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第一章 冒険者から神官へ
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「ノア。お前はもう用無しだ。ここでさよならだ」
グリーンフィスト一番の冒険者パーティー「アイアン・ケルベロス」のリーダー、アンガスがニヤリと嫌味ったらしく笑って言った。
アンガスは、宝箱から出てきた回復の魔道具を手に持って、プラプラと揺らして見せつけてきた。
俺から見たら、ずいぶんとちゃちなブレスレットだ。
「この前、空間収納付きのマジックバッグも新調したし、荷物持ちもいらないな」
魔術師のコーディも、冷たい視線で俺を見据えると、淡々と言い放った。
同時期にアイアン・ケルベロスに加入したから、ずっと仲がいいと思ってたんだが、俺だけだったのか?
「それに、ノアだけBランクでしょ。もういい加減私たちに付いてくるのはキツいんじゃない?」
槍使いのローラは腕を組んで、俺を毛虫でも見るかのように見つめると、上から目線で勝手に決め付けてきた。
確かに俺以外はAランク冒険者だが、一般的にBランク冒険者は一人前として見なされる。パーティーの構成メンバーのランクにばらつきがあるのは普通だ。
「……えっ、突然何だよ? それにここはダンジョンの十階層だぞ? 一人で帰れってことか?」
俺は焦った。
十階層より下はダンジョンの中層階に当たる。これまで以上に危険な罠や上位の魔物も出てくる──俺が斥候役もやってるのに、大丈夫なのか、こいつら?
「ガハハハッ!! なんだ、怖気付いたのかよ!? そうだ。付いて来るんじゃねぇぞ、足手まといだ!」
アンガスが急に大口を開けて笑い出した。
ローラもコーディも、まるで可哀想なものを見るかのように俺を見て、クスクスと笑っている。
「俺たちはもっと上を目指す! そこにお前はいない!! 魔道具で代替が利くような治癒魔術と空間収納しかない奴なんて、もう役立たずなんだよ!!」
アンガスはもう説明まで面倒くさくなったみたいで、ぞんざいにがなった。
そのままなぜか俺は腹を蹴られた。急な痛みと衝撃と共に、ググッと内臓が押され、息が苦しくなる。
「ぐはっ……」
俺が腹を押さえて治癒魔術をかけようとすると、急にガッと胸ぐらを掴まれて持ち上げられた。
アンガスの息がかかって臭い。
「ああ、そうだ。俺たちの荷物を全部返せ。金も全部だ」
「いや、待てよ! 金は俺の分もあるだろ?」
「はぁ? お前は、金がもらえるほど戦えんのかよ? 大した仕事もしてねぇくせに難癖つけんじゃねぇよ!」
「うわっ!」
そのままアンガスに地面に投げ飛ばされた。ガツンッと肩から地面にぶつかって、右上半身に鈍い痛みが広がる。
俺はぐぅ、と言葉を飲み込んだ。これは何を言っても聞かないやつだ。たとえ俺の言い分が正しくても、関係なく俺を責めてくる、いつものやつだ。アンガスが黒と言えば、白いものも黒く塗り潰されてしまう。
「ガハハッ! 何も言えねぇってことは、そういうことだ。テメェの金なんざ、今まで俺たちのお情けでもらえてたやつなんだよ! 分かったんなら、さっさと返せ、盗人!」
アンガスは倒れ込んでいる俺を、さらに蹴り付けてきた。
渋々俺が荷物と金を渡すと、最後に一発横顔にガツンッとくらった。キーンッと耳が鳴って、口の中に鉄の味がした。
「ねぇ。もう行きましょう。こんな所で時間を無駄にしたくないわ」
ローラがアンガスの腕に手を添えて、甘えるように囁いた。
「ガハハッ! そうだな。行くぞ!!」
アンガスは上機嫌に、ローラとコーディに声をかけた。
俺のことはもう視界にも入らないようで、さっさと次の階層へ向かって行く。
一人だけ、コーディが俺のことを目を眇めて見つめていた。
何だ? 少しはフォローでも……?
「……清々した……」
コーディはボソリと呟くと、アンガスとローラの後を追って行った。
こいつ、言うに事欠いて最後の言葉がそれかっ!?
