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立国篇
第五十三話:終戦協議と未来への希望
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グリフォンの砦での歴史的な勝利から、数週間後。
シルベリア王国の王都では、ヴァルカス帝国との終戦協議の場が設けられていた。玉座の間に集うのは、シルベリア側のガウェイン騎士団長と、うなだれるように席に着く帝国の使者。徹底的に打ちのめされ、指揮系統も軍事力も瓦解した帝国に、交渉の余地はない。シルベリア側が提示する要求を、ただ飲むだけの、事実上の降伏勧告だった。
「賠償金の支払いは当然として、」
ガウェインは、冷徹な声で告げた。
「貴国がこれまで秘匿してきた、魔道具・魔導兵器の技術。その全てを、我がシルベリアに供与していただく」
さらに、彼は地図の一点を指し示す。
「諸悪の根源となった漆黒の鉱石。その鉱脈自体は貴国領内に留めることを許可するが、これまでの研究成果と、今後の採掘データは、その全てを我々と共有するものとする」
最後に、ガウェインは付け加えた。
「領土と領民の割譲は求めん。国王陛下の、最後の慈悲と思え」
帝国の使者が、か細い声で「…承知、いたしました」と答える。こうして、シルベリアの完全なる勝利をもって、戦争は終結した。
その報せは、すぐにクロスロード=アステリア連邦共和国にもたらされた。
シルベリア王国は、友好の証として、供与された魔導技術の全てを、同盟国である連邦と共有することを、公式に約束したのだ。
アステリアの集会所に集まった評議会のメンバーたちは、その信じがたい知らせに、ただ言葉を失っていた。
「魔力を…エネルギーとして、だと…?」
最初に沈黙を破ったのは、バルディンだった。彼は、その見事な髭をいじりながら、信じられないといった様子で呟く。
「馬鹿を言え。魔法というものは、その場で放ち、その場で消える、一瞬の火花のようなものだろうが。それを吸収し、蓄え、動力として使うだと? そんなお伽噺、聞いたこともないわい」
しかし、建築家のコンラッドの目は、少年のように輝いていた。
「待て、バルディン殿。もし、それが本当なら…! 分かるか!? これは、世界が変わるということだ!」
彼は、羊皮紙の上に、夢中でペンを走らせる。
「想像してみろ。魔力を水のように蓄え、それを動力源として、ゆっくりと、そして安定して供給できるとしたら…? 水車も、風車もいらん。人の力に頼らずとも、鉱山を掘り、木を切り、糸を紡ぐ機械が作れるかもしれんのだ!」
その言葉に、クララもまた、商人としての鋭い視点で、その価値を見抜いた。
「…ええ。それは、富の生まれ方が、根底から変わるということ。これまで職人が何日もかけて作っていたものが、一日で、それも大量に生産できる。我々連邦が、他のどの国よりも先に、新たな時代の覇権を握る好機…まさしく、“産業革命”の始まりね」
評議会のメンバーは、そのあまりにも壮大な未来像に、ゴクリと喉を鳴らした。
彼らの目の前には、輝かしい未来への扉が、大きく開かれようとしていた。
◇
春から初夏へと季節が移り変わる頃。ユリウスの一行は、旧ボーモン領の中心都市に到着した。
そこは、侯爵領の首府であったとは思えないほど活気を失い、人々の顔には先の見えない不安と疲弊の色が濃く浮かんでいた。ボーモン家の反乱、帝国との戦争、そして連邦への突然の割譲。度重なる混乱は、この地に住まう民の心を、深く蝕んでいた。
領主代行の館の前でユリウスを迎えたのは、この街の市長を務める、一人の老人だった。
「…ユリウス様。まさか、このような形でお戻りになられるとは…」
その声には、憐れみと、そしてどうすることもできない現状への嘆きが滲んでいた。
ユリウスは、その言葉を静かに受け止めると、集まった全ての民の顔を、一人、また一人と、その目に焼き付けるように見渡した。
そして、彼は、自らの言葉で、未来へのプランを語り始めた。
「皆に、まず謝らなければならない。父レジナルドの反逆行為、そして、それによって引き起こされた一連の混乱が、あなたたちをどれほど不安にさせたことか。その血を引く者として、心から詫びる。本当に、すまなかった」
彼は、深く、深く頭を下げた。貴族が、平民に頭を下げる。そのあり得ない光景に、領民たちの間に、どよめきが走る。
ユリウスは、顔を上げた。その瞳には、もはや貴公子としての甘さはない。ただ、この地の民と共に歩むという、固い決意の光だけが宿っていた。
「私は、過去を消すことはできない。だが、未来を創ることはできる。まず為すべきは、あなたたちの安心と、信頼を取り戻すことだ」
彼は、力強く宣言した。
「私は、この街を、そしてこの領地を、以前よりも豊かにすることを約束する。そのために、まずはグレイロック鉱山の改革に着手する。父は、ただ奴隷を酷使し、産出量を上げることしか考えていなかった。だが、これからは違う。労働環境を改善し、最新の技術を導入することで、そこに住まう全ての者の生活を豊かにし、真の生産性を向上させる」
その言葉に、領民たちはすぐには信じられないといった表情で、ざわめき続けた。
ユリウスは、続ける。
「時間はかかるだろう。だが、私は逃げない。この地に骨を埋める覚悟だ。だから、どうか、私を信じて、力を貸してほしい」
それは、命令ではなかった。
一人の指導者による、民への、魂からの願いだった。
市長は、その言葉を、ただ呆然と聞いていた。ボーモン家の人間が、民のために頭を下げ、民の生活を豊かにするなどと。先代、先々代から続く、搾取の歴史しか知らない彼にとって、それは信じがたい光景だった。
しかし、目の前の若者の瞳には、嘘も、欺瞞もなかった。ただ、この地を愛し、民を想う、誠実な光だけが宿っていた。
市長は、ゆっくりと、しかし深く、その場で頭を垂れた。
「…ユリウス様。そのお言葉、確かに、お聞き届けました」
ユリウスの、領主代行としての本当の戦いが、今、始まったのだった。
◇
一方、ルシアン、エリアナ、レン、そしてネロの一行は、リベラポリスへと続く街道を西へと進んでいた。
竜の力をその身に宿した彼らの旅路は、常識を遥かに逸脱していた。クロスロードからリベラポリスまでは、馬車を乗り継いでも通常は二週間を要する。しかし、彼らはその行程の三分の二を、わずか二日で踏破していた。
リベラポリスへと続く主要街道に合流し、一行が森の中の馬車道を進んでいた、その時だった。
ザザッ…
道の両脇に広がる深い茂みが、不自然に揺れた。ルシアンの肩の上で、ネロが低く喉を鳴らす。
(…いるな)
ルシアンは、既に気配を察知していた。その数、およそ二十。商隊を狙う、手慣れた賊だろう。
(あるいは…)
ルシアンの視線が、隣を歩くエリアナとレンへと、一瞬だけ鋭く注がれる。彼女たちのような美しい女性は、それだけで「商品」としての価値を持つ。下衆な考えが、彼の脳裏をよぎった。
すると、前方の道の真ん中に、ボロ布を被った老婆のような人影が、うずくまっているのが見えた。
罠であることは明白だった。しかし、ルシアンは足を止めず、仲間たちに目配せをすると、静かにそこへ向かって歩き始めた。
「大丈夫か、ばあさん」
ルシアンが、警戒を解かぬまま声をかける。
「ああ…旅の者かい…少し、足をくじいてしまってのう…」
老婆が、か細い声で答える。
ルシアンが、さらに一歩踏み出した、その瞬間だった。
ボロ布が、内側から弾けるようにめくれ上がり、中から屈強な男が、ナイフのように鋭く尖らせた毒針を手に、ルシアンへと襲いかかってきた!
しかし、男の刃がルシアンに届くことはなかった。
男が、ルシアンの喉元を貫いた、と確信した瞬間、そこにいたはずのルシアンの姿は、陽炎のように掻き消えていた。
「なっ…!?」
男が、何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くす。その背後から、静かな声がした。
「お前たちの相手は、俺じゃない」
振り返る間もなく、男の意識は闇に落ちた。ルシアンが、圧倒的な速度で背後に回り込み、その首筋に、寸分違わぬ手刀を叩き込んでいたのだ。
その一連の流れを、茂みに潜んでいた賊たちは、全く捉えきれていなかった。彼らは、リーダーが奇襲を仕掛けた、そのタイミングだけを頼りに、雄叫びを上げて一斉に飛び出してくる。
だが、彼らがそこで目にしたのは、既に地面に倒れ伏すリーダーの姿と、その前に立つ、三人の恐るべき存在だった。
エリアナとレンは、既にその両手に、膨大な魔力を解放していた。
「な、なんだありゃあ…!?」
「魔法…? 違う、あんなもの、魔法じゃねえ!」
「ひぃぃっ! 怪物だ!」
エリアナの手のひらの上には、全てを浄化するかのごとき純白の太陽が、静かに燃え盛っている。
レンの両の手には、空間を歪ませるほどの紫電の蛇が、とぐろを巻いていた。
それは、もはや魔法というよりも、神話の顕現。賊たちは、魂そのものが凍りつくような、絶対的なプレッシャーに、ただ立ち尽くすことしかできない。
次の瞬間、エリアナの太陽が、レンの雷霆が、賊たちのすぐ足元や頬を掠めるように、連続で放たれる。白炎が、賊の一人が持っていた剣を、触れることなく溶かし、紫電が、彼らが立っていた地面を、一瞬でガラス化させた。
賊たちは、もはや抵抗する気力もなく、その場にへたり込み、ただ震えることしかできなかった。戦意など、とうに砕け散っていた。
一通りの蹂躙が終わると、ルシアンは賊たちを簡易的に拘束し、リーダーの首に「街道の平和のために」と書かれたメッセージカードをかけると、その場を後にした。
彼らはまだ知らなかった。
この、彼らにとってはただの小競り合いに過ぎなかった出来事が、リベラポリスの商人たちを長年苦しめてきた、凶悪な盗賊団「鉄の牙」の、あまりにも呆気ない壊滅の瞬間であったということを。
シルベリア王国の王都では、ヴァルカス帝国との終戦協議の場が設けられていた。玉座の間に集うのは、シルベリア側のガウェイン騎士団長と、うなだれるように席に着く帝国の使者。徹底的に打ちのめされ、指揮系統も軍事力も瓦解した帝国に、交渉の余地はない。シルベリア側が提示する要求を、ただ飲むだけの、事実上の降伏勧告だった。
「賠償金の支払いは当然として、」
ガウェインは、冷徹な声で告げた。
「貴国がこれまで秘匿してきた、魔道具・魔導兵器の技術。その全てを、我がシルベリアに供与していただく」
さらに、彼は地図の一点を指し示す。
「諸悪の根源となった漆黒の鉱石。その鉱脈自体は貴国領内に留めることを許可するが、これまでの研究成果と、今後の採掘データは、その全てを我々と共有するものとする」
最後に、ガウェインは付け加えた。
「領土と領民の割譲は求めん。国王陛下の、最後の慈悲と思え」
帝国の使者が、か細い声で「…承知、いたしました」と答える。こうして、シルベリアの完全なる勝利をもって、戦争は終結した。
その報せは、すぐにクロスロード=アステリア連邦共和国にもたらされた。
シルベリア王国は、友好の証として、供与された魔導技術の全てを、同盟国である連邦と共有することを、公式に約束したのだ。
アステリアの集会所に集まった評議会のメンバーたちは、その信じがたい知らせに、ただ言葉を失っていた。
「魔力を…エネルギーとして、だと…?」
最初に沈黙を破ったのは、バルディンだった。彼は、その見事な髭をいじりながら、信じられないといった様子で呟く。
