ナツキ

SHIZU

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ドラマの見過ぎ

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病院に着くと、真っ先にあいつの病室に。
「那月!」
俺は病室に飛び込んだ。
「なに?」
ベッドに座り、バナナを頬張る那月と目が合う。
「え?」
「え??」
「え???大丈夫なの?」
「うん。少しの過労と睡眠不足だって。ちゃんと寝て、点滴したら元気なった」
「良かったぁぁぁぁぁ…ちゃんと食べて寝ろよー。もう…」
「それはごめん…何か用?」
「なんか用?じゃない!撮影中に倒れたとか言ってたから、那月が死ぬかと思ったー。ね?景子さ…」
振り返ると誰も部屋にいなかった。
さっきまで後ろにいた景子さんも…
「え?あれ?」
「どうせ春陽が大袈裟に言ったんだろ…」
「何で?」
「さぁ?思い当たるとしたら、お前の俺に対する気持ちをハッキリさせるため?恋愛ドラマの見過ぎだろ」
「何それ…」
「心配してくれたのか?」
「それはするでしょ!相方なんだから」
「それだけ?」
「そうだよ!」
「そっか…うっ…!」
そう那月が言って胸を押さえた。
「え!?どうしよっ!やっぱどっか悪い?ちゃんと検査してもらった?ナースコールしようか?」
俺がナースコールに手を伸ばそうとしたした時、那月がその手を握って引き寄せてからぎゅーっと抱きしめた。
「ちょっと!ここ病院なんだけど!」
「個室だから大丈夫」
「そういうことでなくて…」
「大丈夫。こうしてるだけで、元気出る。だからもうちょっとだけこうしてて…」
「お前も恋愛ドラマ見過ぎだ!」

美希さんの言葉。
“子供のこととか、結婚への価値観とか、ファンのこととか、世間体とか、まーそんなものは誰にでもある悩みのタネだし、多少はしょうがないと思うよ?でもそれを言い訳に逃げてたら、その子に愛想尽かされて、それこそ気づいた時には失ってるかもよ?”

相方として那月が離れていくことはきっとない。
でも、友達ではいられなくなるかもな、そう思った。
俺は那月の背中をさすりながら聞く。
「…どうして俺なの?そもそも俺は男だから、何も出来ないし、してやれないよ。好きになってもらっても、結婚も出来なきゃ子供も産めない。それに、あったかい家族ってのもよく知らない。ダンスだって那月より下手だし、コンビニでお菓子買う時も、何にするかめっちゃ悩むくらい優柔不断だし…」
「いいんだよ。そんなのは。子供産めないのは俺もだし、男同士でも男女のカップルでも、結婚だけが全てじゃない。実はグループ結成の前、春陽から何人かの人が歌ってる映像を見せられたんだ。5人くらいだったかな。そこで俺は初めてお前の歌を聞いた。最初は、お前の歌や声が好きだった。心地良くて、一緒に頑張って行くならこいつが良いって思った。それを春陽にいうとニヤニヤしてたから、俺がお前を選ぶって確信してたんだろな。なんならあいつに操られたとさえ思えるくらい…」
「そうだったんだ…」
「まぁでもそれはただのきっかけで、俺は…夏輝を知れば知るほど好きになった。俺の持ってないものたくさん持ってるから」
「何にもないよ。俺何か持ってる?」
「第一印象が最悪だったろ?俺。でもそんな俺からのアドバイスを受け入れられる素直さ、努力してるのにそれを見せない謙虚さ、みんなが慌てそうなシチュエーションでしれっと対処出来る冷静さ、間違いを相手を責めずに確実に伝える器用さ、人の過ちを許す器の大きさ、自分より周りの人を優先する優しさ。他にもあるけど、それ全部お前にはあって俺にはないもの」
「なんだそれ」
「照れてんのか?」
「…違うもん」
「まぁそういうものを、俺はお前から教えてもらった。全部は真似できないけどな。その代わり、俺が持ってるもんは、全部お前にやる。家族が欲しいなら俺がそばにいるし、金がいるなら死ぬ気で働く。心臓の病気とかなったら、俺の心臓いくらでも持ってけよ。ずっとそう思ってる」
「いやいや、心臓1個しかないから、いくらでもは無理だし。それに重いわ…」
「そうか?まぁそんくらいのつもりでいるって、言っておきたかった」
俺は抱きしめる腕に少し力を入れて、
「そんなことしなくても、そばにいるし…」
「…」
「俺も多分那月のこと好きだよ」
「え?」
「ん?」
「本当?」
「うん。100%の自信はないけどな。だからお前が付き合いたいって言うなら、1回付き合ってみるか?」
「え?いいの?」
「まぁ人生は長い。もしうまくいかなくてもやり直せるだろ?」
「うん…」
「こんなの初めてだろなー」
「何が?」
「同じグループの中で恋人同士って」
「あー。だな」
「まぁ、じゃあよろしくってことで…」
「もう帰るの?」
「明日の撮影早いんだよ。じゃあね」
こんな時に返事するなんて俺こそドラマの見過ぎだな。
病室を出ると、入り口の横にガードマンのように景子さんたちが立っていた。
景子さんは嬉しそうに微笑み、塔子さんは泣きそうだ。
春陽さんは一言、
「よろしくな!弟よ!」
と言った。





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