猟犬リリィは帰れない ~異世界に転移したけどパワハラがしんどい~

陸路りん

文字の大きさ
78 / 92
8、英雄を作るためのA toZ 

しおりを挟む
「死よ、来たれ!」
「まっ、まるいち……!」

 莉々子も負けじと自らの魔法を展開する。
 空気の塊がぶつかったことによりバランスを崩したドラゴンは、そのまま体勢を立て直せずにわずかに降下した。そこにユーゴの魔法が炸裂する。
 エラントドラゴンは貧血を起こしたかのように更に姿勢を崩すと、そのままふらふらと地上まで落下してしまった。

(効いてる)

 ぐっ、と手に汗を握り、莉々子は魔法の制御に集中する。
 ものすごい速度で、ユーゴがエラントドラゴンから生気を奪い取っているのが目に見えてわかった。
 ユーゴの転移魔法は本来そこまで処理速度の早いものではない。任意の相手から指定の物質を奪い取ることができるというかなり強力なものだが、その速度は非常に遅く、奪い取っている間も相手は動作可能なため、本来ならば接近戦での使用はあまり有効ではない。
 今回はその速度不足を莉々子の魔法で補うことにしたのだ。
 結果として、抵抗する間もなくエラントドラゴンは血液を奪い取られてすっかり脱水状態に陥っている。

(これ……、やばいよな)

 自分で提案しておきながら、その威力に莉々子はぞくりと肩を震わせた。
 今回は対象を一つに絞っているが、慣れてきたり工夫次第では多数の対象を相手に急速に脱水症状を起こさせたり、下手をすれば相手の臓器を奪うことすら理屈の上では可能である。

(それじゃあまるで大量虐殺兵器だ……)

 組み合わせたことによる効果がえぐすぎる。
 ちらり、と隣で魔法を使うユーゴの横顔を覗う。
 その顔は平素と変わらぬ泰然自若としたもので、そこにはなんの興奮も喜悦も見受けられない。そのことに安堵すると同時に、けれど何かしらの目的のために冷静に虐殺を行うかもしれない底知れなさを感じて莉々子は後悔にさいなまれた。

 与えるべきではない知識を教えてしまったのかも知れない。
 しかしもう、取り返しはつかない。
 やがてドラゴンの身体は完全に動かなくなった。横たわるエラントドラゴンの周りで傷ついたコモドラゴン達が呻いている。
 周囲から歓声が沸き起こる。
 わずか12人でエラントドラゴンと大量のコモドラゴンを倒すという偉業を成し遂げた彼らは口々に彼ら自身と、そしてユーゴのことを褒め称えた。
 わずかに疲弊の色を滲ませたユーゴは、それでも口元に不敵な笑みを浮かべ、拳を空高く突き上げる。
 赤獅子団も青鷲団も今だけはその境界を飛び越えて、一斉に拳を突き上げて答えて見せた。

(どうしよう……)

 光に包まれたその勝利の中、莉々子だけが寒さに取り残され一人立ち尽くしていた。


 
 数日後、この偉業は街の人々の口を伝い国中に広まり、ユーゴの元に薄紫色の上品な封筒が届いた。
 そこにはユーゴの功績をたたえる旨が記載され、この国の王の署名と捺印が刻印されていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る

ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。 異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。 一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。 娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。 そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。 異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。 娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。 そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。 3人と1匹の冒険が、今始まる。 ※小説家になろうでも投稿しています ※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!  よろしくお願いします!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

最強の異世界やりすぎ旅行記

萩場ぬし
ファンタジー
主人公こと小鳥遊 綾人(たかなし あやと)はある理由から毎日のように体を鍛えていた。 そんなある日、突然知らない真っ白な場所で目を覚ます。そこで綾人が目撃したものは幼い少年の容姿をした何か。そこで彼は告げられる。 「なんと! 君に異世界へ行く権利を与えようと思います!」 バトルあり!笑いあり!ハーレムもあり!? 最強が無双する異世界ファンタジー開幕!

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

処理中です...