。
「やっぱ行くわ」
と言って薫が電話を切った。


俺は家に帰ってきてずっと考えていた。でもどうにも落ち着かなくてメイに電話した。
「今からそっち行っていい?」
「いいよ」
俺はメイの家でピアノを弾きながら考えていた。どうしてあんなことになったんだろ。ずっと仲のいい兄弟でいられたらそれで良かった。
「なんかあった?」
それまで俺のピアノを黙って聞いていたメイが口を開いた。
事の経緯を全てメイに話すことにした。
あの日の会話から、メイは諒の俺への気持ちを知っていたのだから。
「俺は弟が出来て嬉しかった。薫も俺には可愛い弟だし、メイも可愛い妹みたいなもんだけど、やっぱり嬉しかった。それなのに無理って突き飛ばすとか有り得ないよな」
「その無理ってゆうのはさ、諒が男だからとか、弟だから受け入れられないって意味の無理なの?私はちょっと違うと思ったけど」
「?」
「京は諒の事、ほんとになんとも思ってない?」
「だから弟として…」
「それは建前で本当は好きなんじゃない?私、諒が撮った京の写真みて解っちゃった。あの写真の京は愛おしいものを見ている気がしたの。ただ写真に撮られる時の作り笑顔じゃなくて、カメラを向けてる諒を愛おしいと思ってるんじゃないかって。ちなみに私が諒の気持ちに気付いたのもあの写真を見たときだけどね」
「…」
「諒もおんなじ顔してた。大事な人を見つめる眼、特別な人にしか見せない笑顔、なんかそういうもの感じたの。京もさ。男だからとか、兄弟だからとか、そんなのとりあえず忘れて、諒自身をどう思ってるか、今後どうして行きたいかを素直に考えてみればいいんじゃない?」
「俺には…とりあえず時間が欲しい」
「そうだね。それでいいと思うよ」
メイは俺の手を引っ張ってソファに連れていき、アイスティーを入れてくれた。
ちゃんと向き合えってことだよな。

あの日から諒に連絡は取ってなかった。でも今週の土日は試験だからとりあえず諒と薫に頑張れとメールをした。
試験の前日、学校帰りにメイが言った。
「おじさん達帰ってきたんでしょ?日曜日、薫達の試験が終わったら、お父さんが家でバーベキューしよって。来るよね?おじさん達にはお父さんから連絡するって言ってたから、京は諒に伝えといてくれる?」
「わかった」
「お疲れ。いよいよ明日からだな。あれから体調は大丈夫か?明後日、試験が終わったあと、メイのおじさんとこに集まってバーベキューしようって誘われたから行かないか?」
とメールした。
「体調は大丈夫。まあやれるだけのことはやる。バーベキューのことは薫から聞いてる。行くよ」
と返事がきた。

日曜日、俺とメイはお昼前にはおじさんたちの家にいた。
父さん達もちょっと前に着いていたらしく、おじさんと庭でバーベキューの準備をしていた。
「京!いらっしゃい。いつも薫とメイが世話になって悪いね」
とおじさんが言った。
「いえこちらこそ、いつもお世話になってます」
「堅苦しいなぁ」
とおじさんは笑った。
「お久しぶりね」
と野菜を運びながらおばさんが微笑んだ。
「お久しぶりです。ご無沙汰しています。これ良かったら…」
と、来る途中メイと買ってきたゼリーを渡した。
「自分の家みたいなもんなんだから、そんな気を遣わなくていいのに…せっかくだから後でみんなで食べましょ。メイ、冷蔵庫に入れといてくれる?」
と言っておじさん達の所まで野菜を運んだ。
焼き始めてしばらくすると薫と諒が帰ってきた。
久しぶりに顔を見た気がする。あれから2週間位しか経ってないのに。
「お、諒君、久しぶり。こっちは妻の陽子。いつも薫たちが世話になってるみたいで、ありがとう」
とおじさんが諒に言うと
「こちらこそ。いつも薫君達には世話になってて、凄く助かっています」
と返した。
「試験はどうだった?」
と陽子さんに聞かれて、
「とりあえずやれるだけのことはやりました。まだ次の試験があるので、気は抜けないですけど」と笑って答えていた。
「諒!肉焼けたって!食べよ!」
と親父の横で、子犬のように肉が焼けるのを待っていた薫が、諒に肉と野菜の入った紙皿を渡した。
「うん。ありがとう!」
諒と薫は仲いいな。
あの時、薫に連絡して良かった。
俺が冷蔵庫に飲み物を取りに行くと、お手洗いから戻る諒に会った。
「久しぶり。次は前期だな」
「うん。そこで決めれば楽になるよな。薫は大丈夫だろうから俺もあとちょっと頑張るよ」
と庭に向かおうとした諒の腕を俺は掴んだ。
「あのさ、ちょっと話せる?」
飲み物を買いにコンビニへ行くと言って二人で外へ出た。
「話って?元旦のこと?あーあれ、熱で朦朧としてわけわかんないことしちゃっただけで、忘れてくれていいから」
「…」
「俺は兄貴が出来て嬉しい、家族として好きだからって伝えようとしただけだから」
「…じゃなくて」
「これからもよろしくな。兄さん」
「そうじゃなくて!俺の話聞けよ!」
「…」
「俺、クリスマスの日お前とメイの会話を聞いちゃったんだ。お前が俺の事好きだって言ったこと。どうしていいかわからなくて、今日までお前を避けてた。元旦の日、キスされそうになって、思わず無理なんて言って突き飛ばしたけど、男だから嫌だったわけじゃなくて、兄弟として今まで仲良くやって来たのに、急にその関係が壊れるのが怖かった。今でもまだ戸惑ってる。だから少し頭の中を整理する時間が欲しい。ちゃんと考えるから、諒の試験が全部終わったら、家に来て。待ってるから」
と俺は今の精一杯の気持ちを言葉にした。
「わかった」
と一言だけ諒は言った。


