Ex冒険者カイル

うさぎ蕎麦

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4章

88話「リンカの忠告」

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 ―仔羊の間―


「直接のご教授ありがとうございました!」

 学長室では、カオス学長直々の指導を終えた生徒が元気良くお礼の言葉を述べていた。
 
「これも私の仕事だ。 礼には及ばん、君達の先輩カイルを越える様頑張るのだぞ」

 厳格さの中にも優しさを込めた言葉を返すカオス学長。
 初老でありながらもその容姿の美しさは並みの若い者に負ける事は無いであろう渋い輝きを放っている。

「はい! カイル先輩を目指して頑張ります! 失礼いたしました!」

 生徒が学長室を去り、数分した所でノックの音が聞こえて来た。
 カオス学長が「入れ」と告げた後にドアが開かれた。

「カオス学長、報告に参りました」

 中に入ったのはルッセルだ。
 彼の姿を見たカオス学長は「そうか」と一言呟いて、

「たまには姿を変えなくても良かろう」

 カオス学長は、僅かに口元を緩ませルッセルに報告を促した。
 ルッセルは敬礼をし、カイル達の身に起こった事を報告した。

「そうか。 ルミリナとやらには姉が居るのではなかったか?」
「はい、おります」
「ならば、そやつも同じく聖女の血を引いてるやもしれぬ」
「つまり、次魔族から狙われるのは彼女であると」
「そうだ。 聖神の杖の性能を上げる為に姉の力が必要になる可能性は考えられる。 幸いな事に聖神の杖の在処を掴む事が出来ておる。 恐らく魔王軍は聖女を連れ杖の奪取するだろう」

 カオス学長が1つ間を置いた。

「我々が出向いてルミリナさんの救出、聖神の杖を入手すれば宜しいでしょうか?」
「そうだ。 姉もルッセル君の近くに要るのが一番安全故、彼女の同行も忘れぬよう」
「了解しました」
「勇神の剣については後程伝えよう。 以上だ。 任せたぞ」

 ルッセルはカオス学長に敬礼し、一礼すると学長室を後にした。


―カイル―


 ルッカさんとアリアさんのやり取りから3日経過した。
 あれからルッカさんは、相変わらず俺の家まで朝ご飯を作りに来てはくれるが、ヴァイスリッターへ顔を出そうとはしなかった。
 俺に対する応対も何かを引きずっていると言う事も無く今まで通りのルッカさんと言えばそうだと答えられる。
 ただ、僅かながらに引っかかる気はするのだけど。
 ヴァイスリッターへ行く事は、誰かから特別な指示を受けてない限り気が向いた時で良いからそこに関して干渉する気は無かった。
 結局、ルッカさんに対して自分が何か言う事も出来ないから時間の経過に身を任せるしか無くって、少しだけ自分の無力さを痛感する。
 今日もまた、じゃあ、とルッカさんが帰り際に放った唯一の言葉を思い返しながらこの後の予定を考えている。
 ルッセルさんに指定された日まで後2日ある。
 色々考えた結果、俺は気分を紛らわせる事も兼ね冒険者ギルドへ赴く事にした。
 冒険者ギルドはいつもの様に賑わっていた。
 俺は依頼を請ける為、相変わらず担当者の人気の乏しさをかもし出す列に並んだ。

「カイルさんですか☆ あはっ、お久し振りですね☆」

 今の今まで他の冒険者に対し不貞腐れた態度で応対をしていたリンカさんが手の平を返し太陽の様な輝きを示しだした。

「どうも、お久し振りです」

 そんなリンカさんとは真逆に俺は感情の籠っていない返事をした。
 少しばかり、この人に会ってみれば何か心境の変化が起こると思ったが、残念ながら今のところは何もなかった。

「えへへ。カイルさんの噂知ってるんですよ? 凄い武器を手に入れた事とか☆」

 にこやかなリンカさんだが、彼女が考えている事は概ねお金に関する事だろう。
 
「いや、アレはギルドの方で管理する事になりましたから」
「そうなんですか~? それは残念ですね~?」

 ここでリンカさんが真顔になる。
 やはりいつも通りのリンカさんか。
 それはそれで少しばかりホッとしている自分が居るのも不思議なものだと思う。
 数秒程間をおいて、俺の後ろに誰も居ない事を確認したリンカさんが少しばかり身を寄せ小声で、

