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第一部
イシュトハン戦記
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東帝国の宮殿に一週間滞在し、少し遅れた帰国予定の日が訪れた。
「ステラ」
「はい」
「ステラ」
「……」
ステラの機嫌は、あの日から悪いままだ。どれだけ言葉を尽くしても、ステラは表情一つ変えず、自分の行いに反省するところはないと言い張った。
ステラの無茶な行動は彼女を心配するデイヴィッドには許容することが出来ず、何度も話題に上げた結果、最後には「女一人護れずただ護られてた男が、女を責める?情けないと思わないの?」と、ステラの雷が落ちたのだ。
「ステラ、仲直りをしよう。喧嘩したまま帰りたくなんかない。スノーランドで冬からやり直さないか?」
デイヴィッドは予定を変え、冬が終わったばかりで避けていた雪国へ旅行しようと言い出した。仲が良かった頃に戻ろうと提案した。
「いいえ、帰ります………いや…そうね…クロエと一緒ならスノーランドに行ってもいいわ。これ以上話の分からない貴方と二人なんて無理よ」
ステラはステラで自分は運良く生きていただけで、あの時一度死んでいるのだと考えていた。心配して一番にデイヴィッドのことを考えて動いたのに、更にその黒幕を殺さずに判断を委ねるほど譲歩したのに、何度も何度も反省を促されて決定的な価値観の違いは今後に影響すると、結婚を早まったかもしれないとさえ考えていた。
しかし、ステラも一時の感情だけで招待状まで送っている結婚式を取りやめるという考えにはならなかず、「男は躾ければいいのよ」と夜中にデイヴィッドの寝台の横に立ちながらボソリと呟くに至った。
相手も私も離縁を言い出せない契約である。契約に死別は関係ないと考えながら不敵な笑みを浮かべたのだ。
「君の妹なら大歓迎だ。早速辺境伯に許可を取ろう」
デイヴィッドはスノーランドまでの経路の確保をしていただろうが、それが全て無駄になろうとも嫌な顔せず了承した。それを見て、ステラは悪い笑みを浮かべながら窓の外を見ていた。
「ステラ姉様!!おかえりなさーーーい!!!」
クラーク邸ではなくイシュトハン邸に戻ってきた一行は、当主よりも先に飛びついてきたクロエの花吹雪で迎えられた。クロエは初めての旅行に行けると聞いて喜びは止まらず、更に、お願いしていた魔導書も手に入ると興奮しっぱなしだった。本当に現金な奴だ。
「ただいま。はい。生活魔法集と建築魔法集、それから魔導書とは違うけど魔石についての研究書があったから写本してもらったわ」
「神降臨!!」
クロエはそのまま分厚い本を奪い取るように駆け出そうとするので、耳をつまんでやる。
「イタタタッ」
「ありがとうございますでしょ?」
「うっかり忘れていました。ステラ姉様、貴重な本を手配してくださりありがとうございます。踊る心が隠しきれません!!」
クロエは本で腕が塞がってスカートを摘めないので、貴族らしく丁寧に膝を少しだけ折ったあと、それが幻だったかのようにバビューンと走り去っていった。
「いや、行かれては困るんだが??」
デイヴィッドはその行動に困惑している。貴族の娘はもっとお淑やかなものだ。クロエも正式な場ではお淑やかを装えるが、魔導書を目の前にして何かを被るのは無理だったようだ。
「いいじゃない。少し休みましょう?私も疲れたし、部屋で少し休むわ。また呼んでちょうだい」
転送装置から転送装置へと移り、その度に時間調整で待機したり、当主への挨拶をするので、疲れてしまった。その状態でデイヴィッドとお茶でもしていたら余計なことまで言ってしまいそうだったので、私は久しぶりの自室に篭ることにした。
大勢いても部屋に困ることはないし、従者にも休憩が必要だ。デイヴィッドはステラの後ろ姿を見ながらそれを止めることはなかった。
「……さま…ステラ姉様!」
パッと揺すられる感覚に目を覚ますと、クロエがベッドに這い上がっていた。少し横になるつもりが寝てしまっていたようだ。
「なに?寝過ぎちゃった?」
「いいえ、夕方出発すると言ってました。魔導書ありがとうございます。とーーっても面白くって、一週間は退屈しない予定です」
貴重な本を一週間で飽きられては困るのだが、たった一週間で全ての魔法を試すつもりなのだ。悪いことではない。
「じゃあどうしたの?誰か呼んでる?」
ステラはそこで初めてムクリと起き上がった。まだ頭はポワンとしている。
「いえ、スノーランドに行ける対価は何かと聞いておこうと思って」
「はあ…」
動かない頭で対価とは何かと考えて目を見開いた。うちの妹、賢いじゃない!
