22 / 25
家
しおりを挟む
これは思っていたより遥かに、私の死から時間が経っている。
実のところ、ある程度の月日が経っている事は始めからわかっていた。
あの光の大陸に、精霊がいたから。
私の生きていた時代の光の大陸には、精霊達は存在する事すら出来なかった。
魔封じの塔のせいだ。
あれのせいで彼らは力を削がれ、存在を保てなくなっていた。
そんな中でも生き残っていた力のある精霊達は皆狩られ、残らず魔石になったのだ。
精霊達にとっても最悪の印象しか無いはずのあの地に少なくない精霊が存在していた時点で少なくとも百年は経っている。それは、わかっていた。
だが、これは……。
建物を囲う塀に沿って歩く。
巡回でもしている兵士が何かに会えないだろうか。
兵士に話を聞けば何かわかるかもしれない。
そう思いながら歩いて行って、門まで行った時、漸く人を発見した。
門を通り過ぎて行く人々をくまなく監視しながら門番をする兵士達。
その中に一人、せわしなく体をゆすって落ち着きのない、せっかちそうな男がいた。
その男に近付いて話しかける。
「すみません」
男は突然話しかけて来た私を、爪先から頭の天辺までじっくりと観察してから、訝しげになんだ、と答えた。
警戒されているなぁ。
まあそれも仕方が無い。今の私はあの研究所の一室にあった適当な衣服を拝借しているのだが、爆発やらなにやらに巻き込まれたせいでボロボロだ。
傍目から見ればその辺の浮浪者にしか見えない。
「少し伺いたいのですが、あっいえ……そんな大層な質問ではなくてですねぇ、そのぉ、こちらの建物がかの有名な……」
「そうだ、ここが偉大なる英雄フェルガ・リーラス様の屋敷跡に建てられた資料館だ! もういいか、私は忙しい。貴様のようなものにかける時間など無いのだ!」
言いたいことを言うだけ言って男はその資料館らしい建物へ去っていった。男の怒鳴り声に、数人いた門番がこちらを見たが、すぐに興味なさそうに戻る。
扱いやすくて結構なことだが、門番としては失格だな。
自分で言うのもなんだが、私みたいなのは不審極まりないだろうに。
まあいいか。
資料館の方に意識を向ける。
魔法を使えば多少離れた距離であってもその詳細を知ることが出来る。
人々の会話の内容まで、詳細に。
声の調子や息遣い、身振り手振りからその人間の心理状態を読み取ることも容易い。
魔法と言うのは便利なものだ。
しかし私の家の跡地の博物館か、正直助かる。
わざわざここに建てられたということは私に関連する資料館だろう。
私が死んでからどのくらいたっているのかだけでもわかれば御の字だ。
運が良ければ弟子たちについても何かわかるかもしれない。
……今夜のおかず、花の話、恋人同士の甘いやり取り。
関係の無い話を聞き流し、必要な情報だけを選んで抜き取って行く。
「はっかの君かわいそう」
不意に響いた泣きそうな子供の声。
思ったよりずっと近く、はっとして意識を戻せばちょうど資料館から一組の親子が出てきたところだった。
どうやら今の言葉は両親の間で二人に手を引かれる子供が放ったものらしい。
子供の言葉に父親が答える。
「ああそうだな、可哀想だよな」
子供はそれに頷いてまた小さく呟いた。
「……うん」
それを聞いて母親は子供に言い聞かせるように言葉を重ねる。
「でもね、アイリェが泣いたら白花の君はきっともっと悲しくなっちゃうわ」
子供の手を引いて歩きながら母親が言う。その声は優しく子供を宥めているようだった。
けれどその言葉に子供の表情は晴れない。
それどころか今にも泣き出しそうに顔をゆがめている。
「でもっでも……もうたいせつな人にもあえないんでしょ? さみしいよぅ……」
えぐえぐと泣きながら訴える小さな体に寄り添って抱き寄せる母親の顔は慈愛に満ちていた。
「じゃあ白花の君が寂しく無い様に明日の聖花祭で献花台に大きなお花を届けに行きましょ?」
ね?とあやすように問いかける母親に子供は涙をぬぐいながら頷く。それをみて嬉しそうに微笑んだ後、三人は手をつないで帰っていった。
実のところ、ある程度の月日が経っている事は始めからわかっていた。
あの光の大陸に、精霊がいたから。
私の生きていた時代の光の大陸には、精霊達は存在する事すら出来なかった。
魔封じの塔のせいだ。
あれのせいで彼らは力を削がれ、存在を保てなくなっていた。
そんな中でも生き残っていた力のある精霊達は皆狩られ、残らず魔石になったのだ。
精霊達にとっても最悪の印象しか無いはずのあの地に少なくない精霊が存在していた時点で少なくとも百年は経っている。それは、わかっていた。
だが、これは……。
建物を囲う塀に沿って歩く。
巡回でもしている兵士が何かに会えないだろうか。
兵士に話を聞けば何かわかるかもしれない。
そう思いながら歩いて行って、門まで行った時、漸く人を発見した。
門を通り過ぎて行く人々をくまなく監視しながら門番をする兵士達。
その中に一人、せわしなく体をゆすって落ち着きのない、せっかちそうな男がいた。
その男に近付いて話しかける。
「すみません」
男は突然話しかけて来た私を、爪先から頭の天辺までじっくりと観察してから、訝しげになんだ、と答えた。
警戒されているなぁ。
まあそれも仕方が無い。今の私はあの研究所の一室にあった適当な衣服を拝借しているのだが、爆発やらなにやらに巻き込まれたせいでボロボロだ。
傍目から見ればその辺の浮浪者にしか見えない。
「少し伺いたいのですが、あっいえ……そんな大層な質問ではなくてですねぇ、そのぉ、こちらの建物がかの有名な……」
「そうだ、ここが偉大なる英雄フェルガ・リーラス様の屋敷跡に建てられた資料館だ! もういいか、私は忙しい。貴様のようなものにかける時間など無いのだ!」
言いたいことを言うだけ言って男はその資料館らしい建物へ去っていった。男の怒鳴り声に、数人いた門番がこちらを見たが、すぐに興味なさそうに戻る。
扱いやすくて結構なことだが、門番としては失格だな。
自分で言うのもなんだが、私みたいなのは不審極まりないだろうに。
まあいいか。
資料館の方に意識を向ける。
魔法を使えば多少離れた距離であってもその詳細を知ることが出来る。
人々の会話の内容まで、詳細に。
声の調子や息遣い、身振り手振りからその人間の心理状態を読み取ることも容易い。
魔法と言うのは便利なものだ。
しかし私の家の跡地の博物館か、正直助かる。
わざわざここに建てられたということは私に関連する資料館だろう。
私が死んでからどのくらいたっているのかだけでもわかれば御の字だ。
運が良ければ弟子たちについても何かわかるかもしれない。
……今夜のおかず、花の話、恋人同士の甘いやり取り。
関係の無い話を聞き流し、必要な情報だけを選んで抜き取って行く。
「はっかの君かわいそう」
不意に響いた泣きそうな子供の声。
思ったよりずっと近く、はっとして意識を戻せばちょうど資料館から一組の親子が出てきたところだった。
どうやら今の言葉は両親の間で二人に手を引かれる子供が放ったものらしい。
子供の言葉に父親が答える。
「ああそうだな、可哀想だよな」
子供はそれに頷いてまた小さく呟いた。
「……うん」
それを聞いて母親は子供に言い聞かせるように言葉を重ねる。
「でもね、アイリェが泣いたら白花の君はきっともっと悲しくなっちゃうわ」
子供の手を引いて歩きながら母親が言う。その声は優しく子供を宥めているようだった。
けれどその言葉に子供の表情は晴れない。
それどころか今にも泣き出しそうに顔をゆがめている。
「でもっでも……もうたいせつな人にもあえないんでしょ? さみしいよぅ……」
えぐえぐと泣きながら訴える小さな体に寄り添って抱き寄せる母親の顔は慈愛に満ちていた。
「じゃあ白花の君が寂しく無い様に明日の聖花祭で献花台に大きなお花を届けに行きましょ?」
ね?とあやすように問いかける母親に子供は涙をぬぐいながら頷く。それをみて嬉しそうに微笑んだ後、三人は手をつないで帰っていった。
0
あなたにおすすめの小説
クールな義兄の愛が重すぎる ~有能なおにいさまに次期当主の座を譲ったら、求婚されてしまいました~
槿 資紀
BL
イェント公爵令息のリエル・シャイデンは、生まれたときから虚弱体質を抱えていた。
公爵家の当主を継ぐ日まで生きていられるか分からないと、どの医師も口を揃えて言うほどだった。
そのため、リエルの代わりに当主を継ぐべく、分家筋から養子をとることになった。そうしてリエルの前に表れたのがアウレールだった。
アウレールはリエルに献身的に寄り添い、懸命の看病にあたった。
その甲斐あって、リエルは奇跡の回復を果たした。
そして、リエルは、誰よりも自分の生存を諦めなかった義兄の虜になった。
義兄は容姿も能力も完全無欠で、公爵家の次期当主として文句のつけようがない逸材だった。
そんな義兄に憧れ、その後を追って、難関の王立学院に合格を果たしたリエルだったが、入学直前のある日、現公爵の父に「跡継ぎをアウレールからお前に戻す」と告げられ――――。
完璧な義兄×虚弱受け すれ違いラブロマンス
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜
上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。
体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。
両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。
せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない?
しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……?
どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに?
偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも?
……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない??
―――
病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。
※別名義で連載していた作品になります。
(名義を統合しこちらに移動することになりました)
【Amazonベストセラー入りしました】僕の処刑はいつですか?欲しがり義弟に王位を追われ身代わりの花嫁になったら溺愛王が待っていました。
美咲アリス
BL
「国王陛下!僕は偽者の花嫁です!どうぞ、どうぞ僕を、処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(笑)」意地悪な義母の策略で義弟の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王子のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?(Amazonベストセラー入りしました。1位。1/24,2024)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる