闇の魔女と呼ばないで!

成神クロワ

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2部 2章

心配

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 それにしても、天啓スキルというのはデタラメですわね……。
 ワタクシ達の大地の常識では考えられませんわ……。
 あっちの暗殺者の男の天啓スキルは何なんでしょう……この大陸での戦いは相手が弱くても天啓スキル次第で劣勢になるということを覚えておかないといけませんわね……油断大敵ですわ。


「お~っほっほっほ!さっきまでの威勢はどうしたのかしらお嬢ちゃん!」
「あら、全然余裕のままですわよ、オバさん!」
「おばっ……よっぽど殺されたいらしいねぇ!」


 そう言うと、オバさん(敵)は鞭を取り出す。
 そしてワタクシに向かってその鞭を振るってきた。


「おっと、ですわ!」
「ちっ、すばしっこいね!ほらポチ、そのお嬢ちゃんを捕まえな!」
「うがああああ!」


 ポチ……本当にペット扱いですのね……それにしてもこの大男、まるで意思がないような?
 あのオバさんの天啓スキルのせいなのでしょうか?
 まだ、この大男以外の天啓スキルは解らない状態ですわね……もし、あのオバさんの天啓スキルが何かしらの方法で敵を奴隷化できる天啓スキルだとしたら、下手をするとワタクシもこうなりかねませんわ……気を付けませんと……。


 ワタクシは大男の攻撃を躱しながら敵を観察した。
 大男の陰に隠れながら攻撃してくるグレイブも天啓スキルを使う気配がないですわ。
 戦闘向きの天啓スキルではないのだろうか?
 グレイブはかなりのスピードがあるものの腕前はそこまですごいわけではないですわね……とは言っても、このラリアスの街でグレイブとまともに戦えそうなのはギルドマスターさんと未だ森の中に身を潜めてもらっているレンさんとクルードさんくらいですかしら……?

 それなりの強さはあるということですわね……それにしてもなぜこんな男が昨日ラリアスの街にいたのでしょう?カモメさんと何かあったみたいですけれどカモメさんであれば難なくこの三人に勝てるでしょうし………あら、これではワタクシがカモメさんより弱いように思えますわね……ワタクシだってこの三人くらいなら軽々倒して見せますわよ、今は敵の情報が知りたいから手を抜いているだけですわ!本当ですわよ!


「ところで、オバさん。どうしてカモメさん……闇の魔女を殺したいんですの?」
「ふんっ、アンタに教えてやる義理はないね!」


 むぅ……このままだと理由が判りませんわね……どういたしましょう……あ、そうですわ。
 ワタクシは空中でクルリと回転し、華麗に着地を決めます。
 
 そして、向かってくる大男に今度は逃げもせず歩み寄りました。


「あら、観念したのかしら?」


 何を勘違いしたのか、オバさんは余裕の顔で笑っています。


「ええ、諦めましたわ……出来れば穏便に情報を得たかったんですけれど……仕方ありませんわね♪」


 ワタクシは天使のような笑顔でオバさんに返してあげました。
 そして……。


 迫りくる大男の懐に飛び込むと大男は大声をあげながら両手を組み、力任せにワタクシを拳で潰そうとしてきます。……が、それをワタクシは軽々躱し、大口を空けた大男の口の中に魔導銃を突っ込みました。

 そう、彼の天啓スキルは皮膚硬化とあのオバさんが教えてくれましたので、皮膚がない場所を攻撃することにしましたの……全力で、手加減なしで!


炸裂全力魔弾エクスプロードフルブラスター!!」


 大男の体内でワタクシの全力魔弾が炸裂します。
 大男は体の中から爆発をし、木端微塵になりました……。
 分かってはいましたけれど……やはり気分の良いものではありませんわね。
 今まで魔物を何匹も殺しているワタクシ達ではありますが、人間をこんな風に殺すことはあまりありませんわ……やっぱり魔物を殺すのとはちょっと違い、嫌な気分にはなりますわね……ですが、それを躊躇って死んでしまうわけにはいきませんもの……それに、それの相手がワタクシのお友達を殺すなどと言っている輩なら尚更ですわ!


