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6章
リーンの後悔と出会い
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「私はなんてことを……世界を壊すために竜達を……私の大事な子供たちを利用し……あまつさえ、異世界の者を嗾けるなんて……」
アネルの気により、正気を取り戻していたリーンは、今までの自分の行いを悔いていた。
リーン自身にもなぜ、自分が世界を壊そうと思い立ったのか、なぜ、大切な竜達を死なせるような目に合わせたのか分からないでいた。
分からないからこそ、それを行った自分が許せなかったのだ。
「異世界の住人、あの人たちにも悪いことをしたわ……早く嘘だという事を伝えないと……でも……」
リーンは自分がおかしくなっていた頃に使っていた異世界へ渡る術を何度も試すが、なぜか異世界へつながる穴は出現しなかった。
元々、リーンにそんなことをする力は無い、ディータ達のように異空間に穴をあけることなら出来るのだが、どこにあるか分からない異世界に穴をつなげることは出来なかった。
「どうして……どうしてできないのよう……」
途方に暮れ、泣き出してしまうリーン。
「私以外の女神がこの世界に来ていたんだ……人間や動物っていうのを創造したんだよね……友達になりたかったなぁ……それなのに……私のせいで……」
闇の女神と名乗っていた方の女神は肉体を失い、異空間へ逃げ込んでいるらしい。
光の女神と言われている女神は、私自身の手で呪いを与えてしまった、肉体は完全に死んでしまっただろう……せめて、もう一人のように異空間に逃げ込んでくれているといいんだけど。
(こんなのひどい……この人はきっとあの黒い何かに操られていただけなのに……すべて失って、後悔して……それに……)
「怖いよ……また、私、あれに飲み込まれてしまうんじゃ……」
そう、またいつ、あの状態になってしまうか分からない、その恐怖がリーンを襲っているのだ。
今、正気にもどれているが、いつまたあの状態になるのか……それともならないのか。
「もう駄目……誰か……私を殺して……」
生きる気力さえ失ってしまったリーン。
恐怖と絶望から……彼女の目からは光が失われていた。
それから、何年……いや、何十年、何百年の時が過ぎた。
彼女は暗い洞くつの中でひとりポツンと座っていた。
何をするでもなく、ただひたすら、恐怖と後悔が彼女を攻め続けていたのだ。
「………」
そんな時、洞窟の入り口の方から足音が聞こえてきた。
その足音は、少しずつ、こちらへと近づいてくる。
聞こえてくる足を音は軽く、そして無邪気な足取りであった。
「わー、広い!」
洞窟に小さな男の子の声が響き渡る。
(子供の声?)
こんな洞くつになぜ?とカモメは思うが、あれから何百年と立っているのだ、今までここに人が入ってこなかった方が不思議と言うものである。
「んー、どこにあるんだろう?」
少年は何かを探しているのか、その足音はたまに止まり、辺りを探索しているようだった。
段々と近づいてくる足音に、リーンは顔を上げ、警戒の色を出した。
「あ、なにかある!」
少年が、リーンに気付くと、こちらに駆け寄ってきた。
「駄目!近づかないで!」
少年が自分の近くに来る。
そう思ったリーンが声を荒げ叫ぶ。
少年に近づかれる恐怖もあったが、その少年に自分が何かしてしまうのではないだろうかという恐怖もあったのだ。
「だ、誰かいるの?」
「ええ、だから近寄らないで」
「あう……でも、でも、僕、生命の石を探さないと……」
「生命の石?」
(あ、なんか伝説で聞いたことある、確かどんな病気でも治す石だっけ?)
カモメの言う通り、生命の石というのはどんな病気をも治す、奇跡の石のことである。
ただし、その石が登場するのは物語の中だけであった。
この少年はきっとその物語を読むか聞くかして、その石を探しに来たのだろう。
「そんなものここにはないよ……」
「……そうなの?でも、ご本では心の赴くままに進んだ先に生命の石が現れるって」
「それは本の世界だけよ」
「そんな……」
リーンの言う通り、それは本の中の話だけだろう、そんな便利な石があったら、病気で亡くなる人などいなくなっている筈なのだから……ということは、つまり。
「でも、その石がないとお母さんが……」
「お母さん病気なの?」
「……うん」
沈黙が辺りを包む。
この子のお母さんはどうやら病気で床に臥せっているらしい。
それで、お母さんの病気を治すために一人でこんな洞くつに入ってきたのか……えらいね。
「勇気があるわね……お母さんの為にこんな洞くつに入ってくるなんて……怖くないの?」
「怖いよ……でも、お母さんがいなくなる方がもっと怖い」
「そうね……大切な人が自分の周りからいなくなるのはとても辛いわ」
そう、今リーンの周りには誰もいない。
かつては楽しく共に暮らしていた竜達とも一緒にはいられないのだ。
当然である、彼らを裏切り利用したのはほかでもないリーンなのだから。
(私も、大切な人がいなくなる気持ちはよくわかるよ)
カモメも母親、父親を亡くしている。
だからこそ、この少年の気持ちもわかるし、リーンの寂しさも解るつもりだ。
幸い、カモメは一人にならずに済んではいたのだが、もし、あの時ディータやクオンがいなかったらと考えると恐怖で体が震えるのだった。
「お姉さんはここで何をやってるの?」
「私は……後悔しているのよ」
「コーカイ?でも、ここにはお船がないよ?」
「その航海ではないわよ……とっても悪いことをしたからここで反省をしているの」
少年の勘違いに一瞬笑みを浮かべるも、すぐさままた暗い顔に戻るリーン。
そのリーンの表情を見たのか少年は元気にリーンに語り掛けるのだ。
「おねーさんの笑顔とっても綺麗!」
「な、何をいってるの……」
「おとーさんがよく言ってるよ、人は笑顔でいなくちゃいけないって!自分の笑顔を隠してまで無理をする必要はないって!」
「……そう、でも私はもう、笑う資格なんてない」
そう言うと、リーンは体育座りをして、膝に顔を埋めるのだった。
「誰でも笑顔になる権利はあるのだ、そして、笑顔は自分の為だけではない、他者にあたえる者でもある」
「え?」
(え?)
