婚約破棄されたのに、運命の相手を紹介されました

佐原香奈

文字の大きさ
2 / 16

え?婚約破棄?

しおりを挟む
想定外のことは、そんなにあることじゃないと思っている。

例えば雨が降るのはほとんど雲が近付いてきてからだし、父は怒鳴り始める前に不機嫌に黙り込む。


前触れをしっかりと捉えることが出来れば、何かしらの対処をすればいいだけだ。

外出中に雨が降りそうな空になったら馬車に戻るし、父が不機嫌に黙り込んだら、母を呼んでくる。


そういうことは得意だと思っていたが、これからはそう思っていられなさそうだ。


「リーリエ、婚約を破棄させてほしい」


本当に突然に家を訪ねてきたと思って訝しみはした。
いつもは先触れをくれるのに。とは思ったのだが、いつもの、お土産を買ってきたとか、何か頼み事が出来たとか、その程度だろうと思っていた。


だって彼は、今日街の孤児院に視察に行っただけだったからだ。
前々から怪しい動きをしていた訳でもなく、今日も私の顔を一目見たいと朝から家に来た。


それなのに、視察に行ったら婚約破棄したくなるなんて、想定外にも程がある。 


「え?婚約破棄!?本気!?」


単語でしか話せなくなっても仕方のない事態だろう。
この結婚は、伯爵家である彼の家の方から縁談を持ちかけてきて、ただの子爵令嬢だった私は、父親に何か聞かれる事もなく、家の判断で婚約を了承することになった。


「あぁ。リーリエには悪いけど、私は運命と出逢ってしまったのだ」


孤児院に視察に行って出会う運命の相手と言われれば、常識の範疇で考えれば数限られた候補しかない。


1、孤児院の職員の平民
2、孤児院に寄附しに来た婦人会を代表した人妻貴族
3、ボランティアに来た良心的な平民の女の子
4、心優しいシスター


まぁ、それもどうでもいいか。
頭に浮かんだ想像上のお相手をグシャリとした。



「婚約破棄、承りました。どうぞお帰りになってくださいませ。父には私から伝えておきます」



婚約者であったのは、伯爵家リーバス・テンサーだ。
私は渋々婚約者に会った時、この婚約を引き受けて良かったと考えを改め、今日この瞬間まで幸せな未来を疑いもしていなかった。


リーバスは最初から私を婚約者として丁寧に扱ってくれたし、事あるごとに「好きだよ」「愛してるよ」そう囁いて、どこかに出かければ「君に似合うと思って」そう言ってお土産を買ってきてくれた。
愛されていることに疑いを持つことはなかったし、彼を好きになることに時間は掛からなかった。


でも、たった今分かったことだが、彼にとって愛とはとても軽いものだったのだ。
チクリと痛んだ胸が、これが現実なのだと悟らせた。


ーー夢ならいいのに


そう願っても、夢から覚めることはなかった。



✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「はぁ!?婚約破棄だと!?」


仰天して椅子から滑り落ちた父の気持ちはよく分かった。
娘を溺愛してくれて、安心して嫁に出せるとリーバスのことを信用し尽くしていたし、周りにも自慢していたのに、突然の婚約破棄だ。仕方ないだろう。


「そうです。運命と出会ったそうですよ」

「あの野郎…ふざけた真似をしてくれるじゃないか」


婚約破棄を言い出したリーバスは、父の中で野郎に格下げとなったようだ。


「お前は大丈夫か?ショックだっただろう?」


父は怒りに狂う前に、娘が傷物になってしまったことに気付いたようだ。
怒ると怖いが、娘への愛は本物だった。


「ええ。今も信じられない気持ちですが、あの人の愛はその程度だったのだなと、どこか冷静に軽蔑しています」


「可哀想に。私がもっと慎重に相手を選ぶべきだったのにすまなかった」


『えぇ、本当に』その言葉は口にしないでおいた。
次は自分の了承位は得てほしいものだが、こんな縁談はそうそう来ない事を考えれば、仕方のない事だったと分かっていた。


「野郎のことはこちらに任せておきなさい。たっぷりと慰謝料を貰ってやるからな。ここからは先手必勝だ。すぐに手紙を書こう」


「どう捻り潰してやるか…」そう聞こえた気がしたが、もう放っておくことにした。
お腹がご飯の時間だと告げていたからだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜

桐生桜月姫
恋愛
 シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。  だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎  本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎ 〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜 夕方6時に毎日予約更新です。 1話あたり超短いです。 毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。

処理中です...