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6、聖人君子の顔をした大悪党

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「馬鹿言うでねぇっ! この盗人め!!」
「ふざけるな! 盗人はそっちだろうが!!」

 果たして連れて来られた市場では、確かに二人の男による言い争いが繰り広げられていた。
 一人は薄汚れた身なりをした壮年の男性で、訛りのある口調で強く相手を罵倒している。その罵声の相手は襟を正した商人風の男で、一方よりは若い男だった。
 二人は、一台の牛車を挟んで、睨み合っていた。

「まぁまぁ、落ち着いて」

 そう声をかけたのは、深い緑のおそらく制服とおぼしき襟のある整った服装をした男性で、その頭には服と同系統の制帽をきっちりとかぶっていた。

「今、事実確認のために正門から入領証明書を取り寄せています。それで事実がはっきりとするでしょう」

 丁度その言葉が言い終わった頃に、同じ深緑の制服を着た若い男が走りよってくると制帽の男に何事かを告げながら一枚の書類を渡した。軽く頷いてそれを男は受け取り、「事実確認が済みました」と厳かに告げた。

「どうやら、この牛車はコーディーさん、貴方の物のようですね」

 強く同意するような歓喜の声と、失望の悲鳴が同時に起こる。

「ほれみろ、言ったろ!!」
「そんな……っ」

 指さされたのは、訛りのある壮年の男性だった。

「そんなはずがない……っ! 確かに僕がこの牛車の持ち主なんだ! この牛車でこの町まで来たんだ…っ!!」

 商人風の男が喰ってかかる。
 しかし、制帽の男はそれに軽く笑って取り合わなかった。

「しかしねぇ、クーパーさん、こうしてここに、確かにこの牛車でこの町に入ったのはコーディーさんだと書かれているのですよ」

 ほら、と書類を広げて見せる。

(日本語だ……)

 図書館に入り浸って理解してはいたが、書籍以外でその文字を目にしたのは初めてだった。
 周囲にもわざと見せつけるように広げられたその紙には、確かにコーディーの文字が躍っているように、莉々子にも見えた。

「そんな……っ」

 クーパーと呼ばれた男が泣き崩れる。

「そんな、馬鹿なことがあるか……っ! 確かにそれは僕の物なんだ! 僕の牛なんだ!! そいつらがいなくなったら、これから僕は一体どうやって畑を耕して品物を売りに来れば良いんだ! どうやって買い込んだ品物を村まで運ぶというんだ……っ!!」
「へっ、まーだ演技しよるかこの悪党! 往生際が悪いわいっ」

 コーディーがそれを鼻で笑う。

「その話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか」

 しかし、その勝利宣言を最後まで聞かずに、口を挟む無粋者がいる。
 もちろん、ユーゴだ。
 マントを翻して颯爽と現れたその場違いな美少年の姿に、周囲はどよめきながらも道を開けた。
 それをさも当然かのように受け入れて、悠々とユーゴは歩みを進める。
 騒動の渦中のど真ん中までそのまま歩み出ると、彼らの目の前でとん、とステッキを一度ついて、わずかに首を傾げて見せた。
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