白花の君

キイ子

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異名

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  優しい親子だったなと心が暖かくなりながらも考える。
白花の君。
おそらく私の事を言っているんだろう。
確かに生前で栽培に成功した新種の薬草は白い花だったし、偉人の死後敬意を表して異名を付けるのは珍しく無い。

 ただ少し引っかかるものがある。
私、フェルガ・リーラスには生きていた当時から既に異名があった。
これでも私は一人で一国を滅ぼす事が可能な者に送られる『マスター』の位を得ていた人間なのだ。
 さらに言えばその中でももっとも強い者に送られる『マスター・オブ・ウィザード』の位を。

 『虚栄の聖徒』
 それが私につけられた異名だった。正直あまり好意的なものでは無い。
私は民衆から好かれてはいなかった。
全てはこの私のマスターの継承がなされた一連の騒動からくる。

 私がマスターになったのはマスター・オブ・ウィザードになったのと同時、要は尋常ではない強さを持つと認められたと同時にそのマスターの位を持つ者たちの中で誰よりも強いと認められたわけだ。
当時私は12歳だった。最年少のマスターにして、マスター・オブ・ウィザード。
その頃の他のマスター達は私の事を非常に疎ましく思っていたようだった。
いやむしろ恐れられていたと言った方が正しいのかもしれない。
なにせ私の強さは本当に異常だった。化け物と言った方が正しいくらい。

 私が民衆に嫌われたのは何も私が強かったからではない。
それは私の前のマスター・オブ・ウィザード、弱者に対する絶対的な味方と言われたその人の死後、喪に服すことすら待たず、まるで待ってでもいたかのように私がその地位を継いだからである。
嫌われる理由としては少し弱いだろう。力を持つ者同士が競い合い弱みに付け込み合うことなど良くあることだ。
そう、なんてことは無い。
私がその人の弟子でさえなければ。

 私は結局、人の心の動きなど分からなかった。なにもわかってなどいなかった。
あの行動があそこまで人に忌まれるなど、一度生まれた勘違いを正すのがどれほど難しいかも。
誓って言う。私にそのような奸計は無かった。
御師さまの死を願ってなど居なかったし、御師さまを殺すための手回しなどしてはいなかった。
それでも、その噂は私が光の大陸へ渡る直前まで消えなかったし、おそらく私の死後も、短くは無い間消えなかっただろう。

 御師さまは、素晴らしい人だった。素晴らしい魔術師で、素晴らしい人格者で、ただ、ただそう、指導者としての才能は無かった。
ただそれだけの事だったのだ。
御師さまは多くの孤児を引き取り、そのすべてに自身の持つ才能を、魔術の扱い方を教えたが、それに見合う器を持たない者が巨大な力を手に入れてもそれを使いこなすことは出来ないのだと気づけなかった。
結果、同門の兄弟子姉弟子たちは一度目の大陸間の戦争にことごとく散っていき、最終的にその仇を取ると言って御師さまも戦場に立ち、あっけなく散った。

 どうすればよかったのだ。
残ったのは一門の中でも圧倒的な才能を持った十代中ごろの孤児が三人。14歳のカイの兄様と、12歳の私と、10歳のアイラ。
ましてや私とアイラは、妹弟子は光の大陸の者たちが血眼で探す古代種の血を継ぐもので、戦争の終結と引き換えに私たちの身柄を要求していた状況だった。
御師さまという後ろ盾を失った私が、私たちを守るために御師さまと同じ力を、権力を持つ。
考え方は間違っていなかっただろう。

 多分、方法や順番を間違えなければ私はすべてを手にできた。
家族も、力も、権力も、名声も。
大事なものも守り切れたはずだ。
何もかも間違え続け、説明も怠り、結果権力だけが手に残った。
一番持っている意味の無いものが。
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