鈴蘭の魔女の代替り

拝詩ルルー

文字の大きさ
128 / 447

獣の祭り1

しおりを挟む
「……本当に、この道で合ってるんでしょうか?」
「一応、こっちに道は続いてるな……だいぶ細くはなってきたが……」

 レイが白い息を吐いて疑問を呟くと、ダズが次の村へ続く道を眺めようと、目を細めた。


 銀の不死鳥と鉄竜の鱗メンバーは、獣の祭りが開催されているというガレッソ村へ向かっていた。
 ガレッソ村は、山の麓の猟師の村らしく、一行は村へ続く細い道をたどり、森の奥へ奥へと進んでいた。


「ここら辺は、結構魔力が豊富だね」
「玉型の精霊も、いろんな種類がいますね」
「森が豊かな証拠だな」

 雪降り積もる冬の森には、さまざまな種類の玉型の精霊がふわふわと浮かび、白銀の世界に、青、水色、黄色、オレンジ、緑とキラキラと淡い彩りを添えていた。
 道端では氷蓮華が、その青白く冷たい花を咲かせていて、ちょうど見頃のようだ。


 しばらく小道をたどって行くと、レイがぴくりと止まった。薄く展開していた探索魔術に、何かが引っかかったのだ。

「……何か異様に強い魔力が近づいて来てます」
「しーーっ! 静かに」

 カタリーナはレイの腕を引っ張って、大木の影に身を隠すと、息を潜めた。

 ズシン、ズシンと大きな何かが移動して来る足音が、遠くから響いて来た。

 大地を揺らして、大岩のように巨大なうさぎ型の魔物が、こちらにやって来た——ジャッカロープだ。

 額から生えた鹿角は、樹木のように育ち、りんっと鈴の音が鳴る小さな赤い実がなっていた。
 大理石のように真っ白い毛皮で、お尻から背中にかけては、長く生きすぎたためか深緑色に苔むしている。ちょっとした大岩のような姿だ。

 ジャッカロープがドシンと歩んだ跡からは、彼女の魔力にあてられた下草や小枝が、蛍のようにぼーっと魔力の光を放っていた。

 玉型の精霊たちも、好んで彼女の周りを飛んでいるようで、チカチカと光り輝いて、より神秘的な雰囲気に拍車をかけている。

「わぁ……神秘的ですね」
「うさぎ系の魔物で、ここまで力があるのは彼女ぐらいじゃないかな。何万年も生きてるって噂だよ」

 レイが小さく感嘆の声をあげると、ルーファスがその耳元で囁いた。

「わっ!? こっちを見ました!」

 ジャッカロープの大きく長い耳がピクリと動き、顔をこちらに向けてきた。その黒い瞳でレイたちを見つめてきたかと思うと、ポンッと弾けるような軽い音がした。


「みゅっ?」

 ふわふわの黒毛玉が、そこには落ちていた。
 子猫特有のぽわぽわな毛並みで、ちょこんと小さな三角耳が付いている。瞳の色は、愛らしいキトゥンブルーだ。
 その黒毛玉はちょこちょこと周りの様子を確かめるように歩いたかと思うと、ペタンと座り込んで、ルーファスを見上げた。

 ルーファスの目が、ゆるゆると大きく見開かれる。

「かっ……かわいい!!」

 ルーファスは、くらりとよろけた。


「ワフッ?」

 ダズがいた所には、見知らぬ大型犬がいた。

 スラリと細身の狩猟犬のようで、白地に赤褐色のブチがまだらに入った毛色だ。ウェーブがかった長毛が風にたなびく姿はとても優雅で、レイの元の世界でいうイングリッシュ・セターに似ている。
 大型犬が首を傾げると、垂れた耳がふるりと揺れた。

「……わんこ……」

 カタリーナが、いつにも増して瞳の中の星々を煌めかせた。

「随分かわいい姿になったな」

 クリフもくすりと微笑んだ。


「みゅみゅ!?」
「バフッ!?」

 二匹は驚いて飛び跳ねた。


***


「あっはっは! 何これ!? すっごく、かわいい!」

 カタリーナは半分笑い転げながら、二匹をなでなでしようと手を伸ばしている。

 二匹とも、人生初めての尻尾にびっくりして、「何コレ!?」とパニック状態だ。
 尻尾をよく見ようと追いかけるが、その場でくるくると回って、自分の尻尾を追いかけて遊んでいるようにしか見えない。


 二匹がぜいぜいと息を切らして、動きを止めると、ルーファスは手をかざして、何かを感じ取ろうとするかのように目を閉じた。

「う~ん、これは祝福だから、解呪というよりも、効果が切れるまで待つしかないかな……」

 ルーファスは、二匹にかざしていた手を引っ込めると、ふるふると首を横に振った。
 心なしか、その口角は少し嬉しそうに上がっている。

「みゅぅ……」
「クゥン……」

 子猫はペタンと座り込み、大型犬はしょんぼりと肩を落とした。

「人間は人型しかないだろ。たまには獣型もいいんじゃないか……何だよ?」

(ルーファスが(カタリーナが)、やけに嬉しそうなんだけど……))

 二匹は揃ってじと目で、クリフを見上げた。


「レイ、ずるいです。一人だけ猫になって……私も、何か動物になってみたかった……」
「みゅう!(それなら、代わって欲しいぐらいだよ!)」

 レヴィは、珍しく非常にガッカリした様子で、両手で子猫のレイを抱き上げた。
 その手の中で、レイは抗議するかのように、パタパタと小さな両手両足を動かした。

「ぐっ……かわいい……」

 ルーファスが、またもやくらりとよろめいた。

「レヴィ、ダメだよ。子猫には冬の外気は寒すぎる」

 ルーファスは、正気を取り戻すかのように軽く頭を振ると、レヴィから子猫を取り上げ、自身のコートのポケットにしまった。

「みゅー!?(もう、何てことするの!?)」

 レイがポフンと、ぽわぽわな頭をポケットの口から出すと、かわいさのあまり、ルーファスは悶絶して倒れ込みそうになった。

 レヴィがすかさず、ルーファスを支える。

「ルーファスもずるいです。私はご主人様をポケットに入れたことがないです」
「僕はそういうつもりで、レイをポケットに入れたんじゃないよ!」

 レヴィが羨ましそうにルーファスを見つめると、ルーファスはすかさず、抗議の声をあげた。何やらやましい気持ちがありそうだ。

「ダズは大きすぎだね。ポケットに入らない……残念……」

 カタリーナが非常に残念そうに、ダズを見つめた。

「バフッ!(俺はこのままでいい!)」

 ダズはピョンと跳ねると、カタリーナから距離をとった。何やら嫌な予感がしたのか、毛がふんわりと立ち上がっている。

「……はぁ、とにかく、ガレッソの村に急ごう……」

 唯一冷静なクリフは大きな溜め息を吐くと、頭痛がするかのように額を押さえて、小さく首を振った。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

処理中です...