闇の魔女と呼ばないで!

遙かなた

文字の大きさ
384 / 412
2部 4章

第二幕 4章 24話 カモメの油断

しおりを挟む


「ハハハハハ!おらおらっ!どうしたどうした!」


 ウォルトは滅茶苦茶に斧を振り回し、こちらに突進してくる。
 全然、型も何もあったものじゃないというのに、それだけに攻撃の軌道が読めず、私は戸惑う。
 いや、攻撃が滅茶苦茶というからだけじゃない、こんなにも狂ったように戦いを愉しむ相手を私は初めて見た……そして、それに動揺しているのだろう。

 確かに、私やエリンシア、それに今は近くにいないがラガナなんかも仲間には戦闘狂とか言われることがあるが……さすがにこうはならない。

 こういう人を本当に戦闘狂っていうんだろうな……私はさすがにこうはならないよ……。


「おらぁ!!」
「っっと!はあっ!!」


 敵の大振りを躱し、バトーネを後頭部へと叩き込もうとする、だが、ウォルトはそれを感覚だけで気づき、私の動きが見えていないだろうに完璧に躱して見せた。
 恐らく彼の天啓スキルなのだろう……厄介だな。


「あぶねぇ!あぶねぇ!おらぁ!!」
「ぐっ!」


 ウォルトの攻撃をバトーネで受け止め、私は数メートル後方へ飛ぶ。
 見た目通り、かなりの力である。


「でも距離が出来た……これならっ!闇の刃オプスラミナ!!」
「うぉっ!」


 私の放った闇の刃を、またも直感で躱すウォルト……だが……。


「なにぃ!?」


 私の闇の刃は自由に操れる……狩りに外したとしても再び襲い掛かるのだ。
 だが、二度目の攻撃もウォルトは躱す……しかし、先ほどの余裕はない。
 これならと思い、私は三度目、四度目と、闇の刃を操ってウォルトに襲い掛からせた。

 予想通り、徐々に余裕がなくなっていくウォルト。
 いくら直感で攻撃を避けられても、人間の反射神経には限界がある。
 何度も何度も連続で攻撃をされれば、いずれ躱せない時がくるだろう。
 

「くそがっ!」


 ウォルトもそれを悟ったのか、徐々に表情に焦りが出てきた。
 だが、焦りの出てきたはずのウォルトの顔が、再び狂気の笑顔へと変わる。
 何?何か思いついたの?


「はっ!だったら、死なば諸共さ!!」
「ちょっ!?」


 私の闇の刃を躱し、私と反対側へと闇の刃が移動したと同時に、ウォルトはこちらへと走り出した。
 しかも、目を爛々と輝かせてだ……ひぃい……怖いよぉ。
 だが、怖がっている余裕もない。ウォルトがこちらに到着する前に闇の刃を当てることは難しい。
 そうなると、闇の刃のコントロールを諦めて、撃退するしかないんだけど……あまりの事に反応が遅れてしまった……大技を唱える余裕はない……いや、そうだ、あの呪文なら!


「ここは、通せんぼだよ!大地槍ランドスピール!」


 私はウォルトの目の前に大地の槍を出現させる。
 いきなり目の前に壁のようなものが出来て、ウォルトもそれを避けることは出来ないだろう。
 だが、止まれば後ろからコントロールを失って一直線に迫っている闇の刃がウォルトを襲う。
 そのまま突っ込んできても私の大地の槍はそう簡単には壊れたりしない。


「うぉらぁ!!」


 壊れたり……しないはずなのにぃいいいい!
 なんということだ……ウォルトは私の大地の槍を、タックルで破壊して、そのまま私へと一直線に向かってくる。ちょっと舐めすぎていた……だが……。


「でも、チャンス!変則合成魔法アレンジ!!」


 咄嗟に、粉々に砕かれた大地の槍に、氷の魔法を合成する。
 すると、ウォルトの周りに飛び散っていた岩の塊が、氷の魔法を纏い、瞬時に辺りを氷結させた。
 自分の周りに纏わりついていた岩の塊が氷結し、ウォルトの身体ごと氷漬けにする。


「う、うごけねぇ!!」


 今度こそ、捕らえた!
 そして、動きを封じられたウォルトの背後から、闇の刃が襲い掛かったのだ。


「があっ!?」


 ウォルトの背中を斬り裂き、闇の刃は虚空へと消える。
 闇の刃を受けた衝撃で氷から解き放たれたウォルトはその場に倒れた。


「ふう………なんとかなったよ」


 さすがに、あれだけの傷を負ったらもう動けないだろう……多分……恐らく……動けないでほしい。

 そう願う、私の気持ちとは裏腹に、ウォルトが顔を持ち上げる。
 タフすぎるよ……私は再び、バトーネを構えた。


「いてぇ……いてぇよぉ……ク……クククク……この痛み、最高だぜ……ハハ!」


 うう……この人本当にヤダ……。


「だがよぉ……一人で死ぬってのも寂しいじゃねぇか……なぁ、嬢ちゃん」
「悪いけど、一緒に死んでなんてあげないよ!」
「ククク……連れねぇことを言うなよぉ……俺は人が死ぬ顔を見るのも好きなんだよ……メイドの土産にもう一度くらい見てぇんだよお……」
「お断り!」


