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味方
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リーチ。
啓示を受けることが出来る人間。
そのメカニズムは解明していない。
しかしその存在の影響は大きく、時には一国の存亡危機にも関わる事もある。
それにもかかわらず、その恩恵を一番受けているのは、リーチ本人ではなく何も知らずにただ平和の中を生きる人々だったりする。
実際にリーチが啓示を受けるようになり、
災害や事故などが未然に防げる様になってからは、世に「犠牲者」と呼ばれる者の数は激減した。
人々は、自分に襲い掛かるかもしれない恐怖に怯えることは無くなった。
だがそれは、ある側面では他に関心が無くなるという事でもあった。
リーチはもちろん、それらを管理して本当の世界を知る側、つまり本来起こるはずだった物事を知る者たちと、
常に平和で、何が起こるわけでもない日々を送る者たちとでは、世界の見え方が大きく
違っていたのである。
2025年の12月時点でのウルチエウィルスでの国内の死者は年間100人あまり、僅かではあるがウィルスが発見されてからその数は毎年増えている。
リーチがこのウィルスで死亡する例が多く、リーチウィルスなどと言う者も出始めていた。当然リーチでない者のウィルス死亡例もあったが、その人物が啓示を受けていたのかどうかはさだかではない。
*
杉崎と星野は、防衛省での聴取が済むと再び茨城県の近江教授のもとへ車を走らせていた。二人はしばらく無言で、それぞれが何かを考えている。
高速道路にきっと世界は平和で
何も心配することなどないと思っている人々が皮肉にも二人と同じ方向に向かって車を走らせている。
気づくと、一面の田畑の中にポツン、ポツンと高圧電線の鉄塔が均等に並んでいる。
杉崎はその光景をしばらく眺めた後、ようやく口を開いた。
「大臣は、明らかに僕らを敵視していない、それどころか今のこの状況。どう思う?」
「はい、僕は窓口役こそ外されたけど。その他の権限やらは何も変わっていません。
むしろこうして動きやすくなりました」。
杉崎は口を覆うように手をあてて考えている。
「大臣が言った、啓示は私たちが授けているわけでは無いって言うのは、裏を返せば
私たち以外の誰かが授けてる、そして関わっているという事になる。
「私たち」と「それ以外」って誰のことなんだ。」
「はい、それは僕も気になっていました。それとウィルスについて、僕たちは近江教授にまだ聞いていないことがある。それだけは確かです。」
「星野さん、ウィルスについては思うところがある。近江教授の研究室に行けば答えが出る気がするんだ」。
杉崎はそう告げるとまた、灰色の曇り空に向かって立つ鉄塔を眺めた。
大学に着いた頃、すっかり日が暮れていた。
車を降りて歩きながらキャンパスを見ると近江教授の研究室のあかりだけが光っている。
すりガラスで部屋の中の情報を全て確認することは出来なかったが、そこに映る影を見て
教授が部屋にいる事がわかった。
研究室に着くと、教授は快く二人を迎え入れた。
マグカップを持つ手と反対の手で二人に座るよう促すとすぐに話し始めた。
「まったく、最近のリーチは無茶な事をする奴がいるんだね。まあ気持ちはわからなくもないが、あまり無茶はするもんじゃない。むやみに火の中に飛び込むことを勇気とは言わないよ」。
先ほど防衛省で起こった内容を近江教授は知っているのを前提で話を始めた。
その事に二人は驚くことはなかった、とくに杉崎にとっては話が早く済む、とまで思っていたほどである。
座っていた杉崎が立ち上がり、部屋の中を歩きながら無造作に置かれた研究資料や試験管をひとつひとつ眺めながら近江教授に質問をはじめた。
「ウィルスと突然の死に関する情報をひた隠しにするのには、何かわけがあるんだと思っています。
きっとなんらかのトリガーがあって死の直前に何かしらの行動を起こしているのではないか。
例えば、「教えると殺される」とか「調べる事で殺される」みたいに」。
部屋にはコーヒーの香りが広がっている。
近江教授は持っているマグカップでそれを飲みながら杉崎の話を聞いている、視線はどこと言うわけでもなくただ一点を見つめていた。
杉崎はそんな近江の反応を伺いながら話を進める。
「もう一つ。金本にしても、
会議で死んだリーチにしても防衛省が殺したとはとても思えない。状況もそうだけど、大臣と直接話してみてよくわかった。
多分、大臣が言っていた。
啓示は私たちが与えているわけではない。
というのは事実。
だとすると啓示を授けているのは誰か、というのが、次の謎になるわけだけど、その前に、はっきさせておきたい事があります。
近江教授、あなたは僕たちに、金本との会話の内容を話してくれましたね」
反応しない近江の代わりに、星野がその時のことを思い浮かべ話した、
「たしか、 釣りの疑似餌の話か」
「そう、その話がなぜか引っかかっていたんだけど、あらためてここにきて確信した。
防衛省は敵じゃない、つまりリーチを殺す必要なんてない。
今まで死因がウィルスだった事ですっかり騙されていた。
ウィルスを使ってリーチに制裁を下していたと思っていたけど、まずそこが間違っていた」。
星野「どうゆうことです?」
杉崎は研究室に無造作に置いてあった小さな親指ほどのビンを握りながらこう言った。
「ウルチエウィルスには致死性は無い、死因を隠す為のただのダミーだ」
啓示を受けることが出来る人間。
そのメカニズムは解明していない。
しかしその存在の影響は大きく、時には一国の存亡危機にも関わる事もある。
それにもかかわらず、その恩恵を一番受けているのは、リーチ本人ではなく何も知らずにただ平和の中を生きる人々だったりする。
実際にリーチが啓示を受けるようになり、
災害や事故などが未然に防げる様になってからは、世に「犠牲者」と呼ばれる者の数は激減した。
人々は、自分に襲い掛かるかもしれない恐怖に怯えることは無くなった。
だがそれは、ある側面では他に関心が無くなるという事でもあった。
リーチはもちろん、それらを管理して本当の世界を知る側、つまり本来起こるはずだった物事を知る者たちと、
常に平和で、何が起こるわけでもない日々を送る者たちとでは、世界の見え方が大きく
違っていたのである。
2025年の12月時点でのウルチエウィルスでの国内の死者は年間100人あまり、僅かではあるがウィルスが発見されてからその数は毎年増えている。
リーチがこのウィルスで死亡する例が多く、リーチウィルスなどと言う者も出始めていた。当然リーチでない者のウィルス死亡例もあったが、その人物が啓示を受けていたのかどうかはさだかではない。
*
杉崎と星野は、防衛省での聴取が済むと再び茨城県の近江教授のもとへ車を走らせていた。二人はしばらく無言で、それぞれが何かを考えている。
高速道路にきっと世界は平和で
何も心配することなどないと思っている人々が皮肉にも二人と同じ方向に向かって車を走らせている。
気づくと、一面の田畑の中にポツン、ポツンと高圧電線の鉄塔が均等に並んでいる。
杉崎はその光景をしばらく眺めた後、ようやく口を開いた。
「大臣は、明らかに僕らを敵視していない、それどころか今のこの状況。どう思う?」
「はい、僕は窓口役こそ外されたけど。その他の権限やらは何も変わっていません。
むしろこうして動きやすくなりました」。
杉崎は口を覆うように手をあてて考えている。
「大臣が言った、啓示は私たちが授けているわけでは無いって言うのは、裏を返せば
私たち以外の誰かが授けてる、そして関わっているという事になる。
「私たち」と「それ以外」って誰のことなんだ。」
「はい、それは僕も気になっていました。それとウィルスについて、僕たちは近江教授にまだ聞いていないことがある。それだけは確かです。」
「星野さん、ウィルスについては思うところがある。近江教授の研究室に行けば答えが出る気がするんだ」。
杉崎はそう告げるとまた、灰色の曇り空に向かって立つ鉄塔を眺めた。
大学に着いた頃、すっかり日が暮れていた。
車を降りて歩きながらキャンパスを見ると近江教授の研究室のあかりだけが光っている。
すりガラスで部屋の中の情報を全て確認することは出来なかったが、そこに映る影を見て
教授が部屋にいる事がわかった。
研究室に着くと、教授は快く二人を迎え入れた。
マグカップを持つ手と反対の手で二人に座るよう促すとすぐに話し始めた。
「まったく、最近のリーチは無茶な事をする奴がいるんだね。まあ気持ちはわからなくもないが、あまり無茶はするもんじゃない。むやみに火の中に飛び込むことを勇気とは言わないよ」。
先ほど防衛省で起こった内容を近江教授は知っているのを前提で話を始めた。
その事に二人は驚くことはなかった、とくに杉崎にとっては話が早く済む、とまで思っていたほどである。
座っていた杉崎が立ち上がり、部屋の中を歩きながら無造作に置かれた研究資料や試験管をひとつひとつ眺めながら近江教授に質問をはじめた。
「ウィルスと突然の死に関する情報をひた隠しにするのには、何かわけがあるんだと思っています。
きっとなんらかのトリガーがあって死の直前に何かしらの行動を起こしているのではないか。
例えば、「教えると殺される」とか「調べる事で殺される」みたいに」。
部屋にはコーヒーの香りが広がっている。
近江教授は持っているマグカップでそれを飲みながら杉崎の話を聞いている、視線はどこと言うわけでもなくただ一点を見つめていた。
杉崎はそんな近江の反応を伺いながら話を進める。
「もう一つ。金本にしても、
会議で死んだリーチにしても防衛省が殺したとはとても思えない。状況もそうだけど、大臣と直接話してみてよくわかった。
多分、大臣が言っていた。
啓示は私たちが与えているわけではない。
というのは事実。
だとすると啓示を授けているのは誰か、というのが、次の謎になるわけだけど、その前に、はっきさせておきたい事があります。
近江教授、あなたは僕たちに、金本との会話の内容を話してくれましたね」
反応しない近江の代わりに、星野がその時のことを思い浮かべ話した、
「たしか、 釣りの疑似餌の話か」
「そう、その話がなぜか引っかかっていたんだけど、あらためてここにきて確信した。
防衛省は敵じゃない、つまりリーチを殺す必要なんてない。
今まで死因がウィルスだった事ですっかり騙されていた。
ウィルスを使ってリーチに制裁を下していたと思っていたけど、まずそこが間違っていた」。
星野「どうゆうことです?」
杉崎は研究室に無造作に置いてあった小さな親指ほどのビンを握りながらこう言った。
「ウルチエウィルスには致死性は無い、死因を隠す為のただのダミーだ」
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