383 / 412
2部 4章
第二幕 4章 23話 ウォルト
しおりを挟む「………」
「はっ!最初の一撃で俺を殺せなかったのが残念だったな!そぉら!」
「っ!………」
最初のうちはアンナが優勢であった。
不意打ちでかなりのダメージを与えられたこともあり、相手の動きも鈍かった。
だが、相手は戦闘を行っているうちに段々と傷の痛みを忘れているかのように動きが良くなる。
恐らくアドレナリンが出て、痛みを感じなくなっているのだろう……たまにいるよねそういう人……。
アンナが徐々に劣勢になっている理由はもう一つある。
アンナの戦い方だ。
恐らく、彼女の戦い方は暗殺メインなのだろう……最初の不意打ちは見事で、あれで敵を殺せなかったのは相手を褒めるべきだ。普通の相手ならば最初の一撃で殺していただろう。
それほどまでに彼女の移動は早く静かであった。
だが、正面向かっての戦闘は苦手なようで、相手と対峙してからは後手に回っている。
相手の振り回す斧を寸でのところで躱し、隙を見て攻撃をするのだが、その鋭さはいまいちである。
完全な隙をついている状態ではない為、彼女自身に迷いがあるのだろうか。
暗殺が得意な人間には稀にあることだという。相手を確実に殺せると思わなければ攻撃を躊躇してしまうのだ。
だが、それも仕方ない。
もし失敗すれば自分がやられることになるのだろう。
それほどまでに正面をきっての戦いが苦手なのだ。
彼女が暗殺を得意とするのは恐らく彼女の天啓スキルによるものなのだろう……なるほど、暗殺が得意な人間を白の傭兵団が手放すわけがない……彼女を人質にレンを逃がしたのも、彼女の力をそれ程までに欲していたのだろう。
なんていうか……人を殺しの道具としか見てない感じがして嫌だなぁ。
「っ!!」
「はっ、どうしたどうした!そんなんじゃ俺は殺せねぇぜ!!」
敵が振り回した斧を回避しきれず、持っている短剣でなんとか受け止めたアンナが、斧の勢いで数メートル飛ばされる。
相手とアンナの距離が開いたことで、私が横やりを入れる隙が生まれる。
もちろん、その瞬間を私が逃すわけもない。
「横から失礼!氷柱弾!」
「ちっ!?」
あれ、完全に油断してたと思ったんだけど……私の放った氷柱弾を相手の男はギリギリのところで躱した。
うーん、そういえば、アンナの不意打ちも躱していたし、あの男はそういう感じの天啓スキルを持っているのかな?「直感」とか?
まあ、外してしまったものは仕方がない。
「アンナ、選手交代だよ……ここからは私がやる」
「………」
アンナは無言であったが、異を唱えている感じはない。
勝手にしろって感じの眼でこちらを見ている。
うう……私もしかして、嫌われてる?
「なっ、お前、レオはどうした!?」
「うん?あっちで転がってるよ?バラバラになって」
「マジかよ……ふっ……‥」
「?」
なんだろ?肩を震わせて怒ってる?
大事だったのかな?
でも、容赦はしないよ?
「ふ、ふふふふ、ハァ~ハッハッハッハ!!!」
「へ?」
怒ってるのかと思ったら笑ってたよこの人……どうしたの、おかしくなっちゃった!?
「やるじゃねぇか、嬢ちゃん………あの人形をあそこまでバラバラにするなんてよぉ。ハッ、グラーゴの奴が見たらどんな顔をするか見ものだぜ……ハッ、嬢ちゃん……お前を殺すのは愉しそうだなぁ☆」
あ、この人ヤバい人だ……すっごい笑顔で殺す宣言されちゃったよ……うわぁ。
「ウォルトは戦闘狂よ……ああなったら誰も戦いを止められないわ……ご愁傷様」
アンナが私に言う。
ちょっと、淡々と言うセリフじゃないよソレ!?
「さあさあ、遊ぼうぜ、嬢ちゃんよぉ!!」
目をランランに輝かせながらウォルトと呼ばれた男はこちらに突っ込んでくる。
怖いよ!!すっごい全力で逃げたくなるけど、倒さないわけにはいかない。
「ああ、もう!貧乏くじだ!」
私はバトーネを構えると、相手の斧をバトーネで受け止める。
ちょっ……ちょっと待って……アンナと戦ってた時より早くない!?
