闇の魔女と呼ばないで！

７章

『魔気』？

「うっふうううううん！！」


　薄暗い部屋の中にレディのウォーアクスが空を切る音が虚しく響く。


「なんじゃい、さっきから闇雲に武器を振るうだけかい？」
「あらぁん、どうせ当たらないんだから避けなくてもいいじゃなぁい！」
「ふぉっふぉっふぉ、お前さん達は油断出来んからのう……念には念をじゃ……それに……」


　ボルトルが片腕を倒れているコロの方に向けると爆発の魔法を放つ。


「！！」


　それを見たレディがコロとボルトルの間に入り、その体で爆発を受け止めた。


「……倒れている子に攻撃なんて趣味が悪いわねぇん」
「おお、すまんのう……本当に倒れているか不安になってしまってのう？ふぉっふぉっふぉ」


　コロが倒れたふりをし、魔族に普通の攻撃は当たらないからと、レディの攻撃を避けなかったボルトルに
攻撃が当たる瞬間、光の属性を付与する魔法を使う……なるほど、もしコロが本当に倒れていなければ使える作戦であろう。

　だが、コロは本当に気絶をしてしまっていた。
　もちろん、だからと言って運よく目を覚まし、偶々今の作戦と同じような結果を生む可能性もある為、ボルトルは細心の注意を払っている。


「さて、本当に起きていないようじゃのう、その童は……」


　自分を庇う事でレディはボルトルの魔法をまともに浴びてしまっている。
　さすがのレディとはいえ、魔族の攻撃魔法をまともに喰らって傷一つないというわけにはいかない、爆発の魔法をその身に受けたことにより、身体中に傷を作っていた。

　だというのに、コロは動き出すでもなく、声を上げることも無い、ということは完全に気を失っているのだろう。


「ならば、お前さんを殺すことに集中するかのう？」
「あらぁん、その手には乗らないわよぉん？そう言って、コロちゃんに攻撃する気でしょん？」
「ふぉっふぉっふぉ、見破られたか……残念じゃのう」
「お爺ちゃんみたいなタイプの性格の人の言葉は信じられないわねぇん」
「そうかい、それは残念……じゃ！」


　ボルトルの手から氷柱のようなものが飛び出す。
　レディはそれを斧で弾き返し、ボルトルとの距離を詰め、再びウォーアクスを振るう。

　だが、ボルトルはそれを躱し、距離を取ろうとする。
　距離を取られると魔法が飛んでくるためレディは即座にその距離を詰める。
　もちろん、コロを攻撃されない為、常にボルトルからコロへの射線を切りながらである。


「やるのう……」
「ふんぬうううう！」
「喰らわんわい！そぉれ、これはどうするのじゃ！」


　レディの斧を躱し、大地の魔法を使い、地面から槍のような形をした岩をレディに目掛けて生やす。
　レディはそれを斧で斬り飛ばし、なおもボルトルに向かって突き進んだ。


「やはり、何かあるのう……効かぬ攻撃を続け、なおも目が死んでおらん」
「どうかしらねぇん！」


　レディは斧を振るう。振るって振るって振るう。
　ボルトルはその斧を決して身体で受けない、光の属性もない普通の斧を喰らってもダメージがないのだが、レディの不気味なまでの猛攻に決して油断をしないのであった。


「駄目ねぇん……全然油断してくれないわぁん」


　唐突にレディがそう呟いた。


「普通なら私を馬鹿にしてぇん、油断の一つもしてくれてもいいのにぃん」
「ふぉっふぉっふぉ、誰がするものかい、ワシはそんな甘くないぞい？」
「年の功かしらねぇん……仕方ないわん……本当なら当たる瞬間に使いたかったんだけどぉん……先に使えば身体能力もあがるしねぇん……………うっふううううううううううううううううん！！！！！！」



　レディの体の周りからオーラのようなものが噴き出す。
　それはまるで、コハクやカモメの気の開放のようであった。
　だが、カモメ達のそれとは少し違う……どちらかと言うとラガナの竜気に近い雰囲気がある。
　吹き上がるオーラはコハクの色は少し青みが赤かった白であった。
　だが、レディのオーラは赤い。
　赤く吹き上がるそのオーラを纏うレディの姿はまるでその存在が恐怖とで言うかのようにすさまじいものであった。


「なんと……まさしく魔物の姿じゃのう」
「そうよん……私達魔物に、人間と同じ気なんてものはなかったわぁん……でも似たようなものはあるのん……これがソレよん」
「なるほどのう、恐ろしく禍々しい気……魔の者の気……『魔気』と言ったところかのう」
「違うわん……そんなどっかの醜い化け物と同じ呼び方なんてまっぴらごめんよん……これは……」
「ほう……お主はそれにどんな名前を付けたんじゃ？」
「『愛の力』よおおおおおおおおおおん！！」
「なんじゃと！？」


　ものすごいスピードでボルトルに突っ込むレディ、果たしてボルトルの驚きは予想を遥かに超えたレディのスピードに対するものだったのか、それとも、その名前のセンスに対するものだったのか分からないが……ボルトルとレディの戦いは華僑となるのであった。