12 / 16
真面目な人
しおりを挟む
トーマスと2人で伯爵家の馬車に乗って街に出た。
もう既に剣術大会の為にやってきた騎士達で王都の街はごった返している。
「凄い人ね」
「ほんと、この時期はもっと筋肉つけなきゃいけないなとプレッシャーがすごいよ」
「ぷっ!何よそれ」
大きな筋肉をつけた剣士達がそこらじゅうにいて、言われてみればキャーキャーと歓喜の悲鳴が上がっている。
トーマスも剣は習っていたはずだが、剣術大会に出ると言い出したこともなかった。
「見てみなよ!あのガタイのいいカッコいい騎士達が集まったら、僕たちなんて恋人が心変わりしないことを祈るしかないんだよ!?」
「トーマスに恋人はいませんけどね」
「従兄妹を誘うしかない僕に酷いことを言うね」
「それは悪いことじゃないでしょう?」
「あっ!べ、別の店にしようか?なんだか今日は冷たいジュースでも飲みたい気分だ」
2人で大通りを歩いていたのに、突然にトーマスは足を止めた。
その不自然な行動に、前の人だかりに目を向ける。
「ほら!別の店に行こうよ」
トーマスが前方を塞ぐように前に立ったので、これは益々おかしいと彼の肩越しに前方を覗き込む。
「なるほどね。あんなの気にしなくてもいいのよ?」
あんなの。と表現した目線の先には、制服姿のシーセル・マーサーがいた。
そして、その周りには噂通りの人だかりが出来ている。
剣術大会には関係なく周りには女の子がいると聞いていた通りだ。
一つ思っていたのと違ったことは、彼は全く相手にしていないということ。
いつも女の子に囲まれる位のイケメンと、額面通りに受け取っていた私は、意外だなと思った。
シェーラをエスコートしていた時も、彼は露骨に嫌そうな顔はしていなかったし、段差やスピードに気を付けて紳士的だった。
言葉遣いも乱暴ではなかったし、どちらかと言えば口数も多くはないが、丁寧に話すのが印象的だった。
でも、今の彼はまるっきり周りを無視している。
「分かったよ…でも、せっかく来たのに邪魔されたくないから、本当に別のお店にしない?」
「確かにね。見つかったら話しかけられるかもしれないし、私もそれは望んでない。どこのお店にする?」
私たちは踵を返してまた元の道を歩いた。
触らぬ神に祟りなし。
今日は存分にトーマスに話を聞いてもらうのだ。
私達はハチミツ紅茶を諦めて、王都では定番となっているパンケーキのお店に来た。
フルーツをふんだんに使ったパンケーキはとてもふわふわで、トーマスと2人で無言で食べ進めた。
「そうそう、さっきのマーサー家の次男からの求婚は断るんだろう?」
「んー。私は断って欲しかったけど、今のところ保留なのよね」
トーマスは最後に残った桃をパクッと口に収めた。
「ええー!暫く婚約なんてしないでくれよ?僕が婚約するのは卒業後なんだから!」
トーマスは未来の伯爵家当主だ。
恋愛は禁止されていないとはいえ、将来必ず別れるのに、未来の婚約者以外を好きになっても良いことはない。
そうやってトーマスは色恋に距離を置いてきている。
豊かな伯爵家ならば、どの地位からも縁談はやって来るし、女の子の誘いも多いが、一貫して断り続ける姿勢は誠実と言えるかもしれない。
まだ決まらない未来のパートナーのために、そこまで出来る彼は尊敬に値する。
「それも酷い話ね。自分が婚約すれば私はどうでも良いってこと?」
「そんなわけないでしょ。リーリエも卒業する頃までには相手を見つけなきゃいけないじゃないか。束の間のフリータイムを僕に使ってくれたっていいだろう?」
「まぁそうだけど。なんで結婚なんてしなきゃいけないんだろう」
「家門の繁栄のため…かな?」
トーマスは家門全てを取りまとめなければいけない立場で、子爵家なんかよりももっと多くのものを背負っている。
彼が丸ごと背負っているのものの一つが私で、少なくともトーマスが苦労するような相手とは結婚なんて絶対にしない。
「未来の後継者としては、私の結婚相手はどんな人がいいと思うの?」
「そうだなぁ…別に、借金抱えた問題ある相手でもリーリエが幸せだっていうなら僕はいいけどね。支援支援ってお金を出して、手も足も出なくなったところで全てこっちでコントロールすれば良いだけだし」
夕日を煮詰めたような綺麗な目をしたトーマスだが、結構腹黒くて抜け目はない。
人は見た目によらないというのは彼のためにあるような言葉だ。
「そんな酷い人、好きにならないし、そうなる前にお父様が蹴飛ばしてるわ」
「あぁ、常識のない元婚約者みたいに?」
「そうね、良い例があったわね」
フルーツの爽やかさが残る舌で、私たちは癖の少ない紅茶を味わいながら久しぶりに会話を楽しんで、私はたくさんの愚痴を吐いた。
もう既に剣術大会の為にやってきた騎士達で王都の街はごった返している。
「凄い人ね」
「ほんと、この時期はもっと筋肉つけなきゃいけないなとプレッシャーがすごいよ」
「ぷっ!何よそれ」
大きな筋肉をつけた剣士達がそこらじゅうにいて、言われてみればキャーキャーと歓喜の悲鳴が上がっている。
トーマスも剣は習っていたはずだが、剣術大会に出ると言い出したこともなかった。
「見てみなよ!あのガタイのいいカッコいい騎士達が集まったら、僕たちなんて恋人が心変わりしないことを祈るしかないんだよ!?」
「トーマスに恋人はいませんけどね」
「従兄妹を誘うしかない僕に酷いことを言うね」
「それは悪いことじゃないでしょう?」
「あっ!べ、別の店にしようか?なんだか今日は冷たいジュースでも飲みたい気分だ」
2人で大通りを歩いていたのに、突然にトーマスは足を止めた。
その不自然な行動に、前の人だかりに目を向ける。
「ほら!別の店に行こうよ」
トーマスが前方を塞ぐように前に立ったので、これは益々おかしいと彼の肩越しに前方を覗き込む。
「なるほどね。あんなの気にしなくてもいいのよ?」
あんなの。と表現した目線の先には、制服姿のシーセル・マーサーがいた。
そして、その周りには噂通りの人だかりが出来ている。
剣術大会には関係なく周りには女の子がいると聞いていた通りだ。
一つ思っていたのと違ったことは、彼は全く相手にしていないということ。
いつも女の子に囲まれる位のイケメンと、額面通りに受け取っていた私は、意外だなと思った。
シェーラをエスコートしていた時も、彼は露骨に嫌そうな顔はしていなかったし、段差やスピードに気を付けて紳士的だった。
言葉遣いも乱暴ではなかったし、どちらかと言えば口数も多くはないが、丁寧に話すのが印象的だった。
でも、今の彼はまるっきり周りを無視している。
「分かったよ…でも、せっかく来たのに邪魔されたくないから、本当に別のお店にしない?」
「確かにね。見つかったら話しかけられるかもしれないし、私もそれは望んでない。どこのお店にする?」
私たちは踵を返してまた元の道を歩いた。
触らぬ神に祟りなし。
今日は存分にトーマスに話を聞いてもらうのだ。
私達はハチミツ紅茶を諦めて、王都では定番となっているパンケーキのお店に来た。
フルーツをふんだんに使ったパンケーキはとてもふわふわで、トーマスと2人で無言で食べ進めた。
「そうそう、さっきのマーサー家の次男からの求婚は断るんだろう?」
「んー。私は断って欲しかったけど、今のところ保留なのよね」
トーマスは最後に残った桃をパクッと口に収めた。
「ええー!暫く婚約なんてしないでくれよ?僕が婚約するのは卒業後なんだから!」
トーマスは未来の伯爵家当主だ。
恋愛は禁止されていないとはいえ、将来必ず別れるのに、未来の婚約者以外を好きになっても良いことはない。
そうやってトーマスは色恋に距離を置いてきている。
豊かな伯爵家ならば、どの地位からも縁談はやって来るし、女の子の誘いも多いが、一貫して断り続ける姿勢は誠実と言えるかもしれない。
まだ決まらない未来のパートナーのために、そこまで出来る彼は尊敬に値する。
「それも酷い話ね。自分が婚約すれば私はどうでも良いってこと?」
「そんなわけないでしょ。リーリエも卒業する頃までには相手を見つけなきゃいけないじゃないか。束の間のフリータイムを僕に使ってくれたっていいだろう?」
「まぁそうだけど。なんで結婚なんてしなきゃいけないんだろう」
「家門の繁栄のため…かな?」
トーマスは家門全てを取りまとめなければいけない立場で、子爵家なんかよりももっと多くのものを背負っている。
彼が丸ごと背負っているのものの一つが私で、少なくともトーマスが苦労するような相手とは結婚なんて絶対にしない。
「未来の後継者としては、私の結婚相手はどんな人がいいと思うの?」
「そうだなぁ…別に、借金抱えた問題ある相手でもリーリエが幸せだっていうなら僕はいいけどね。支援支援ってお金を出して、手も足も出なくなったところで全てこっちでコントロールすれば良いだけだし」
夕日を煮詰めたような綺麗な目をしたトーマスだが、結構腹黒くて抜け目はない。
人は見た目によらないというのは彼のためにあるような言葉だ。
「そんな酷い人、好きにならないし、そうなる前にお父様が蹴飛ばしてるわ」
「あぁ、常識のない元婚約者みたいに?」
「そうね、良い例があったわね」
フルーツの爽やかさが残る舌で、私たちは癖の少ない紅茶を味わいながら久しぶりに会話を楽しんで、私はたくさんの愚痴を吐いた。
0
あなたにおすすめの小説
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~
あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。
「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
[完]本好き元地味令嬢〜婚約破棄に浮かれていたら王太子妃になりました〜
桐生桜月姫
恋愛
シャーロット侯爵令嬢は地味で大人しいが、勉強・魔法がパーフェクトでいつも1番、それが婚約破棄されるまでの彼女の周りからの評価だった。
だが、婚約破棄されて現れた本来の彼女は輝かんばかりの銀髪にアメジストの瞳を持つ超絶美人な行動過激派だった⁉︎
本が大好きな彼女は婚約破棄後に国立図書館の司書になるがそこで待っていたのは幼馴染である王太子からの溺愛⁉︎
〜これはシャーロットの婚約破棄から始まる波瀾万丈の人生を綴った物語である〜
夕方6時に毎日予約更新です。
1話あたり超短いです。
毎日ちょこちょこ読みたい人向けです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる