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王国
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クロッカが王国を旅立ち半年が経ち、イリアは竜巻のように一瞬で消え去ったクロッカの、恐ろしいほどの行動力に眩暈がしそうになりながらも、彼女が帰ってくるまでに下地を築いておかなければと行動していた。
怒りというのは途轍もないパワーなのだと身をもって知るいい機会だった。
クロッカの帝国への留学は流石に予想外のことで、当初表側をクロッカに任せて民意を誘導する形で扇動しようとしていたのだが、留学と聞いた時は舌打ちをしたくなったほどだった。
そこまでの苦労をクロッカにさせるつもりはイリアにはなかった。
「ハイランス伯爵令嬢が持っていたのはカリスマ性でしょう。心を掴む言葉を彼女は無意識に紡ぎ出せる。どこかで燻っていた私たち女性の気持ちを的確に言葉に出来る表現力がある。それでもこれだけの心を動かせたのは、カリスマ性としかいいようがありません。本能的に私たちは突き動かされたのです。持って生まれた才能の一つなのでしょう」
積極的に貴族向けの新聞、庶民向けの新聞の取材を受けていた。
月に一冊、女性が主人公の小説を出していたが、流石に身体がもたないと思うほど寝る間を惜しんでいた。
しかし、これは自らが提案した筋書き。
なんとしてもやり遂げなければいけなかった。
学生の彼女を、一時的な避難を目的といえど、追い出すようなことになってしまった。
大人達の思惑の上で本人の意図しない行動をさせてしまったことに益々罪悪感に蝕まれていた。
王妃の後押しにより改革派が躍進したことで、思わぬ副産物を手に入れることができた。
クロッカの的確な人選だったとしか言いようが無い。
イリアが革命とも言える主張をし始め、厳しいかと考えていたフランソワの結婚が、改革派の躍進により呆気なく決まった。
「ジャクリーン」
イリアはほんの少しの私物を持って、アウストリア家の本邸の執務室のドアを開ける。
執務室にはジャクリーンと家令がおり、それぞれが書類と睨めっこしていた。
「イリアか、その荷物は?」
ノックもせず部屋に入るイリアを視界に入れるとジャクリーンはごくりと息を呑んだ。
「こちらの書類にサインを。今度は私が、確実に陛下へ提出致します」
真っ赤なネイルを施した指に掴まれている紙には、イリアの名前が既に書き込まれていた。
離婚申請書にイリアが名前を書くのはこれで2度目。
3度目がないようにと、この場でジャクリーンに記名を求めていた。
「君はたった1人でこの革命を成し遂げる気なのか?それとも誰か支えてくれる人が既に?」
紙を受け取ったジャクリーンは力の入った指で掴み、紙の端にくしゃりと皺が寄った。
イリアの名前をなぞる様に目を動かしていた。
「私を支えるのがあなたではなかったことは残念ですわね」
「君を愛しているし、別れたとしても君を支えたいと思っている」
ジャクリーンは離婚を拒むことは出来ないと流石に分かっていた。
カリーナに対する思いとは確かに違う。だが、イリアを愛しているのは確かで、それでも亡きカリーナに執着している自分を止めることもできず、離婚を受け入れるしかないと答えを出した。
カリーナの息子を手に入れた代償の大きさを思い知っていた。
「何度も言いますが、愛されていないなんて思っておりませんわ。私は2人の娘も出来て幸せでした。それでも、カリーナに執着しシュゼインとハイランス伯爵令嬢を引き裂き、平然としていたあなたを許すことは出来ません。フランソワも結婚し、私たちの公爵としての役目はほとんど終わったことでしょう。私はこの先、ハイランス伯爵令嬢の望む未来を作ることに専念します。それが私にできる彼女への唯一の償いです」
「私が悪かった。君に言われなければハイランス令嬢の未来を奪ったという事実に気付けなかった。その償いを君にさせていることは本当に申し訳ない。公爵家として君の活動は全面的に支援する。離縁しても君の汚名には絶対にさせない」
月日が経てば少しは成長するものだが、意外にもジャクリーンにも伸び代はあったようだ。
何が悪いのかとでも言うような目をしていたジャクリーンを思い出すと可笑しくなってしまう。
「ふふっそうですわね。離縁くらいで私の汚名になるとは思えませんが、支援は受け入れましょう。私への愛が途絶えるまで、私財を投げ売って是非支援ください」
結婚してからもイリア・ロベールとして活動していて、公爵家のその領地に多くの利益をもたらしたイリアは夜会等の公爵夫人としての仕事をしなくても周囲に許されていた。
特殊な環境故に公爵夫人としての周りの認識が薄いため、離婚しても多少の支障が出るくらいだ。
実際、離婚を前提に別居していた時も非難の声は上がらなかった。
「そうだな。君はずっとイリア・ロベールだった。これから先もきっと誰のものにもならないイリア・ロベールでいるのだろう。私の私財が君の役に立つのなら喜んで差し出そうじゃないか」
彼はまだ真に理解していない。
イリアはもうずっとジャクリーンのものだった。
