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オルボアール
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繁華街に出る頃には、忙しく人が行き交っており、皇帝の滞在により溢れる程の人が既に一日を始めていた。
皇帝陛下の生誕祭までの派手な飾り付けを外し、後片付けに追われており、慌ただしい雰囲気で昨日までの高揚とした住民達とは別人のようにあちこちで怒号が聞こえている。
「キャサリン大丈夫かな?」
視界に入った紙面には、昨日の生誕祭が一面に踊り、ストラウス公爵殿下と公爵夫人妃の衣装合わせがなされていなかった事も当然のように大きく記載されているようだった。
「今日はまだ皇帝陛下の話ばかりだろうし、すぐに話題に登ることは少ないのではないかしら?」
不仲説が話題になるとしたら、日常生活に戻った後だろう。
その頃にはキャサリンはこの街を出る。
と言っても、遅れて少しずつ帝国内に広がるはずだ。
噂を物色する策をこれから考えていくのだろう。
「クロッカの事も載っているんじゃないの?」
「小さくなら載っているかもしれないけど、それなら留学に行くアガトン殿下のことも載っているんじゃない?後でお店で買おうかしら」
「新聞が置いてある店なの?」
新聞は基本的に朝一番に市中でばら撒くように売られ、その後は商店の片隅に置かれることが多い。
飲食店には置いてないのが一般的だった。
「初めて行くお店だけど、きっとあると思うの」
「へぇ。変わった店なんだね。何か行きたい理由があったの?」
「えぇ。でもそれは内緒。王国まで持ち帰る秘密なの。あ、あのお店の裏手よ!」
急かすように護衛を引き連れて店の前まで来たが、いつもの配備では店に迷惑がかかる。
「護衛は最低限だけ入店にしてください。ここは配慮がいるお店です。ハントス、貴方だけ私と入店して下さい」
クロッカは4人いる護衛のうち、王国側から付けられている護衛を選び、後の3人は外で待たせることにした。
暫くは街が騒がしいとのことで増員された護衛ではなく、信頼のおける1番の年長者を選んだのは、店の雰囲気を壊さないためでもあった。
「じゃあこちらも2人残してあとは外で警備を」
先に護衛が入店し、店内の安全を確認した後に2人は入店した。
「いらっしゃい」
二重扉を開けて店内に入ると、入り口側の窓は全て大きな本棚で遮られ、天井近くの高い位置にある小さな窓達が、ほんの少しの光を室内にもたらして、時間の感覚が麻痺するような感覚を覚える。
正面のカウンターに立っていたのは、背が高く、想像していたよりも若い男性だった。
「アガトン殿下、先に席に座っていてくれる?」
「え、いいけど…」
不審がるように遅れて了承をしたアガトンは、先に護衛が指定したであろう席へと歩み始めた。
薄暗がりの静かな店内には朝早い為に、客はまだいないようだった。
「クロッカ・マーガレット・ハイランスと申します。セネガー公爵でいらっしゃいますか?」
カウンター越しに少し声を抑えて話しかける。
歳をとっても引き締まった身体、近くで見れば白髪が少し混じってはいるが、赤みを帯びたレンガ色の髪は珍しく、王国ではセネガー公爵家の血筋のごく僅かしかこの髪色を持つものはいない。
世襲貴族達の半分以上は歳を取りすぎる前に爵位を譲り渡し、後方支援として領地を守っていくことが多いのだが、彼は妻と一緒に王国の各地を旅行した後、妻を亡くしたことをきっかけに帝国に足を運んだということは王国でも興味があれば誰もが聞くことができる話だった。
髪の色を見れば、自分の求めていた人物であることはすぐに理解できた。
「爵位はもう何十年も前に息子に譲渡しております。今はこの店のオーナーをしております。カリスベリオ・セネガーでございます」
儀礼的にセネガー公爵と呼ぶべきかと思ったが、否定されるということは公爵の身分にすがっていないということで、彼は平民として過ごしているということは察することが出来た。
「お会い出来て光栄です。お客様は他にいないようですが、このお店で立ち話もあまり好まれないと思いましたので、手紙をしたためて参りました」
「他にお客様もおりませんし、お話いただいても構いませんが…」
「いえ、本日は殿下と参りましたので待たせるわけにもいきません。それに一枚はイリア・ロベールからの手紙ですので」
バッグの中から2枚の封筒を取り出すと、カリスベリオに手渡す。
目を細めながら手元の封筒を見ると、封蝋印とサインを確認して優しく微笑んだのが分かった。
「ほぅ…確かにイリア・ローベルからの手紙。ハイランス伯爵令嬢でしたね?」
「はい」
優しく微笑んで緩んだかと思った表情が瞬く間に消え去り、眼識に富んだ視線を含んで、鋭くクロッカを捉えた。
クロッカは、あまりの眼光に、流石は歴史ある名門公爵だとゴクリと息を呑んだ。
「ここの注文方法はご存知で?」
「えぇ。同じならば…ですが」
イリア・ロベールに会い、キャサリンのお土産に茶葉を分けて貰った、こことよく似た間接照明のみの王国の店。
「ならば問題はありませんね。では次は王国でお会いしましょう」
「はい。是非」
