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王国の内情
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雪も降ることのない地、それがクシュリプトの南部地域だ。
大きな洪水の被害を受けたが、温暖な土地故に、比較的早く作物を収穫できるまでに至った。
建物の残骸が残るだけの土地となった国境ユッベルは、マリジェラの騎士達が数万人で押しかけ、南部の国境を守るバーナード辺境伯は援軍としてやってきた王国騎士団を確認したが、すぐに城を明け渡し後退することを余儀なくされる。
内乱により、国中から騎士の応援が求められているというが、他国の侵略に対しての援軍があまりにも少ないために計画を練り直す必要があった。
すぐそこまで敵が進軍している状況で、もたついていては南部全てを明け渡すことになりかねないと、苦渋の決断をせざるを得なかった。
「いいか!西部からの連絡が到着次第ユッベル奪還作戦を開始する。全員いつでも出撃出来るように準備しておくように!」
ユッベルの城を捨てて後退した先は伯爵家領の交易の中心地で、大きな城下町に指揮本部が置かれた。
南部はこれまでも幾度となく戦地となってきた歴史故に、バーナード伯が指揮権を持つ騎士団は国内一の規模を誇っていた。
それでも20万の領民と5000人の騎士団員では到底大量に送られてきた敵軍に勝てるはずもない。
数万人規模の敵襲は王国の歴史で初めてのことで、これまでの戦術では対応ができなかった。
王宮への騎士団の派遣を依頼して2週間、敵の進軍を食い止めるので精一杯だったが、僅か数百の援軍でこのまま食い止めるのは難しい。
バーナード伯は隣接する領主への援軍ももちろん求めていたが、彼らも同様に領地を守る義務がある。
自分達の地へ迂回して中央を目指す可能性がある以上、おいそれと援軍を差し出すわけにもいかなかった。
「本当にうまく行くでしょうか?」
数万の兵を従えるマリジェラだが、その規模の物資を送り続けなければいけない状況は、長くは保たない。
マリジェラの経済状況を見れば容易く判断できたが、中央への進軍ではなく、南部の占拠が目的ならば話は全く変わる。
マリジェラの目的が把握できない以上、気を抜くことは出来なかった。
「西からの援軍は必ず来る。こっちの補給さえ途切れさせなければ、奴らは必ず引く事になる」
自領での戦は、長期戦こそ利となる。
西部からの援軍があれば凌げるはずだ。
「しかし!補給路の情報が漏れている可能性だってあります。どれだけ信用できるか…」
「直接確認はした。これ以上後退するわけにはいかない。お前達に背中を預けるんだ。俺を信じていろ」
こうして、夜明け前に西からの援軍の到着の知らせを受けたバーナード辺境伯は、多くの領民の力も借りながら長い戦いに打ち勝ち、占拠されていたユッベル国境までの奪還に成功した。
「我らの勝利だ!」
マリジェラに長く占拠されたユッベル近郊は荒んでいたが、歓喜の声が何日も途切れることはなかった。
マリジェラの侵攻から五年という長い戦いであった。
しかし、マリジェラとの戦いは完全に終わったわけではない。
ボロボロになったユッベルの国境には多くの兵士を置き、国境は封鎖されたまま。次の戦いに備えなければならなかった。
家を建て、兵舎を建て、武器庫に食糧庫も作ったが、再びの侵攻に備えてユッベルでは農業は禁止され、元の活気ある街になるには多くの年月が必要になる予定だ。
マリジェラが完全に撤退したのを確認してから、バーナード辺境伯は王宮へと向かった。
マリジェラが撤退した一年も経った後だったのは、それほど酷い状況だったかを物語っていた。
王都までの道は、国内の情勢も悪化していることが見てとれた。
物乞いや盗賊は明らかに増えていて、これまで補給が途切れなかったことが奇跡だと感じたほどだ。
「長き戦いによく耐えてくれた」
「ありがたきお言葉です。陛下から援軍を派遣いただいたことでなんとか凌げました」
中央からは大した援軍は来なかったが、皮肉も含めて片膝を床につけ続けた。
「補給部隊が活躍したそうだな?」
「はい。補給路の確保には時間を要しましたが、ある方が協力を申し出てくださいまして、持久戦に持ち堪えられたのもその方のおかげでございます」
「ある方とは誰なんだ。そのような報告は受けておらんぞ?」
「はい。実際に援助いただいたのは、ハイランス伯爵家だったことは間違い無いのですが、当主にもご挨拶に上がりましたが、支援は一切していないと申しておりまして、報告に至りませんでした」
南部への補給物資は、港のあるハイランス領の地下道を使用していたのは部隊からの報告で間違いなかった。
盗賊に襲われる心配もなく、整備された補給路の提供は、間違いなく長期戦の要となったが、直接領主であるハイランス伯に連絡を取っても、最後まで話は噛み合わなかった。
内戦も起こる中、他領への援助を隠したい思惑があるのかと思って陛下に会う前にハイランス家にも寄ったが、演技とも思えない強い否定の言葉が返ってきたのだ。
何度も確認もしたが、ハイランス領の地下道は機密の一つであり、使われた形跡はなく他の領地と間違っているのではないかとまで言われた。
何が何だか分からないまま陛下に会うことになったが、それが全てであり、自分の部下が間違っているとも思えず、自身もハイランス領からついた荷物を確認している。
どう考えてもハイランスを通らなければ不可能だったのだが、その全ての状況をそのまま報告するしかなかった。
