鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

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閑話 光竜兄弟、話し合う(レックス視点)

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 レックスとルーファスは、バレット商会の宿舎内に借りているレックスの部屋にいた。

 ルーファスに捕まったレックスは、「どこかゆっくり話せるところ、無い?」とルーファスからやけに麗しい笑顔で聞かれ、半ば強制的に案内させられたのだ。

 ルーファスは備え付けのテーブルセットの椅子に座り、空間収納から取り出したお茶で喉を潤していた。
 一方で、レックスは気まずそうにベッドに腰かけて縮こまっていた。

 見た目は瓜二つの白皙の美貌ではあるが、二人がまとっている空気は対照的だった。

「全く、もうこれっきりにしてよね。まさか僕宛ての手紙を勝手に持ち出してたなんて……」

 ルーファスは一息つくと、呆れたように口を開いた。

「あの手紙がルーファスの手元にあったとして、結局教会の仕事があるから、護衛の仕事は受けられなかっただろう?」

「……それはそうだけど」

「そうなれば、レイ一人で護衛の仕事をする羽目になったんだぞ! まだ俺がいて良かったんじゃないか!?」

 レックスはなんだか良さそうな理由をこじつけると、胸を張って堂々と言い訳した。

 全く反省していない兄の様子を見て、ルーファスは「はぁ……」と大きな溜め息を吐いた。

「それに、どうするのさ? 王子様から食事に誘われてるんでしょ? 僕が以前会った雷竜も来るみたいだし、兄さんはどう誤魔化すつもりなの?」

 ルーファスはじっとりと胡乱な視線を、レックスに向けた。

 今朝、たまたま出くわした王国騎士団団長のイシュガルから、伝言を預かったのだ。「世話になったお礼として、そのうち食事でも」と伝えられ、レックスもレイもあっさり頷いてしまったのだった。

「そ、それは、俺がルーファスの振りをすれば……!」

 レックスはそろ~りと視線を泳がせた。

「そんなの、すぐにバレるでしょ。いきなり竜王があらわれたら、雷竜の彼もびっくりするんじゃない?」
「ぐぅ……」

 ルーファスからバッサリと断言され、レックスはくしゃくしゃの顔で黙り込んだ。

「さすがにその時は、僕も出席するからね。すぐにバレることだし、きちんと謝らないと。元はといえば、兄さんが僕の振りして騙したりするからいけないんだよ」

 ルーファスはピシャリとレックスを叱った。

 レックスはますます小さく縮こまってしまった。

「そ、そう言えば! ルーファス、レイはもしかして三大魔女じゃないのか!? あれ程の魔力量に、魔術を使うと何かの花の匂いがしたぞ! どうなんだ!?」

 レックスは無理矢理話題を変えてきた。今度はルーファスを問いただし始める。

「あれ、兄さんに言ってなかったけ?」

 ルーファスはきょとんと小首を傾げた。

「聞いてないぞ! 管理者なんかに加護なんか与えて、いいように使われたりしたらどうするんだ!?」

 レックスは少し声を荒げた。淡い黄金眼は、どこか弟を心配するように揺れていた。

「レイはそういう子じゃないよ。僕の加護が使われたのも、今までもほんの数回だし。召喚までは加護の内容に入れてないから、急に呼び出されるようなことも無いし。特に問題ないよ?」

 ルーファスはあっさりと答えた。

「無理に働かされるようなことは無いんだな!?」
「うん、それは無い。むしろ、最近はレイからの連絡が少なすぎてちょっと寂しいくらい」

 レックスとルーファスは、確かめるようにじっと互いの瞳を覗き込んだ。

 しばらく見つめ合った後、ルーファスが言っていることは本心だと納得したのか、レックスは「ふんっ、それならいい」と視線を逸らした。

「あ、そういえば! 兄さん、レイから聞いたんだけど、琥珀に手を出そうとしたんだって?」
「ぶっ!!?」

 ルーファスの言葉に、レックスが勢いよく吹き出した。

「ち、違う! レイは一体、何を伝えたんだ!? 俺はただ単に猫を撫でようとしただけだ!!」

(レイは一体、どんな伝え方をしたんだ!? これじゃあまるで俺が変質者みたいじゃないか!!)

 レックスは慌ててルーファスの前で手を振った。必死に自分は変質者ではないと言い訳をする。

「琥珀が嫌がってたって聞いたよ。確かに兄さんはかわいい小動物系が好きだとは思ってたけどさ。やめてよね、そういうのは」

 ルーファスは不潔なものを見るように自らの兄を見つめた。その視線からは、嫌悪感がありありと滲み出ていた。

「だから違うんだああぁああっ!!!」

 レックスはガバッと頭を抱え込んだ。

(ぐぬぅ、このままでは兄としての威厳が……! 俺が今言い訳してもますます怪しまれるだけだ! あとでレイにしっかり訂正させないと!!)

 レックスはあとでレイに説教をかまそうと心に決めたのだった。


「それで、旅の方はどうだったの?」

 ルーファスは呆れ切った溜め息を吐いた後、別の話題に切り替えた。

「おう、旅は大したことなかったぞ」

 レックスは、これまでの護衛の旅の出来事をかいつまんで話した。
 立ち寄った街のこと、出くわした盗賊団のこと、途中から火竜王ガロンが参加したこと、そして、思いの外テオドールと気が合って仲良くなったことなどいろいろと話した。

 ルーファスは、レックスの冒険譚に静かに耳を傾けていた。

「そういえば、レイの飯は変わってるな。ドラゴニアの食材と、うちの里の調味料を合わせて、なかなかうまい飯を作ってたぞ。味噌入りの雑炊とか、バター醤油のパスタとかな」

 レックスが上機嫌に話した。レイの作る料理は結構気に入っていたのだ。

「へぇ~? 僕、そういうの食べたことないんだけど?」

 ルーファスがレックスをじっとりと見据えた。どんよりと不機嫌そうな魔力が漏れ始めている。

(ヒィッ! どっ、瞳孔が縦長になってる!? 手料理なんて、そんな羨むもんでもないだろう!?)

 レックスはビクッとして、肩を小さく跳ね上げた。

「そ、そのうちレイも戻って来るだろう。せっかくだから、何か作ってもらえ……?」

 レックスはおそるおそる提案した。今とりなしておかないと、後々チクチク何か言われそうな予感がしていた。

「……レイに迷惑じゃないかな?」

 ルーファスの声は少し不安げに揺れていた。久々のレイとの再会ということもあり、遠慮しているようだった。

「サノセットは港街で珍しい食材が多いからな! レイも作るのを楽しんでたぞ!!」

(俺に嫉妬するぐらいなら、大人しく飯を作ってもらえ!!!)

 恨めしそうに見てくる弟に、レックスは大きく頷いて断言した。


 その時、レックスの部屋の扉を叩く音がした。

「ルーファス、光竜王様、ただいまです!」

 扉の向こう側から、レイのかわいらしい声が聞こえてきた。

(よしっ、助かった!!)

 レックスは今回の旅で初めてレイのことを心から感謝した。まるでピンチの時に救いのヒーローがあらわれたような感覚だった。

「レイ、おかえり」

 ルーファスはいつもの優しげな雰囲気に戻って、柔らかく声をかけた。

「おう、入れ」

 レックスもいつもの調子で適当に声をかける。


 ガチャリと扉を開けたレイの背後には、水竜王ハムレットが立っていた。
 思わぬ客人に、レックスとルーファスも少し頬を強張らせる。

「やあ。挨拶が遅れてすまなかったね」

 ハムレットは優美な笑みを浮かべ、社交的に挨拶をした。

「いえ、こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ない。ハムレット殿もお元気そうで何よりです」

 レックスも居住いずまいをただして社交モードに入ると、ニカッと人の良さそうな笑顔を向けた。
 ルーファスも兄に合わせて、ぺこりと小さく頭を下げる。

(変な目でこっち見んじゃねぇっ!!!)

 レイが胡乱な視線をレックスに向けていたが、レックスは何事もなかったかのように華麗にスルーした。

「レイがね、二人とも一緒に夕食を食べたいと言っていたんだ」
「みんなで食べた方がおいしいですよね!」

 ハムレットの言葉に、レイは黒曜石のような瞳をキラキラさせて元気よく答えた。

「それなら、僕はレイの手料理を食べてみたいな。兄さんの話だと、レイはドラゴニアの食材と光竜の里の調味料でおいしい料理を作ったんだってね」

 ルーファスが、淡く優しげな黄色の瞳でレイを見つめた。

「そうですね、護衛依頼中に何度か作りましたよ! そうだ! せっかくだから、今夜は光竜王様が好きなアレにしましょうか!」

 レイは胸元でパンッと両手を合わせると、何かメニューを思い付いたようでパァッと顔色を明るくした。
 ウキウキと鼻歌混じりに「それじゃあ、準備してきますね!」とレックスの部屋を出て行った。




「ふぅん?」
「へぇ~?」

 ハムレットとルーファスのじっとりと恨めしい視線が、レックスに集中した。
 二人とも優しげな表情を顔に貼りつけてはいるが、部屋の中の空気は重くのしかかってくるような圧迫感があった。 

(アイツ、余計なこと言って行きやがった!!!)

 レックスは背中にダラダラと冷や汗をかきながら、夕食までのこの空き時間をどう無事に生き残ろうかと頭をフル回転させることになったのだった。


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