クロッカが膝を曲げ小さくカーテシーをとると、カリスベリオは頷くように小さく頭を下げ、カウンターの奥へと消えていった。
皇帝陛下の生誕祭までの派手な飾り付けを外し、後片付けに追われており、慌ただしい雰囲気で昨日までの高揚とした住民達とは別人のようにあちこちで怒号が聞こえている。
「キャサリン大丈夫かな?」
視界に入った紙面には、昨日の生誕祭が一面に踊り、ストラウス公爵殿下と公爵夫人妃の衣装合わせがなされていなかった事も当然のように大きく記載されているようだった。
「今日はまだ皇帝陛下の話ばかりだろうし、すぐに話題に登ることは少ないのではないかしら?」
不仲説が話題になるとしたら、日常生活に戻った後だろう。
その頃にはキャサリンはこの街を出る。
と言っても、遅れて少しずつ帝国内に広がるはずだ。
噂を物色する策をこれから考えていくのだろう。
「クロッカの事も載っているんじゃないの?」
「小さくなら載っているかもしれないけど、それなら留学に行くアガトン殿下のことも載っているんじゃない?後でお店で買おうかしら」
「新聞が置いてある店なの?」
新聞は基本的に朝一番に市中でばら撒くように売られ、その後は商店の片隅に置かれることが多い。
飲食店には置いてないのが一般的だった。
「初めて行くお店だけど、きっとあると思うの」
「へぇ。変わった店なんだね。何か行きたい理由があったの?」
「えぇ。でもそれは内緒。王国まで持ち帰る秘密なの。あ、あのお店の裏手よ!」
急かすように護衛を引き連れて店の前まで来たが、いつもの配備では店に迷惑がかかる。
「護衛は最低限だけ入店にしてください。ここは配慮がいるお店です。ハントス、貴方だけ私と入店して下さい」
クロッカは4人いる護衛のうち、王国側から付けられている護衛を選び、後の3人は外で待たせることにした。
暫くは街が騒がしいとのことで増員された護衛ではなく、信頼のおける1番の年長者を選んだのは、店の雰囲気を壊さないためでもあった。
「じゃあこちらも2人残してあとは外で警備を」
先に護衛が入店し、店内の安全を確認した後に2人は入店した。
「いらっしゃい」
二重扉を開けて店内に入ると、入り口側の窓は全て大きな本棚で遮られ、天井近くの高い位置にある小さな窓達が、ほんの少しの光を室内にもたらして、時間の感覚が麻痺するような感覚を覚える。
正面のカウンターに立っていたのは、背が高く、想像していたよりも若い男性だった。
「アガトン殿下、先に席に座っていてくれる?」
「え、いいけど…」
不審がるように遅れて了承をしたアガトンは、先に護衛が指定したであろう席へと歩み始めた。
薄暗がりの静かな店内には朝早い為に、客はまだいないようだった。
「クロッカ・マーガレット・ハイランスと申します。セネガー公爵でいらっしゃいますか?」
カウンター越しに少し声を抑えて話しかける。
歳をとっても引き締まった身体、近くで見れば白髪が少し混じってはいるが、赤みを帯びたレンガ色の髪は珍しく、王国ではセネガー公爵家の血筋のごく僅かしかこの髪色を持つものはいない。
世襲貴族達の半分以上は歳を取りすぎる前に爵位を譲り渡し、後方支援として領地を守っていくことが多いのだが、彼は妻と一緒に王国の各地を旅行した後、妻を亡くしたことをきっかけに帝国に足を運んだということは王国でも興味があれば誰もが聞くことができる話だった。
髪の色を見れば、自分の求めていた人物であることはすぐに理解できた。
「爵位はもう何十年も前に息子に譲渡しております。今はこの店のオーナーをしております。カリスベリオ・セネガーでございます」
儀礼的にセネガー公爵と呼ぶべきかと思ったが、否定されるということは公爵の身分にすがっていないということで、彼は平民として過ごしているということは察することが出来た。
「お会い出来て光栄です。お客様は他にいないようですが、このお店で立ち話もあまり好まれないと思いましたので、手紙をしたためて参りました」
「他にお客様もおりませんし、お話いただいても構いませんが…」
「いえ、本日は殿下と参りましたので待たせるわけにもいきません。それに一枚はイリア・ロベールからの手紙ですので」
バッグの中から2枚の封筒を取り出すと、カリスベリオに手渡す。
目を細めながら手元の封筒を見ると、封蝋印とサインを確認して優しく微笑んだのが分かった。
「ほぅ…確かにイリア・ローベルからの手紙。ハイランス伯爵令嬢でしたね?」
「はい」
優しく微笑んで緩んだかと思った表情が瞬く間に消え去り、眼識に富んだ視線を含んで、鋭くクロッカを捉えた。
クロッカは、あまりの眼光に、流石は歴史ある名門公爵だとゴクリと息を呑んだ。
「ここの注文方法はご存知で?」
「えぇ。同じならば…ですが」
イリア・ロベールに会い、キャサリンのお土産に茶葉を分けて貰った、こことよく似た間接照明のみの王国の店。
「ならば問題はありませんね。では次は王国でお会いしましょう」
「はい。是非」
クロッカが膝を曲げ小さくカーテシーをとると、カリスベリオは頷くように小さく頭を下げ、カウンターの奥へと消えていった。
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