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2部 4章
第二幕 4章 27話 悲劇
しおりを挟む「解る……解るわ!これなら皆を助けることができる!」
ツバサの掌に魔力が集中していく。
今まで魔法を使ったことのないツバサが軽々と魔法を操り始める……もちろん、彼女の元々の才能もあるだろうが彼女の中にいる邪神の存在がデカいのだろう……邪神が彼女に魔法の使い方を直接頭に理解させているのだ……恐らく、私が最初に闇の魔法を使った時のように。
「消えて!影棘!!」
「ゴ……ア?」
影の槍が軽々とオーガを貫き、その命を奪っていく。
「アハ……すごい、この力凄いわ!」
(うむ、それはもうお前の力だ……その力があればお前は何も怖がることは無い)
「うん!これなら何が来てもココアやお母さんたちを守ってあげられる……うれしい」
(それよりも、あの者たちの回復をしなくてよいのか?治癒の魔法の使い方も解るだろう?)
「あ、いけないっ!」
邪神の言葉で気づき、慌ててココアの元へと走り寄る。
そして、治癒魔法を使い、彼女の傷を癒していった。
「う……ツバサ?」
「うう、よかった……ココア、死んじゃったかと思った」
「えへへ、無事だったみたい……あのオーガ?」
「私が倒したよ」
「え……ツバサが?……あれ?ツバサの髪の毛……どうしちゃったの?」
綺麗な黒い髪の毛が真っ赤に染まっている。
それを見たココアは自分の眼を疑ったのか必死に指で眼をこすっていた。
「うん、私の中に邪神とか言うのがいるらしくて、その邪神が私に力をくれたの!それでね、その時にこの髪の毛も色が変わっちゃたんだ」
「えっと……よくわからないけど……その邪神に力を貰ってツバサが助けてくれたんだよね?」
「うん!」
「そっか、ありがとうツバサ!」
ツバサはココアの無事を確かめると、両親とココアの両親の治療も行った。
幸い、4人とも命に別状はなく、治癒魔法をかけた後、しばらくすると自分で動けるくらいにまで回復をした。
彼女が皆に回復魔法をかけている間、私は一つの気配に気づいた。
彼女たちの襲われた場所から少し離れた木の影からこちらを見ている男性がいる。
彼は口端を上げ、ツバサの事を見つめていた。
私はその視線に悪寒を感じる……まるで、彼がオーガを襲わせ、何かを確認したかのように見えるからだ……一体、彼は何者なのだろう……。
そして、またも場面は変わる、その事件からしばらくしての事だろう。
ツバサの家族が団欒をしていると、扉をたたく音が聞こえる。
「あ、ココアかな?」
「はいはい、今行きますよ」
パルマが椅子から立ち上がり、扉を開けると、そこに立っていたのは予想通り、ココアであった。
「ココア、今日は遅かったじゃない……何か用事でもあったの?」
「ううん、特にないよ。ちょっと寝坊しただけ」
「そうなの?もう、ココアらしいわ……それで今日は何をする?」
「おでかけ」
「いいわよ、どこ行きたい?」
「いつもの丘」
「解ったわ!」
そう言うと、ツバサはすぐに準備をしてココアと共に家を飛び出した。
「ちょっとココアと出掛けてくるねー」
「はい、行ってらっしゃい、夕飯までには戻るのよ?」
「はーい!」
母親のパルマに挨拶をすると、ツバサはココアと手をつなぎ、丘へと向かっていく。
そこは私がツバサの中に初めて入った時にいた場所だ……ここは二人のお気に入りだったのか。
それにしても、ココアが元気ないような……ちょっといつもと雰囲気が違う気がする……どうしたんだろう?
「それで、何して遊ぶ?」
ツバサが屈託のない笑顔でココアに話しかけると、ココアも笑顔で返す……だが、何か変だ?
なんだろう……あ……そうか、目が笑ってないんだ……。
私はそれに気づくと、途端にココアに恐怖を覚えた……この子、本当にココア?
だが、ツバサはそれに気づけはいが一向にない。
そんな無邪気なツバサにココアは驚く言葉を発する。
「今日ね、ツバサのママとパパが死んじゃうの」
「え、何を言ってるの?」
「私の家に、今日変な男たちが来たの……それでね、パパとママを人質に取ってツバサの家を教えろってだから教えたの」
「え……え……何を言ってるの!?」
本当にいきなり何を言っているのだろう……。
ココアたちの家に男たちが押し入ってツバサの家を聞く?
なにそれ、意味が解らないよ……なんでツバサの家を聞くのに押し入る必要があるの?そもそも、ツバサとココアの家が仲いいのを知っていたらツバサの家くらい知っていそうなものだ……わざわざ押し入って人質に取らなくてもいいと思うのだけど……おかしい、この話おかしいよ……。
だけど、子供のツバサはそれに気づかない。
ココアの言ったことをそのまま信じてしまったのだろう。
ココアの言葉を聞くと同時に家に向かって今来た道を走り出す。
必死になって走っていく。
「嘘だよね……ココアの冗談だよね……お父さん、お母さん」
ツバサは涙ながらにそう願い走り続ける……だが、その願いが届くことは無かった。
彼女が家に着いた時、そこには無残にも転がる父親と母親の姿があったのだ。
そして、その傍らには血に濡れた剣を持つ4人の男……。
その男たちを見た瞬間、ツバサの中の何かが切れる……。
「お前らが……お前らが殺したのか!!私のお父さんとお母さんを!!!」
赤い魔力がツバサの周りから噴き出した。
それを見た男たちが恐怖から後ろに退る。
(ふふふ……良い怒りだ……今ならさらに我の力を操ることが出来るだろう……教えてやれ我らに牙をむいたころの愚かさを)
言われるまでもなく、ツバサの中にはどす黒い感情が渦巻いていた。
目の前の男たちを殺すことしか、考えていない。
「影手炎爆」
私との戦いでも使った、合成魔法だ。
影の手が伸び、触れた人間を爆発させる。
男たちはその得体のしれない魔法に成す術もなく弾け、四散した。
あっけなく武器を持った男たちはその形を無くし、ツバサは地面に転がる両親の遺体を唯々見つめているのであった。
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