ナツキ

SHIZU

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わたしのもの

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その後もドラマの撮影は順調に続いた。
週刊誌の記事は一瞬現場をざわつかせたが、特に影響は無かった。
放送が始まってから、ドラマの評判はいいらしい。
そんな関係じゃないということも説明すると、多くの関係者の人はわかってくれていた。
今日は撮影最終日。
結構ハードなスケジュールだった。
でも楽しかったな。
りゅうや直人と遊んだり、美希さんに色々相談乗ってもらったり。
3ヶ月くらいでたくさんのことがあった。
今日はその最後だ。
俺と美希さんの2人のシーン。
告白をする大事なシーンだ。
「俺、あなたのこと…」
セリフを言いながら美希さんの顔を見ると、彼女は泣いていた。
"どうしたんですか?“
そう聞こうとした。
だけど、このシーンで美希さんのセリフはほとんどない。
それならこのまま俺がしっかり演じて、シーンを終わらせた方がいいんじゃないかと思った。
クランクアップ。
みんなは撮影が終わり、安堵して美希さんが泣いていると思ったらしい。
周りが片付けをしていて、2人きりになった時に俺は美希さんに聞いた。
「どうして泣いてたんですか?」
「何でもないよ…撮影楽しかったから、終わると思ったら寂しくなっただけ」
「…なんかあったでしょ?」
俺は美希さんの肩を抱いて、顔を覗き込んだ。
すると美希さんは、泣きながらこう言った。
「悪質な嫌がらせがね。続いてるの。あの記事のあとから…」
「え?どういうことですか?」
「なんか、事務所にね。私達を別れさせろ!とかタレントの管理もできないのか?とかそう言った類の手紙やファックスや電話が来たりね…」
「それってもしかして…俺のファンの1人だったりするんじゃ…」
「それはわからないけど、多分全部同じ人かな…私のストーカーかも知れないし…」
「でも…」
「まぁ、大丈夫!事務所の人が、警察に被害届出してくれてるから、犯人もすぐ捕まるかもだし…」
「ちょっと待ってください…」
俺は沙織さんに電話をした。
もし、自分のファンが傷つけたりしたのなら、こんなに悲しいことはない。
美希さんのストーカーだったにしても、この話題が世間から忘れ去られるか、犯人が捕まるまで何とか守らなければと思った。
そう説明すると、
「気持ちはわかった。美希は大切な友人だし、あなたは大切な家族も同然だから。でも、くれぐれも無理はしないで。こっちでもわかることがあれば調べておくわ」
と言ってくれた。
「とりあえず、家まで送ります」
美希さんの家に着くと、美希さんのお姉さんとりゅうが出迎えてくれた。
お姉さんは結婚してから近くに住んでいて、インテリアデザインの仕事をしているらしい。
時々りゅうをみてくれると言っていた。
「生夏だー!よろしくねー!」
「あ、よろしくお願いします」
「ごめんね?姉はちょっとアイドルオタク的なとこあって…」
「いいじゃない!私がN2好きなの知ってるでしょ?最後にやっと会えた!」
「ありがとうございます。ちなみにどっちが…?」
「箱推しなんだけど、どっちかといえばなっちゃんかな」
「あー。ですよね…」
「おねぇちゃん!夏くん凹んでる!今日はありがとう!ほら!旦那さん待ってるよ!」
そう言われると、
「わかった。わかった」
と言って帰る用意を始めた。
「駅かどっかまで、送っていきましょうか?」
「ありがとう!でも旦那が車で迎えに来るから大丈夫!」
そう言って帰って行った。
「面白い人ですね。お姉さん」
「そうねー。昔からあんな感じよー」
「なつー!もうママとおしごとおわり?もうあえない?」
俺の脚にしがみつきながら、りゅうが言った。
「お仕事は終わっちゃったけど、いつでも会えるよ!なつとりゅうは友達になっただろ?」
「わーい!」
「じゃあまた今度な?」
「うん!」
「じゃあ帰りますね」
と美希さんに言って俺もすぐに帰った。

そして次の週また同じ週刊誌に、クランクアップの日に俺が美希さんを慰めるために肩を抱いた瞬間を写し取った写真が掲載された。
家まで送るために並んで歩く姿も。
沙織さんを始め、事務所の人や那月には説明をしているし、悪いことはしてないのだから堂々としていればいい。
そうしているうちに、みんな忘れていくと思った。

2日後、電話が鳴った。
取り乱す美希さんの説明からわかったのは、公園で誰かがりゅうを拉致しようとして、通行人に見つかり、未遂で逃げたらしい。
警察に連絡して、犯人が触ったであろう、りゅうの服を調べてもらい、念の為病院に来たところで電話をして来たみたい。
俺はすぐに病院に駆けつけた。
那月も一緒に来てくれた。
「りゅうは大丈夫ですか?」
「うん。ちょっとびっくりしてたけど、怪我もないみたいだし落ち着いてる…」
「そうですか…犯人は…」
と言いかけた時、こっちに向かってりゅうが走って来た。
「なつー!」
「りゅう!もう大丈夫なのか?」
「うん!あのおねぇさんはなつのおともだち?」
「…あのお姉さんって、りゅうを連れて行こうとした人?」
「うん!」
「違うよ…どうして?」
「なつはわたしのものっていってたから!」
やっぱり俺のせいだった。
ショックで俺はその場に倒れ込んだ。
那月が支えてくれたであろう肩に残る感触が最後の記憶だった。













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