少年があまりに流暢にそんなことを言う為、リーンもカモメも間抜けな顔して驚いた。
「おとーさんの受け売り、でも、僕もそー思うんだ!」
「いい、お父さんね」
「うん!おかーさんもね、優しいんだよ!いつもご本読んでくれるの!」
「そう」
「でも……おかーさん……」
満面の笑顔からまたも暗い顔になってしまう少年。
そんな少年を見てリーンは小さくため息をする、少年に対してではなく、何もせず、ウジウジしていた自分に対してである。
「笑顔は人に与えるものか……よいっしょ」
リーンは立ち上がると、スカートに着いた泥を手ではたいた。
「おねーさん?」
「お母さんの症状、私に見せてくれる?これでも治癒魔法は得意なの」
「ホント!!」
「うん」
リーンは笑顔で少年に語り掛けた。
不思議と、その笑顔を作るのに無理は無かった。
心の底から少年に何かしてあげたいという気持ちが湧き上がっていたのだ。
「……せめてもの、罪滅ぼしのつもりかしらね……許されるはずがない、解っているけれど……少しでもこの世界の役に立ちたいわ」
そう呟いて、リーンは少年と共に洞窟をでるのだった。
外の世界は、何百年の時を経て、リーンの知る世界とは様変わりしているのであった。
アネルの気により、正気を取り戻していたリーンは、今までの自分の行いを悔いていた。
リーン自身にもなぜ、自分が世界を壊そうと思い立ったのか、なぜ、大切な竜達を死なせるような目に合わせたのか分からないでいた。
分からないからこそ、それを行った自分が許せなかったのだ。
「異世界の住人、あの人たちにも悪いことをしたわ……早く嘘だという事を伝えないと……でも……」
リーンは自分がおかしくなっていた頃に使っていた異世界へ渡る術を何度も試すが、なぜか異世界へつながる穴は出現しなかった。
元々、リーンにそんなことをする力は無い、ディータ達のように異空間に穴をあけることなら出来るのだが、どこにあるか分からない異世界に穴をつなげることは出来なかった。
「どうして……どうしてできないのよう……」
途方に暮れ、泣き出してしまうリーン。
「私以外の女神がこの世界に来ていたんだ……人間や動物っていうのを創造したんだよね……友達になりたかったなぁ……それなのに……私のせいで……」
闇の女神と名乗っていた方の女神は肉体を失い、異空間へ逃げ込んでいるらしい。
光の女神と言われている女神は、私自身の手で呪いを与えてしまった、肉体は完全に死んでしまっただろう……せめて、もう一人のように異空間に逃げ込んでくれているといいんだけど。
(こんなのひどい……この人はきっとあの黒い何かに操られていただけなのに……すべて失って、後悔して……それに……)
「怖いよ……また、私、あれに飲み込まれてしまうんじゃ……」
そう、またいつ、あの状態になってしまうか分からない、その恐怖がリーンを襲っているのだ。
今、正気にもどれているが、いつまたあの状態になるのか……それともならないのか。
「もう駄目……誰か……私を殺して……」
生きる気力さえ失ってしまったリーン。
恐怖と絶望から……彼女の目からは光が失われていた。
それから、何年……いや、何十年、何百年の時が過ぎた。
彼女は暗い洞くつの中でひとりポツンと座っていた。
何をするでもなく、ただひたすら、恐怖と後悔が彼女を攻め続けていたのだ。
「………」
そんな時、洞窟の入り口の方から足音が聞こえてきた。
その足音は、少しずつ、こちらへと近づいてくる。
聞こえてくる足を音は軽く、そして無邪気な足取りであった。
「わー、広い!」
洞窟に小さな男の子の声が響き渡る。
(子供の声?)
