クロッカ・マーガレット・ハイランスの婚約破棄は初恋と共に

佐原香奈

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婚約破棄

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大陸の南の地を支配するマリジェラは、絶対君主のグレラー国王により統治されており、グレラー国王が自由に権力を行使している。

そんな君主を持つ国の大使であるからなのか、マリジェラ国のただの大使であるにも関わらず、横柄な態度と発言で諸外国から煙たがられていた。


それでも爪弾きにされずにいるのは、国土の大きさとまるで子供のように小さな事で戦争を吹っかけていくからに他ならない。
戦争をして得られるものはどの国にもなく、大規模な武器の製造や開発を国家が取り仕切って行っており、経由する国は様々あれど、戦争に負けたとしても衰える事がない。
どの国も間接的にマリジェラを支援している実態から、強く出れないでいるのだ。


「おいそこの女、ここは女が出て来て良い場所ではない。弁えろ」


「私は陛下からの指示でここにおります。陛下の意思に文句をつけるということでしょうか?この場での会話は記録に残りますがよろしいですか?」


クロッカは王族でもない使いの者にバカにされることには早々に慣れていた。
しかし毎回不愉快なことには変わりはない。
自国の感覚が他国で通じないこともあるのだと理解せずに大使の座にいるのは、自国の評判を自ら落としていることにマリジェラの大使は気付くべきだ。



「ぐっ…小娘が調子付きおって」


「悪態をつくことしか能がない者を大使としてよこすとは舐められたものですね。偉大なるグレラー国王の為を思うなら大使の座は退かれた方がよろしいのでは?」


普段、男尊を掲げる国との対話は、クロッカは裏方に回る事を余儀なくされる。そういった国とは女性が同席していると話し合いにもならないこともあるため、仕方なく相手国への配慮として女性を表には出さないという方針を決めたからだ。


それがどうして今回マリジェラの大使との会談に同席し、こんなにも噛み付くのかというと、グレラー国王の非人道的な行いが大陸の主要国家会議の中で問題視されるようになったからだ。


クシュリプト王国として、マリジェラ製の武器の輸入の停止、更には例外なく全ての輸入を停止する事を決めた。
マリジェラから脱出を図った亡命者は後を絶たず、受け入れは万国共通の悩みであった為、大陸会議での決定に次々と賛同した国が声を上げた。


「彼女がここにいるのは能力を認められているからです。クシュリプト王国では女性を軽視する発言は認められていません」

「大臣ともあろう方がそのようなお考えとはガッカリですな。それではうちもクシュリプトの待遇を考え直さねばなりません」

「それはいい機会でしたね。今回、マリジェラからの全ての輸入を禁止すると議会で承認されました。願っても無い機会で手間が省けました」


外務大臣であるベイリー・ハワードは、外務官としての長年の功績が漸く認められ、65歳という遅咲きながら外務大臣となった。良く練った作戦を展開していくタイプだったことから、大臣職に就いたことでみるみる頭角を表し当初の周りの評価を一変させた。


今回のマリジェラの大使の訪問では、関税についての再考ということでマリジェラから連絡があったためだが、大陸会議の決定から時を置かずにこうして議会の承認を得る事は並大抵の事ではなかった。


クロッカをこの場へ座らせたのも、彼の判断だった。
大陸会議でも勿論派閥があり、今回のマリジェラへの報復処置も、最も力のあるアイナス帝国を納得させなければ実現はしなかった。
その調整役に親交のあるクロッカが選ばれ、意見をまとめ上げた立役者が、この場にいないことを良しとしなかったのだ。


「大陸会議の噂は本当だったのか」


耳に入っていないはずはない。この決定は大陸全ての国へ通達されたのだから。
それなのに彼らがここに来たのは、グレラー国王とは伝達が取れていないからだと思われる。
各国を訪問し税の値上げ交渉をしつつ、遊んでいるのだろう。


「国外を観光していたなら知らなくても同然ですわ。グレラー国王も咎められないでしょう」


「ふん。困るのはクシュリプトの方になる。我々は失礼する」


大使達を見送るのは監視を目的とした護衛達だけだった。
誰も席を立たず、背中を見送っていた。



「こんなに簡単に帰ってくれるとは。準備も手を抜けばよかったな」


5日の滞在のうち、3日程は居座るのではないかと思われていたが、一瞬の内に終わったのは思っていたよりは馬鹿ではなかったという事なのかもしれない。
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