闇の魔女と呼ばないで!

成神クロワ

文字の大きさ
上 下
93 / 361
3章

迎撃

しおりを挟む
 ラガナとランクロットはお互いを見据えながら動かない、傍から見ればお互いに隙を伺っていて動けないでいるようにも見えるがそうではない、ランクロットはその通りラガナの隙が見当たらず動けずにいるのだが、ラガナはまるでつまらなそうに欠伸をし、自ら動いていないだけであった。


「そなた、あまり強そうではないのう・・・詰まらんのじゃ」
「な、なんだと!君みたいな出来そこないがでかい口を叩くんじゃない!」
「やれやれ、相手との実力の差がわからんようじゃな・・・それは余の逆鱗ぞ?」


 ゆっくりと動かす口とは裏腹にラガナは高速でランクロット目の前に移動する。


「な、いつの間に!?」


 驚愕するランクロットにラガナは左の拳を腹へと叩き込んだ。


「ぐほぉっ!!」


 衝撃に耐えきれず、ランクロットは後ろに吹き飛び、そのまま壁にまで叩き付けられる。


「す、すごい・・・」


 魔族が吹き飛ぶ、その異様な光景にソフィーナは口を開け驚いていた。


「な、なぜだ・・・魔族の僕になんでただの拳が効くんだ!?」
「何を言うておる、千年前の戦いの時になぜ竜族が神から助けを求められたか知らんのか?」
「せ、千年前の戦いに僕は参加していない!知るわけないだろ!」
「はあ・・・余とて参加はしておらぬがな・・・無知は罪ぞ?」


 ラガナはそう言うと、再び、ランクロットに近づき蹴りを入れた。


「がはっ!」
「竜気と言うてな、竜の纏うオーラには光の属性と似た性質があるのじゃ」
「そ、そんな・・・」
「やはり、そうそう、カモメ程の強敵には会えぬか・・・あちらの神将もカモメ程ではなさそうだしのう・・・」


 そう言うと、チラリとアネルが戦っているグラネルザの方を見た、今自分が戦っているランクロットよりは強いだろう。実力だけならばカモメと同じくらいあるのかもしれない・・・が。


「つまらぬ、攻撃に工夫が無いわ・・・あれではロボットと戦っているのと変わらんのじゃ」


 ラガナはカモメの何をしてくる変わらないところを好いていた、カモメは良くも悪くも直感で行動することが多いため、ラガナのような戦闘狂には戦っていて楽しい相手でもあったのだ、そして、そう言う戦い方をする人間は得てして実力以上の力を発揮するものである。それに比べれば帝国の将であるグラネルザは強さの底が見えてしまうのであった。


「まあ、あっちはアネル殿に任せるとしよう・・・余はそなたを倒してもう一寝入りするとしようかのう」
「ふ、ふ、ふ、ふざけるなああああああ!!」


 ランクロットは両腕を短剣のように変形させ襲い掛かってくる、だが、ラガナは慌てることなく気を練った。


 「そなたには過ぎた技じゃ・・・だが、冥途の土産に見せてやろう・・・」


 竜の魔法と竜の気その二つを合成させた、合魔気を作り出す。


 「竜魔気弾!」


 ラガナが力強い言葉を発すると、光の玉が襲い掛かってくるランクロットに命中する。
――――――そして、その光の玉はランクロットの胸を貫通し、城の壁をも貫き天まで届いた。


「そ、そんなぁああああ!」


 ラガナは悲鳴を上げながら黒い塵へと変わり崩れ落ちるのだった。


 「魔族をこんなにもあっさりと・・・私は・・・」


 ソフィーナは驚きと強さへの敬意とは別に、魔族を前に王を助けることも護ることも出来ずに地に臥した自分への情けなさと屈辱を感じるのだった。


 「さて、もう一寝入りするかのう・・・あちらも勝負が着きそうだじゃし」


 ラガナのその言葉にソフィーナはもう一方の戦い、自分を育ててくれ、姉のように慕っているアネルの戦いへと眼をやる。
 その戦いは凄まじかった、アネルが伝説のパーティ、カモメの父親たちと同じパーティに所属しており、邪竜を討伐した功績を持つことは知っていたし、自分を鍛えてもらう時にも彼女の力の強さは知っているつもりであった。だが、目の前に移るのはその自分の想像とは次元の違う強さを持つアネルの姿であった。


 アネルはグラネルザの攻撃を剣の切っ先を使い、逸らす。
 アネルに向けて変形させた腕を振るうグラネルザであるが、そのすべての攻撃を剣一本で軌道を変えられ、アネルの体に触れることすら出来ずにいた。


「ば、ばかな・・・」
「現実よ――――滅びなさい」


 グラネルザの猛攻の間を縫って、アネルの剣はグラネルザの体に傷を負わせていく。


「くっ・・・貴様本当に人間か!」
「そうよ―――――――今はね」
「何?」
「光よ!!」

 
 アネルが叫ぶとアネルの剣が光のオーラのようなものに包まれる。
 そして、その剣をグラネルザに向けて突く。


「ぐあああ!!」


 グラネルザは寸でのところで躱そうとするが、躱しきれず左腕を吹き飛ばされた。


「こ、この力は・・・く・・・今日の所は退こう・・・だが、いずれ貴様らはあのお方の前に膝ずくことになるだろう」
「逃がさない!」


 アネルは再び、光のオーラを纏った剣を繰り出すが、すでにその場にグラネルザはいなかった。


「くっ」
「アネル殿」


 グラネルザを取り逃がしたことを悔しそうに顔をしかめるアネルに、フィルディナンドは話しかける。


「フィルディナンドちゃん、無事かしら?」
「はい、お陰様で、ラガナ殿もソフィーナを救ってくれて感謝する」
「ぐーぐー」


 ラガナはすでに柱にもたれかかり眠りについていた。


「あらあら、可愛い寝顔ね」
「先ほどまで魔族を圧倒していたというのに」


 その姿を見てフィルディナンドは少し呆れた顔をするが寝ているラガナに向かって頭を下げるのであった。もしこの場に他の兵士などがいれば王のその態度に驚きを示したかもしれないが、彼の性格を知るアネルとソフィーナはそれを気にしはしなかった。ソフィーナの場合立場的にいいのか?とも思うのだが、この王にしてこの騎士団長ありである。


「しかし、これで帝国との戦争は避けられなくなったな・・・」
「そう・・・ですね」


 真正面から帝国と戦うことになればいくらアネルやカモメ、ラガナがいるとは言えど、兵力の差が多く、勝てる見込みがないのである。


「他の国に協力を要請するしかないでしょうね」
「他の国が無事だったらいいけど」
「どういうことですか、アネル殿?」
「帝国から最も遠いこのツァインに襲撃を掛けているのだ、他の国にも襲撃している可能性は高い」


 その上、襲撃してきたのは魔族、それも少数である。この人数であれば大陸の国全てに襲撃を掛けていたとしても不思議ではない、そして、その襲撃を退けられた国はどれくらいあるだろうか。
フィルディナンドは額に手を置きながら厳しい顔をするのであった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

旦那様!単身赴任だけは勘弁して下さい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,018pt お気に入り:182

横断歩道の先は異世界でした

ミステリー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:8

蓮華

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:7

愛とはなんぞや、問いかける

恋愛 / 完結 24h.ポイント:71pt お気に入り:27

伯爵令嬢は執事に狙われている

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,889pt お気に入り:458

真面目系眼鏡女子は、軽薄騎士の求愛から逃げ出したい。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,541pt お気に入り:245

堅物監察官は、転生聖女に振り回される。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,746pt お気に入り:151

処理中です...