ナツキ

SHIZU

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聖夜のスキャンダル

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それから撮影は進み、クリスマスまでには、全ての撮影を終えていた。
クリスマスは、打ち上げをするんだって。
俺は、那月の誕生日プレゼントを買うために、先に家を出た。
お店の場所は聞いてたから、現地で合流する。
お店に着いてしばらくすると、那月が来た。
隣には田所美琴。
「お疲れー!田所さんと一緒だったの?」
「たまたま近くで会ったんだ」
「へー」
「本当だよ。信じろよ」
「信じてるよ」
打ち上げは3時間ほどしてお開きになった。
俺たちは次の日、朝が早かったからそこで帰った。

家に着いて那月に言った。
「お腹どう?もういっぱい?」
「そうでもない。あんまり食べてなかったから…」
「じゃあ目瞑って?」
「ん」
俺は電気を消すと、一度帰って来て、冷蔵庫に入れておいたケーキのロウソクに火をつけて、那月の前に置いた。
「お誕生日おめでとう!」
と俺が言うと、那月は目を開けて、
「ありがとう」
と言った。
ケーキ切り分ける前に、プレゼントを渡した。
「何?」
「開けて」
「うん」
俺が渡したのは、とあるブランドのパジャマだった。
ちょっといいやつ。
「着るだけで、疲労回復になるんだって」
「へー!ありがとう」
「本当はタブレット欲しがってたから、それにしようかと思ったけど、どこぞのお兄さんが、それは私が…って凄むから違うのにした」
と笑うと、
「本当、あの人俺のことになると、大人げないんだ…ごめん」
「全然いいよ!もうもらった?」
「うん。夏が出て行って、しばらくしてここに来た。夜は予定あるからって。実家にも顔出す約束してたから、車でそのまま送ってもらった」
「あー。あの2時間かかるって言ってた…」
「いや、車で20分くらい」
「え?だって寮に来るってなった時、2時間かけて家まで来いって言ってたじゃん」
「そんなこと言ったか?」
「言った!」
「じゃあ言い間違えだ、きっと」
「なんだそれ…」


それから数日後、那月の電話が鳴った。
「…今から?…わかった。大丈夫」
電話を切った那月に俺は尋ねた。
「どうしたの?」
「今から事務所に来いって。出来ればお前と一緒に」
「…?わかった。行こう」
事務所に着くと、春陽さんが沙織さんのとこに行くまでに、呼ばれた理由を教えてくれた。
「写真、撮られた。週刊誌に」
「なんの?」
「クリスマスの日に、田所美琴といる所を写された」
「でも、あれは…」
「わかってる。店の近くで、たまたま会っただけだって。あそこで降ろしたのは俺だしな。店の真ん前まで連れていけば良かった…ごめん」
そうか…実家に行って、帰りも送ってもらったんだよな。
じゃあずっと、春陽さんと居たってことだ。
車を降ろしてもらうまで。

沙織さんの部屋に着くと、那月は深呼吸して、ドアをノックした。
「那月です。お待たせしました」
「どうぞ~」
「失礼します」
俺たちは3人で中に入った。
入ってすぐ、
「ご迷惑おかけしてすみません!」
と深く頭を下げて、那月が謝った。
「何が?」
「いや、週刊誌に記事が…」
「あーこれ?」
と言いながら沙織さんは、記事を出す前に、こういう記事出しますよーっていうのを、出版社の人が知らせてくれるらしくて、それを見せながら俺たちに言った。

今をときめく人気アイドル、田所美琴の熱愛のお相手は!
年明けに放送が開始されるドラマで共演の、今注目のアイドル!N2の宮部那月!
2人は周囲を気にしながらも、仲良く談笑しつつ、飲食店に入って行った。
手を繋いでいるようにも見える。
今日はお相手、宮部那月の誕生日だ。
2人で生まれて来たこと、出会えたことに感謝しながら、誕生日を祝ったのだろうか。

そんな内容と、2人が笑って歩く姿の写真が、何枚か載せられている。
「俺がもっと気を付けていれば…」
と春陽さんも落ち込んでいる。
「でもこの日はずっと、家を出た後は、春陽や実家のご家族と一緒に居たのよね?」
「はい」
「実際のとこどうなの?この日はともかく、田所美琴と付き合ってるの?」
「いいえ。何の興味もありません」
「ふ。何の興味もって。はっきり言うわね。じゃあ完全なデマなのね」
「はい。すみません」
「どうして謝るの?あちらさんの事務所は、恋愛について思うところがあるでしょうが、うちは禁止してないわよ?」
やっぱり…
「いや、でもスキャンダルはって前に…」
「まぁね。でも人が人を好きになるのは仕方のないことでしょ?あれは、二股、三股かけて遊び倒したり、配偶者がいる人と恋愛関係になったり、変なクスリに手を出したり、暴力沙汰起こしたり、そういう倫理に反するスキャンダルはやめてちょうだいって意味よ。ただ私はこの記事には納得いってないから、腹が立ってるだけ!」
「納得?」
と俺が聞くと沙織さんが言った。
「この記事は、田所美琴さんが主体で書かれているじゃない?それが嫌なのよ。あの人気アイドル田所美琴の熱愛相手は?って。私としては、今大注目のイケメンアイドル、宮部那月のお相手は?って、そっちだったら嬉しかったのに!」
お、おぉ。この人すごいな。さすが、あなたは大物だよ。
「だからまだまだよ!あんたたち!次は相手がどんなに有名人だろうが、どこぞのお姫様とかだろうが、あの宮部那月のお相手はって、そうなるように頑張んなさい!あんたもよ、夏!」
「うぁえ?あ、はい。がんばります」
那月のドラマは、週刊誌が良くも悪くも宣伝になって、世間からかなり注目を集めた。






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