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懼れ
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少し感傷的になってしまったな。
もう、仕方が無いだろう。今更何を思ったところでどうしようもない。
親子が消えていった方向へ進む。
街で適当な服とお金を手に入れてから、この資料館へはもう一度来よう。
私の死後の世界の移り変わりや、出来事をちゃんとこの目で確認したい。
さて、ところ変わって酒場である。
なんかもう、いろいろと変わりすぎである。
面影が無さ過ぎて頭が混乱中だ。町の名前すら変わってた。一体何年たってるんだこれ。
ちなみに無一文の私が堂々と酒場に居るのは、この地の領主がとてつもなく太っ腹だからだ。
なんでも私の命日である日を聖花祭とかいう一大イベントにしただけでなく、その前後一週間の飲食店の代金を全て無料にさせ、その分のかかった金額は領主が出しているのだとか。
なぜそこまでするのかという問いかけに領主は、『こうすればもっと民衆も偉大なる英霊に感謝をすると思ったから』と答えたらしい。
なんだそれ、私の狂信者か何かか?
いや、まあ……悪い気はしないが……。
そんなわけでタダ飯とタダ酒にありつけたわけだ。
がやがやとうるさい店の中で、一番人気だという酒を流し込む。
度数が高くて喉が焼けそうだ。酔いたい時にちょうどいい。
ふわふわと高揚する感覚を楽しみながら少しづつ、飲み込んでいく。
明日は、まずギルドに行こう。
冒険者ギルドには民衆や国からの依頼が持ち込まれる。荷運びと言った雑用から、ドラゴンの様な並みの冒険者には手も足も出ない討伐の依頼まで。
これも、私の生きていた頃と変わりなければの話だが。
登録すれば簡単な雑用くらいこなせるだろう、そうして金を手に入れて資料館へ行く。
……実をいうと、今日この街を回ってみて、嫌な可能性を考えた。
今この時が、実は私の死後四千年も五千年も経っている可能性を。
人の寿命が長くて百年、魔術師の寿命は平均で千年。力が強ければ強いほどそれは伸びるが、それでも三千年を超える者は珍しい。
魔術師なんかは、危険の多い職業でもあるから寿命でなくても死ぬときは死ぬ。私がそうだったように。
ライルは、生きているかもしれない。
ライルしか、生きていないかもしれない。特に、ダイアンは……。
あの子には、千年ですら生きていられるほどの魔力は……。
そんなことを考えて不安になっていた時だった。
コトリと、私の座るテーブルにグラスを置く音が聞こえた。
混雑している店の中だ、まあ相席も当然あるだろうと、相手の顔を見るため上げた視線に黒が映る。
真っ黒なローブを纏った男。
その瞳はどろりと濁ったような闇を思わせた。
うすら笑いを浮かべてこちらを見つめるよくよく知ったその男の目には、しかし以前のような輝きは無く、ただただ深い憎しみと絶望の色をしていた。
「……ラ」
「悪意の森へ」
名を呼ぼうとした私の言葉を遮るように、男は、ライルは呟いた。
激情を孕んだ声。強い怒りを押し殺した、その声。
私の首に伸びた手を見つめているその間に、一瞬の間に私たちはライルの言った悪意の森と呼ばれる場所へテレポートしていた。
徐々に込められていく力で首が締まる。
だがそんなことはどうでも良いと思えるほどに目の前の弟子のことが気がかりだった。
「……ラ、イル」
絞り出した声はかすれていたけれど、なんとか音になってくれたようだ。
抵抗する様子も見せずにただ名を呼んだ私に対して、ライルは少し考えるように目を伏せるとゆっくりその手から力を抜いていく。
急速に回り出した空気に驚くように咳込みながら、彼を見ればその瞳は私の髪と瞳をジッと見つめていた。
そうして瞼を閉じる。
間近で見る顔は最後に見た時よりもずっと大人びていた。髪も伸びて背も伸びている。
少年だった彼はすっかり一人の男になっていた。
もう、仕方が無いだろう。今更何を思ったところでどうしようもない。
親子が消えていった方向へ進む。
街で適当な服とお金を手に入れてから、この資料館へはもう一度来よう。
私の死後の世界の移り変わりや、出来事をちゃんとこの目で確認したい。
さて、ところ変わって酒場である。
なんかもう、いろいろと変わりすぎである。
面影が無さ過ぎて頭が混乱中だ。町の名前すら変わってた。一体何年たってるんだこれ。
ちなみに無一文の私が堂々と酒場に居るのは、この地の領主がとてつもなく太っ腹だからだ。
なんでも私の命日である日を聖花祭とかいう一大イベントにしただけでなく、その前後一週間の飲食店の代金を全て無料にさせ、その分のかかった金額は領主が出しているのだとか。
なぜそこまでするのかという問いかけに領主は、『こうすればもっと民衆も偉大なる英霊に感謝をすると思ったから』と答えたらしい。
なんだそれ、私の狂信者か何かか?