俺はアンガスたちが見えなくなると、早々に自分の傷を治癒魔術で癒した。
右肩の痛みも、腹にできた痣も、口や耳の中の不調も、俺がひと撫でするとスッと嘘みたいに消えていく。
幸い、血は大して出ていなかった。血の匂いで魔物を引きつけるのだけはごめんだ。
今俺が持っているのは、万が一のためにポケットや靴の中に隠しておいた金と、アンガスたちでさえ持って行くことを拒否したボロボロの装備、腰に付けたポーチの中にある最低限の水と干し肉のみ。
普通、空間収納の中身じゃなくて、鞄の中身を奪うもんなんだけどな……
万が一をまさか同じパーティーメンバーを欺くために使うとはな。もう仲間じゃないけど。
俺は気配を潜めて、アンガスたちとは真逆の上層階を目指した。
***
俺はノア。
治癒師で荷物持ちの、もうソロの冒険者だ。
俺の一番古い記憶では、すでに孤児院にいた。両親の顔なんて知らん。
俺が育ったグリーンフィスト領は、穀倉地帯で、農業と酪農が盛んだ。
時期にもよるけど、孤児たちは農作業の手伝いをして、野菜や牛乳なんかを農家から恵んでもらっていた。
だけど俺は早く自立したかったから、小さい頃から冒険者ギルドに入り浸って、薬草摘みとか簡単な仕事を請け負って、小遣いを稼いでいた。
初めて受け取った報酬は、今となったらたったこれっぽっちの銅貨だったけど、手の上にずっしりと重みがあって、やけに胸にジーンときた記憶が今でもある。
十三歳になると同時に、正式に冒険者登録をした。
治癒魔術と空間魔術が使えたから、サポート役としてどこかのパーティーに入れないか探した。
ちょうどその時、アンガスとローラ二人だけのアイアン・ケルベロスを冒険者ギルドから紹介された。最近、グリーンフィストにやって来たCランク冒険者だって。
俺が小さい頃から真面目に仕事してきたのを、ギルドのマスターや職員たちはみんな知っていたから、太鼓判を押して、俺をアイアン・ケルベロスにどうか、って薦めてくれた。
四つ年上の剣士のアンガスと、一つ年上の槍使いのローラは、当時の俺から見てとっても大人に見えた。
「俺たちはラッキーだな。治癒師なんて冒険者には珍しいし、空間収納も使えるなんて、すげぇな! よろしくな!」
「よろしくね。かわいい治癒師さん」
アンガスとローラはニコニコと俺を受け入れてくれた。
俺が孤児だってことも、「冒険者にはよくあること」と全く気にしてなかった。
「よろしくお願いします!」
俺は初めてできた仲間に有頂天になっていた。
前衛二人にサポート役一人しかいなかったから、「後衛も必要だろう」って、すぐに俺より二つ年上で魔術師のコーディを紹介された。
「……よろしく……」
コーディは元々あまり喋らなかったが、俺と同じ魔力を扱う職業同士、魔術についてよく話し合った。魔術の話をする時だけは、コーディも饒舌だった。
扱える魔術は違えど、互いに切磋琢磨するライバルで仲間のような気がしていた……当時は。
そこからは俺たちの快進撃が始まった。
前衛二人は元々幼馴染で息が合っていたし、コーディも魔力量が多くて、魔術の操作能力も高かった。
俺は、仲間が傷付いたらすぐさま治癒魔術をかけた。
冒険者パーティーとして、バランスも良かったんだ。
農作物や家畜を狙う魔物なんて、どんどん蹴散らしていった。
リーダーがAランク冒険者になる頃には、アイアン・ケルベロスは、グリーンフィスト領一の冒険者パーティーとまで言われるようになっていた。
──だが、その頃にはいろいろな事が変わっていた。
俺はサポート役だということで、使える魔術である治癒や荷物持ちだけでなく、斥候、索敵、罠解除、タンク、野営準備から料理、果ては装備品の手入れや繕い物や洗濯などなど──ある意味、冒険者として必要なありとあらゆることをさせられた。もちろん、パーティーメンバー全員分だ。
結果、俺には「器用」というスキルが付いた──なんでだよ!?
空間収納に入りきらなかった物は、俺が背中に大きなリュックを背負って持って行くことになった。
結果として「怪力」というスキルまで俺には付いた──余計に他のメンバーの荷物を持たされただけだったが……
メンバーの中では最年少だし、元々サポート役だったから、みんなについていけるように、とにかく頑張った。
だけど、冒険者ランクが上がり、アイアン・ケルベロスの名声が高まっていくに従って、メンバーの俺への扱いはどんどん酷くなっていった。
「……まさか、パーティーから追い出されるとは思わなかったよ……」
それでも俺は必要とされてると思い込んでた。
だって、冒険の準備をして、荷物を持って行くのも俺。
野営の火起こしから料理、テント張りから後片付けまで俺。
ダンジョンに潜れば、マップを確認し、ルートを探し、罠が無いか、敵が近くにいないか安全確保するのも俺。
魔物が出たら、盾を持ってタンクを張って、魔物のヘイトを取るのも俺。
討伐した魔物を担いで、ギルドに運んで値段交渉するのも俺だ。
ついでに言うと、冒険で傷ついた装備の補修や手入れまで俺がやっていた。
──これからそれらをあのメンバーのうち誰がやるんだろうな? もう俺には関係ないが。
ダンジョンの十階層なんて危険な場所に、人を置き去りにするような血も涙も無い奴らのことなんて、もう思い出したくもない。
ダンジョンを抜け出すのには丸二日かかった。
地図は奴らに奪われていたが、いざという時のために、目印を各所に残してきたのが幸いした。
……本当に、あいつら俺を見殺しにする気満々だったんだな。三年も一緒に冒険したのに……
無理矢理やらされてきたことだったが、索敵ができて良かったと、この時ばかりは心から感謝した。
一人で勝てなそうな魔物は物陰に隠れてやりすごして、自分一人で勝てそうな魔物だけ倒した。それも食える奴だけだ──それで少しでも飢えを凌いだ。
外の明かりが見えた時は、涙が出そうなほど安心した。
だが、泣かなかった。
今の俺には涙でさえも水分は貴重で、もったいなかった。
そこからは、とにかく人里を、人が通るような道を目指した。
手持ちの水はもう無い。
あとはもう、小指の先ほどしかない干し肉があるだけだ。
もうほとんど意識が朦朧としてきていた。
本格的にヤバいやつだ。
いくら治癒魔術ができても、流石に腹は膨れないし、水分も補えない。
その時、ガラガラと、馬車が通るような音を俺の耳が拾った。
誰かがこの近くを通ろうとしている!!
意識が朦朧としていても、俺の生存本能は諦めていなかったようだ。
俺は力の限り走って、音のする方へ向かった。
途中で足がもつれる。
転けそうになる。
それでもとにかく前に進む。
置いていかれるな!
もしかしたら、助けてもらえるかもしれない!
山道に出そうになった瞬間、木の根に足を引っ掛けて、ドベシッ! とスライディングするように倒れ込んだ。
何日もダンジョンに潜っていたんだ。
今さらこれ以上汚れても、何とも思わない。
だが、これだけは言わねば!
「……助けて……」
悔しいぐらいに声が掠れて、ヒューヒューと乾いた風が喉を通る。
これじゃあ、気付かれないかもしれない。
俺はもうここでくたばるのか? そう絶望しかけた瞬間だった──
「だっ、大丈夫ですか!?」
慌てるような、少女の高くかわいらしい声がした。人に心配されるなんて、思い出せないぐらい久しぶりだ。
薄目を開ければ、目の前には、黒髪黒目のかわいらしい少女がいた。十代前半ぐらいの女の子だ。
「……み、ず……」
「水ですね!?」
少女が魔術で水を生成し、直接俺の口に流し込んだ。
やけに冷たくて気持ちがいい。
いくらでもゴクゴク飲めて、乾いた身体中に染み渡るようだ。
コーディでもこんなに美味い水は出せなかった。
「おや? 遭難者ですか? 仕方がないですね。拾っていきますか。我々は王都方面に向かっているのですが、よろしいですか?」
目が醒めるほどに美形の男が現れた。
少女と同じ黒髪で、色鮮やかな黄金色の瞳はキラリと光っているが、なぜだかゾクリと空恐ろしく感じた。
「……お願いします。ご迷惑をお掛けします……」
俺はどうにかこうにか返事をした。
──後から思い返すと、ここから俺の人生は大きく舵を切ることになった。
グリーンフィスト一番の冒険者パーティー「アイアン・ケルベロス」のリーダー、アンガスがニヤリと嫌味ったらしく笑って言った。
アンガスは、宝箱から出てきた回復の魔道具を手に持って、プラプラと揺らして見せつけてきた。
俺から見たら、ずいぶんとちゃちなブレスレットだ。
「この前、空間収納付きのマジックバッグも新調したし、荷物持ちもいらないな」
魔術師のコーディも、冷たい視線で俺を見据えると、淡々と言い放った。
同時期にアイアン・ケルベロスに加入したから、ずっと仲がいいと思ってたんだが、俺だけだったのか?