「なっ……」
「悪魔め……」
「酷いですわね、こんな天使のようにかわいいワタクシに悪魔なんて……それで、少しは喋ってくれる気になりましたんですの?ワタクシ、なぜ貴方達がカモメさんのことを殺そうとするのか知りたいんですのよ?教えてくれません?」


 ワタクシが再び天使のような笑顔で聞くと、オバさんは小さく『ひっ』と声を漏らした。
 酷いですわね、こんなに優しく聞いておりますのに……。



「おい、お前の奴隷は後、何体出せる!」
「後一体が限界よ!私の「奴隷作成」のスキルは時間が掛かるのよ!」


 あら、一つ情報が手に入りましたわね。あのオバさんの天啓スキルは『奴隷作成』というらしいですわね……その上、その奴隷を作るのに時間が掛かると……。


「ちっ、ならそれを囮にこの場から逃げるぞ!」
「わ、解ったわ……あなたの空間転移で逃げるのね!」


 あら、グレイブのスキルは空間転移らしいですわね……でもそれなら戦闘に使えそうな気もしますけれど……何か条件とか制限があるのかしら?空間転移するには時間が掛かるとか、もしくは転移できる場所は決まっているとかでしょうか?


「ポチおいで!」


 オバさんがそう言うと、再び大男が現れた……あら?
 先ほどの大男と全く同じ姿をしていますわね……ということは、この方は人間ではなくあのオバさんのスキルで作られた人造人間というところでしょうか?


「ポチ、私達が逃げるまでそいつを足止めしておきな!!」


 大男がオバさんの声に応え、こちらに突進してくる……ああ、もう!邪魔ですわ!
 このままじゃ逃げられてしまいます!
 ワタクシが焦っていると、ワタクシの横を一つの影が通り過ぎていきました。


「奴らを逃がすのは愚策だ、俺がコレの相手をする!」


 飛び出してきたのはレンさんでした。
 


「なっ、仲間がいたの!?」
「マズいな……」
「急いでグレイブ!」
「させませんわ!」


 ワタクシは大男をレンさんに任せて、オバさんたちの方へ駆ける。
 グレイブの方がなにやら魔法陣みたいなものを自分の足元に展開しています……あれが空間転移でしょうか?見たところまだ魔法陣は完成していない様子……やっぱり、時間が掛かりますのね。

 ワタクシはグレイブに魔弾放つ、魔法陣を完成させないためですわ。


「させないわ!」


 ですが、ワタクシの魔弾はオバさんの鞭で叩き落されていまいました。
 そうこうしているうちにグレイブの魔法陣が段々と形になっていきますわ……マズいですわね。


「おっと、伏兵はレンだけじゃねぇぜ!」
「何っ!?」


 グレイブの後ろから槍が突き出されます。
 クルードさんとシルネアさんも気配を消しながら敵の後ろに回ってくれていたみたいですわ、やりますわね!

 クルードの槍の攻撃を何とかかわしたグレイブだが、その場を動いたことで魔法陣は霧散してしまった。
 どうやらかなり使いにくいスキルのようですわね。


「ふっ、貴様の倒し方は見せてもらった!」


 レンさんはそう言うと、敵の口に爆弾を握った手を突っ込み炸裂させました……そして、いつも通り……
ええ、いつも通りに敵諸共バラバラになっておりました。

 んもうっ、それは禁止だっていいましたのにっ!


「ポチっ………馬鹿な、自爆したというの」


 ですが、おかげで敵を追い詰めることが出来ましたので、今回の自爆は見逃しますわ。


「肯定だ、時間をかけるのは愚策と判断した。ならば俺が共に爆発するのが一番効率がいい」
「ひっ!?」


 オバさんの近くに転がってきたレンさんの頭がオバさんの言葉に応える。
 生首が喋っていることに悲鳴を上げるオバさん……まあ、気持ちはわかりますわ……ワタクシも未だにあれには慣れませんもの。


「超再生のスキルの持ち主か……馬鹿め」
「超再生?ああ……なるほど、確か核になる部分が壊れなければ死なないスキルだったわね?」
「そうだ、そしてその核に集合するように再生は行われる……つまり」
「頭に向かって体が近寄ってきているということはこの頭に核があるということね」
「そうだ」


 なんですって!?それじゃあ、あの頭の中にある核ってものが破壊されたらレンさんは死ぬって言うことですの!?


「残念だったね坊や、運悪く核が私たちの方へ飛んできちゃって」
「肯定だ、俺は運がない……」


 頭だけのレンに向ってオバさんの鞭が振るわれる……あれで運悪く核を破壊されたらレンさんが死ぬということですわよね!まったく!


「……あら?」


 レンさんへ鞭が届く前に、ワタクシがなんとか間に滑り込みました。


「な、なにをしているんだ!」


 ええ、ええ……レンさんの頭を庇うのが精一杯で鞭を防ぐことは出来ませんでしたわよ。
 ワタクシの背中の服は破れ、その下から血が滲んできました……結構痛いですわね。


「馬鹿な、俺の事など放っておけば」
「いい加減になさいまし!何度も言っているでしょう!貴方はワタクシたちの仲間ですのよ!見捨てるなんて出来ませんわ!」
「だが、それでお前が怪我をするなんて……傭兵は仲間を庇ったりなど……」
「ワタクシは傭兵ではありません、そして、貴方ももう傭兵ではないでしょう!ワタクシ達は冒険者です、そしてワタクシは仲間を見捨てたりしませんわ!」
「……」


 レンさんの頭はワタクシの腕の中で静かになりました。
 こうやって黙っていると少しかわいく思えますわね……ちぎれた首の部分を見なければ……ですけれど……はぁ……この服変えないと駄目ですわね……背中はさっきの鞭で破けてしまいましたし、胸元はレンさんの地で真っ赤ですわ……。


「ちっ、だったら一緒にくたばりな!」


 レンさんを庇ったワタクシにオバさんは再び鞭を振るう……が。


「そのお荷物を持っていて手が使えないだろう?銃が使えないアンタは敵じゃないよ!」
「あら……お間抜けさんですわね」


 そう言うと、ワタクシはレンさんを持ったまま、オバさんの懐に潜り込み思いっきりお腹を蹴ってあげましたわ。


「あぐっ……」


 予想外だったのか、無防備にワタクシの全力の蹴りを喰らってそのまま意識ごと吹っ飛んだオバさまは地面を転がり白目をむいておりました。


「ちっ」
「あ、てめぇ!!」


 グレイブと戦っていたクルードが叫んだので、そちらを見てみると、黒い煙のようなものでグレイブの姿が見えなくなっておりました。
 その煙が晴れたころにはグレイブの姿は消えておりました。
 一人で逃げたんですのね……。


「すまねぇ、逃がしちまった」
「ごめんなさい、エリンシアさん」
「いえ、仕方ありませんわ……それに、一人は確保できましたし」


 このオバさんを連れて帰れば何かしらの情報を吐かせることも出来るでしょうし。
 あの男を逃がしたのは残念ですけれど、収穫はありましたわ。


「とりあえず、レンさんが戻ったら一度ラリアスの街にもどりましょうですわ」
「すまない」


 レンさんは少し暗い顔をしておりました……どうも、この方……自分の命を軽く見ている感じがしますわね……少し心配ですわ。

 ワタクシ達はレンさんが回復すると、オバさんを縄で縛ってクルードさんに担いでもらい、ラリアスの街へと帰還しました。
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