クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

文字の大きさ
67 / 130

4

しおりを挟む
「話がついたのでしたら、そろそろ私もお話を聞きたいのですがよろしいですか?」



この場で涼しい顔をしているのはクロッカの方だった。
彼女はもう無駄にアルベルトに期待を寄せることもない。婚約破棄するもしないも自分が決められるのだ。何が起こってももう動じることはないだろう。



「あぁ、すまなかったね。君にまた会えて嬉しいよ」


憂いさえ感じるほど優しく微笑んだアルベルトもまた、爽やかさを盾にした強引さを見せることはなかった。
彼はこのまま自分の手元に置くこともやめるべきだと思いつつも、修道院へ行かせることも出来ないと葛藤している最中だった。どれだけ考えても答えは出せないでいた。



「そうですか。私は2年間伏せられたあなたの本当の考えを今更になって聞かなくてはいけなくなって憂鬱ですわ。2度と会うことはないと思っていましたのに」



クロッカは笑みを見せることもなく、淡々と口を動かしていた。
わざわざ自分を傷つける話を聞きに来たのだ。
絶対に泣いてやるものかと気合だけは入っていた。



「その話は誰から?」


「誰からもまだ聞いておりません。ただ、もう想像はついていますの。わざわざここまで来たんですもの、その想像を超えるお話が聞けたら嬉しいのですけど」


アルベルトは困った様に眉を下げていた。
彼はこんな顔も出来たんだなとクロッカはまじまじと観察していた。
きっと彼はいつもこんな風にどこか客観的にクロッカを見ていたのだろう。



「その期待を越えたくはないのだが…すまない。私はシュゼインが全てを捨てて君を選ぶと考えて、その間の時間稼ぎとして婚約をしていた。君には残酷なことをしてしまった」


「あらそう。聞くまでもない話だったわね」


アルベルトの言葉に被せる様に言い放つと、クロッカはもう一度レモン水を口に入れた。
あぁ本当に馬鹿げたことだという思いを一緒に飲み込んだ。



「ワーデン伯爵様、レモンの花言葉をご存知?」


「誠実な愛…かな?」


「えぇ。そうね。でももう一つありますのよ。思慮分別。あなたに送るのにぴったりの言葉だと思います」




ただの一度でもクロッカの視点に立てたのなら結果は違ったことだろう。
もっと早く気付いてくれていたら傷はもっと浅く済んだだろう。
2年だ。赤ん坊だって言葉を話し1人で歩けるだろう。
長すぎたのだ。クソ野郎だと汚い言葉が思い浮かぶのにどうしようも無くそのクソ野郎が好きだったのだと思い知らされる。



「あぁ…申し訳ない」


もうアルベルトは修道院へ行って欲しくないと伝えることも出来なかった。自分がその立場にないと正しく理解していた。



「私はもう、謝られることにも疲れているの。頭を下げたから、謝罪をしたから何になると言うのかしら。何も出来ないのなら何もしなければいいのに。これ以上ここにいても無駄ね。失礼するわ」



クロッカは決意していた。
自分の力で幸せを手に入れようと。
この頼りない男達の手がなくても幸せになれるのだと。
女は操り人形ではないと証明しようと。

女が見下されるこの世で、その1番の象徴である官職で女性は対等な立場なのだと証明してやろうと意気込んでいた。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

侯爵家に不要な者を追い出した後のこと

mios
恋愛
「さあ、侯爵家に関係のない方は出て行ってくださる?」 父の死後、すぐに私は後妻とその娘を追い出した。

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。

尾道小町
恋愛
登場人物紹介 ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢  17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。 ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。 シェーン・ロングベルク公爵 25歳 結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。 ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳 優秀でシェーンに、こき使われている。 コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳 ヴィヴィアンの幼馴染み。 アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳 シェーンの元婚約者。 ルーク・ダルシュール侯爵25歳 嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。 ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。 ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。 この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。 ジュリエット・スチール公爵令嬢18歳 ロミオ王太子殿下の婚約者。 ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳 私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。 一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。 正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

処理中です...