ただ一つ、私が実際にやり取りをした相手が名乗っていたのが、クロッカ・マーガレット・ハイランスだということだけは、間違いない恩人であると考えているハイランス伯の口止めにより、陛下には伝える事はなかった。
大きな洪水の被害を受けたが、温暖な土地故に、比較的早く作物を収穫できるまでに至った。
建物の残骸が残るだけの土地となった国境ユッベルは、マリジェラの騎士達が数万人で押しかけ、南部の国境を守るバーナード辺境伯は援軍としてやってきた王国騎士団を確認したが、すぐに城を明け渡し後退することを余儀なくされる。
内乱により、国中から騎士の応援が求められているというが、他国の侵略に対しての援軍があまりにも少ないために計画を練り直す必要があった。
すぐそこまで敵が進軍している状況で、もたついていては南部全てを明け渡すことになりかねないと、苦渋の決断をせざるを得なかった。
「いいか!西部からの連絡が到着次第ユッベル奪還作戦を開始する。全員いつでも出撃出来るように準備しておくように!」
ユッベルの城を捨てて後退した先は伯爵家領の交易の中心地で、大きな城下町に指揮本部が置かれた。
南部はこれまでも幾度となく戦地となってきた歴史故に、バーナード伯が指揮権を持つ騎士団は国内一の規模を誇っていた。
それでも20万の領民と5000人の騎士団員では到底大量に送られてきた敵軍に勝てるはずもない。
数万人規模の敵襲は王国の歴史で初めてのことで、これまでの戦術では対応ができなかった。
王宮への騎士団の派遣を依頼して2週間、敵の進軍を食い止めるので精一杯だったが、僅か数百の援軍でこのまま食い止めるのは難しい。
バーナード伯は隣接する領主への援軍ももちろん求めていたが、彼らも同様に領地を守る義務がある。
自分達の地へ迂回して中央を目指す可能性がある以上、おいそれと援軍を差し出すわけにもいかなかった。
「本当にうまく行くでしょうか?」
数万の兵を従えるマリジェラだが、その規模の物資を送り続けなければいけない状況は、長くは保たない。
マリジェラの経済状況を見れば容易く判断できたが、中央への進軍ではなく、南部の占拠が目的ならば話は全く変わる。
マリジェラの目的が把握できない以上、気を抜くことは出来なかった。
「西からの援軍は必ず来る。こっちの補給さえ途切れさせなければ、奴らは必ず引く事になる」
自領での戦は、長期戦こそ利となる。
西部からの援軍があれば凌げるはずだ。
「しかし!補給路の情報が漏れている可能性だってあります。どれだけ信用できるか…」
「直接確認はした。これ以上後退するわけにはいかない。お前達に背中を預けるんだ。俺を信じていろ」
こうして、夜明け前に西からの援軍の到着の知らせを受けたバーナード辺境伯は、多くの領民の力も借りながら長い戦いに打ち勝ち、占拠されていたユッベル国境までの奪還に成功した。
「我らの勝利だ!」
マリジェラに長く占拠されたユッベル近郊は荒んでいたが、歓喜の声が何日も途切れることはなかった。
マリジェラの侵攻から五年という長い戦いであった。
しかし、マリジェラとの戦いは完全に終わったわけではない。
ボロボロになったユッベルの国境には多くの兵士を置き、国境は封鎖されたまま。次の戦いに備えなければならなかった。
家を建て、兵舎を建て、武器庫に食糧庫も作ったが、再びの侵攻に備えてユッベルでは農業は禁止され、元の活気ある街になるには多くの年月が必要になる予定だ。
マリジェラが完全に撤退したのを確認してから、バーナード辺境伯は王宮へと向かった。
マリジェラが撤退した一年も経った後だったのは、それほど酷い状況だったかを物語っていた。
王都までの道は、国内の情勢も悪化していることが見てとれた。
物乞いや盗賊は明らかに増えていて、これまで補給が途切れなかったことが奇跡だと感じたほどだ。
「長き戦いによく耐えてくれた」
「ありがたきお言葉です。陛下から援軍を派遣いただいたことでなんとか凌げました」
中央からは大した援軍は来なかったが、皮肉も含めて片膝を床につけ続けた。
「補給部隊が活躍したそうだな?」
「はい。補給路の確保には時間を要しましたが、ある方が協力を申し出てくださいまして、持久戦に持ち堪えられたのもその方のおかげでございます」
「ある方とは誰なんだ。そのような報告は受けておらんぞ?」
「はい。実際に援助いただいたのは、ハイランス伯爵家だったことは間違い無いのですが、当主にもご挨拶に上がりましたが、支援は一切していないと申しておりまして、報告に至りませんでした」
南部への補給物資は、港のあるハイランス領の地下道を使用していたのは部隊からの報告で間違いなかった。
盗賊に襲われる心配もなく、整備された補給路の提供は、間違いなく長期戦の要となったが、直接領主であるハイランス伯に連絡を取っても、最後まで話は噛み合わなかった。
内戦も起こる中、他領への援助を隠したい思惑があるのかと思って陛下に会う前にハイランス家にも寄ったが、演技とも思えない強い否定の言葉が返ってきたのだ。
何度も確認もしたが、ハイランス領の地下道は機密の一つであり、使われた形跡はなく他の領地と間違っているのではないかとまで言われた。
何が何だか分からないまま陛下に会うことになったが、それが全てであり、自分の部下が間違っているとも思えず、自身もハイランス領からついた荷物を確認している。
どう考えてもハイランスを通らなければ不可能だったのだが、その全ての状況をそのまま報告するしかなかった。
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