皇太子殿下に捨てられた私の幸せな契約結婚

佐原香奈

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第二部

王子の提案

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 フリードの一声で門から出られた私たちはイシュトハン邸に向かった。


「子供達の前でできる話?」

「いや…出来れば秘密裏に話がしたい」

「なら、もう少しダリアにいてもらわないと。大丈夫?」

「私なら別に構いませんけど?そういえばフリードは今年アカデミー卒業でしょう?結婚相手はまだ決まらないの?」

「結婚相手なら決まってる。クロエとしか結婚するつもりはない」


 クロエのことを好きだ好きだと口に出しているとは聞いていたが、クロエから聞く話だと、アカデミーでの生活で二人は一言も話したことはない。てっきり婚約者候補たちを遠ざけるためにクロエを使っているのかと思っていたが、私たちにハッキリ言うということは本気なのかもしれない。

 ダリアはまさかクロエと結婚するつもりがあったとはと驚いている。ダリアは社交界に顔を出すだけでなく、情報を仕入れる努力をするべきだ。


「クロエはイシュトハンを他人に任せて嫁ぐつもりはないと思うけど?」

「まぁ…まぁ…フリードがアホなことはわかった。乳母は帰しちゃったし、二人の話は短めにしてよね。私は庭にいるから」


 クロエは一年後のイシュトハンは自分のものだと張り切っている。ちょうど縁談相手と会う気になって父が見繕っているところだ。クロエにフリードのことはもう頭にない。
 ダリアは屋敷に着くと、騎士服から着替えることもせずティティとヘルを抱えて庭へと向かった。


 フリードがクロエを本気で娶るつもりなら、作戦を早めなければならない。今後、国王が無理に出しゃばってくる可能性もあるし、クロエと無駄に接触されてフリードを殺すことに戸惑う状況も出てくる可能性があるが、王家には死んでもらわなければ困る。


「ステラ、時間がないんだろう?案内してくれ」


 私はやっかいな話でなければ良いなと思いながらフリードを連れて屋敷に入った。


「クラーク家は謀反を起こすつもりだろう?」


 フリードが開口一番に使用人も下げろとまで言う話は、思った以上に核心をついた話だった。兵を集めているわけでもないクーデター計画が表に出ることはないはずだったが、何か誤算があったらしい。


「どうして王家の血筋のクラーク家がわざわざそんなことを?」


 私はお茶を吹き出すこともなく、指先一つ震わせずに口をつけたカップをソーサーに戻した。危うくフリードの顔面に吹き付けるところだった。


「理由はわからなくはない。父は昔からやりたい放題だからな」

「だから、その話にクラーク家になんのメリットがあると?」


 叛逆を企てているという前提で話が進んでは困る。まだ私の魔力は足りていないので、今すぐどうこうするつもりは全くない。フリード一人くらいならばどうとでもなるが、彼もまた魔力は多いので、苦労することになるだろう。


「ステラの魔力の解放や子供達の保護が目的だろう。あとは兄上の王政下では忠義を疑われる可能性がある。クラーク家というかステラとしてはクロエがイシュトハンを継いだ後なら忠義を尽くす理由はなくなる」

「ではクラーク家が王の首を取るのは来年以降となりそうね。クロエはまだ婚約もしていないし、いつになることやら」


 本人を相手に殺すつもりだなんて言うはずもない。この会話に意味があるとは思えなかった。計画に影響はあるが、とりあえず証拠がなければ捌くことはできない。


「すぐだよ。父がクロエを王宮に呼ぼうとしているんだ。無理矢理結婚させるつもりだ」

「そうなの?それでクロエが納得するならフリードも万々歳ね」


 やはり陛下はクロエをフリードの嫁にするつもりなようだ。だが、クロエもその気が無いのに無理強いをするようなら計画を早めるまで。クロエなら王宮で暴れ回ることはないだろうが、明確な拒否はするだろう。それでもまだ時間に余裕はあるはずだ。


「……クロエに王宮での生活は向いていないだろう」


 それを分かっていて何故結婚したいと今更ながら言うのだろうか。フリードの考えが全く読めない。


「ステラ、僕が…イシュトハンに婿に入るのは…どう……思う?」

「は?」


 何度か頭の中でフリードの言葉を繰り返したが、理解が追いつかない。通例ならばアカデミーを卒業すると公爵位と領地が与えられ、国王補佐を務めることになる。フロージアもそうだった。


 婿に入ると言うことは、フリードに爵位は与えられないということ。他国の王族に婿に入ることは往々にしてあるが、それは王配という位が与えられるからだ。しかし、貴族に婿に入るのは全く別の話で、家長制での婿はあくまで妻の爵位を借り受けて名乗るしかなくなる。イシュトハン辺境伯の婿養子でしかないのは、そんなことになれば対策はするだろうが、万が一離縁すれば平民に落ちるという王子の廃嫡と同義になる。


「クロエと結婚するにはこの方法しかないと思ってるんだが…」

「本気…なの?」

「クロエが他の男と結婚するくらいなら……死んだ方がマシだ。想像しただけで吐き気がする」


 私はフロージアに振られた時のことを思い出していた。フロージアにはここまでの覚悟はなかった。


「まぁクロエが決めることよ。だけど、その心意気だけは気に入ったわ」

「なら、ヒューベルトを説得してくれないか?面倒な陛下の対策は考えてある」

「その位ならいいわよ。でも、結婚はクロエの意思が必要。そこまで面倒見るつもりはないから」


 父は婿に来るなら大歓迎だと思うので、特に行動することはないだろう。少し口添えするだけでいい。
 フリードは安心したかのようにようやく覚めたお茶に口をつけた。


「僕が婿に入れば、クラーク家の独立の仲介に入れる。王家と揉めずに穏便に済ませる気はないか?」


 肩の力を抜いてフリードは言うが、どちらかと問う必要もないくらいこちらが本命の話だ。とんでもない提案だ。


「イシュトハンとバーナムも出させると言っても?」

「ダンコーネスも必要だろう。そしてその間にまたがる領地も」

 
 バーナムはダリアの嫁入り先、ダンコーネスは母の実家だ。父にはすでに親戚はいない。あくまでクラーク家の独立を目指し、各々の意思によって一緒に独立するか調整するつもりだ。


「それを許してくれるかしら?」

「同盟国として軍事協定を結べば良い。首を取られるよりかはマシだという結論しか出せないのだから、穏便に済ませるならそこが落とし所だ」


 これは願ってもない提案だ。こちらはなんのリスクもなく王国から独立できる。それにしても、フリードにここまでの頭があると思わなかった。フロージアよりも国王に向いているかもしれない。


「クロエと結婚できるか、それが問題ね」


 私とフリードは固く握手を交わした。「国王はデイヴィッドじゃなくてステラがなるべきだ」という助言めいたことを言いながら去っていったが、ここまで頭が回るのに、クロエとは絶縁状態なのが不思議でならなかった。
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