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真面目な人
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トーマスと2人で伯爵家の馬車に乗って街に出た。
もう既に剣術大会の為にやってきた騎士達で王都の街はごった返している。
「凄い人ね」
「ほんと、この時期はもっと筋肉つけなきゃいけないなとプレッシャーがすごいよ」
「ぷっ!何よそれ」
大きな筋肉をつけた剣士達がそこらじゅうにいて、言われてみればキャーキャーと歓喜の悲鳴が上がっている。
トーマスも剣は習っていたはずだが、剣術大会に出ると言い出したこともなかった。
「見てみなよ!あのガタイのいいカッコいい騎士達が集まったら、僕たちなんて恋人が心変わりしないことを祈るしかないんだよ!?」
「トーマスに恋人はいませんけどね」
「従兄妹を誘うしかない僕に酷いことを言うね」
「それは悪いことじゃないでしょう?」
「あっ!べ、別の店にしようか?なんだか今日は冷たいジュースでも飲みたい気分だ」
2人で大通りを歩いていたのに、突然にトーマスは足を止めた。
その不自然な行動に、前の人だかりに目を向ける。
「ほら!別の店に行こうよ」
トーマスが前方を塞ぐように前に立ったので、これは益々おかしいと彼の肩越しに前方を覗き込む。
「なるほどね。あんなの気にしなくてもいいのよ?」
あんなの。と表現した目線の先には、制服姿のシーセル・マーサーがいた。
そして、その周りには噂通りの人だかりが出来ている。
剣術大会には関係なく周りには女の子がいると聞いていた通りだ。
一つ思っていたのと違ったことは、彼は全く相手にしていないということ。
いつも女の子に囲まれる位のイケメンと、額面通りに受け取っていた私は、意外だなと思った。
シェーラをエスコートしていた時も、彼は露骨に嫌そうな顔はしていなかったし、段差やスピードに気を付けて紳士的だった。
言葉遣いも乱暴ではなかったし、どちらかと言えば口数も多くはないが、丁寧に話すのが印象的だった。
でも、今の彼はまるっきり周りを無視している。
「分かったよ…でも、せっかく来たのに邪魔されたくないから、本当に別のお店にしない?」
「確かにね。見つかったら話しかけられるかもしれないし、私もそれは望んでない。どこのお店にする?」
私たちは踵を返してまた元の道を歩いた。
触らぬ神に祟りなし。
今日は存分にトーマスに話を聞いてもらうのだ。
私達はハチミツ紅茶を諦めて、王都では定番となっているパンケーキのお店に来た。
フルーツをふんだんに使ったパンケーキはとてもふわふわで、トーマスと2人で無言で食べ進めた。
「そうそう、さっきのマーサー家の次男からの求婚は断るんだろう?」
「んー。私は断って欲しかったけど、今のところ保留なのよね」
トーマスは最後に残った桃をパクッと口に収めた。
「ええー!暫く婚約なんてしないでくれよ?僕が婚約するのは卒業後なんだから!」
トーマスは未来の伯爵家当主だ。
恋愛は禁止されていないとはいえ、将来必ず別れるのに、未来の婚約者以外を好きになっても良いことはない。
そうやってトーマスは色恋に距離を置いてきている。
豊かな伯爵家ならば、どの地位からも縁談はやって来るし、女の子の誘いも多いが、一貫して断り続ける姿勢は誠実と言えるかもしれない。
まだ決まらない未来のパートナーのために、そこまで出来る彼は尊敬に値する。
「それも酷い話ね。自分が婚約すれば私はどうでも良いってこと?」
「そんなわけないでしょ。リーリエも卒業する頃までには相手を見つけなきゃいけないじゃないか。束の間のフリータイムを僕に使ってくれたっていいだろう?」
「まぁそうだけど。なんで結婚なんてしなきゃいけないんだろう」
「家門の繁栄のため…かな?」
トーマスは家門全てを取りまとめなければいけない立場で、子爵家なんかよりももっと多くのものを背負っている。
彼が丸ごと背負っているのものの一つが私で、少なくともトーマスが苦労するような相手とは結婚なんて絶対にしない。
「未来の後継者としては、私の結婚相手はどんな人がいいと思うの?」
「そうだなぁ…別に、借金抱えた問題ある相手でもリーリエが幸せだっていうなら僕はいいけどね。支援支援ってお金を出して、手も足も出なくなったところで全てこっちでコントロールすれば良いだけだし」
夕日を煮詰めたような綺麗な目をしたトーマスだが、結構腹黒くて抜け目はない。
人は見た目によらないというのは彼のためにあるような言葉だ。
「そんな酷い人、好きにならないし、そうなる前にお父様が蹴飛ばしてるわ」