 うう……なんか怖いよこの人……。
 相手の異常な言動に私は少し怯む……そして、それが私に隙を産んだ。
 私は完全に油断してしまったのだ……死にかけの相手が仮に私に向かってきたとしてもなんとかなるだろうという油断……出来ることならこれ以上この異常者と戦いたくないという弱さからの油断……そして、敵が行動に移る。



「なあ、アンナ!一緒に死のうぜぇ!!」


 その言葉と共に、ウォルトが走り出す。
 私に向けてではなく、後ろで傷を癒しているアンナに向かってだ。

 ――――――しまった!?


「……え?」


 アンナも予想外だったのか、動くことが出来ない。


「あ……」


 アンナが相手の動きを理解したときにはすでに斧を振り上げた、ウォルトが目の間へと迫っていた。


「間に合って、闇雷纏シュベルクレシェント!」


 私は体を強化し、ウォルトを追い抜く
 ――――――そして。


「きゃああ!」
「え!?」


 何とか、ウォルトの斧がアンナに届く前にアンナに飛びつくことが出来た。
 勢いよく突き飛ばし、アンナは床を転がる……どうやら、斧を回避することが出来たようだ。
 危なかった……。



「ク、クククク……ハハハハハ!!これは見ものだぜ嬢ちゃん!!」
「い、いけない!!」


 慌てるクダンの声が聞こえてくる。
 助かったアンナは凄い青い顔をしていた……あれ?大丈夫だよね?ちゃんと斧から守ってあげられたよね?


「な、何してるの!!」


 アンナを助けたんだよ……ごめんね、私が油断しなければ……。


「ハッ!死ぬ前に良いものを見せてもらったぜ嬢ちゃん!……なかなかの見物だ……まさかアンナなんかを庇って深手を負うとはなぁ……カカカカ!……ああ、そろそろ俺も終わりみたいだなぁ……ハハハ……楽しい殺し合いだったぜぇ……じょう……ちゃん」


 私は薄れゆく意識の中で敵であるウォルトが息を引き取る姿を見た。
 まだ見ていない3人目は戦いが苦手らしいし、なんとかなるよね……。
 自分の傷をなんとかしたいけど……背中じゃ、手が届かないんだよねぇ……どうしよう。

 闇に意識を引きずられる私にクダンが駆け寄ってくる……その手には何やら試験管のようなものを持っていたのだが……それが何か知る前に、私の意識は闇へと落ちたのだった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ

柚木 潤
ファンタジー
 薬剤師の舞は、亡くなった祖父から託された鍵で秘密の扉を開けると、不思議な薬が書いてある古びた書物を見つけた。  そしてその扉の中に届いた異世界からの手紙に導かれその世界に転移すると、そこは人間だけでなく魔人、精霊、翼人などが存在する世界であった。  舞はその世界の魔人の王に見合う女性になる為に、異世界で勉強する事を決断する。  舞は薬師大学校に聴講生として入るのだが、のんびりと学生をしている状況にはならなかった。  以前も現れた黒い影の集合体や、舞を監視する存在が見え隠れし始めたのだ・・・ 「薬華異堂薬局のお仕事は異世界にもあったのだ」の続編になります。  主人公「舞」は異世界に拠点を移し、薬師大学校での学生生活が始まります。  前作で起きた話の説明も間に挟みながら書いていく予定なので、前作を読んでいなくてもわかるようにしていこうと思います。  また、意外なその異世界の秘密や、新たな敵というべき存在も現れる予定なので、前作と合わせて読んでいただけると嬉しいです。  以前の登場人物についてもプロローグのに軽く記載しましたので、よかったら参考にしてください。  

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

チート無しっ!?黒髪の少女の異世界冒険記

ノン・タロー
ファンタジー
 ごく普通の女子高生である「武久 佳奈」は、通学途中に突然異世界へと飛ばされてしまう。  これは何の特殊な能力もチートなスキルも持たない、ただごく普通の女子高生が、自力で会得した魔法やスキルを駆使し、元の世界へと帰る方法を探すべく見ず知らずの異世界で様々な人々や、様々な仲間たちとの出会いと別れを繰り返し、成長していく記録である……。 設定 この世界は人間、エルフ、妖怪、獣人、ドワーフ、魔物等が共存する世界となっています。 その為か男性だけでなく、女性も性に対する抵抗がわりと低くなっております。

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...