鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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食事会

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 その日の夜、レイはレックスとルーファスに連れられて、とある店に来ていた。
 細い路地裏をくねくねと奥に進んだところにあるこぢんまりとした店で、小さな吊り看板以外は普通の民家と同じ煉瓦積みの小さな家だった。

「邪魔するぜ」

 レックスは、何のためらいもなく木戸を開けた。
 扉の上部に取り付けられた呼び鈴が、カランと軽やかに鳴る。

「いらっしゃい」

 カウンターの奥にいた大柄なマスターが、チラリと入り口を見て声をかけてきた。
 手元では何か料理を作っているようで、忙しなく動かしていた。

「ルーファス、レイ、こっちだ」

 奥のテーブル席で、ケープのフードを目深にかぶった人物が小さく手をあげた。

「今夜はお誘いいただきありがとうございます」

 レイはとことこと奥のテーブルの方へ近づいて行った。にっこり微笑んでお礼をする。

 レックスとルーファスも後に続いた。

 レックスたちが近づくと、慌てたライデッカーがガタタッと音を立てて席を立った。
 ビシッと背筋を伸ばしたまま、硬直したように微動だにしなかった。

「イシュガルから、ルーファスが二人いると聞いてはいたが……本当にそっくりだな」

 テオドールがフードの裾を少し持ち上げて、レックスとルーファスを見上げた。
 深紅色の瞳は、すっかり真ん丸になっていた。

「テオ、久しぶりだな」

 レックスが愉しげにニヤリと口角を上げた。勝手に空いてる席に座る。

「こっちは兄のレックスで、僕が本物のルーファスです。本当にごめんなさい。兄さんが勝手に僕の振りして」

 ルーファスが心底申し訳なさそうに眉を下げた。

「いえっ! 滅相もございません!!」

 ライデッカーが強張った声で返答した。

「いや、レックス殿のおかげで良い旅ができた。ありがとう」

 テオドールは柔らかく微笑んだ。

 ルーファスも「そう言ってもらえるなら……」と小さく安堵の息を吐いた。

「まぁ、座れ。何か頼もう」

 レックスはメニューに手を伸ばしつつ、言い放った。

 レイとルーファスは「お前が言うな」という視線を横目で送りつつ、席に着いた。
 ライデッカーは「失礼します!」とキビキビと答えて着席した。


「「「「「乾杯!」」」」」

 エールとホットジンジャーが運ばれてくると、五人はジョッキやカップを合わせた。

 つまみにはチーズの盛り合わせとオリーブの実、そして白身魚と紫玉ねぎのマリネが出された。

「レックス殿たちは、私が戻った後はどうすごしてたのだ?」

 テオドールは上品に一口エールを飲み、軽く話題を振った。

「レックスでいい。そしてお前は普通にしてろ」

 レックスはテオドールに呼び名を許可した後、ビシッとライデッカーを指差した。

 ライデッカーは緊張で強張っていた肩を下ろして、「はい……」としおらしく答えた。そして、チラチラとレイの方に何やら問いたげな視線を送った。

(むぅ……やっぱりライデッカーは、光竜王様のことには気づいてるよね?)

 レイはとりあえず目線で「そうです」と頷いた。

 ライデッカーの顔が「やっぱり!!」と、すっかり青ざめた。

「ここ数日はのんびり過ごしてたな。街を散歩したり、市場に買い物に行ったりしてな」

 レックスは気分良くテオドールとおしゃべりを始めた。
 テオドールも旧友に会ったように、朗らかに相槌を打っている。

 そこへ追加メニューが届いた。イカとムール貝が入ったペンネ・アラビアータだ。ニンニクと赤唐辛子の刺激的な香りが、むわっとテーブルの上に広がる。

「レイは唐辛子はダメだったよね?」
「ちょびっとなら大丈夫ですけど、丸々はダメです……わぁ、ありがとうございます!」

 ルーファスは甲斐甲斐しくレイの分を小皿に取り分けた。大きな赤唐辛子の実を丁寧に除いてから、レイに手渡す。
 レイも素直に喜んで受け取っていた。

 ライデッカーはそんな二人の親しげな様子を見て、「よかった、ちゃんと俺の知ってるルーファス様だ」となぜかホッと息を吐いていた。


「帰りについてだが……王都へは正規のルートで戻ることになった」

 一通り料理を食べ終わった後、テオドールが今後のことについて話を切り出した。

 テーブルの上には、いつの間にかライデッカーの防音の魔道具が置かれていた。

(正規のルート……つまり、所長は「冒険者」としてじゃなくて、「第三王子」として王宮の騎士さんたちと王都に戻るってことかな?)

 レイはデザートのチーズケーキを頬張りながら、ぼんやりと考えた。

「ということは、帰りの護衛は不要ってことか?」

 レックスが、単刀直入に確認した。

「すまないが、そうなるな。サノセットに来るまでに例の飲み物が見つかっただろう? その件で陛下が直接影を動かされることになったんだ」

 テオドールは一つ頷くと、説明を始めた。

「正妃派も側妃派も今は動けない状態なので、帰り道はおそらく何か仕掛けてくることはないかと……」

 ライデッカーも丁寧に補足する。

(例のドリンク……キメラドリンクのことか! 正妃派にも側妃派にも調査が入ってるから、変に怪しまれないためも、今は暗殺とかは仕掛けられないってことかな)

 レイはふむふむと聴きながら、食後の紅茶を飲んでいた。

「そっか。安全に旅ができることはいいことだね。でも、レイと久々に一緒に冒険者をできるかと思ってたから、少し残念かな」

 ルーファスはほろ苦く笑った。

「それなら、ニールからちょっと相談を受けてたんですが、黒狼狩りに行きませんか?」
「黒狼狩り?」

 レイがルーファスの方を見上げると、彼は不思議そうに訊き返した。

「今年の冬にバレット商会から売り出す予定のコートなんですけど、もうすでに注文がいっぱい入ってて、材料の黒狼の毛皮が足りてないそうなんです」

「あぁー、氷竜討伐の時に着てたあの立派なコートか?」
「そうです!」

 ライデッカーの言葉に、レイは大きく頷いた。

「いいね。でも、黒狼はどこで狩る予定なの?」
「えぇと、確かタンネンヴァルトです。そこは森が豊かで、黒狼の毛皮の質が良いってニールが言ってました!」

 ルーファスに確認され、レイはにっこりと答えた。

「そっか。じゃあ、ニール様に一度細かく要望とか確認してから行こうか?」
「はい!」

 ルーファスとレイは笑顔で頷き合った。


 その日の夜は和やかに過ぎていった。


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