クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

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思惑

1

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コンコンとノックの音が聞こえた気がして自分が寝ていたことに気がついた。

部屋の壁に10年いた天使が、太腿の上から微笑みかけていた。

ベッドの柵にもたれ掛かるようにして床に座って天使を眺めていた昨夜、もう私の天使ではなくなるのだと、壁から額縁を外したシュゼインは天使の微笑みをしまうことがどうしても出来ず、絵を抱えて再び座り込んでいた。


「シュゼイン様?朝食の時間になりますが、お支度はどうされますか?」


返事がないことから起こすために部屋へ入ってきたであろう侍女が、思わぬところに座っているシュゼインに目を見開いた。
しかし教育が行き届いているからなのか、声に動揺の色はなく、優しく声をかけていた。

現実に引き戻されたようだった。
新しい1日が始まってしまった。天使を失う日は今日なのかもしれない。もう、2度と会えないのかもしれない。
しかしそれは自分が撒いた種。受け入れるしかなかった。


「あぁ、朝食は持ってきてもらえるかな。しばらく学園へも行かないから私がいる時は食事はこちらへ用意して欲しい」


謹慎を言い渡されたが、軟禁されているわけでもない。
ただ部屋から出る気になれなかった。
いつ話に行くのだろうか。いつクロッカとの縁が切れてしまうのだろうか。知らせが届くのはいつだろうか。
死刑宣告を待つように項垂れていた。


「かしこまりました」

それだけ言うと侍女はたった一歩踏み出した歩を戻してドアを引いた。


「黄色いチューリップとハルジオンを用意してくれないか」


ドアが動いたのを目で追いながら出てきたのは渡す機会があるのか分からない花の名前だった。


「……少しお時間をいただくかもしれませんが手配してみます」


声をかけた瞬間にピタリと止まったドアをもう一度開け、一瞬の沈黙の後侍女が答えた。
戸惑うのも無理はない。今考えればチューリップの時期ではないし、もしかしたら彼女も花の意味に気づいたのかもしれない。


一礼して今度こそ閉じた扉を確認して、天使を抱きしめた。
会いたいと、みじめにも願ってしまっている。


「なぜ…」


答えは自分で持っていた。
私が未熟だったからだ。自分が思っているよりもずっと私は愚かだったのだ。


それでも思う。何故と。
そんなことを思う資格すらないということは分かっているのにそれでも浮かんでくるのだ。


「なぜ…」
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