ナツキ

SHIZU

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ファーストキス

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那月主演のドラマの撮影が始まった。
放送は年明けかららしい。
実は俺も少し出させてもらうことになった。
バーターって奴?
友情出演とかの方が正しいのかな。
ドラマの内容は、アイドルで国民的スターの女の子と、平凡な男子大学生のラブストーリーで、結局彼女の将来のために、男子大学生は身を引いて、2人の恋は終わるって話らしい。
俺はコンビニでバイトしてる那月の、バイト先の友達だって。
相手役の人は、今をときめく女性アイドルグループ、汐見坂38の田所美琴たどころみことだ。
「すごい!田所美琴と共演なんだ!」
「みたいだな。彼女そんな人気なの?」
「何言ってんの!?汐見坂のセンターだよ?みんな彼女と握手するために、何時間も並んだりするんだから!」
「へー」
「全然興味なさそうだね」
「無いね」
「あーでも、一回Mストで共演したから、初めましてではないんだよ。まー女性ばっかのグループだし、恋愛禁止だからめっちゃガード固くて、俺らなんか目も合わなかったけど…」
「おま…じゃなくて、夏はファンなの?」
「ファンなんて言うとおこがましいよ。もっとすごい人とかいるし。でも可愛いなぁとは思うよ!」
「ふーん…」
「何?自分から聞いたくせに、そのどうでもいい的な返事は…」
「別に…」


今日は撮影初日だった。
俺も少し出番があったから、那月と一緒に春陽さんに送ってもらった。
「よろしくお願いしまーす!」
と2人で現場に入ると、すぐ後で、田所美琴が現れた。
「お願いしまーす♪」
あぁ、可愛い…
俺が見惚れていると、那月が俺の脇腹を軽くエルボーした。
「ぐふっ。痛いよ。何すんだよ」
「軽くだからそんな痛く無いだろ。始まるぞ」
「俺は今日、コンビニのシーンでしか出てこないもん」
「はいはい。じゃあ行ってくる」
「うん。いってらっしゃい!ここで見てる」
いくつかのシーンを撮って、コンビニでバイトする俺らのシーン。
動きとかは細かく台本にあるけど、喋る内容はとりあえずお任せしますだって。
録音録画はされてるけど、本編では音は流さないからって。
「お前バイトってしたことある?」
「バイトかー。無いなー。だって俺たち、17からこの仕事してるじゃん?ありがたいことに、デビューしてからそれなりに忙しいからなー」
「確かに」
「那月も無いだろ?」
「無いな。あ、でも母親の体調悪い時とか、買い物行ってそのままお釣りをお駄賃としてもらったりはある」
「それは労働じゃなくて、可愛い少年のお手伝いだよ」
と2人で商品を陳列しながら喋っていた。
すると田所さんが、店に入って来て那月に声をかける。
そっからはちゃんと本編でも流れる。
俺は品出しを終えて、レジに並ぶお客さんの元へ。
まあそんなこんなで撮影が終わった。


那月が1人で撮影に行く時は、俺は家でギターを弾いているかレッスンに行く。
だって暇だし。
作詞作曲でもしてみるか。なんてね。
新しい趣味を見つけるのもありだな。
料理とか始めてみたりして。
ドラマは年明けに放送開始だから、まだ2ヶ月以上ある。
そういえば、主題歌は汐見坂の新曲だって言ってたな。


ある時、家でテレビを見ていると、真面目な表情で那月が言った。
「あのさ。明日田所さんとラブシーンがあるんだけど…」
「へー!良かったじゃん!可愛い女の子と、仕事とはいえ堂々とキス出来るなんて!」
「俺、キスとかしたことないんだけど…」
「俺だってないよ!恋愛禁止だし。ん?そういや禁止はしてないのか。うちの事務所は…」
「そこで相談なんだが、練習させてくれないか…?」
「は!?何言ってんの?好きでもないのに出来ないよ!好きでもないってのは、嫌いってことじゃなくて、その…あの…」
俺はテンパっている。
「でもこんなの頼めるのお前しかいないし、相手一応女の子だから、リードさせるのもちょっと…だろ?それに、こいつキスもしたことないのかよって、みんなに思われるのもやだし…あと俺は田所さんよりかは、お前の方が好きだと思うし。しかも、そういうシーンは、後にも先にもここだけで、物語の中でも大事なシーンなんだよ」
「いや、まぁ気持ちわからんでもないけど、ないけどもさ…だからって、俺たち男だよ?」
「でも練習にはなるだろ。唇はあるわけだし…セリフもちゃんと読みながらさ。お願い?」
何普段と違って、可愛くお願いしてんのさ。
「……」
ソファに座り直して、真面目な顔で那月が言った。
「キスしてもいい?」
「は?何言ってんの?」
「何ってセリフ…」
と俺に台本を渡して言った。
もうわかった。
キスでも何でも付き合ってやる。
俺は台本を開いて、
「…だめ…そんなことされたら、本気で好きになっちゃう…」
「もう遅いよ。僕は本気だから…もう君も同じ気持ちなんじゃない?」
と俺の頭を右手で支えて、唇を重ねた。
軽いタイプのやつだと思ってたのに、まあまあ激しめなんだな。
そう思っていると、キスをやめるどころか、ソファに俺を寝かせて、なんかそんな体勢になっている。
「ちょっと!?なにしてんの!?」
「このままそういう流れに…」
「嘘だ!俺のことおちょくってるだろ!?」
と台本をペラペラめくると…本当だ。書いてある。
まあ具体的なことは書いてなくて、2人はそのまま愛し合った的な感じのことが書いてあるだけ。
「風でしょ?実際にはしないじゃん!」
「そうだよ。撮影では実際にはしない。でも夏がしたいならこのまま続きする?」
「しない!したいって言ってない!」
と焦って体を起こす。
「冗談だよ」
と、那月は焦る俺を見て、笑いながら言った。













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