猟犬リリィは帰れない ~異世界に転移したけどパワハラがしんどい~

陸路りん

文字の大きさ
53 / 92
6、聖人君子の顔をした大悪党

しおりを挟む
 その目でしっかりとその場にいる3人と一人一人順繰りに確認するように目を合わせると、最後に再び泣き崩れた一人と視線を合わせた。

「クーパーと言ったな、貴様、普段は畑仕事をしていて、その品を売りにここまで来たのか。そして、ここで買った品物をまた、村まで運ぶつもりだった……?」
「あ、ああ……」

 突然の闖入者の正体が掴めないのだろう、戸惑いながらもクーパーはなんとか頷いた。
 騒動を見ている者の中にはユーゴのことを知っている人間もいるようだが、彼は外から来たと言っていたから、ユーゴが次期領主候補だとは知らないのかも知れない。

「ここでは一体何を買ったんだ?」
「ちょ、調味料だ。うちの村は海にも塩湖にも面していないからそう言った類いが手に入りづらい。持ち帰ればいい金になる」

 そういってクーパーが指さした先には、木箱が積まれていた。
 視線でユーゴに促され、しぶしぶ莉々子は木箱に近づくと中身を改める。袋に詰められたそのざらざらとした白い物体を恐る恐る少しだけ指ですくって舐めると、確かにしょっぱい味がした。

「塩みたいです」
「そうか……、では、コーディー、貴様は何をしにその牛車でこの街へ訪れたのだ?」
「ちょっと、ちょっと、ユーゴ様! 困りますよ、いきなり何をなさっているんです!」

 しかしユーゴの尋問に応じたのはコーディーではなく、その前に進み出た制帽の男だった。

「この通り、書類があるのです。これは確かにコーディーと名乗る男がこの牛車でこの町へ入った明確な証拠。ほら、ここに書いてある牛車の特徴も一致しているでしょう」

 制帽の男の指摘に、しかしユーゴは冷たい一瞥をくれると、「貴様、誰に向かって口を聞いている」とばっさりと切り捨てた。

「は、」
「誰に許可を得て、誰に対してそのような口をきいていると問うている」

 ユーゴがステッキを地面に打ち付ける音が、強く周囲に響いた。
 ぎらり、とユーゴの金色の瞳が日の光を受けて輝きを放つ。
 その音の強さと、迫力に、ざわめいていた周囲は一瞬で静まり返り、制帽の男も思わずといったように数歩後じさった。

「わかれば、それでいい」

 そう一言だけ告げると、後はその制帽には構わず、ユーゴはコーディーへと向き直った。

「さっさと答えろ」
「お、おらは、おらも品物を売りにきて、買い付けたものを持って帰るところだったんだ! ほれ、見ろ! 中に入ってるだろ!!」

 怯えながらも、なんとかコーディーはユーゴの詰問へと応じる。
 示された牛車の中を、我に返った莉々子が慌てて駆け寄って確認する。
 ユーゴの迫力と威風は十分に体感しているつもりだったが、それでも威圧されると身体がすくんでしまうような迫力があった。
 他の者より醒めるのが早かったのは、ここ数ヶ月嫌というほど一緒に居たせいで多少の耐性がついていたせいだろう。
 果たして、牛車の荷を改めると、そこには色とりどりの野菜があった。

「お、おらの村は寒冷地で作物があんまり育たねぇんだ。だから放牧で稼いで、野菜を買い込んで帰る。見ろよ、そいつのは地べたに積んでるが、おらのはきちんと牛車に収まってるじゃねぇか! これも立派な証拠だろ!? なぁっ!?」

 わめく男には気も払わず、ユーゴは顎に手をあてて、「ふむ」と頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音(旧・神木 空)
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~

深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公 じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい …この世界でも生きていける術は用意している 責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう という訳で異世界暮らし始めちゃいます? ※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです ※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています

処理中です...