「馬鹿を言え。魔法というものは、その場で放ち、その場で消える、一瞬の火花のようなものだろうが。それを吸収し、蓄え、動力として使うだと? そんなお伽噺、聞いたこともないわい」
しかし、建築家のコンラッドの目は、少年のように輝いていた。
「待て、バルディン殿。もし、それが本当なら…! 分かるか!? これは、世界が変わるということだ!」
彼は、羊皮紙の上に、夢中でペンを走らせる。
「想像してみろ。魔力を水のように蓄え、それを動力源として、ゆっくりと、そして安定して供給できるとしたら…? 水車も、風車もいらん。人の力に頼らずとも、鉱山を掘り、木を切り、糸を紡ぐ機械が作れるかもしれんのだ!」
その言葉に、クララもまた、商人としての鋭い視点で、その価値を見抜いた。
「…ええ。それは、富の生まれ方が、根底から変わるということ。これまで職人が何日もかけて作っていたものが、一日で、それも大量に生産できる。我々連邦が、他のどの国よりも先に、新たな時代の覇権を握る好機…まさしく、“産業革命”の始まりね」
評議会のメンバーは、そのあまりにも壮大な未来像に、ゴクリと喉を鳴らした。
彼らの目の前には、輝かしい未来への扉が、大きく開かれようとしていた。
◇
春から初夏へと季節が移り変わる頃。ユリウスの一行は、旧ボーモン領の中心都市に到着した。
そこは、侯爵領の首府であったとは思えないほど活気を失い、人々の顔には先の見えない不安と疲弊の色が濃く浮かんでいた。ボーモン家の反乱、帝国との戦争、そして連邦への突然の割譲。度重なる混乱は、この地に住まう民の心を、深く蝕んでいた。
領主代行の館の前でユリウスを迎えたのは、この街の市長を務める、一人の老人だった。
「…ユリウス様。まさか、このような形でお戻りになられるとは…」
その声には、憐れみと、そしてどうすることもできない現状への嘆きが滲んでいた。
ユリウスは、その言葉を静かに受け止めると、集まった全ての民の顔を、一人、また一人と、その目に焼き付けるように見渡した。
そして、彼は、自らの言葉で、未来へのプランを語り始めた。
「皆に、まず謝らなければならない。父レジナルドの反逆行為、そして、それによって引き起こされた一連の混乱が、あなたたちをどれほど不安にさせたことか。その血を引く者として、心から詫びる。本当に、すまなかった」
彼は、深く、深く頭を下げた。貴族が、平民に頭を下げる。そのあり得ない光景に、領民たちの間に、どよめきが走る。
ユリウスは、顔を上げた。その瞳には、もはや貴公子としての甘さはない。ただ、この地の民と共に歩むという、固い決意の光だけが宿っていた。
「私は、過去を消すことはできない。だが、未来を創ることはできる。まず為すべきは、あなたたちの安心と、信頼を取り戻すことだ」
彼は、力強く宣言した。
「私は、この街を、そしてこの領地を、以前よりも豊かにすることを約束する。そのために、まずはグレイロック鉱山の改革に着手する。父は、ただ奴隷を酷使し、産出量を上げることしか考えていなかった。だが、これからは違う。労働環境を改善し、最新の技術を導入することで、そこに住まう全ての者の生活を豊かにし、真の生産性を向上させる」
その言葉に、領民たちはすぐには信じられないといった表情で、ざわめき続けた。
ユリウスは、続ける。
「時間はかかるだろう。だが、私は逃げない。この地に骨を埋める覚悟だ。だから、どうか、私を信じて、力を貸してほしい」
それは、命令ではなかった。
一人の指導者による、民への、魂からの願いだった。
市長は、その言葉を、ただ呆然と聞いていた。ボーモン家の人間が、民のために頭を下げ、民の生活を豊かにするなどと。先代、先々代から続く、搾取の歴史しか知らない彼にとって、それは信じがたい光景だった。
しかし、目の前の若者の瞳には、嘘も、欺瞞もなかった。ただ、この地を愛し、民を想う、誠実な光だけが宿っていた。
市長は、ゆっくりと、しかし深く、その場で頭を垂れた。
「…ユリウス様。そのお言葉、確かに、お聞き届けました」
ユリウスの、領主代行としての本当の戦いが、今、始まったのだった。
◇
一方、ルシアン、エリアナ、レン、そしてネロの一行は、リベラポリスへと続く街道を西へと進んでいた。
竜の力をその身に宿した彼らの旅路は、常識を遥かに逸脱していた。クロスロードからリベラポリスまでは、馬車を乗り継いでも通常は二週間を要する。しかし、彼らはその行程の三分の二を、わずか二日で踏破していた。
リベラポリスへと続く主要街道に合流し、一行が森の中の馬車道を進んでいた、その時だった。
ザザッ…
道の両脇に広がる深い茂みが、不自然に揺れた。ルシアンの肩の上で、ネロが低く喉を鳴らす。
(…いるな)
ルシアンは、既に気配を察知していた。その数、およそ二十。商隊を狙う、手慣れた賊だろう。
(あるいは…)
ルシアンの視線が、隣を歩くエリアナとレンへと、一瞬だけ鋭く注がれる。彼女たちのような美しい女性は、それだけで「商品」としての価値を持つ。下衆な考えが、彼の脳裏をよぎった。
すると、前方の道の真ん中に、ボロ布を被った老婆のような人影が、うずくまっているのが見えた。
罠であることは明白だった。しかし、ルシアンは足を止めず、仲間たちに目配せをすると、静かにそこへ向かって歩き始めた。
「大丈夫か、ばあさん」
ルシアンが、警戒を解かぬまま声をかける。
「ああ…旅の者かい…少し、足をくじいてしまってのう…」
老婆が、か細い声で答える。
ルシアンが、さらに一歩踏み出した、その瞬間だった。
ボロ布が、内側から弾けるようにめくれ上がり、中から屈強な男が、ナイフのように鋭く尖らせた毒針を手に、ルシアンへと襲いかかってきた!
しかし、男の刃がルシアンに届くことはなかった。
男が、ルシアンの喉元を貫いた、と確信した瞬間、そこにいたはずのルシアンの姿は、陽炎のように掻き消えていた。
「なっ…!?」
男が、何が起きたのか分からず、呆然と立ち尽くす。その背後から、静かな声がした。
「お前たちの相手は、俺じゃない」
振り返る間もなく、男の意識は闇に落ちた。ルシアンが、圧倒的な速度で背後に回り込み、その首筋に、寸分違わぬ手刀を叩き込んでいたのだ。
その一連の流れを、茂みに潜んでいた賊たちは、全く捉えきれていなかった。彼らは、リーダーが奇襲を仕掛けた、そのタイミングだけを頼りに、雄叫びを上げて一斉に飛び出してくる。
だが、彼らがそこで目にしたのは、既に地面に倒れ伏すリーダーの姿と、その前に立つ、三人の恐るべき存在だった。
エリアナとレンは、既にその両手に、膨大な魔力を解放していた。
「な、なんだありゃあ…!?」
「魔法…? 違う、あんなもの、魔法じゃねえ!」
「ひぃぃっ! 怪物だ!」
エリアナの手のひらの上には、全てを浄化するかのごとき純白の太陽が、静かに燃え盛っている。
レンの両の手には、空間を歪ませるほどの紫電の蛇が、とぐろを巻いていた。
それは、もはや魔法というよりも、神話の顕現。賊たちは、魂そのものが凍りつくような、絶対的なプレッシャーに、ただ立ち尽くすことしかできない。
次の瞬間、エリアナの太陽が、レンの雷霆が、賊たちのすぐ足元や頬を掠めるように、連続で放たれる。白炎が、賊の一人が持っていた剣を、触れることなく溶かし、紫電が、彼らが立っていた地面を、一瞬でガラス化させた。
賊たちは、もはや抵抗する気力もなく、その場にへたり込み、ただ震えることしかできなかった。戦意など、とうに砕け散っていた。
一通りの蹂躙が終わると、ルシアンは賊たちを簡易的に拘束し、リーダーの首に「街道の平和のために」と書かれたメッセージカードをかけると、その場を後にした。
彼らはまだ知らなかった。
この、彼らにとってはただの小競り合いに過ぎなかった出来事が、リベラポリスの商人たちを長年苦しめてきた、凶悪な盗賊団「鉄の牙」の、あまりにも呆気ない壊滅の瞬間であったということを。
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