炎の魔女は妖精の瞳を持つ男爵に恋をする~愛の囁きは危険な恋の始まり?~

清里優月

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18話 魔女らしくない彼女2

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 修道院からハリーとシエナの訪問を歓迎する旨の手紙が返ってきた。それから三日後、ハリーとシエナの二人はダドリー伯爵家の玄関ホールにいた。ハリーはよそいきのスーツにシエナもよそゆきの動きやすいドレスの上に、ジャケットに帽子と日傘を持っている。



「じゃあ、二人ともよろしくね」

 夫人の茶目っ気のある言葉に二人はこくんと頷いた。

「はい。叔母様」

「行ってくる」

 二人の返事にふふと夫人は微笑んだ。

 

「ニャン」

 シエナの肩でラブがゆらゆらと尻尾を揺らした。それは自分も忘れるなと言ってるようで夫人は苦笑した。

「あらあら。ラブもよろしくね」

「ニャン」

 分かっているかのように合いの手を入れてくるので、更に笑いを誘われる。



 馬車止めからダドリー伯爵家の家紋が入った箱馬車が走り出した。赤いベルベットの座り心地のいい座席が向かい合っている。窓から王都の風景が流れて行く。ハリーとシエナは座席に向かい合って座っていた。



「ラッセル男爵、ラブ。子どもが一杯いる所へ行くのよ! ワクワクするわ!」

 シエナは被っていた帽子を外して、座席に日傘と共に置いた。しかめっ面をする二人、ハリーとラブは何故そんな顔をしているのだろうと、シエナは不思議に思った。



「子どもは苦手だ……」

(子ども向けの小説を書いているのに、子どもが苦手なの?)

 シエナの思考は顔に出ていたらしく、ハリーは苦々しい顔で眼鏡の弦を戻した。

「子ども向けの小説は書いているが、子どもは苦手だ。あのうるさい生き物はどうやったら、静かになるのか教えて欲しい」

 うんざりした表情でハリーが唸る。



『私もよ。塔の見習い魔女たちに遊ばれたのを思い出すわ』

 地の底から這い出した悪魔を相手にしたかのようにラブが語りだす。

「まあ! 子どもは可愛い生き物よ! 悪魔とは違うわ!」

 シエナはむっとして、二人に異論を唱えた。だが、二人は同意してくれない。



『シエナは変わっているのよ。魔女なのに人間好きだし、誰かさんに一目惚れして押しかけるし。一般の魔女は、人間が嫌いだし、うるさい子どもも嫌っているわ。静寂と孤独を好む存在なのよ』

 ハリーはぽかんと口を開けてシエナを見る。何かを言いたいのであろうが、シエナは見て見ぬ振りをした。



「そうなのか?」

 ハリーの問いかけにラブが答える。

『そうよ。普通、魔女は偏屈な生き物なのよ。シエナが規格外なのよ。お人好しで泣き虫な魔女は、塔の中ではシエナだけよ。人間界で人間に捨てられて、死にかけた私を救って使い魔にしたり。そんなんだから昔っから損ばかりするのよ』

 ハリーは新緑の瞳でシエナを凝視してきた。意外そうなものを見る視線だ。



「失礼ね! ハリーは純粋でとても優しい人なのよ! それにラブは、私の良き相棒になってくれたし。それに子どもは純真無垢で可愛い存在よ!」

 シエナに良き相棒と言われて、ラブは照れくさそうに尻尾を振る。

『まったく、シエナは私が忠告してもいつも無視するんだから。いつかその人の好さで失敗するんだから』

 尻尾を振り振りぷいっとそっぽを向いた。シエナは知っている、ラブが尻尾を振るのは彼女の機嫌がいい時だけ、だ。



「ラブ、私は失敗してもいいわ。ハリーじゃなくて、ラッセル男爵を好きになったのだって、私が舞踏会で魔女や妖精を擁護してくる所に惚れ込んだのよ。それにこんな素敵な瞳を持つ男性、塔にはいないわ」

 シエナは馬車の中でラブ相手に、熱弁を振るう。

「……二人とも、私がいない所でやってくれないか」

 ハリーは俯いてぼぞぼそと呟いた。顔は真っ赤である。



「あ、ごめんなさい。ラッセル伯爵、ハリーって呼んで。それに私の片思いだから」

 シエナは、ハリーが何故顔を赤くしているのか、さっぱりわかっていなかった。

『ラッセル男爵、あなたも人がいいわね。シエナのことなど放っておきなさいな。だから、シエナに振り回されるのよ』

 シエナはラブの言葉の意味が理解できていない。

 

「ラブ! ひどいわ! どうして、そうやって私の恋路を邪魔するのよ!」

 シエナははっとした。ハリーがひどく困った顔をしていたからだ。そうこうしている内に馬車が修道院へ着いた。

「シエナ、ラブ。修道院へ着いた。馬車を降りよう」

 シエナとラブは、ハリーの台詞に頷き、喧嘩を止める。
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