「何かして欲しかったわけじゃないの?」
「クロエ…そんな対価だなんて…そんな意地悪を私が言うとでも?」
「え?はい。何もないのにスノーランドに私を連れて行くと?」
いつからこの子は何もしなくても愛されるということを忘れてしまったのだろうか。いや、忘れたわけじゃないわね。愛されていることは分かっているはず。
「対価じゃなくお願いがあるの。イシュトハン戦記を持っていきなさい」
「それだけ?」
「ええ、それだけ」
クロエはすぐにイシュトハン戦記というこの王国よりも長い歴史を持つイシュトハンの歴史が刻まれた本を持ってきた。
「持っていきたい本が山積みです!」
「大丈夫。持って行くドレスやコートを減らす必要はないわ。バッグを増やしなさいね」
「はい!」
クロエは無邪気に立ち上がり、「お姉様、お任せください!」と頼もしい言葉を言って扉を閉めた。
「ステラ」
「はい」
「ステラ」
「……」
ステラの機嫌は、あの日から悪いままだ。どれだけ言葉を尽くしても、ステラは表情一つ変えず、自分の行いに反省するところはないと言い張った。
ステラの無茶な行動は彼女を心配するデイヴィッドには許容することが出来ず、何度も話題に上げた結果、最後には「女一人護れずただ護られてた男が、女を責める?情けないと思わないの?」と、ステラの雷が落ちたのだ。
「ステラ、仲直りをしよう。喧嘩したまま帰りたくなんかない。スノーランドで冬からやり直さないか?」
デイヴィッドは予定を変え、冬が終わったばかりで避けていた雪国へ旅行しようと言い出した。仲が良かった頃に戻ろうと提案した。
「いいえ、帰ります………いや…そうね…クロエと一緒ならスノーランドに行ってもいいわ。これ以上話の分からない貴方と二人なんて無理よ」
ステラはステラで自分は運良く生きていただけで、あの時一度死んでいるのだと考えていた。心配して一番にデイヴィッドのことを考えて動いたのに、更にその黒幕を殺さずに判断を委ねるほど譲歩したのに、何度も何度も反省を促されて決定的な価値観の違いは今後に影響すると、結婚を早まったかもしれないとさえ考えていた。
しかし、ステラも一時の感情だけで招待状まで送っている結婚式を取りやめるという考えにはならなかず、「男は躾ければいいのよ」と夜中にデイヴィッドの寝台の横に立ちながらボソリと呟くに至った。
相手も私も離縁を言い出せない契約である。契約に死別は関係ないと考えながら不敵な笑みを浮かべたのだ。
「君の妹なら大歓迎だ。早速辺境伯に許可を取ろう」
デイヴィッドはスノーランドまでの経路の確保をしていただろうが、それが全て無駄になろうとも嫌な顔せず了承した。それを見て、ステラは悪い笑みを浮かべながら窓の外を見ていた。
「ステラ姉様!!おかえりなさーーーい!!!」
クラーク邸ではなくイシュトハン邸に戻ってきた一行は、当主よりも先に飛びついてきたクロエの花吹雪で迎えられた。クロエは初めての旅行に行けると聞いて喜びは止まらず、更に、お願いしていた魔導書も手に入ると興奮しっぱなしだった。本当に現金な奴だ。
「ただいま。はい。生活魔法集と建築魔法集、それから魔導書とは違うけど魔石についての研究書があったから写本してもらったわ」
「神降臨!!」
クロエはそのまま分厚い本を奪い取るように駆け出そうとするので、耳をつまんでやる。
「イタタタッ」
「ありがとうございますでしょ?」
「うっかり忘れていました。ステラ姉様、貴重な本を手配してくださりありがとうございます。踊る心が隠しきれません!!」
クロエは本で腕が塞がってスカートを摘めないので、貴族らしく丁寧に膝を少しだけ折ったあと、それが幻だったかのようにバビューンと走り去っていった。
「いや、行かれては困るんだが??」
デイヴィッドはその行動に困惑している。貴族の娘はもっとお淑やかなものだ。クロエも正式な場ではお淑やかを装えるが、魔導書を目の前にして何かを被るのは無理だったようだ。
「いいじゃない。少し休みましょう?私も疲れたし、部屋で少し休むわ。また呼んでちょうだい」
転送装置から転送装置へと移り、その度に時間調整で待機したり、当主への挨拶をするので、疲れてしまった。その状態でデイヴィッドとお茶でもしていたら余計なことまで言ってしまいそうだったので、私は久しぶりの自室に篭ることにした。
大勢いても部屋に困ることはないし、従者にも休憩が必要だ。デイヴィッドはステラの後ろ姿を見ながらそれを止めることはなかった。
「……さま…ステラ姉様!」
パッと揺すられる感覚に目を覚ますと、クロエがベッドに這い上がっていた。少し横になるつもりが寝てしまっていたようだ。
「なに?寝過ぎちゃった?」
「いいえ、夕方出発すると言ってました。魔導書ありがとうございます。とーーっても面白くって、一週間は退屈しない予定です」
貴重な本を一週間で飽きられては困るのだが、たった一週間で全ての魔法を試すつもりなのだ。悪いことではない。
「じゃあどうしたの?誰か呼んでる?」
ステラはそこで初めてムクリと起き上がった。まだ頭はポワンとしている。
「いえ、スノーランドに行ける対価は何かと聞いておこうと思って」
「はあ…」
動かない頭で対価とは何かと考えて目を見開いた。うちの妹、賢いじゃない!
「何かして欲しかったわけじゃないの?」
「クロエ…そんな対価だなんて…そんな意地悪を私が言うとでも?」
「え?はい。何もないのにスノーランドに私を連れて行くと?」
いつからこの子は何もしなくても愛されるということを忘れてしまったのだろうか。いや、忘れたわけじゃないわね。愛されていることは分かっているはず。
「対価じゃなくお願いがあるの。イシュトハン戦記を持っていきなさい」
「それだけ?」
「ええ、それだけ」
クロエはすぐにイシュトハン戦記というこの王国よりも長い歴史を持つイシュトハンの歴史が刻まれた本を持ってきた。
「持っていきたい本が山積みです!」
「大丈夫。持って行くドレスやコートを減らす必要はないわ。バッグを増やしなさいね」
「はい!」
クロエは無邪気に立ち上がり、「お姉様、お任せください!」と頼もしい言葉を言って扉を閉めた。
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