いや、まあ……悪い気はしないが……。
そんなわけでタダ飯とタダ酒にありつけたわけだ。
がやがやとうるさい店の中で、一番人気だという酒を流し込む。
度数が高くて喉が焼けそうだ。酔いたい時にちょうどいい。
ふわふわと高揚する感覚を楽しみながら少しづつ、飲み込んでいく。
明日は、まずギルドに行こう。
冒険者ギルドには民衆や国からの依頼が持ち込まれる。荷運びと言った雑用から、ドラゴンの様な並みの冒険者には手も足も出ない討伐の依頼まで。
これも、私の生きていた頃と変わりなければの話だが。
登録すれば簡単な雑用くらいこなせるだろう、そうして金を手に入れて資料館へ行く。
……実をいうと、今日この街を回ってみて、嫌な可能性を考えた。
今この時が、実は私の死後四千年も五千年も経っている可能性を。
人の寿命が長くて百年、魔術師の寿命は平均で千年。力が強ければ強いほどそれは伸びるが、それでも三千年を超える者は珍しい。
魔術師なんかは、危険の多い職業でもあるから寿命でなくても死ぬときは死ぬ。私がそうだったように。
ライルは、生きているかもしれない。
ライルしか、生きていないかもしれない。特に、ダイアンは……。
あの子には、千年ですら生きていられるほどの魔力は……。
そんなことを考えて不安になっていた時だった。
コトリと、私の座るテーブルにグラスを置く音が聞こえた。
混雑している店の中だ、まあ相席も当然あるだろうと、相手の顔を見るため上げた視線に黒が映る。
真っ黒なローブを纏った男。
その瞳はどろりと濁ったような闇を思わせた。
うすら笑いを浮かべてこちらを見つめるよくよく知ったその男の目には、しかし以前のような輝きは無く、ただただ深い憎しみと絶望の色をしていた。
「……ラ」
「悪意の森へ」
名を呼ぼうとした私の言葉を遮るように、男は、ライルは呟いた。
激情を孕んだ声。強い怒りを押し殺した、その声。
私の首に伸びた手を見つめているその間に、一瞬の間に私たちはライルの言った悪意の森と呼ばれる場所へテレポートしていた。
徐々に込められていく力で首が締まる。
だがそんなことはどうでも良いと思えるほどに目の前の弟子のことが気がかりだった。
「……ラ、イル」
絞り出した声はかすれていたけれど、なんとか音になってくれたようだ。
抵抗する様子も見せずにただ名を呼んだ私に対して、ライルは少し考えるように目を伏せるとゆっくりその手から力を抜いていく。
急速に回り出した空気に驚くように咳込みながら、彼を見ればその瞳は私の髪と瞳をジッと見つめていた。
そうして瞼を閉じる。
間近で見る顔は最後に見た時よりもずっと大人びていた。髪も伸びて背も伸びている。
少年だった彼はすっかり一人の男になっていた。
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