炎の魔女は妖精の瞳を持つ男爵に恋をする~愛の囁きは危険な恋の始まり?~

清里優月

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プロローグ~塔主と炎の魔女~

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 塔の主人である塔主の部屋に呼ばれた炎の魔女シエナの心の中は、冷めていた。質素が塔のモットーであるが、塔主の部屋はそれなりに上質な家具と暖かな色のカーテンが配置されていた。塔主はシエナを立たせたまま、自分はソファに座り話し始めた。



「炎の魔女シエナ、何年ぶりだ」

「さあ? 会うのは数十年ぶりかしら? あなたが私を見つけようとしなければ、まだ人間界で猫として楽しく過ごしていたのに」

 かつて友人であった頃は明るく闊達な女性であり、シエナもよりも自由奔放で共に悪戯を楽しんだものだ。数十年会わない間、冷たい空気を身に纏うようになったと寂しく感じて、シエナは嘆息した。彼女は塔主として雁字搦めになり、変わってしまったのであろうか。自分が塔にいたらと後悔する。塔に所属する魔女や魔法使いたちは塔の結界と魔法に保護されて、人間には見えない。だが、塔に所属しない野良の魔女や魔法使いは、人間たちに狩られていた。いわゆる『魔女狩り』である。



「お前はいつも人間界に潜んでいるな。人間を好きなのはどうかしている。我らの天敵の人間など」

 嫌味をちくりを言われて、むっとしたシエナはちらりと塔主を見た。

「そんなことを言うために私を探したの?」

 腕を組んで嫌味を返した。だが、塔主はシエナの嫌味をさらりと聞き流す。



「さて、お前に癒しの薬を作ってもらいたい。とある人間からの依頼だ」

 癒しの薬を作れるのは塔ではシエナともうひとりの魔女のみだ。シエナは不思議そうに小首を傾げた。

 

「癒しの薬などなくても、人を癒せる魔女がいるでしょうに。緑の魔女オリヴィアが」

「奴は消滅した」

「まさか!」

 塔主は冷然と言葉を紡いだ。緑の魔女オリヴィアは、シエナの親友でこの塔に属する魔法使いとして、共に生活していた。大地の精霊たちに愛されし魔女で四大魔女のひとりである。緑の魔法と癒し魔法を得意とした穏やかな気質の魔女であった。それが、数十年前に突然塔から失踪したのだ。



「そう人間に恋をして、人に自分を見えるようになる禁忌の魔法を使い、挙句消滅した」

「オリヴィア……」

 シエナは悲痛な顔をした。かつての親友の顔が脳裏に浮かぶ。

「人間に恋をする気持ちなどわからぬわ。わかりたくなどない。百五十年前、塔を作る原因となった奴らなど」

 塔主がどこかでオリヴィアの消滅を嘆き悲しんでいるように思えた。わかっているのにかつての旧友たちを追い求める自分が悲しい。



「オリヴィアは、人間が嫌いだったのに。それに、風の魔女エマ。あなたは塔の中でも人間が嫌いで有名だったわ。その人間と取引をしているの?」

 シエナが旧友の名前を言葉にした途端、塔主は悲鳴にも似た声を上げた。

 

「その名で呼ぶな! 今は塔主だ! 塔を守るためには仕方ない!」

「引き受けたくないわ。癒しの薬は必要な人間に届かなくて、金を持った腐った奴らに流れるでしょうに」

「そう言うと思ったさ。だが、塔の継続のためには仕方あるまい? シエナ、いつまでも、子どものままではいられないのだぞ」

 塔の継続のことを挙げられては、断れない。シエナは塔に恩義があった。

「わかったわよ」

 シエナは、渋々引き受けた。自分より塔で変わり者であった友人の変わりように切なく感じるが、シエナは現実を受け止めようとする。



「そう、それでいい。それでは塔の中にお前の部屋を準備させよう」

「……」

 シエナはかつての悪友であった塔主を凝視するが、その視線から逃れるように塔主はその場から魔法で消えた。親友の死と悪友の変化、それを受け止めきれない自分は幼いとため息を漏らす。



「オリヴィア……。あなたは一生分の恋をしたのかしら?」

 消滅した親友を思って、誰もいない空に呟いた。

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