彼女の表面はイリア・ロベールでも、彼の妻イリア・アウストリアと名乗りたかった。
契約から始まったこの結婚が、ジャクリーンのカリーナへの執着が、イリア・アウストリアでいさせてはくれなかったのだ。
怒りというのは途轍もないパワーなのだと身をもって知るいい機会だった。
クロッカの帝国への留学は流石に予想外のことで、当初表側をクロッカに任せて民意を誘導する形で扇動しようとしていたのだが、留学と聞いた時は舌打ちをしたくなったほどだった。
そこまでの苦労をクロッカにさせるつもりはイリアにはなかった。
「ハイランス伯爵令嬢が持っていたのはカリスマ性でしょう。心を掴む言葉を彼女は無意識に紡ぎ出せる。どこかで燻っていた私たち女性の気持ちを的確に言葉に出来る表現力がある。それでもこれだけの心を動かせたのは、カリスマ性としかいいようがありません。本能的に私たちは突き動かされたのです。持って生まれた才能の一つなのでしょう」
積極的に貴族向けの新聞、庶民向けの新聞の取材を受けていた。
月に一冊、女性が主人公の小説を出していたが、流石に身体がもたないと思うほど寝る間を惜しんでいた。
しかし、これは自らが提案した筋書き。
なんとしてもやり遂げなければいけなかった。
学生の彼女を、一時的な避難を目的といえど、追い出すようなことになってしまった。
大人達の思惑の上で本人の意図しない行動をさせてしまったことに益々罪悪感に蝕まれていた。
王妃の後押しにより改革派が躍進したことで、思わぬ副産物を手に入れることができた。
クロッカの的確な人選だったとしか言いようが無い。
イリアが革命とも言える主張をし始め、厳しいかと考えていたフランソワの結婚が、改革派の躍進により呆気なく決まった。
「ジャクリーン」
イリアはほんの少しの私物を持って、アウストリア家の本邸の執務室のドアを開ける。
執務室にはジャクリーンと家令がおり、それぞれが書類と睨めっこしていた。
「イリアか、その荷物は?」
ノックもせず部屋に入るイリアを視界に入れるとジャクリーンはごくりと息を呑んだ。
「こちらの書類にサインを。今度は私が、確実に陛下へ提出致します」
真っ赤なネイルを施した指に掴まれている紙には、イリアの名前が既に書き込まれていた。
離婚申請書にイリアが名前を書くのはこれで2度目。
3度目がないようにと、この場でジャクリーンに記名を求めていた。
「君はたった1人でこの革命を成し遂げる気なのか?それとも誰か支えてくれる人が既に?」
紙を受け取ったジャクリーンは力の入った指で掴み、紙の端にくしゃりと皺が寄った。
イリアの名前をなぞる様に目を動かしていた。
「私を支えるのがあなたではなかったことは残念ですわね」
「君を愛しているし、別れたとしても君を支えたいと思っている」
ジャクリーンは離婚を拒むことは出来ないと流石に分かっていた。
カリーナに対する思いとは確かに違う。だが、イリアを愛しているのは確かで、それでも亡きカリーナに執着している自分を止めることもできず、離婚を受け入れるしかないと答えを出した。
カリーナの息子を手に入れた代償の大きさを思い知っていた。
「何度も言いますが、愛されていないなんて思っておりませんわ。私は2人の娘も出来て幸せでした。それでも、カリーナに執着しシュゼインとハイランス伯爵令嬢を引き裂き、平然としていたあなたを許すことは出来ません。フランソワも結婚し、私たちの公爵としての役目はほとんど終わったことでしょう。私はこの先、ハイランス伯爵令嬢の望む未来を作ることに専念します。それが私にできる彼女への唯一の償いです」
「私が悪かった。君に言われなければハイランス令嬢の未来を奪ったという事実に気付けなかった。その償いを君にさせていることは本当に申し訳ない。公爵家として君の活動は全面的に支援する。離縁しても君の汚名には絶対にさせない」
月日が経てば少しは成長するものだが、意外にもジャクリーンにも伸び代はあったようだ。
何が悪いのかとでも言うような目をしていたジャクリーンを思い出すと可笑しくなってしまう。
「ふふっそうですわね。離縁くらいで私の汚名になるとは思えませんが、支援は受け入れましょう。私への愛が途絶えるまで、私財を投げ売って是非支援ください」
結婚してからもイリア・ロベールとして活動していて、公爵家のその領地に多くの利益をもたらしたイリアは夜会等の公爵夫人としての仕事をしなくても周囲に許されていた。
特殊な環境故に公爵夫人としての周りの認識が薄いため、離婚しても多少の支障が出るくらいだ。
実際、離婚を前提に別居していた時も非難の声は上がらなかった。
「そうだな。君はずっとイリア・ロベールだった。これから先もきっと誰のものにもならないイリア・ロベールでいるのだろう。私の私財が君の役に立つのなら喜んで差し出そうじゃないか」
彼はまだ真に理解していない。
イリアはもうずっとジャクリーンのものだった。
彼女の表面はイリア・ロベールでも、彼の妻イリア・アウストリアと名乗りたかった。
契約から始まったこの結婚が、ジャクリーンのカリーナへの執着が、イリア・アウストリアでいさせてはくれなかったのだ。
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