【完結】死に戻り王女は男装したまま亡命中、同室男子にうっかり恋をした。※R18

かたたな

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顔合わせと逆行の真実。

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 文化祭から数日。
 お祭り気分も落ち着き、学生が次は冬休み!とウキウキし始めた頃。
 
 「ついに・・・ついに来てしまった。」
 「大丈夫よ、何とかなるわ。笑顔で乗り切ればいけるわよ!」
 「兄さんが隣国の元女王の美人連れて来ただけでも驚くのに、その女王は現国王の弟で学園長の娘になって・・・兄さんはそこに婿入りするなんて。」
 「お兄ちゃん説明ありがとう。私まだ状況飲み込めてないよ。」
 「にーちゃん、ねーちゃん。美味しいご飯いっぱい食べれるかなー?」

 コハクさんのご家族がお母様に呼ばれ顔合わせを兼ねてお食事をという話になっていた。

 今日は離れて暮らす学園長の子供達で私の兄妹となった人達とその家族も集まる。末っ子以外は結婚しているそうだからなかなか大人数だ。


 ・・・・・・


 ・・・


 コハクさん一家はとても緊張した面持ちで挑んだものの。


 「あぁ、何て愛らしいんだろう!」
 「愛らしいだなんて、そんな事言われたの初めてでどうしたら良いか。」

 ポッと可愛らしく頬を染めるコハクさん妹。そんな彼女をうっとりと見つめ口説くその人は。

 「そんな所も初々しいね。いいんだ、これからは僕が君に愛をささやくから。」

 学園長が私に縁談を進めていた18歳の末っ子・・・いえ、兄。コハクさんの妹に一目惚れして変な空気になっていた。

 「あの、コハクさんの妹って確か10歳でしたよね?」
 「うん・・・。」
 「・・・。」

 この人・・・そう言えばしっかり者なのに恋人居ないって、そもそもの好みが・・・何というか。極端にお若い子がお好みという事で?
 
 「本当にごめんなさい、うちの息子が・・・思わぬ好みを知ってしまったわ。」
 「え!!あぁ、いえ。」
 「後でゆっくり息子から事情を聞こう。本当に申し訳ございません。」
 「あ、ははっ。」
 「はははっ、何を言っているんですか。八歳差なんて良くある年齢差です!!」

 本人は両親を目の前に正当だと爽やかに主張する。

 学園長とお母様は謝罪ムードでコハクさんのご両親もどうしたら良いか困っていた。
 だけど現場の緊張感というか上下関係から出来る壁が薄れ、和やかに食事会が進み、両親に注意された兄になる人はコハクさんの妹への口説きを自重した。

 兄妹になる7人は母親の病を治した恩人としてとても感謝され、今後力になると約束してくれる。
 とても心強い人達に囲まれる事になった。

 一番上のお兄様は第三騎士団の団長。
 二番目・三番目は双子の御姉様で第二魔術師団の団長と副団長。
 四番目は優秀な治癒師
 双子の五番目は画家、六番目は占星術師。
 最後の七番目は教師を目指す学生。

