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7話 心読みの魔法3
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夢を見る。
エリンが幼い頃、母親が生きていたころの夢。
病気がちの母親はいつもベッドに臥せっていた。
幼いエリンは母親の周りで大人しく絵本を読んだり、誕生日に貰ったテディベアと遊んだりしていた。
エリンは大好きな母親の傍で遊ぶのが大好きだった。
「エリン、ごめんね。私の身体が弱いばかりに……」
母親は二言目にはその台詞を申し訳なさそうにエリンに向けて言う。
そして、エリンの茶色の髪を白魚のような手で撫でる。
「どうして? エリンはお母さまの傍でウーファと遊んでいるの。楽しいよ」
母親の手作りのテディベアのウーファをぎゅっと抱き締めて、エリンは笑う。
エリンがその言葉を口にすると、母親は綺麗な新緑の瞳を潤ませるのだ。
身体も心も弱い、茶色の長い髪に新緑の瞳の美しい女性だった。
その母親もエリンが五歳の頃、儚く亡くなった。
すぐに父親は母親の妹であるセレナと再婚する。
金色の髪に碧の瞳の美しい女性。
エリンの母親が優しくか弱い女性ならば、セレナは気の強い女性だった。
叔母として接してくれていた頃は優しかった。
「セレナ叔母様が義母様になって嬉しいです!」
実の母の形見のウーファを抱き締めて幼いエリンが愛らしく微笑む。
それをセレナは手で取り上げて、窓の外に捨てたのだ。
「今までと同じとは思わないで。姉様が亡くなった今、お前の母親代わりにはならないから」
美しい紅の唇を歪め、微笑むその顔は醜かった。
それからは酷いものだった。
自分の姉に似たエリンを連れ子のクロエと共に巧妙に苛めたのだ。
セレナと再婚をしても今まで通りエリンの待遇は変わらなかった。
だけど。
エリンの青の瞳の色彩を気持ち悪いと二人は陰口を叩いたのだ。
エリンはそのせいで前髪を長くして自分の瞳を隠すようになった。
また、外でエリンの悪い噂を流したのもセレナだった。
後に「外れのエリン」と呼ばれるようになったのもそのせいだ。
エリンの人見知りが激しくなり、人間嫌いになったのも。
水の魔法院に引き取られた今、誰もエリンに陰口を叩いたり、ひどい噂を流したりしない。
だけど。
幼い頃の傷は癒えなくて、エリンは魔法の研究に逃げ込んだ。
十八歳になった今も、人間関係から逃げ続けている自分。
エリンはそんな自分が嫌いだ。
エリンはふと目を覚ました。
自分の額に冷たいタオルがのせられていた。
青の瞳から涙が流れている。
「あれ? ここは……」
白い天井、壁には淡いピンクの壁紙。窓には夏用の薄手の淡いピンクのカーテン。ふかふかの寝心地のベッド。
少女が好む色合いと流行を取り入れた寝室。
「ダグラス邸の客室だ」
憮然とした低い声音。エリンには聞き慣れた婚約者レヴィの不機嫌な時の声だ。
エリンは顔を上げる。不機嫌そうな色彩に染まった深紅の瞳と出逢う。
「は? こんな可愛い女の子好みの部屋……。重厚なダグラス邸のタウンハウスに……」
「母上がお前のために作ったんだよ。かわいい娘が欲しかったと」
むすっとした顔で腕を組んでエリンの寝る客室の扉の真ん前に立っている。
今にも帰りたいと言わんばかりの体勢。
「あ、アリス様が……」
「そうだよ。俺よりもお前の方がかわいいんだと」
アリスは、レヴィの母親だ。レヴィの母親らしく美しく、若い頃は社交界の華と呼ばれていた。
エリンを娘同然に可愛がってくれている。
ダグラス邸へ行く前に飲んだ心読みの魔法薬の効果が切れて、レヴィの心は読めない。
(私、二度も倒れたの?)
エリンは驚く。自分は健康と魔法の腕だけが取り柄なのだ。それが二度も倒れるとは。
心読みの魔法薬の煙を吸い込んだり、飲んだりした時に倒れた。
薬の副作用かとエリンは思案する。
思い当たるのはそれだけ、だ。
「まあ、具合もよくなったみたいだな。俺は母上の手前、付き添っていただけだ」
レヴィはくるりと身を翻すと、ドアノブを回して客室から出ていく。
レヴィの氷のような対応にエリンの身も心も冷えそうだ。
さっきまで聞こえてきた温かな心の声が信じられない。
「……」
先ほどまで見ていた夢に感情が引きずられている。
一人になりたくなくて、大嫌いなレヴィに傍にいて欲しいと思うなんて。
自分はどうしたのだろうか。
あの心の声に惑わされてしまったのだろうか。
自分の中の感情が揺れていることにエリンはまだ気付いていなかった。
エリンが幼い頃、母親が生きていたころの夢。
病気がちの母親はいつもベッドに臥せっていた。
幼いエリンは母親の周りで大人しく絵本を読んだり、誕生日に貰ったテディベアと遊んだりしていた。
エリンは大好きな母親の傍で遊ぶのが大好きだった。
「エリン、ごめんね。私の身体が弱いばかりに……」
母親は二言目にはその台詞を申し訳なさそうにエリンに向けて言う。
そして、エリンの茶色の髪を白魚のような手で撫でる。
「どうして? エリンはお母さまの傍でウーファと遊んでいるの。楽しいよ」
母親の手作りのテディベアのウーファをぎゅっと抱き締めて、エリンは笑う。
エリンがその言葉を口にすると、母親は綺麗な新緑の瞳を潤ませるのだ。
身体も心も弱い、茶色の長い髪に新緑の瞳の美しい女性だった。
その母親もエリンが五歳の頃、儚く亡くなった。
すぐに父親は母親の妹であるセレナと再婚する。
金色の髪に碧の瞳の美しい女性。
エリンの母親が優しくか弱い女性ならば、セレナは気の強い女性だった。
叔母として接してくれていた頃は優しかった。
「セレナ叔母様が義母様になって嬉しいです!」
実の母の形見のウーファを抱き締めて幼いエリンが愛らしく微笑む。
それをセレナは手で取り上げて、窓の外に捨てたのだ。
「今までと同じとは思わないで。姉様が亡くなった今、お前の母親代わりにはならないから」
美しい紅の唇を歪め、微笑むその顔は醜かった。
それからは酷いものだった。
自分の姉に似たエリンを連れ子のクロエと共に巧妙に苛めたのだ。
セレナと再婚をしても今まで通りエリンの待遇は変わらなかった。
だけど。
エリンの青の瞳の色彩を気持ち悪いと二人は陰口を叩いたのだ。
エリンはそのせいで前髪を長くして自分の瞳を隠すようになった。
また、外でエリンの悪い噂を流したのもセレナだった。
後に「外れのエリン」と呼ばれるようになったのもそのせいだ。
エリンの人見知りが激しくなり、人間嫌いになったのも。
水の魔法院に引き取られた今、誰もエリンに陰口を叩いたり、ひどい噂を流したりしない。
だけど。
幼い頃の傷は癒えなくて、エリンは魔法の研究に逃げ込んだ。
十八歳になった今も、人間関係から逃げ続けている自分。
エリンはそんな自分が嫌いだ。
エリンはふと目を覚ました。
自分の額に冷たいタオルがのせられていた。
青の瞳から涙が流れている。
「あれ? ここは……」
白い天井、壁には淡いピンクの壁紙。窓には夏用の薄手の淡いピンクのカーテン。ふかふかの寝心地のベッド。
少女が好む色合いと流行を取り入れた寝室。
「ダグラス邸の客室だ」
憮然とした低い声音。エリンには聞き慣れた婚約者レヴィの不機嫌な時の声だ。
エリンは顔を上げる。不機嫌そうな色彩に染まった深紅の瞳と出逢う。
「は? こんな可愛い女の子好みの部屋……。重厚なダグラス邸のタウンハウスに……」
「母上がお前のために作ったんだよ。かわいい娘が欲しかったと」
むすっとした顔で腕を組んでエリンの寝る客室の扉の真ん前に立っている。
今にも帰りたいと言わんばかりの体勢。
「あ、アリス様が……」
「そうだよ。俺よりもお前の方がかわいいんだと」
アリスは、レヴィの母親だ。レヴィの母親らしく美しく、若い頃は社交界の華と呼ばれていた。
エリンを娘同然に可愛がってくれている。
ダグラス邸へ行く前に飲んだ心読みの魔法薬の効果が切れて、レヴィの心は読めない。
(私、二度も倒れたの?)
エリンは驚く。自分は健康と魔法の腕だけが取り柄なのだ。それが二度も倒れるとは。
心読みの魔法薬の煙を吸い込んだり、飲んだりした時に倒れた。
薬の副作用かとエリンは思案する。
思い当たるのはそれだけ、だ。
「まあ、具合もよくなったみたいだな。俺は母上の手前、付き添っていただけだ」
レヴィはくるりと身を翻すと、ドアノブを回して客室から出ていく。
レヴィの氷のような対応にエリンの身も心も冷えそうだ。
さっきまで聞こえてきた温かな心の声が信じられない。
「……」
先ほどまで見ていた夢に感情が引きずられている。
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自分はどうしたのだろうか。
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自分の中の感情が揺れていることにエリンはまだ気付いていなかった。
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