「それに、ノアだけBランクでしょ。もういい加減私たちに付いてくるのはキツいんじゃない?」
槍使いのローラは腕を組んで、俺を毛虫でも見るかのように見つめると、上から目線で勝手に決め付けてきた。
確かに俺以外はAランク冒険者だが、一般的にBランク冒険者は一人前として見なされる。パーティーの構成メンバーのランクにばらつきがあるのは普通だ。
「……えっ、突然何だよ? それにここはダンジョンの十階層だぞ? 一人で帰れってことか?」
俺は焦った。
十階層より下はダンジョンの中層階に当たる。これまで以上に危険な罠や上位の魔物も出てくる──俺が斥候役もやってるのに、大丈夫なのか、こいつら?
「ガハハハッ!! なんだ、怖気付いたのかよ!? そうだ。付いて来るんじゃねぇぞ、足手まといだ!」
アンガスが急に大口を開けて笑い出した。
ローラもコーディも、まるで可哀想なものを見るかのように俺を見て、クスクスと笑っている。
「俺たちはもっと上を目指す! そこにお前はいない!! 魔道具で代替が利くような治癒魔術と空間収納しかない奴なんて、もう役立たずなんだよ!!」
アンガスはもう説明まで面倒くさくなったみたいで、ぞんざいにがなった。
そのままなぜか俺は腹を蹴られた。急な痛みと衝撃と共に、ググッと内臓が押され、息が苦しくなる。
「ぐはっ……」
俺が腹を押さえて治癒魔術をかけようとすると、急にガッと胸ぐらを掴まれて持ち上げられた。
アンガスの息がかかって臭い。
「ああ、そうだ。俺たちの荷物を全部返せ。金も全部だ」
「いや、待てよ! 金は俺の分もあるだろ?」
「はぁ? お前は、金がもらえるほど戦えんのかよ? 大した仕事もしてねぇくせに難癖つけんじゃねぇよ!」
「うわっ!」
そのままアンガスに地面に投げ飛ばされた。ガツンッと肩から地面にぶつかって、右上半身に鈍い痛みが広がる。
俺はぐぅ、と言葉を飲み込んだ。これは何を言っても聞かないやつだ。たとえ俺の言い分が正しくても、関係なく俺を責めてくる、いつものやつだ。アンガスが黒と言えば、白いものも黒く塗り潰されてしまう。
「ガハハッ! 何も言えねぇってことは、そういうことだ。テメェの金なんざ、今まで俺たちのお情けでもらえてたやつなんだよ! 分かったんなら、さっさと返せ、盗人!」
アンガスは倒れ込んでいる俺を、さらに蹴り付けてきた。
渋々俺が荷物と金を渡すと、最後に一発横顔にガツンッとくらった。キーンッと耳が鳴って、口の中に鉄の味がした。
「ねぇ。もう行きましょう。こんな所で時間を無駄にしたくないわ」
ローラがアンガスの腕に手を添えて、甘えるように囁いた。
「ガハハッ! そうだな。行くぞ!!」
アンガスは上機嫌に、ローラとコーディに声をかけた。
俺のことはもう視界にも入らないようで、さっさと次の階層へ向かって行く。
一人だけ、コーディが俺のことを目を眇めて見つめていた。
何だ? 少しはフォローでも……?
「……清々した……」
コーディはボソリと呟くと、アンガスとローラの後を追って行った。
こいつ、言うに事欠いて最後の言葉がそれかっ!?
俺はアンガスたちが見えなくなると、早々に自分の傷を治癒魔術で癒した。
右肩の痛みも、腹にできた痣も、口や耳の中の不調も、俺がひと撫でするとスッと嘘みたいに消えていく。
幸い、血は大して出ていなかった。血の匂いで魔物を引きつけるのだけはごめんだ。
今俺が持っているのは、万が一のためにポケットや靴の中に隠しておいた金と、アンガスたちでさえ持って行くことを拒否したボロボロの装備、腰に付けたポーチの中にある最低限の水と干し肉のみ。
普通、空間収納の中身じゃなくて、鞄の中身を奪うもんなんだけどな……
万が一をまさか同じパーティーメンバーを欺くために使うとはな。もう仲間じゃないけど。
俺は気配を潜めて、アンガスたちとは真逆の上層階を目指した。
***
俺はノア。
治癒師で荷物持ちの、もうソロの冒険者だ。
俺の一番古い記憶では、すでに孤児院にいた。両親の顔なんて知らん。
俺が育ったグリーンフィスト領は、穀倉地帯で、農業と酪農が盛んだ。
時期にもよるけど、孤児たちは農作業の手伝いをして、野菜や牛乳なんかを農家から恵んでもらっていた。
だけど俺は早く自立したかったから、小さい頃から冒険者ギルドに入り浸って、薬草摘みとか簡単な仕事を請け負って、小遣いを稼いでいた。
初めて受け取った報酬は、今となったらたったこれっぽっちの銅貨だったけど、手の上にずっしりと重みがあって、やけに胸にジーンときた記憶が今でもある。
十三歳になると同時に、正式に冒険者登録をした。
治癒魔術と空間魔術が使えたから、サポート役としてどこかのパーティーに入れないか探した。
ちょうどその時、アンガスとローラ二人だけのアイアン・ケルベロスを冒険者ギルドから紹介された。最近、グリーンフィストにやって来たCランク冒険者だって。
俺が小さい頃から真面目に仕事してきたのを、ギルドのマスターや職員たちはみんな知っていたから、太鼓判を押して、俺をアイアン・ケルベロスにどうか、って薦めてくれた。
四つ年上の剣士のアンガスと、一つ年上の槍使いのローラは、当時の俺から見てとっても大人に見えた。
「俺たちはラッキーだな。治癒師なんて冒険者には珍しいし、空間収納も使えるなんて、すげぇな! よろしくな!」
「よろしくね。かわいい治癒師さん」
アンガスとローラはニコニコと俺を受け入れてくれた。
俺が孤児だってことも、「冒険者にはよくあること」と全く気にしてなかった。
「よろしくお願いします!」
俺は初めてできた仲間に有頂天になっていた。
前衛二人にサポート役一人しかいなかったから、「後衛も必要だろう」って、すぐに俺より二つ年上で魔術師のコーディを紹介された。
「……よろしく……」
コーディは元々あまり喋らなかったが、俺と同じ魔力を扱う職業同士、魔術についてよく話し合った。魔術の話をする時だけは、コーディも饒舌だった。
扱える魔術は違えど、互いに切磋琢磨するライバルで仲間のような気がしていた……当時は。
そこからは俺たちの快進撃が始まった。
前衛二人は元々幼馴染で息が合っていたし、コーディも魔力量が多くて、魔術の操作能力も高かった。
俺は、仲間が傷付いたらすぐさま治癒魔術をかけた。
冒険者パーティーとして、バランスも良かったんだ。
農作物や家畜を狙う魔物なんて、どんどん蹴散らしていった。
リーダーがAランク冒険者になる頃には、アイアン・ケルベロスは、グリーンフィスト領一の冒険者パーティーとまで言われるようになっていた。
──だが、その頃にはいろいろな事が変わっていた。
俺はサポート役だということで、使える魔術である治癒や荷物持ちだけでなく、斥候、索敵、罠解除、タンク、野営準備から料理、果ては装備品の手入れや繕い物や洗濯などなど──ある意味、冒険者として必要なありとあらゆることをさせられた。もちろん、パーティーメンバー全員分だ。
結果、俺には「器用」というスキルが付いた──なんでだよ!?
空間収納に入りきらなかった物は、俺が背中に大きなリュックを背負って持って行くことになった。
結果として「怪力」というスキルまで俺には付いた──余計に他のメンバーの荷物を持たされただけだったが……
メンバーの中では最年少だし、元々サポート役だったから、みんなについていけるように、とにかく頑張った。
だけど、冒険者ランクが上がり、アイアン・ケルベロスの名声が高まっていくに従って、メンバーの俺への扱いはどんどん酷くなっていった。
「……まさか、パーティーから追い出されるとは思わなかったよ……」
それでも俺は必要とされてると思い込んでた。
だって、冒険の準備をして、荷物を持って行くのも俺。
野営の火起こしから料理、テント張りから後片付けまで俺。
ダンジョンに潜れば、マップを確認し、ルートを探し、罠が無いか、敵が近くにいないか安全確保するのも俺。
魔物が出たら、盾を持ってタンクを張って、魔物のヘイトを取るのも俺。
討伐した魔物を担いで、ギルドに運んで値段交渉するのも俺だ。
ついでに言うと、冒険で傷ついた装備の補修や手入れまで俺がやっていた。
──これからそれらをあのメンバーのうち誰がやるんだろうな? もう俺には関係ないが。
ダンジョンの十階層なんて危険な場所に、人を置き去りにするような血も涙も無い奴らのことなんて、もう思い出したくもない。
ダンジョンを抜け出すのには丸二日かかった。
地図は奴らに奪われていたが、いざという時のために、目印を各所に残してきたのが幸いした。
……本当に、あいつら俺を見殺しにする気満々だったんだな。三年も一緒に冒険したのに……
無理矢理やらされてきたことだったが、索敵ができて良かったと、この時ばかりは心から感謝した。
一人で勝てなそうな魔物は物陰に隠れてやりすごして、自分一人で勝てそうな魔物だけ倒した。それも食える奴だけだ──それで少しでも飢えを凌いだ。
外の明かりが見えた時は、涙が出そうなほど安心した。
だが、泣かなかった。
今の俺には涙でさえも水分は貴重で、もったいなかった。
そこからは、とにかく人里を、人が通るような道を目指した。
手持ちの水はもう無い。
あとはもう、小指の先ほどしかない干し肉があるだけだ。
もうほとんど意識が朦朧としてきていた。
本格的にヤバいやつだ。
いくら治癒魔術ができても、流石に腹は膨れないし、水分も補えない。
その時、ガラガラと、馬車が通るような音を俺の耳が拾った。
誰かがこの近くを通ろうとしている!!
意識が朦朧としていても、俺の生存本能は諦めていなかったようだ。
俺は力の限り走って、音のする方へ向かった。
途中で足がもつれる。
転けそうになる。
それでもとにかく前に進む。
置いていかれるな!
もしかしたら、助けてもらえるかもしれない!
山道に出そうになった瞬間、木の根に足を引っ掛けて、ドベシッ! とスライディングするように倒れ込んだ。
何日もダンジョンに潜っていたんだ。
今さらこれ以上汚れても、何とも思わない。
だが、これだけは言わねば!
「……助けて……」
悔しいぐらいに声が掠れて、ヒューヒューと乾いた風が喉を通る。
これじゃあ、気付かれないかもしれない。
俺はもうここでくたばるのか? そう絶望しかけた瞬間だった──
「だっ、大丈夫ですか!?」
慌てるような、少女の高くかわいらしい声がした。人に心配されるなんて、思い出せないぐらい久しぶりだ。
薄目を開ければ、目の前には、黒髪黒目のかわいらしい少女がいた。十代前半ぐらいの女の子だ。
「……み、ず……」
「水ですね!?」
少女が魔術で水を生成し、直接俺の口に流し込んだ。
やけに冷たくて気持ちがいい。
いくらでもゴクゴク飲めて、乾いた身体中に染み渡るようだ。
コーディでもこんなに美味い水は出せなかった。
「おや? 遭難者ですか? 仕方がないですね。拾っていきますか。我々は王都方面に向かっているのですが、よろしいですか?」
目が醒めるほどに美形の男が現れた。
少女と同じ黒髪で、色鮮やかな黄金色の瞳はキラリと光っているが、なぜだかゾクリと空恐ろしく感じた。
「……お願いします。ご迷惑をお掛けします……」
俺はどうにかこうにか返事をした。
──後から思い返すと、ここから俺の人生は大きく舵を切ることになった。
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それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
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