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閑話 ルーファス、噂される
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夕食の後、テオドールの部屋にはライデッカーとイシュガルが集まっていた。
応接スペースのテーブルセットには、小瓶の酒と軽くつまめるナッツ類が持ち込まれた。
本日の第一王子エイダンから第三王子テオドールへの領主業務の引き継ぎ作業は、政敵同士ともいうこともあり、かなり緊迫した空気の中で進められた。
ただ、まだテオドールがサノセットに到着した初日ということもあり、おおまかな説明だけを受けて、早めの時間帯に切り上げられた。
テオドールたちの陣営は、情報共有も兼ねて夕食後に話そう、ということになったのだ。
「どうだった、あっちの方は?」
どかっとソファに腰かけて占領すると、早速、ライデッカーが尋ねた。
「ああ、良い気分転換になった。それに、ルーファスと仲良くなったぞ」
ライデッカーの向かいのソファで、テオドールが少し得意げに微笑んだ。
「ルーファス様と!? ……それは良かった」
ライデッカーは一瞬目を丸くしたが、どこか複雑そうな表情で頷いた。
庇護者を取られてしまい少し複雑な想いだが、強い竜と良い関係を築けるのはテオドールにとっては良いことだと考え直したようだ。
「前々から気になっていたが、『ルーファス様』とはどのような御仁なんだ?」
ルーファスにはまだ会ったことがないイシュガルが、質問した。
プライベートな空間ということもあり、深紅色の王国騎士の制服の胸元は、少し寛げている。
「ルーファスは、淡い金色の髪と瞳をした男性だ。見た目は、私より少し年上くらいだろうか」
テオドールが顎に指先を添え、思い出すように視線を上にあげて答えた。
「ルーファス様は、レイちゃんと同じ冒険者パーティーに所属されてる方だよ。……まぁ、とても強いお方かな」
雷竜であるライデッカーが、強さのことで褒めていることに、イシュガルは驚いた。「ルーファス様とやらは只者ではないのだな」と、表情を少し引き締める。
「ルーファス様はレイちゃんの庇護者だろうから、テオが気に入られて良かったよ。俺が前見た時は、黒竜王様並みに過保護だったからなぁ……」
ライデッカーは、遠い目をした。
影竜王ニールとライデッカーが顔を合わせた回数は少ない。だが、ニールがレイのことをかなり気に入って気を配っていることを、ライデッカーは重々承知していた──それこそ「過保護」と言えるほどに。
「? ルーファスは本当にレイ嬢を庇護してるのか……それにしては……」
テオドールは違和感を感じて、首を捻った。
──過保護ではないよな? いや、まさか、ジーンはアレを「過保護」と表現しているのか? と記憶を探って考え込んだ。
テオドールの記憶では、ルーファスは隙あらばレイをからかおうとしていた。何度かレイにウザ絡みしようとするルーファスを見かけていたのだ。
旅の中盤からは、ルーファスがテオドールの護衛に専念していたせいか、そのようにレイにちょっかいをかけることはほぼ無くなっていた。
だが、サノセットの朝の市場では、ルーファスはレイを守るために海竜たちを威嚇していた。
でも、その後のセイレーンの岬では無体も働いていた……
テオドールは「過保護」という言葉にすっかり迷子になっていた。さらには「黒竜王様並みに」という言葉にも翻弄されていた。
ルーファスの場合は、黒竜王のように甘々どころか辛口……いや、むしろポイントがズレすぎて「酸っぱい」と表現した方が正しいような気さえしていた。
「『過保護』……う~ん……」
テオドールは腕を組み、薄らと眉間に皺を寄せて悩み込んだ。
「?」
ライデッカーは、テオドールの予想外の反応に、不思議そうに目を瞬かせた。
「まぁ、仕事で護衛対象がいる場合とそうでない場合は、対応が変わるのだろうな」
テオドールは、「過保護」問題には決着がつかなそうだと判断したためか、自分なりの落とし所を口にした。
今度は、ライデッカーがテオドールの発言に違和感を覚えた。ぐぐぐっと眉間に渓谷が生まれ、人相の悪いオレンジ色の三白眼も険しくなる。
竜族は愛情深く、庇護欲の強い種族だ。
たとえ護衛の仕事だとしても、最優先は護衛対象のテオドールよりも、ルーファス自らが加護を与えたレイになる──仕事としてテオドールを守ったり、気が合って仲良くなることはあっても、いざという時に最優先されるのはレイの方になるはずだ。
以前見かけたルーファスとレイの関係性を見ても、まるで母子のようにルーファスはレイを気遣っていた。
ルーファスの愛情深い雰囲気からも、一度与えた加護を取り上げるとも考えられなかった。
ライデッカーは腕を組み、難しい顔で目を瞑り「う~ん……」と唸った。
「サノセットに来たのは久しぶりだな。護衛のこともあるし、街並みが変わっていないか少し確認したい。明日の朝早くに、少し街を散策しようかと思う」
隣の席で変に悩んでいるライデッカーは放っておいて、イシュガルが明日の予定を伝えた。
「ああ、そうだ! もしルーファス様たちに出会ったら、今度お礼に食事でも奢らせてくれと伝えてくれ!」
ライデッカーはパチッと目を開けて、急に思い出したかのように、イシュガルにお願いをした。
「もし会えたらな」
イシュガルも、とりあえず頷いた。
その後も、旅の間にどんなことがあったかを互いに報告し合い、その日の話し合いはお開きになった。
翌朝、散策から戻って来たイシュガルが、爆弾を落とした──
