闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

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2部 4章

第二幕 4章 23話 ウォルト

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「………」
「はっ!最初の一撃で俺を殺せなかったのが残念だったな!そぉら!」
「っ!………」


 最初のうちはアンナが優勢であった。
 不意打ちでかなりのダメージを与えられたこともあり、相手の動きも鈍かった。
 だが、相手は戦闘を行っているうちに段々と傷の痛みを忘れているかのように動きが良くなる。
 恐らくアドレナリンが出て、痛みを感じなくなっているのだろう……たまにいるよねそういう人……。

 アンナが徐々に劣勢になっている理由はもう一つある。
 アンナの戦い方だ。
 恐らく、彼女の戦い方は暗殺メインなのだろう……最初の不意打ちは見事で、あれで敵を殺せなかったのは相手を褒めるべきだ。普通の相手ならば最初の一撃で殺していただろう。
 それほどまでに彼女の移動は早く静かであった。
 だが、正面向かっての戦闘は苦手なようで、相手と対峙してからは後手に回っている。
 相手の振り回す斧を寸でのところで躱し、隙を見て攻撃をするのだが、その鋭さはいまいちである。
 完全な隙をついている状態ではない為、彼女自身に迷いがあるのだろうか。
 暗殺が得意な人間には稀にあることだという。相手を確実に殺せると思わなければ攻撃を躊躇してしまうのだ。

 だが、それも仕方ない。
 もし失敗すれば自分がやられることになるのだろう。
 それほどまでに正面をきっての戦いが苦手なのだ。

 彼女が暗殺を得意とするのは恐らく彼女の天啓スキルによるものなのだろう……なるほど、暗殺が得意な人間を白の傭兵団が手放すわけがない……彼女を人質にレンを逃がしたのも、彼女の力をそれ程までに欲していたのだろう。

 なんていうか……人を殺しの道具としか見てない感じがして嫌だなぁ。



「っ!!」
「はっ、どうしたどうした!そんなんじゃ俺は殺せねぇぜ!!」


 敵が振り回した斧を回避しきれず、持っている短剣でなんとか受け止めたアンナが、斧の勢いで数メートル飛ばされる。
 相手とアンナの距離が開いたことで、私が横やりを入れる隙が生まれる。
 もちろん、その瞬間を私が逃すわけもない。


「横から失礼!氷柱弾アイシクルショット!」
「ちっ!?」


 あれ、完全に油断してたと思ったんだけど……私の放った氷柱弾アイシクルショットを相手の男はギリギリのところで躱した。
 うーん、そういえば、アンナの不意打ちも躱していたし、あの男はそういう感じの天啓スキルを持っているのかな?「直感」とか?

 まあ、外してしまったものは仕方がない。


「アンナ、選手交代だよ……ここからは私がやる」
「………」


 アンナは無言であったが、異を唱えている感じはない。
 勝手にしろって感じの眼でこちらを見ている。
 うう……私もしかして、嫌われてる?


「なっ、お前、レオはどうした!?」
「うん?あっちで転がってるよ?バラバラになって」
「マジかよ……ふっ……‥」
「?」


 なんだろ?肩を震わせて怒ってる?
 大事だったのかな?
 でも、容赦はしないよ?


「ふ、ふふふふ、ハァ~ハッハッハッハ!!!」
「へ?」


 怒ってるのかと思ったら笑ってたよこの人……どうしたの、おかしくなっちゃった!?


「やるじゃねぇか、嬢ちゃん………あの人形をあそこまでバラバラにするなんてよぉ。ハッ、グラーゴの奴が見たらどんな顔をするか見ものだぜ……ハッ、嬢ちゃん……お前を殺すのは愉しそうだなぁ☆」


 あ、この人ヤバい人だ……すっごい笑顔で殺す宣言されちゃったよ……うわぁ。


「ウォルトは戦闘狂よ……ああなったら誰も戦いを止められないわ……ご愁傷様」


 アンナが私に言う。
 ちょっと、淡々と言うセリフじゃないよソレ!?
 

「さあさあ、遊ぼう殺し合おうぜ、嬢ちゃんよぉ!!」


 目をランランに輝かせながらウォルトと呼ばれた男はこちらに突っ込んでくる。
 怖いよ!!すっごい全力で逃げたくなるけど、倒さないわけにはいかない。


「ああ、もう!貧乏くじだ!」

 私はバトーネを構えると、相手の斧をバトーネで受け止める。
 ちょっ……ちょっと待って……アンナと戦ってた時より早くない!?


「ウォルトは戦闘が長引くとドンドンとヒートアップしていくから気を付けて」


 私が驚いた顔をしていると、その理由をアンナが説明してくれる……そう言うの早く言って!
 っていうか、ヒートアップさせたのはアンナだよね!?


「貴方の強さを見て一気にギアが上がったみたいね、ドンマイ」


 だああああ!淡々と言うなぁあああああ!!
 

「ホラホラ、どうした嬢ちゃん!もっと足掻かないとすぐに死んじゃうぜ☆」
「ぜ☆!じゃない!調子に乗らないでよね!」
「うおっと!?」


 私はウォルトの斧を受け流すと、そのまま体を回転させ、バトーネでウォルトに攻撃をする。
 だが、それもギリギリのところで躱されてしまった。
 やっぱり、直感力の働く系のスキルっぽいね……今の完全に私の攻撃見えてなかったはずだ。


「なら、分かってても避けれない攻撃をするだけだよ!電爆撃ライトニングブラスト!」


 範囲攻撃であるこの呪文であれば相手は避けることが出来ないはずだ……いや、避けようにも避ける場所がない……何らかの手段で防ぐしかないのだが、見た感じ魔法の類を使う人間ではなさそうである。
 ――――――――――獲った!


 私がそう思った瞬間、ウォルトは走り出す。
 こちらに向かって……こちらには私の魔法もあるというのに構わず突っ込んできた。


「ぐおおおおお!気持ちいいぜ!これだこれ!この痛みが戦いだぜ☆☆ヒャーーー!」
「………うわぁ」


 私の電爆撃ライトニングブラストの直撃を受けながらも眼をランランとさせ、満面の笑顔でこちらに突き進んでくる……正直……超怖い。


「ふんがっ!」
「近寄らないで!風弾ウィンディローア!」


 私の雷の魔法を体一つで突破してきたウォルトに風の弾丸を浴びせて吹き飛ばす。
 風の弾丸の直撃を受けたウォルトは数メートル吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。

 かなりのダメージのはずなのだが、ウォルトはすぐさま立ち上がる。


「楽しいなぁ……楽しいよなぁ☆」


 私はげんなりしてるよ……なんだろう……すっごい疲れてきた……誰か変わってくれないかなぁ。
 そう思って私はアンナの方を見る。
 いつの間にか壁際まで移動していたアンナはすでにこちらには興味が無いというふうに先ほどの戦闘で負った傷に傷薬を塗っていた。
 なら、クダンと、クダンの方を見ると青い顔して全力で顔を左右に振っている……おおう。


 私は溜息を一つ吐くと……仕方ないなぁ……とウォルトへ眼をやり直す……相変わらず満面の笑顔である。全力で早く勝負を決めよう……そう心に決めてバトーネを握りなおすのであった。

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