クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

文字の大きさ
35 / 130

3

しおりを挟む
2日後、シュゼインは朝早くから校庭のベンチに座っていた。
 

登校する全員が通る校舎の前で堂々と座るシュゼインはとても目立っていた。
ステファニーはその姿を見つけると、避けるように距離をとりながら校舎へと向かっていたが、シュゼインが目的の人物を見逃すはずもなかった。





「ワーデン卿…」



「おはようございます。アウストリア公爵令嬢。先日はルーカスのパーティでドレスを汚してしまい申し訳ありませんでした。私の家からドレスをお送りしたいと思いまして声をかけさせていただいたのですが、お時間をいただいても?」


目の前を塞がれるように立ったシュゼインに、居心地の悪そうな表情をしてステファニーも立ち止まった。
シュゼインは周りにも聞こえても構わないというようにはっきりとした声でステファニーに問い、有無を言わせず話し合いの場を作ることにした。




朝の時間は人がほとんど来ないが、どこからでも見える位置ということで、一番近くのサロンへステファニーを誘導した。


シュゼインの顔にはずっと笑窪が浮かんでいた。
今は笑っているのだとわざとらしく主張しているように思えたが、ステファニーにはその頬にできる影が怖かったことだろう。



「アウストリア公爵令嬢、先日のパーティでドレスを汚してしまい、更には介抱していただいたということでご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。今も少し目の奥の奥あたりが痛みますが、こうして登校できるまでに至りました。感謝いたします」


正直、彼女が何かしたという証拠はなく、また、目的も分からなかったことから、様子を見ることにしたのだが、彼女の目の前に立った時に確信した。
やはり彼女が全てを知っていると。


目の前の彼女は、あの時のように期待に満ちたような可憐な瞳はなく、目はどこを写していいのか分からないように右へ左へクルクルと動いている。
緩く巻いた髪を何度も触り、落ち着きがない。
座り方こそ美しいが、公爵令嬢然とした気品はすでになかった。


「ごめんなさい。でも…あの…あの……ごめんなさい」



彼女の髪を触る指が震えていた。
でも聞きたいことは何一つ言ってはくれなかった。
正直シュゼインはこれ以上待てないと思っていた。
昨日、一日中考えて考えて、ステファニーと2人で話すにもクロッカに了承を取るべきだと動いた。


クロッカに罪悪感でいっぱいで、ドレスを送ることを伝える為と手紙を書いても、嘘をついているようで苛々とした。
自分の落ち度だと思う。何が起こっても自分が迂闊だったせいだ。彼女を部屋から出すように、強く執事に伝えるべきだったし、こんなことになるなら倒れていた方がマシだった。そうすれば必ず複数人の目に触れていたはずだ。2人きりにさせられることはなかっただろう。
早く真相を知りたいと焦っていた。



「なぜ謝られるのです?もしかして、私の記憶がない間のことをご存知ですか?」



シュゼインの目は鋭くステファニーを捉えていた。
決して逃さないというように、怒りに満ちた目を隠しもせずステファニーにぶつけていた。



「いえ…私は何も…あの…何もなかったんです」



シュゼインは願っていた言葉だったにも関わらず、腑に落ちなかった。
既成事実として婚姻を望んでくる位しか思い浮かばなかったが、彼女にその様子はない。しかし、彼女の様子は何もなかったようには思えない。
公爵家のアウストリア家が縁談を無理矢理通そうとしてもメリットはない。
ではこれは何なのだと考えるのだ。
それを聞くためにここに連れてきた。



「私の服は乱れていたとのこと。私はあなたに何かをしたのではと心配したのですが、何もなかったのですね?」



シュゼインは我慢できないとばかりに結論を急かした。
何もないなら何もする気はないということだろう。
クロッカとの仲を引き裂く意図がないなら正直どうでもいいことだった。



「はい…あの日、何もなく私はすぐに帰りました。」



明らかに何かを隠しているのは伝わってくる。
しかし、何もなければ何の問題もなく、何もない方がこちらにとっても都合がいい。
赤る頬に少し潤んで伏せる目元。
悪意は感じられなかった。ただシュゼインに対して謝るようなことをした自覚はあるらしい。



「薬はどこで手に入れたものですか?」



シュゼインは結果何もないというのなら、目的は何だったのか知りたいと思い質問を変えた。

殺す気だったのか、既成事実を作るためだったのか、犯罪を押し付けようとしたのか。


目的によっては告発する用意もあった。相手が公爵家であるため罰することは出来なくても、伯爵家の名誉が汚されるようならば事実を明らかにしなければいけない。
ルーカスも証人としてたつことは約束してくれていた。



「あれは、数ヶ月前に惚れ薬だと出回って、友人から面白半分でもらったものでした。あんなふらふらで気を失うことになるとは思ってもいなかったんです」



それを聞いてシュゼインはホッとしていた。
彼女は既成事実というよりシュゼインに振り向いてもらいたかっただけだろう。
だったら未遂だったとしても納得がいく。
何もないと言った先ほどの彼女の言葉とも辻褄が合った。


「もう一度聞きますが、何もなかったということに間違いはありませんね?」



「…はい。」



彼女の返事を聞き、彼女の家に人気のアトリエを送ることにしてシュゼインは去った。

思い描いた中で一番のいい結末だった。
少し残る頭痛も消えていく気がしていた。




この時点でアルベルトに報告があれば、対処の幅は広かった。
シュゼインの判断の甘さがクロッカを傷付けることになってしまったのだ。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...