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6話 心読みの魔法2

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「レヴィ様、何でここに?」
 今まで一度も自分に関心を持つことのなかったレヴィが自分の所へやってきたのにエリンは疑問に思い、尋ねる。
 
「ああ……。国から愛し子に与えられる魔法の杖を忘れていたからな。こんな大切なものを忘れるなんてどうかしている」
『そのお陰でエリンに会えた。本当に嬉しくて涙が出そうだ。ああ、俺の天使……』
 氷を連想させる表情の変わることのない顔に冷たい言葉。
 その言葉と相反した感情豊かな内面の感情にエリンは戸惑う。

(こ、言葉と内面の呟きが二重に聞こえる!)
 エリンはあわあわとして、レヴィの内面の呟きに赤面する。感情を感じさせない台詞と感情豊かで詩情溢れる単語の連なりの内面。勘弁してほしいと慌てているとぷつりと心の声が聞こえなくなった。

「?」
 茶色の前髪の下の青の大きな瞳をじいっと凝らしてレヴィの深紅の瞳を見つめる。さっきまでレヴィの心のポエムが聞こえたのに。今はちっとも聞こえない。もしかして、手を離したからだろうかとエリンはぎゅっとレヴィの大きな手を自ら握る。

「エリン?」
 大好きな少女から手を握ってきたのだ。レヴィはおおいに動揺するが、それを見せまいとする。手を握っても心の声は聞こえない。エリンは、すっとレヴィの手を離した。

「か、帰る」
 右と左の腕を同時に出している挙動不審な行動にレヴィの動揺っぷりが見えて、エリンは噴き出しそうだった。

 エリンは、爆発を起こした自室へと戻る。レヴィが蹴破った扉が無残にも真っぷたつになっていた。
 部屋の中は、煙の焦げた跡に部屋の中は臭気がこもっていた。これは当分の間、魔法院の空いている研究室を借りるかとエリンは嘆息する。窓を開けて部屋の換気をしようとした。その時、きらりと七色に発光する物をエリンは見た。

 心読みの魔法を生成する時に使用した大きな鍋の中が七色に発光している。それはイーサンに貰った賢者の石の色そのもの。
「もしかして……」
 鍋の底に残った七色に発光する水を魔法を使い、瓶に全て移動させた。
 
 透明な硝子の瓶の中でも水は七色にきらきらと光っていた。エリンは前髪を上げて、瓶の中をじっと凝視する。あの時、心読みの魔法を生成する呪文を一小節飛ばしてしまった。では何故自分は、レヴィの心を読めたのか。それが不思議でならない。あの時、エリンは爆発した煙を吸った。そのせいだろうか。

(この水を飲めばレヴィ様の心が読めるんだわ……。来週のお茶の時間に試してみよう)
 心読みの魔法の水が入った瓶をエリンはぎゅっと握りしめた。
 それにしてもとエリンは思い出して、笑いが止まらなくなった。
 
 レヴィのニコリともしない表情に、小説の一説のような詩情感溢れる心情。
 恥ずかしくて仕方なかったが、後で思うと笑いがこみ上げてくる。
 あの表情で良くもまあ、あんなことを考えられるものだ。
 来週、あのポエミーなきらきらする言葉が脳内で再現されるのだ、楽しみで仕方なかった。
 
 ぴったり一週間後のお茶の時間。
 白い花水木の花弁が散る。池に白い花弁が溜まり幻想的な光景となる。雪を思わせる花弁。先代のダグラス伯爵家の当主があまりに美しいので東の大陸から手に入れた樹木。ここでしか見られない夢幻の風景。

「花水木、綺麗ですね。白い花が雪みたいで」
「そうか? こんなものは時間の無駄だ」
『白い花がエリンみたいで綺麗だ。妖精のようで。エリンは、何でこんなに可愛いんだ』
 また言葉と心の声が二重に聞こえてくる。
「……」
 エリンは、楽しみに思っていたのに実際、ポエミーな誉め言葉を向けられるのが自分だと思うと羞恥心の方が胸に湧いてくる。頬は恥ずかしさから紅潮する。

 温かい紅茶を入れたティーカップを持つ手がかたかた揺れる。恥ずかしくて堪らない。自分を無関心そうに眺めているレヴィの深紅のふたつの瞳。その瞳は自分を熱心に見ているのだと思うとかあーっとなる。

 レヴィの思考が頭の中に流れ込んできて、恥ずかしくなる言葉の渦にエリンの頭はパンクした。
 そうしてエリンの頭の世界がぐるぐる回り、暗転する。
 結果、エリンは知恵熱が出て倒れ込んだのだ。
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