「ウォルトは戦闘が長引くとドンドンとヒートアップしていくから気を付けて」
私が驚いた顔をしていると、その理由をアンナが説明してくれる……そう言うの早く言って!
っていうか、ヒートアップさせたのはアンナだよね!?
「貴方の強さを見て一気にギアが上がったみたいね、ドンマイ」
だああああ!淡々と言うなぁあああああ!!
「ホラホラ、どうした嬢ちゃん!もっと足掻かないとすぐに死んじゃうぜ☆」
「ぜ☆!じゃない!調子に乗らないでよね!」
「うおっと!?」
私はウォルトの斧を受け流すと、そのまま体を回転させ、バトーネでウォルトに攻撃をする。
だが、それもギリギリのところで躱されてしまった。
やっぱり、直感力の働く系のスキルっぽいね……今の完全に私の攻撃見えてなかったはずだ。
「なら、分かってても避けれない攻撃をするだけだよ!電爆撃!」
範囲攻撃であるこの呪文であれば相手は避けることが出来ないはずだ……いや、避けようにも避ける場所がない……何らかの手段で防ぐしかないのだが、見た感じ魔法の類を使う人間ではなさそうである。
――――――――――獲った!
私がそう思った瞬間、ウォルトは走り出す。
こちらに向かって……こちらには私の魔法もあるというのに構わず突っ込んできた。
「ぐおおおおお!気持ちいいぜ!これだこれ!この痛みが戦いだぜ☆☆ヒャーーー!」
「………うわぁ」
私の電爆撃の直撃を受けながらも眼をランランとさせ、満面の笑顔でこちらに突き進んでくる……正直……超怖い。
「ふんがっ!」
「近寄らないで!風弾!」
私の雷の魔法を体一つで突破してきたウォルトに風の弾丸を浴びせて吹き飛ばす。
風の弾丸の直撃を受けたウォルトは数メートル吹き飛ばされ、壁へと叩きつけられた。
かなりのダメージのはずなのだが、ウォルトはすぐさま立ち上がる。
「楽しいなぁ……楽しいよなぁ☆」
私はげんなりしてるよ……なんだろう……すっごい疲れてきた……誰か変わってくれないかなぁ。
そう思って私はアンナの方を見る。
いつの間にか壁際まで移動していたアンナはすでにこちらには興味が無いというふうに先ほどの戦闘で負った傷に傷薬を塗っていた。
なら、クダンと、クダンの方を見ると青い顔して全力で顔を左右に振っている……おおう。
私は溜息を一つ吐くと……仕方ないなぁ……とウォルトへ眼をやり直す……相変わらず満面の笑顔である。全力で早く勝負を決めよう……そう心に決めてバトーネを握りなおすのであった。
0
あなたにおすすめの小説
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記
ノン・タロー
ファンタジー
ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。
これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。
設定
この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。
その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~
さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。
全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。
ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。
これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
屑スキルが覚醒したら追放されたので、手伝い屋を営みながら、のんびりしてたのに~なんか色々たいへんです(完結)
わたなべ ゆたか
ファンタジー
タムール大陸の南よりにあるインムナーマ王国。王都タイミョンの軍事訓練場で、ランド・コールは軍に入るための最終試験に挑む。対戦相手は、《ダブルスキル》の異名を持つゴガルン。
対するランドの持つ《スキル》は、左手から棘が一本出るだけのもの。
剣技だけならゴガルン以上を自負するランドだったが、ゴガルンの《スキル》である〈筋力増強〉と〈遠当て〉に翻弄されてしまう。敗北する寸前にランドの《スキル》が真の力を発揮し、ゴガルンに勝つことができた。だが、それが原因で、ランドは王都を追い出されてしまった。移住した村で、〝手伝い屋〟として、のんびりとした生活を送っていた。だが、村に来た領地の騎士団に所属する騎馬が、ランドの生活が一変する切っ掛けとなる――。チート系スキル持ちの主人公のファンタジーです。楽しんで頂けたら、幸いです。
よろしくお願いします!
(7/15追記
一晩でお気に入りが一気に増えておりました。24Hポイントが2683! ありがとうございます!
(9/9追記
三部の一章-6、ルビ修正しました。スイマセン
(11/13追記 一章-7 神様の名前修正しました。
追記 異能(イレギュラー)タグを追加しました。これで検索しやすくなるかな……。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる