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女
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「もし…もしもですが、シュゼインを忘れられていないなら、ステファニーは幽閉して、シュゼインと一緒にいられる様にする用意もあります。伯爵家が孤立することは避けられないかもしれませんが、離縁させて正式に妻になりたいならそう言う選択もあります。本当は娘のステファニーの幽閉は最初に提案していたのです。シュゼインとクロッカの幸せをただ奪う事を私は良しとしたことは一度もありません」
イリアは一度大きく息を吸った。
クロッカの答えによっては自身は不要の産物と化す。
期待を込めてはいけないと、覚悟を決めて話し始めた。
「私はあなたの意思に従うことを約束します。きちんとそれらを伝えた上で聞きたかったのです。あなたが今好意を寄せているのはアルベルトですか?」
「はい。しかし、今のアルベルトとは本当に結婚するつもりはありません。彼に会うことなく修道院へ行くつもりなのです」
クロッカはもう警戒をする必要がなかった。イリアはアウストリア公爵夫人でありながら敵ではないと納得した。いや、ただ1人の味方が現れたのだとすら感じた。
エドレッドも、シュゼインも、アルベルトもクロッカの気持ちを確かめることをしなかった。自分の考えばかり押し付けることしかしないのに、クロッカの味方の様な顔をしていただけだ。
自分の不利益だとしても、クロッカの意思に従うと言ってくれたイリアの言葉が嬉しかった。
「それならば、クロッカに提案できる事がありますの。その提案に乗るか乗らないかは、あなたが決めればいいわ。自分の人生だもの自分の生きたい様に生きるべき。その選択肢の一つとして、修道院行きをやめることを考えて欲しいの」
イリアはシュゼインを選ばなかったことに少しホッとしていた。
客観的に見て、シュゼインを選ぶメリットが見出せなかったからだ。
大切な時に必要な決断を下せないものはきっとこの先も場に流されるだけ。長い人生を預けるには頼りない。
「修道院行きをやめる?」
「えぇ。アルベルトからは決して婚約破棄をしないわ。それを利用した方がいいと思うの。きっと彼にお灸を据えることにもなるわ。でもそれを考えるにも、自分の置かれている状況を正しく把握しておくべきよ。だからアルベルトともう一度会うことを勧めるの。それから…特進科への推薦は貰えているのかしら?」
クロッカはもう一度首を傾げる。
自分の置かれている状況は自分の考えているよりも悪いということなのかと考えれば恐ろしくさえ感じていた。
「えっ…はい。」
「そう、それは話が早いわ。修道院へ行かなくても官職への道があるじゃない。自分の幸せは自分で掴むものよ!アルベルトはあなたを官職の嫁にして才を潰すことを危惧していたのが気になっていたの。1人の女性として見れないのは、年齢的なものも勿論あるけれど、あなたを領主の嫁として見ていたことも影響していると思うの。どう?アルベルトの横に対等に立ちたいとは思わない?」
アルベルトと対等にという言葉に、義娘として扱われることに不満を感じていたクロッカは惹かれた。
しかし、宮廷での女性の官職とは王妃などに付く女官くらいしかない。
一度伯爵家と婚約破棄をし、その婚約破棄した父親で高位官職といえるアルベルトとの婚約があれば、王族の私室女官としては扱いにくい存在。
女官になることが許されても、派閥争いの中心にいるアルベルトとの婚約は、それこそ邪魔なものになるだろう。
「対等な立場に立つことが出来るのならばなりたいものです。しかし、それだけでアルベルトが私を愛せるとは思えません。それに、女官になるのはアルベルトとの婚約があっても、それを破棄したとしても立ち位置的に難しいことでしょう」
「クロッカ、あなたがアルベルトを振り向かせるのよ。ただ諦めてしまっては何も手に入らないの。でもそうね、この先アルベルトなんかよりいい人が現れるかもしれない。そうしたらその時、アルベルトへ婚約破棄を言い渡してやればいいわ。あなたは魅力的だもの。実力主義の宮廷内で、本当に優秀な男たちは2度の婚約破棄くらいであなたを見る目を変えないわ。あなたは女官ではなく、尚書官や儀典官など男性と同じ官職を目指すべきよ」
今、この国は復興の中程を漸く過ぎたところにいる。
景気は上がり、続く復興作業もあり人手不足となっていた。
それは宮廷でも同じこと。次男、三男も領地にいても仕事があるため官職を希望するものは少なくなっていた。
特進科も目に見えて人数は少なくなっている。
イリアはこれを女性の社会進出のきっかけとなるのではないかと考えていた。
本来、女性はもっと評価されるべきであると考えはじめて久しい。
社交性、教養、マナー、ダンス、さらには刺繍などの器用さも幼い頃から求められている。
マルチタスクをこなす能力を求められ、それに対して当たり前に答えてきたのだ。
実際、女の子を育てる方がお金がかかるというのは常識だった。
男性と同じだけ女性にも優秀なものはいる。
イリアは思っていた。ジャクリーンもアルベルトもシュゼインも愛すべきバカ達なのだと。
イリア・ロベール。彼女はこの国でただ1人、爵位も官職も関係なく、作家イリア・ローベルという地位を手に入れた女性だ。
クロッカが官職を望むのならば女性として立ち上がろうと1人決意していた。
イリアは一度大きく息を吸った。
クロッカの答えによっては自身は不要の産物と化す。
期待を込めてはいけないと、覚悟を決めて話し始めた。
「私はあなたの意思に従うことを約束します。きちんとそれらを伝えた上で聞きたかったのです。あなたが今好意を寄せているのはアルベルトですか?」
「はい。しかし、今のアルベルトとは本当に結婚するつもりはありません。彼に会うことなく修道院へ行くつもりなのです」
クロッカはもう警戒をする必要がなかった。イリアはアウストリア公爵夫人でありながら敵ではないと納得した。いや、ただ1人の味方が現れたのだとすら感じた。
エドレッドも、シュゼインも、アルベルトもクロッカの気持ちを確かめることをしなかった。自分の考えばかり押し付けることしかしないのに、クロッカの味方の様な顔をしていただけだ。
自分の不利益だとしても、クロッカの意思に従うと言ってくれたイリアの言葉が嬉しかった。
「それならば、クロッカに提案できる事がありますの。その提案に乗るか乗らないかは、あなたが決めればいいわ。自分の人生だもの自分の生きたい様に生きるべき。その選択肢の一つとして、修道院行きをやめることを考えて欲しいの」
イリアはシュゼインを選ばなかったことに少しホッとしていた。
客観的に見て、シュゼインを選ぶメリットが見出せなかったからだ。
大切な時に必要な決断を下せないものはきっとこの先も場に流されるだけ。長い人生を預けるには頼りない。
「修道院行きをやめる?」
「えぇ。アルベルトからは決して婚約破棄をしないわ。それを利用した方がいいと思うの。きっと彼にお灸を据えることにもなるわ。でもそれを考えるにも、自分の置かれている状況を正しく把握しておくべきよ。だからアルベルトともう一度会うことを勧めるの。それから…特進科への推薦は貰えているのかしら?」
クロッカはもう一度首を傾げる。
自分の置かれている状況は自分の考えているよりも悪いということなのかと考えれば恐ろしくさえ感じていた。
「えっ…はい。」
「そう、それは話が早いわ。修道院へ行かなくても官職への道があるじゃない。自分の幸せは自分で掴むものよ!アルベルトはあなたを官職の嫁にして才を潰すことを危惧していたのが気になっていたの。1人の女性として見れないのは、年齢的なものも勿論あるけれど、あなたを領主の嫁として見ていたことも影響していると思うの。どう?アルベルトの横に対等に立ちたいとは思わない?」
アルベルトと対等にという言葉に、義娘として扱われることに不満を感じていたクロッカは惹かれた。
しかし、宮廷での女性の官職とは王妃などに付く女官くらいしかない。
一度伯爵家と婚約破棄をし、その婚約破棄した父親で高位官職といえるアルベルトとの婚約があれば、王族の私室女官としては扱いにくい存在。
女官になることが許されても、派閥争いの中心にいるアルベルトとの婚約は、それこそ邪魔なものになるだろう。
「対等な立場に立つことが出来るのならばなりたいものです。しかし、それだけでアルベルトが私を愛せるとは思えません。それに、女官になるのはアルベルトとの婚約があっても、それを破棄したとしても立ち位置的に難しいことでしょう」
「クロッカ、あなたがアルベルトを振り向かせるのよ。ただ諦めてしまっては何も手に入らないの。でもそうね、この先アルベルトなんかよりいい人が現れるかもしれない。そうしたらその時、アルベルトへ婚約破棄を言い渡してやればいいわ。あなたは魅力的だもの。実力主義の宮廷内で、本当に優秀な男たちは2度の婚約破棄くらいであなたを見る目を変えないわ。あなたは女官ではなく、尚書官や儀典官など男性と同じ官職を目指すべきよ」
今、この国は復興の中程を漸く過ぎたところにいる。
景気は上がり、続く復興作業もあり人手不足となっていた。
それは宮廷でも同じこと。次男、三男も領地にいても仕事があるため官職を希望するものは少なくなっていた。
特進科も目に見えて人数は少なくなっている。
イリアはこれを女性の社会進出のきっかけとなるのではないかと考えていた。
本来、女性はもっと評価されるべきであると考えはじめて久しい。
社交性、教養、マナー、ダンス、さらには刺繍などの器用さも幼い頃から求められている。
マルチタスクをこなす能力を求められ、それに対して当たり前に答えてきたのだ。
実際、女の子を育てる方がお金がかかるというのは常識だった。
男性と同じだけ女性にも優秀なものはいる。
イリアは思っていた。ジャクリーンもアルベルトもシュゼインも愛すべきバカ達なのだと。
イリア・ロベール。彼女はこの国でただ1人、爵位も官職も関係なく、作家イリア・ローベルという地位を手に入れた女性だ。
クロッカが官職を望むのならば女性として立ち上がろうと1人決意していた。
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