イシュガルに「金髪金目の人物は二人いたが、ルーファス様はどちらの御仁だ?」と訊かれ、テオドールとライデッカーが大いに混乱したのは言うまでもなかった。
応接スペースのテーブルセットには、小瓶の酒と軽くつまめるナッツ類が持ち込まれた。
本日の第一王子エイダンから第三王子テオドールへの領主業務の引き継ぎ作業は、政敵同士ともいうこともあり、かなり緊迫した空気の中で進められた。
ただ、まだテオドールがサノセットに到着した初日ということもあり、おおまかな説明だけを受けて、早めの時間帯に切り上げられた。
テオドールたちの陣営は、情報共有も兼ねて夕食後に話そう、ということになったのだ。
「どうだった、あっちの方は?」
どかっとソファに腰かけて占領すると、早速、ライデッカーが尋ねた。
「ああ、良い気分転換になった。それに、ルーファスと仲良くなったぞ」
ライデッカーの向かいのソファで、テオドールが少し得意げに微笑んだ。
「ルーファス様と!? ……それは良かった」
ライデッカーは一瞬目を丸くしたが、どこか複雑そうな表情で頷いた。
庇護者を取られてしまい少し複雑な想いだが、強い竜と良い関係を築けるのはテオドールにとっては良いことだと考え直したようだ。
「前々から気になっていたが、『ルーファス様』とはどのような御仁なんだ?」
ルーファスにはまだ会ったことがないイシュガルが、質問した。
プライベートな空間ということもあり、深紅色の王国騎士の制服の胸元は、少し寛げている。
「ルーファスは、淡い金色の髪と瞳をした男性だ。見た目は、私より少し年上くらいだろうか」
テオドールが顎に指先を添え、思い出すように視線を上にあげて答えた。
「ルーファス様は、レイちゃんと同じ冒険者パーティーに所属されてる方だよ。……まぁ、とても強いお方かな」
雷竜であるライデッカーが、強さのことで褒めていることに、イシュガルは驚いた。「ルーファス様とやらは只者ではないのだな」と、表情を少し引き締める。
「ルーファス様はレイちゃんの庇護者だろうから、テオが気に入られて良かったよ。俺が前見た時は、黒竜王様並みに過保護だったからなぁ……」
ライデッカーは、遠い目をした。
影竜王ニールとライデッカーが顔を合わせた回数は少ない。だが、ニールがレイのことをかなり気に入って気を配っていることを、ライデッカーは重々承知していた──それこそ「過保護」と言えるほどに。
「? ルーファスは本当にレイ嬢を庇護してるのか……それにしては……」
テオドールは違和感を感じて、首を捻った。
──過保護ではないよな? いや、まさか、ジーンはアレを「過保護」と表現しているのか? と記憶を探って考え込んだ。
テオドールの記憶では、ルーファスは隙あらばレイをからかおうとしていた。何度かレイにウザ絡みしようとするルーファスを見かけていたのだ。
旅の中盤からは、ルーファスがテオドールの護衛に専念していたせいか、そのようにレイにちょっかいをかけることはほぼ無くなっていた。
だが、サノセットの朝の市場では、ルーファスはレイを守るために海竜たちを威嚇していた。
でも、その後のセイレーンの岬では無体も働いていた……
テオドールは「過保護」という言葉にすっかり迷子になっていた。さらには「黒竜王様並みに」という言葉にも翻弄されていた。
ルーファスの場合は、黒竜王のように甘々どころか辛口……いや、むしろポイントがズレすぎて「酸っぱい」と表現した方が正しいような気さえしていた。
「『過保護』……う~ん……」
テオドールは腕を組み、薄らと眉間に皺を寄せて悩み込んだ。
「?」
ライデッカーは、テオドールの予想外の反応に、不思議そうに目を瞬かせた。
「まぁ、仕事で護衛対象がいる場合とそうでない場合は、対応が変わるのだろうな」
テオドールは、「過保護」問題には決着がつかなそうだと判断したためか、自分なりの落とし所を口にした。
今度は、ライデッカーがテオドールの発言に違和感を覚えた。ぐぐぐっと眉間に渓谷が生まれ、人相の悪いオレンジ色の三白眼も険しくなる。
竜族は愛情深く、庇護欲の強い種族だ。
たとえ護衛の仕事だとしても、最優先は護衛対象のテオドールよりも、ルーファス自らが加護を与えたレイになる──仕事としてテオドールを守ったり、気が合って仲良くなることはあっても、いざという時に最優先されるのはレイの方になるはずだ。
以前見かけたルーファスとレイの関係性を見ても、まるで母子のようにルーファスはレイを気遣っていた。
ルーファスの愛情深い雰囲気からも、一度与えた加護を取り上げるとも考えられなかった。
ライデッカーは腕を組み、難しい顔で目を瞑り「う~ん……」と唸った。
「サノセットに来たのは久しぶりだな。護衛のこともあるし、街並みが変わっていないか少し確認したい。明日の朝早くに、少し街を散策しようかと思う」
隣の席で変に悩んでいるライデッカーは放っておいて、イシュガルが明日の予定を伝えた。
「ああ、そうだ! もしルーファス様たちに出会ったら、今度お礼に食事でも奢らせてくれと伝えてくれ!」
ライデッカーはパチッと目を開けて、急に思い出したかのように、イシュガルにお願いをした。
「もし会えたらな」
イシュガルも、とりあえず頷いた。
その後も、旅の間にどんなことがあったかを互いに報告し合い、その日の話し合いはお開きになった。
翌朝、散策から戻って来たイシュガルが、爆弾を落とした──
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