こんな洞くつになぜ?とカモメは思うが、あれから何百年と立っているのだ、今までここに人が入ってこなかった方が不思議と言うものである。
「んー、どこにあるんだろう?」
少年は何かを探しているのか、その足音はたまに止まり、辺りを探索しているようだった。
段々と近づいてくる足音に、リーンは顔を上げ、警戒の色を出した。
「あ、なにかある!」
少年が、リーンに気付くと、こちらに駆け寄ってきた。
「駄目!近づかないで!」
少年が自分の近くに来る。
そう思ったリーンが声を荒げ叫ぶ。
少年に近づかれる恐怖もあったが、その少年に自分が何かしてしまうのではないだろうかという恐怖もあったのだ。
「だ、誰かいるの?」
「ええ、だから近寄らないで」
「あう……でも、でも、僕、生命の石を探さないと……」
「生命の石?」
(あ、なんか伝説で聞いたことある、確かどんな病気でも治す石だっけ?)
カモメの言う通り、生命の石というのはどんな病気をも治す、奇跡の石のことである。
ただし、その石が登場するのは物語の中だけであった。
この少年はきっとその物語を読むか聞くかして、その石を探しに来たのだろう。
「そんなものここにはないよ……」
「……そうなの?でも、ご本では心の赴くままに進んだ先に生命の石が現れるって」
「それは本の世界だけよ」
「そんな……」
リーンの言う通り、それは本の中の話だけだろう、そんな便利な石があったら、病気で亡くなる人などいなくなっている筈なのだから……ということは、つまり。
「でも、その石がないとお母さんが……」
「お母さん病気なの?」
「……うん」
沈黙が辺りを包む。
この子のお母さんはどうやら病気で床に臥せっているらしい。
それで、お母さんの病気を治すために一人でこんな洞くつに入ってきたのか……えらいね。
「勇気があるわね……お母さんの為にこんな洞くつに入ってくるなんて……怖くないの?」
「怖いよ……でも、お母さんがいなくなる方がもっと怖い」
「そうね……大切な人が自分の周りからいなくなるのはとても辛いわ」
そう、今リーンの周りには誰もいない。
かつては楽しく共に暮らしていた竜達とも一緒にはいられないのだ。
当然である、彼らを裏切り利用したのはほかでもないリーンなのだから。
(私も、大切な人がいなくなる気持ちはよくわかるよ)
カモメも母親、父親を亡くしている。
だからこそ、この少年の気持ちもわかるし、リーンの寂しさも解るつもりだ。
幸い、カモメは一人にならずに済んではいたのだが、もし、あの時ディータやクオンがいなかったらと考えると恐怖で体が震えるのだった。
「お姉さんはここで何をやってるの?」
「私は……後悔しているのよ」
「コーカイ?でも、ここにはお船がないよ?」
「その航海ではないわよ……とっても悪いことをしたからここで反省をしているの」
少年の勘違いに一瞬笑みを浮かべるも、すぐさままた暗い顔に戻るリーン。
そのリーンの表情を見たのか少年は元気にリーンに語り掛けるのだ。
「おねーさんの笑顔とっても綺麗!」
「な、何をいってるの……」
「おとーさんがよく言ってるよ、人は笑顔でいなくちゃいけないって!自分の笑顔を隠してまで無理をする必要はないって!」
「……そう、でも私はもう、笑う資格なんてない」
そう言うと、リーンは体育座りをして、膝に顔を埋めるのだった。
「誰でも笑顔になる権利はあるのだ、そして、笑顔は自分の為だけではない、他者にあたえる者でもある」
「え?」
(え?)
少年があまりに流暢にそんなことを言う為、リーンもカモメも間抜けな顔して驚いた。
「おとーさんの受け売り、でも、僕もそー思うんだ!」
「いい、お父さんね」
「うん!おかーさんもね、優しいんだよ!いつもご本読んでくれるの!」
「そう」
「でも……おかーさん……」
満面の笑顔からまたも暗い顔になってしまう少年。
そんな少年を見てリーンは小さくため息をする、少年に対してではなく、何もせず、ウジウジしていた自分に対してである。
「笑顔は人に与えるものか……よいっしょ」
リーンは立ち上がると、スカートに着いた泥を手ではたいた。
「おねーさん?」
「お母さんの症状、私に見せてくれる?これでも治癒魔法は得意なの」
「ホント!!」
「うん」
リーンは笑顔で少年に語り掛けた。
不思議と、その笑顔を作るのに無理は無かった。
心の底から少年に何かしてあげたいという気持ちが湧き上がっていたのだ。
「……せめてもの、罪滅ぼしのつもりかしらね……許されるはずがない、解っているけれど……少しでもこの世界の役に立ちたいわ」
そう呟いて、リーンは少年と共に洞窟をでるのだった。
外の世界は、何百年の時を経て、リーンの知る世界とは様変わりしているのであった。
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