「あのさ、ちょっと話せる?」
そう京に言われてコンビニまで一緒に行くことになった。
どうしたらいいんだろう?
「話って?元旦のこと?あーあれ、熱で朦朧としてわけわかんないことしちゃっただけで、忘れてくれていいから」
ってそんなマンガみたいな言い訳してどうする。
「…」
なんで黙ってるんだ。
「俺は兄貴が出来て嬉しい、家族として好きだからって伝えようとしただけだから」
ダメ押しで言ってみた。
「…じゃなくて」
もう終わりにしよう。
「これからもよろしくな。兄さん」
「そうじゃなくて!俺の話聞けよ!」
普段は出さないような京の大きな声に驚いた。
「…」
「俺、クリスマスの日お前とメイの会話を聞いちゃったんだ。お前が俺の事好きだって言ったこと。どうしていいかわからなくて、今日までお前を避けてた。元旦の日、キスされそうになって、思わず無理なんて言って突き飛ばしたけど、男だから嫌だったわけじゃなくて、兄弟として今まで仲良くやって来たのに、急にその関係が壊れるのが怖かった。今でもまだ戸惑ってる。だから少し頭の中を整理する時間が欲しい。ちゃんと考えるから、諒の試験が全部終わったら、家に来て。待ってるから」
やっぱり…俺の気持ちに気付いてたんだな。そらいきなり血が繋がってないとはいえ、弟に好きだなんて言われたら戸惑うよな。
待っても…どんなに時間をかけても無理なこともあるんだ。期待はしないようにしよう。
とりあえず試験に集中すれば、その間は余計なことを考えずに済む。

メイの家に帰ると、庭の片付けをして、リビングで飲もうということになった。昼間から飲んでいた親父とおじさんはすっかり出来上がっていた。
「あの人たち、今日は朝まで飲み明かすらしいわ。あんたたちは帰るでしょ?」
とリサさんが言った。
「うん、明日学校だし」
「俺も今日はこの辺で失礼します」
と言ってメイを連れて3人で立花家を出た。
駅に着くと帰る方向が反対だから俺とメイ、諒は反対側に別れて電車を待っていた。
「さっき二人でコンビニ行ったとき、ちゃんと話せた?」
「うん。まだ戸惑っていて、頭の中を整理する時間が欲しいってちゃんと言った。試験が全部終わるまでに、ちゃんと向き合って答えを出すから、終わったら家に来てって伝えた」
「京にしては上出来じゃん!」
「なんだよ…上から目線で」
家に着くと疲れてそのまま寝てしまった。

翌日から諒からの連絡はほとんど来なくなった。その方が俺も有り難かった。
コルクボードの写真を見ながら考えた。
初めて顔を合わせた日。
諒が泣いた朝。
諒の誕生日プレゼントをメイと選んだ日。
あいつアイスティー飲みすぎだろ。
寝不足で顔は酷かったし。
思い出して笑ってしまった。
あいつの誕生日。
クリスマスの日に偶然聞いてしまった告白。
元旦の出来事。
バーベキューをした日に話したこと。
思い返すと涙が出ていた。
これが答えなんだろうか。

3月のある日、諒が訪ねてきた。
「俺、受かった」
「良かったな!手続きは?」
「してきた」
「よく頑張った。アイスティー入れてくるよ。座って待ってて」
「うん」
飲み物を入れて戻ると、諒はコルクボードの写真を見ていた。
「だいぶ増えたな」
とりあえずアイスティーを置いて諒の隣に立った。
「うん。いい写真ばっかだよ」
「あのさ…」
何かを言いかけた諒の言葉を遮って
「諒。渡したいものがある。待ってて」
と言って、俺は引き出しにしまっておいた箱を諒に渡した。
「合格祝い。薫とおそろい。開けてみて」
箱を開けた諒はふっと笑った。
「ネーム入りの万年筆?」
「そう。薫は深い緑色。諒は紺色にした」
「ありがとう」
「おめでとう。それと先延ばしにしてごめん。俺は…。俺もたぶんお前が好きだ。もちろん家族として大事に思ってる。でもそれだけじゃなくて…なんて言ったらいいのかな」
「うん」
「愛おしいよ」
「うん…」
諒の眼から涙がこぼれる。
諒が言った。
「京、好きだ」
「うん。知ってる」
と俺が言った瞬間、諒は俺を抱きしめた。
「プレゼント、ほかにないの?」
「万年筆あげただろ?欲張りだな」
「そうだよ。欲張りなんだ。だってあれは薫にもあげるんだろ?俺だけのはないの?」
「そうだな…」
とちょっと考えて、諒の顔をみた。
俺が内緒話をするようなジェスチャーをすると、諒は
「ん?」
と耳を近づけた。おれは諒の頬に
「ちゅ」
とキスをする。
一瞬びっくりした諒だったが、ふっと微笑んで
「言ったよな?俺は欲張りだって」
と言って、俺の唇にキスをした。
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