「あぁ、常識のない元婚約者みたいに?」
「そうね、良い例があったわね」
フルーツの爽やかさが残る舌で、私たちは癖の少ない紅茶を味わいながら久しぶりに会話を楽しんで、私はたくさんの愚痴を吐いた。
もう既に剣術大会の為にやってきた騎士達で王都の街はごった返している。
「凄い人ね」
「ほんと、この時期はもっと筋肉つけなきゃいけないなとプレッシャーがすごいよ」
「ぷっ!何よそれ」
大きな筋肉をつけた剣士達がそこらじゅうにいて、言われてみればキャーキャーと歓喜の悲鳴が上がっている。
トーマスも剣は習っていたはずだが、剣術大会に出ると言い出したこともなかった。
「見てみなよ!あのガタイのいいカッコいい騎士達が集まったら、僕たちなんて恋人が心変わりしないことを祈るしかないんだよ!?」
「トーマスに恋人はいませんけどね」
「従兄妹を誘うしかない僕に酷いことを言うね」
「それは悪いことじゃないでしょう?」
「あっ!べ、別の店にしようか?なんだか今日は冷たいジュースでも飲みたい気分だ」
2人で大通りを歩いていたのに、突然にトーマスは足を止めた。
その不自然な行動に、前の人だかりに目を向ける。
「ほら!別の店に行こうよ」
トーマスが前方を塞ぐように前に立ったので、これは益々おかしいと彼の肩越しに前方を覗き込む。
「なるほどね。あんなの気にしなくてもいいのよ?」
あんなの。と表現した目線の先には、制服姿のシーセル・マーサーがいた。
そして、その周りには噂通りの人だかりが出来ている。
剣術大会には関係なく周りには女の子がいると聞いていた通りだ。
一つ思っていたのと違ったことは、彼は全く相手にしていないということ。
いつも女の子に囲まれる位のイケメンと、額面通りに受け取っていた私は、意外だなと思った。
シェーラをエスコートしていた時も、彼は露骨に嫌そうな顔はしていなかったし、段差やスピードに気を付けて紳士的だった。
言葉遣いも乱暴ではなかったし、どちらかと言えば口数も多くはないが、丁寧に話すのが印象的だった。
でも、今の彼はまるっきり周りを無視している。
「分かったよ…でも、せっかく来たのに邪魔されたくないから、本当に別のお店にしない?」
「確かにね。見つかったら話しかけられるかもしれないし、私もそれは望んでない。どこのお店にする?」
私たちは踵を返してまた元の道を歩いた。
触らぬ神に祟りなし。
今日は存分にトーマスに話を聞いてもらうのだ。
私達はハチミツ紅茶を諦めて、王都では定番となっているパンケーキのお店に来た。
フルーツをふんだんに使ったパンケーキはとてもふわふわで、トーマスと2人で無言で食べ進めた。
「そうそう、さっきのマーサー家の次男からの求婚は断るんだろう?」
「んー。私は断って欲しかったけど、今のところ保留なのよね」
トーマスは最後に残った桃をパクッと口に収めた。
「ええー!暫く婚約なんてしないでくれよ?僕が婚約するのは卒業後なんだから!」
トーマスは未来の伯爵家当主だ。
恋愛は禁止されていないとはいえ、将来必ず別れるのに、未来の婚約者以外を好きになっても良いことはない。
そうやってトーマスは色恋に距離を置いてきている。
豊かな伯爵家ならば、どの地位からも縁談はやって来るし、女の子の誘いも多いが、一貫して断り続ける姿勢は誠実と言えるかもしれない。
まだ決まらない未来のパートナーのために、そこまで出来る彼は尊敬に値する。
「それも酷い話ね。自分が婚約すれば私はどうでも良いってこと?」
「そんなわけないでしょ。リーリエも卒業する頃までには相手を見つけなきゃいけないじゃないか。束の間のフリータイムを僕に使ってくれたっていいだろう?」
「まぁそうだけど。なんで結婚なんてしなきゃいけないんだろう」
「家門の繁栄のため…かな?」
トーマスは家門全てを取りまとめなければいけない立場で、子爵家なんかよりももっと多くのものを背負っている。
彼が丸ごと背負っているのものの一つが私で、少なくともトーマスが苦労するような相手とは結婚なんて絶対にしない。
「未来の後継者としては、私の結婚相手はどんな人がいいと思うの?」
「そうだなぁ…別に、借金抱えた問題ある相手でもリーリエが幸せだっていうなら僕はいいけどね。支援支援ってお金を出して、手も足も出なくなったところで全てこっちでコントロールすれば良いだけだし」
夕日を煮詰めたような綺麗な目をしたトーマスだが、結構腹黒くて抜け目はない。
人は見た目によらないというのは彼のためにあるような言葉だ。
「そんな酷い人、好きにならないし、そうなる前にお父様が蹴飛ばしてるわ」
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