「私はセフィアお姐さんよりも人生経験積んで無いけど。ルッカちゃんだっけ? あの娘に関わり続けると貴方の命が危ないわ」

 お金の話じゃない?
 あのリンカさんが真面目な話をするのは予想出来なかった。

「そうですか? ルッセルさんからは若いならそんなもんとは聞いてますけど」

 確かにルッカさんの行動は無謀な面はあるけど、俺やルッド君の補助で対策は出来てる。
 この前のケースが例外だっただけと思いたいところだけど、リンカさんが見せる真剣な表情からその事が正しいと言える自信は無い。

「ギルドマスターがそう言ってるなら少しは大丈夫と思う。 でもだからと言ってルッカちゃんに対して悪い感情を抱いていない貴方は噂通りのお人好しよ」

 アリアさん程で無いにしろ、珍しくキツメに言って来るリンカさんだ。

「そうですか? 俺は気にする事は何もないって思ってる程度ですけど」
「あくまで私から見た話だけど。 ルッカちゃんみたいな無謀な冒険者は何人も見て来ている。 彼等が返って来なかった事も何度も見て来ている」

 それはつまり、魔物や事故により命を落した事だろう。
 冒険者をやる以上ある程度は仕方が無いと思うが。

「私が把握してる噂の限り、今はまだ貴方が指揮権を握れている。 これが練習だからとルッカちゃんが指揮権を握ったら? もしもギルドマスターがルッセルさんから脳筋に変わったら? 貴方の命が危険に晒される事になるわ」

 確かにリンカさんが言ってる事も正しい。
 いつかどこかで可能性としては十分有り得る話だ。
 だからと言ってルッカさんを否定する必要は無いと思うし、俺がもっと強くなれば解決する気がする。

「ルッカちゃんは貴方の恋人では無いのでしょう? いえ、仮に恋人だとしても命の危険を晒す女性ならば別の女性に変えなさいと助言するわ」

 リンカさんがいつに無く真剣な眼差しをしている。
 おや? リンカさんの近くに居る冒険者ギルド員達がひそひそと話す声が聞こえる。
 どうも、俺とルッカさんを切り離してリンカさんが俺を捕まえ様としてるとかなんとか、か。
 少なくともリンカさんからそんな空気は感じ取られないが。
 それに気付いたのか、リンカさんは彼女達に視線を向け変な事言ってんじゃないとでも言いた気に、にっこりと笑顔を見せ視線を俺の元へ戻す。
 
「カイル君からしたらちょっと年上かもしれないけど、アリアちゃんはどうなの? 色々噂立ってるわよ?」

 周囲の噂話の影響され、自分はそんな胎じゃないとアピールするリンカさんだ。

「いや、ただでさえ男性に興味を抱かないアリアさんが俺に興味あるとは思えませんよ」
「そう? 噂を馬鹿に出来ないわよ? そう思ってる誰かが居る訳で。 あの男性拒否で有名なアリアちゃんで一蹴されるハズの話が否定されないって結構重要な事よ?」

 そんな事言われても俺に思い当たる節は無いんだけど。
 うーん、ルッカさんとアリアさんの一件で誰かが勝手に勘違いしたのかなぁ?
 ヴァイスリッターの中だけでも沢山の人がいるし、あれだけ大きな声で騒いでたら絶対結構な人が見聞きしたと思うし。
 うん? アリアさんの話題が出たせいか知らないけどまた周りがひそひそと話し始めたぞ?
 何か俺の悪口を言われてる気がしなくも無いが。
 悪かったな、新人冒険者の癖にアリアさんと会話して、だったらアンタらもヴァイスリッターに入れば良いだけだろ。
 全く。

「そ、そうね。 今度エリク様にお茶のお誘いでも」

 リンカさんもそれに気付いたらしく、無理矢理に話題を変えてくれたみたいだ。
 
「そうですね、聞いておきます」

 確かエリクさんもリンカさんに対する反応は良かったし特に問題は無いだろう。
 話が落ち着いた所で、程良い魔物討伐依頼を請けた。
 闘神の斧のお陰もあり、あっさりと依頼をこなすと程々の報酬を受け取り後は適当に過ごし出発の日を迎えたのであった。
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