皇太子殿下に捨てられた私の幸せな契約結婚

佐原香奈

文字の大きさ
52 / 52
第二部

強引な婚約

しおりを挟む
 フリードから何の音沙汰もなく、数ヶ月が過ぎた。あの勢いはどこへやら、元々それほど顔を合わせる機会はないが、私を避けているかのように王宮でも顔を合わせない。
 計画が立てられないが、王宮に面会要求をすれば怪しまれるので、アカデミーで教師をしている従兄弟にフリードを呼び出してもらった。


「アカデミーまで来たのか…」


 久しぶりに見たフリードに覇気はなく、若干だが痩せた気がする。


「あの件はどうなったのかしら?」


 クロエからは最近フリードが話しかけて来て迷惑すぎると言われている男だ。作戦は出だしで失敗しているも同然だ。


「クロエの前だと正気でいられない…もっと僕が可愛い時に勇気を出せばこんなことには…」

「オマエは…ナニヲ…言っている?」


 ここはアカデミーから程近い空き家だ。お茶なんて出てこないし、日当たりも良くない。私はここに項垂れるだけの男を慰めに来たのではない。


「まず、共通の話題がない…共通の友人がいない…話しかけるきっかけを作ろうと思うとしつこく付き纏ってる男に成り下がってしまう…こんなはずでは…」

「分かったから、先に縁談を持って来なさいよ。うだうだやるのは婚約者になった後にしなさい。陛下の名前で婿入り求めるのよ。そんなうだうだやってる時間はオマエにはない。他に何もするな。生きたいなら求婚状よ」


 そんなわけで、イシュトハンに求婚状が届いたのは二人がアカデミー卒業の半年前だった。それに対して父に口添えをする。


「クロエが逃げ出す前に後継者に縛り付けるチャンスです」ーーと。


 そうして婚約した彼らだが、ここから結婚に至れるかは彼ら次第。それでもフリードはきちんと婿養子での求婚状を持って来たので信頼が出来た。ダメなら実行するのみ。


 私はその間にせっせと魔力を蓄えることに全力を注ぎ、隙あらば昼寝をし、食事をし、いつ何時でも王宮に乗り込めるような魔力を溜め込んでいた。八割はダリアのおかげだ。残りの二割はデイヴィッドのおかげ。


 王の首を取っても、その場で捕まっては意味がない。全ての作業が終わるまで、全てを制圧しなければならない。
 ダリアは最近流石に少しおかしいと思っているようだが、王位に手をつけるとは考えていないだろう。まだ父が爵位を持っているし、クロエは嫌々ながらフリードと婚約を了承している。


 クロエがもしフリードを選ばなければ、叛逆を企てていることをフリードが知っている以上、こちらも早々に動かなければならない。フリードはあくまで王子で、クロエを手に入れなかったら、彼が守るのは家族となるだろう。


「ステラ、桃を剥いてもらったが食べないか?」

「ティティも!」

「ヘルも食べれるわね。ありがとう」


 魔力が戻ってくれば、体調はすこぶる良かった。夫婦関係で悩むことは皆無だし、少しずつしている社交も順調だ。


「ステラ、明日はダリアに頼んで2人で出掛けないか?」

「少しの時間なら。どこに行くの?」

「遠くに行くわけには行かないから少しだけ街でお茶をしよう。気分転換にいいだろう?」

「えぇ。いいわよ」


 ティティは「私も行くー!」と叫んだが、デイヴィッドは頑なに留守番だと言った。デイヴィッドのことだから何か理由があるはずだった。


ーーしかし、私は普通にお茶を飲んで迎えの馬車に乗っていた。


 二人でのんびりと街に出てお茶をすることなんて、記憶にないほど前のことだ。二人で手を繋いで馬車に乗るのなんて、子供が生まれてからは初めてかもしれない。まるで恋人に戻ったようにすら感じる。


「このまま帰りたくないと思うのに、子供達が心配で早く帰りたいとも思っている。不思議だよ」


 いつも、私を見るデイヴィッドの優しい目が視界の端っこにあって、握られる手からは温もりが伝わって、隣にいるのに離したくないと言われている気がして、まだ好きでいてくれていると分かる。それどころか、ますます愛情深くなった気がしている。結婚前の不安定な感情はまるで見えず、マリッジブルーというのは男性でもなるのだと確信できる出来事だった。


「もう少しだけ二人でいる?」

「そうしたいけど、ステラを独り占めしているとティティに怒られそうだ」

「私が一緒にいたいのだけど?」

 夜も一緒に寝ることが出来ないデイヴィッドと、たまには一緒にいたいと私が思っているとは思っていなかったようで、デイヴィッドは目を見開いて繋ながっている手にギュッと力が入ったのが分かった。


「それは……誘われていると受け取っても?」


 握っていたてはそのまま引かれてデイヴィッドの腕の中にすっぽりと抱きしめられた。

「それでももう家も近いし……この近くだと二本右に入った通りの第四区画かその二件裏の鍛冶屋の二階、左に四本入った通りの遊郭。この近くだけでも二人きりになれるところは意外とありそうですけど、どこに入りましょうか」


 埋めた顔を上げてデイヴィッドにニッコリと笑うと、デイヴィッドはずっと目を逸らした。


「一応弁解するが、やましい事に使う場所ではない」

「それで?」

「それで……考えたが、ステラを連れて行けるような場所は思い浮かばなかった」

「でしょうね」


 私が言ったのは、デイヴィッドが名前を隠して所有している平民街の隠れ家だ。調べたが、愛人を囲っているわけでもなければ女を連れ込んでいる様子は確認されていない。

「勘違いされるような行動をとった覚えはないのだが……見たいのなら後日案内するが…何もないから気は進まない」
 
「そう?せっかくなら遊郭と、街外れの馬小屋と、それから王都のレモネード店の中を案内してもらおうと思うわ」


 夜は毎日屋敷には帰って来ているし、予定も把握している。だが、あえて言わなかった隠れ家については、気になっている。


「本当に…何かあった時のセーフティゾーンとして持っているだけなんだが…」


 この情報をくれたのはお義母様だ。半分は亡くなった前公爵であるお義父様が同じように名前を隠して所有していたらしい。綺麗に整えられたそこで、火遊びを何度か経験したと。だから警戒しておいて損はないと、調べ上げてくれた。

「それはこの目で判断するわ。明日にしましょう。それまで、外部との連絡は認めません」

「明日の朝すぐに向かおう。王都の店まで把握しているとは思わなかったが…レモネード店と遊郭は情報を仕入れるために所有しているだけだからね?」


 デイヴィッドは先ほどまでは少し焦ったように目線が忙しなく動いていたのに、私を膝の間に座らせると後ろから抱きつく形で落ち着いた。


「屋敷の温室で少しのんびりする位なら許されると思わないか?」

「それはいい案ね。夜にデイヴィッドがよく寝ているソファもあるもの」

「よく知ってたな。私だけ一緒に寝ることが出来ないし、一人で寝るのは寂しいんだ。暖かい時は東屋でも寝ていたりする。もちろん結界を張って…だけどね」

「東屋でも寝ていたのは知らなかったわ。私もまだまだね」


 馬車が家に着くと、デイヴィッドと温室に向かった。自宅でゆっくりと二人で散歩することも無くなってしまった今は、とても貴重な時間だった。
しおりを挟む
感想 2

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(2件)

hiyo
2023.05.28 hiyo

とても楽しく読ませて頂きました。
続きがきになります、書いて頂けると嬉しいのですが~お待ちしています♪

読ませて頂いて有難うございます。

解除
ぬこぽん。
2023.05.24 ぬこぽん。

気鋭のデザイナーさんのキャラいいっ!あまりの必死さに憧れ=好意=推し=崇拝。そこに恋愛感情はない!というのが滲み出て思わず笑ってしまいました。

2人の関係もほっこり…で善き哉。このまま幸せになって(誰が言ったか幸せになる事が1番の復讐とか…)無自覚なざまぁに突き進んで欲しいです。続きも楽しみにしています。

解除

あなたにおすすめの小説

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

白い結婚を捨てた王妃は、もう二度と振り向かない ――愛さぬと言った王子が全てを失うまで』

鍛高譚
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

完結 殿下、婚姻前から愛人ですか? 

ヴァンドール
恋愛
婚姻前から愛人のいる王子に嫁げと王命が降る、執務は全て私達皆んなに押し付け、王子は今日も愛人と観劇ですか? どうぞお好きに。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

だってわたくし、悪女ですもの

さくたろう
恋愛
 妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。  しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。 小説家になろう様にも投稿しています。

【完結】姫将軍の政略結婚

ユリーカ
恋愛
 姫将軍ことハイランド王国第四王女エレノアの嫁ぎ先が決まった。そこは和平が成立したアドラール帝国、相手は黒太子フリードリヒ。  姫将軍として帝国と戦ったエレノアが和平の条件で嫁ぐ政略結婚であった。  人質同然で嫁いだつもりのエレノアだったが、帝国側にはある事情があって‥‥。  自国で不遇だった姫将軍が帝国で幸せになるお話です。  不遇な姫が優しい王子に溺愛されるシンデレラストーリーのはずが、なぜか姫が武装し皇太子がオレ様になりました。ごめんなさい。  スピンオフ「盲目な魔法使いのお気に入り」も宜しくお願いします。 ※ 全話完結済み。7時20時更新します。 ※ ファンタジー要素多め。魔法なし物理のみです。 ※ 第四章で魔物との戦闘があります。 ※ 短編と長編の違いがよくわかっておりません!すみません!十万字以上が長編と解釈してます。文字数で判断ください。

婚約者が最凶すぎて困っています

白雲八鈴
恋愛
今日は婚約者のところに連行されていました。そう、二か月は不在だと言っていましたのに、一ヶ月しか無かった私の平穏。 そして現在進行系で私は誘拐されています。嫌な予感しかしませんわ。 最凶すぎる第一皇子の婚約者と、その婚約者に振り回される子爵令嬢の私の話。 *幼少期の主人公の言葉はキツイところがあります。 *不快におもわれましたら、そのまま閉じてください。 *作者の目は節穴ですので、誤字脱字があります。 *カクヨム。小説家になろうにも投稿。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。