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BOSSあらわる
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トーマスの元へ追加のシフォンケーキが並べられていく。
結局、全種類を制覇することになったようだ。
私たちの席の周りには、先程シーセルの周りにいた女の子達が聞き耳を立てているようだ。
貴族の令嬢たちが並んでまで席を勝ち取る姿勢には感服する。
「私の為に送られて来たというのはどういうことですか?」
横目でトーマスの満面の笑みをチラ見しながらも、シーセルへと真っ直ぐ目を向けた。
シーセル様は美しいけど直視するには眩しすぎるし、トーマスの幸せそうな笑顔と交互に見るくらいが目に優しい気がする。
「そのままの意味です。シュエトン嬢が来るかも分からない剣術大会には参加しないと断ったら、シュエトン嬢宛のチケットが私に送られて来たのですよ」
「それは…」
運営からの無言の圧力って事じゃない!
私が行かないそぶりでも見せれば、当日連行されそうな気配すら感じられる。
さらに言えば、今も全方位から殺気を浴びせられている。
「どちらかといえば、私は2人で行きたいと思うのですがどうですか?普通の席のチケットですが、立ち見は避けられますし是非一緒に…」
「いっいえいえ!折角プレミアムチケットをいただいたので、マーサー卿の試合を是非見たいですわ」
全方位からすでに浴びせられている殺気の中、呑気にミルクティーを注文するトーマスは流石としか言いようがない。
断っても断らなくても殺されそうな雰囲気に、ならばせめてシーセルの勇姿を全員で堪能できる方法を選択して命乞いをする。
ーー私の代わりになってくれるなら喜んでこの席を譲るのに…
「え、一緒に行けばいいんじゃない?プレミアム席は堅苦しいってリーリエも…」
いつのまにか持ち帰り用のシフォンケーキまで積み上げられて、脳が砂糖に侵されてしまったトーマスがとんでもないことを言い出して焦る私の前に、白いドレスに似合わない短刀を帯刀した見慣れた格好が視界に入った。
「リーリエ、シーセル様、ご機嫌麗しゅう」
急いできたのか少しばかり息の上がった声がする。
動きやすいようにスカートは軽さを重視してボリュームは控えめ。こんな格好をする人は1人しか知らない。
トーマスのお皿の横で積み上がっている賄賂からゆっくりと目線を移しながらその格好一つ一つを目で確認しながら顔を見上げると、思った通りシェーラが立っていた。
「クロスシード侯爵令嬢、奇遇ですね。お茶を飲む時間があるようなら、同席なさいませんか?」
「クロスシード嬢か!今日は学校も休んでいたのに本当に奇遇だね」
あわあわと口を震わしているだけの私を置いて、シーセルとトーマスがシェーラを私の横の椅子にエスコートする。
ーー実質の親玉登場じゃない!
周り一面をシーセルのファンで固められ、さらに敵味方はあれどシーセルのファンの行動を抑え込んでいるシェーラがそのど真ん中に乗り込んできた。
これは剣術大会に一緒に行くとか、誘いを断ったとか、いやもうそれこそ剣術大会に誘われていたとか、そもそも一緒にお茶しているとか、なにか逆鱗に触れて落とし前を取らされるのでは?と思うと震えが止まらない。
私とシーセルの結婚を望んでいるというのもどこまで本気で、どこまでを望んでいるのか読めないのも怖い。
「シェーラ様、今日はお会い出来ないと思っていましたわ。街に出ていらしたのですね」
周りの痛いほどの視線の中、シェーラに失礼な態度を取れるはずもなく、猫をかぶるしかない。
それが貴族であるし、それが階級制度の中でのマナーというものだ。
「あぁ。リーリエ、そんなに畏まらなくていい。変なことを言うヤツは私が喉元を掻っ切ってやるから普通に話せ」
「そ、そんなこと出来るわけないでしょー!」
シェーラはそれでもいいけど、私みたいな子爵家が間に受けて気軽に話しかければ、一生身の程知らずの無礼者扱いされて爪弾きにされる。
下級貴族の肩身の狭さを舐めてもらっては困るのだ。
リーリエは扇で口元を隠しつつ、シェーラにこっそりと耳打ちした。
これが私のできる抗議の精一杯だ。
結局、全種類を制覇することになったようだ。
私たちの席の周りには、先程シーセルの周りにいた女の子達が聞き耳を立てているようだ。
貴族の令嬢たちが並んでまで席を勝ち取る姿勢には感服する。
「私の為に送られて来たというのはどういうことですか?」
横目でトーマスの満面の笑みをチラ見しながらも、シーセルへと真っ直ぐ目を向けた。
シーセル様は美しいけど直視するには眩しすぎるし、トーマスの幸せそうな笑顔と交互に見るくらいが目に優しい気がする。
「そのままの意味です。シュエトン嬢が来るかも分からない剣術大会には参加しないと断ったら、シュエトン嬢宛のチケットが私に送られて来たのですよ」
「それは…」
運営からの無言の圧力って事じゃない!
私が行かないそぶりでも見せれば、当日連行されそうな気配すら感じられる。
さらに言えば、今も全方位から殺気を浴びせられている。
「どちらかといえば、私は2人で行きたいと思うのですがどうですか?普通の席のチケットですが、立ち見は避けられますし是非一緒に…」
「いっいえいえ!折角プレミアムチケットをいただいたので、マーサー卿の試合を是非見たいですわ」
全方位からすでに浴びせられている殺気の中、呑気にミルクティーを注文するトーマスは流石としか言いようがない。
断っても断らなくても殺されそうな雰囲気に、ならばせめてシーセルの勇姿を全員で堪能できる方法を選択して命乞いをする。
ーー私の代わりになってくれるなら喜んでこの席を譲るのに…
「え、一緒に行けばいいんじゃない?プレミアム席は堅苦しいってリーリエも…」
いつのまにか持ち帰り用のシフォンケーキまで積み上げられて、脳が砂糖に侵されてしまったトーマスがとんでもないことを言い出して焦る私の前に、白いドレスに似合わない短刀を帯刀した見慣れた格好が視界に入った。
「リーリエ、シーセル様、ご機嫌麗しゅう」
急いできたのか少しばかり息の上がった声がする。
動きやすいようにスカートは軽さを重視してボリュームは控えめ。こんな格好をする人は1人しか知らない。
トーマスのお皿の横で積み上がっている賄賂からゆっくりと目線を移しながらその格好一つ一つを目で確認しながら顔を見上げると、思った通りシェーラが立っていた。
「クロスシード侯爵令嬢、奇遇ですね。お茶を飲む時間があるようなら、同席なさいませんか?」
「クロスシード嬢か!今日は学校も休んでいたのに本当に奇遇だね」
あわあわと口を震わしているだけの私を置いて、シーセルとトーマスがシェーラを私の横の椅子にエスコートする。
ーー実質の親玉登場じゃない!
周り一面をシーセルのファンで固められ、さらに敵味方はあれどシーセルのファンの行動を抑え込んでいるシェーラがそのど真ん中に乗り込んできた。
これは剣術大会に一緒に行くとか、誘いを断ったとか、いやもうそれこそ剣術大会に誘われていたとか、そもそも一緒にお茶しているとか、なにか逆鱗に触れて落とし前を取らされるのでは?と思うと震えが止まらない。
私とシーセルの結婚を望んでいるというのもどこまで本気で、どこまでを望んでいるのか読めないのも怖い。
「シェーラ様、今日はお会い出来ないと思っていましたわ。街に出ていらしたのですね」
周りの痛いほどの視線の中、シェーラに失礼な態度を取れるはずもなく、猫をかぶるしかない。
それが貴族であるし、それが階級制度の中でのマナーというものだ。
「あぁ。リーリエ、そんなに畏まらなくていい。変なことを言うヤツは私が喉元を掻っ切ってやるから普通に話せ」
「そ、そんなこと出来るわけないでしょー!」
シェーラはそれでもいいけど、私みたいな子爵家が間に受けて気軽に話しかければ、一生身の程知らずの無礼者扱いされて爪弾きにされる。
下級貴族の肩身の狭さを舐めてもらっては困るのだ。
リーリエは扇で口元を隠しつつ、シェーラにこっそりと耳打ちした。
これが私のできる抗議の精一杯だ。
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