 ・・・皆さん学園長の子供と思えない程人間味がある。御母様の人柄がいいからかな。

 「学園長が自分の息子と縁談を考えていたって聞いて心配だったけど少し安心した。・・・いや、新しい不安はあるんだけど・・・。」

 本気なら全然良いんだけどね?と言いながらも目の前で口説かれた妹を見て複雑そうな顔のコハクさんだった。

 だけど10歳で恋愛小説が好きな彼女は貴族からのアプローチを純粋に嬉しそうに受け取っていた。この子が傷つかない事をコハクさんと共に祈る。
 
 二人で祈っていると占星術師の御姉様が私に近づいて穴が開くほど見てくる。

 「貴方には3つの星が見えるわ、不思議。」

 ミステリアス過ぎる雰囲気を持つ彼女は私の眉間を人差し指でグリグリと押しながら言う。

 「貴方の想い、忘れてる。」
 「痛い、痛いです。」

 指が離れ、少し痛い眉間を触ると何かがいっぱい入った袋から一粒の石を取り出す。小指の先程の本当に小さな欠片。

 「この子が貴方の所に帰りたがってる。」
 「これは・・・魔石の欠片じゃないですか?」
 「安くしておくわ。」

 お金取るんかい。
 困っていると、お母様が困った顔で現れて御姉様の手に何かを握らせる。御姉様はフフッと笑って料理の並ぶテーブルへ向かった。

 「ごめんなさいね、驚いたでしょう?」
 「はい、少し。」
 「でもあの子の言う事は結構当たるの。その魔石の欠片。力は失われているみたいだけれど大切にしてあげて。」
 
 濁っているその欠片を眺めてから「分かりました。」と手に握った。

 それなのに、失くならない様に入れ場所を探して再び手を開くと無い。

 これはマズイ!?と平静を装い会場中を歩き回り探したのだけど見つからず。
 会場を歩き回ったものだから積極的に交流しようとしていると勘違いされて御兄様と御姉様達にとても絡まれて終わった。


 慣れない人達との交流と、歩き回った疲労で眠気はいつもより強く。


 その日はベッドに入るとすぐに寝る事が出来た。



 そして私は過去の記憶を見ていた。



◆◆◆◆◆◆



 わぁぁぁぁ!!

 人々の歓声が聞こえる。
 私の体が地面に崩れ落ちると急激に体から体温が奪われていく気がした。
 寒い、寒くて寒くて手も動かせない。


 いや、違う。


 私は死ぬんだ。

 
 私が愚かだったから死ぬんだ。


 涙も出ない。


 もうこれで終わりなんだ。


 誰かが私の体を持ち上げて雑に放り投げるのに痛みも無かった。
 
 周囲は何処かの山の中。
 きっと魔物に食べさせるつもりだろう。
 私の国では魔物に食べられると魂が二度とこの世界に戻らないっていう話を聞いたことがあるから。


 何故まだ考える事が出来るのだろうか。
 私は死んだのでは無いのだろうか。


 考えているうちに、この場に似つかわしくない春風がフワリと吹いた。


 「一人の女性に全てを押し付けて、こんな事をして・・・」


 最近では感じる事の出来なかった優しい手が動かない私の頭を撫でた。


 「叶うなら、この女性の魂が希望に満ちた未来ある世界へ行ける様に。」


 その言葉が聞こえたかと思うと、空に吸い込まれる様にフワリフワリと体が軽くなった。気持ちいい。この風をずっと感じていたい。

 「もっと早く流れを読んでいたら助けられたのかな・・・いや、今の俺にはそんな力は無いか。ごめん、助けられなくて。」

 ポツリと呟く青年に胸が締め付けられる様に痛くなる。そんな風に思わなくて良いのに。ただ私が愚かだっただけなのだから。

 動かない私の体を抱えると柔らかい草の上に寝かせてくれる。彼は何を考えたのか、綺麗な花を摘んで来ては私の周囲に飾る。

 「昔、お爺ちゃんがこうして死者を送るって教えてくれた事があるんだ。ちゃんと出来ているか分からないけど。」

 暫く綺麗な草花で私を飾る作業が続いた。
 こうしている間にも魔物が近くに来るかも知れないのに。

 「うん、綺麗。」

 そう言ってから、彼は何かの言葉を呟く。
 それは死者を天の安住の地へ送る言葉で、私にもその場所へ行けるように願ってくれる人が居る事に信じられない気持ちになる。

 彼のその優しさに魂が震えた。

 私の希望は貴方だ。

 こんなボロボロな私に手を差しのべてくれる貴方に死ぬ前に出会いたかった。


 フワフワしていた私の魂がキラキラと集まり結晶化すると世界が巻き戻る様に動き出す。


 私自身の魂が魔石化した瞬間だった。


 彼に生きて会いたい。そう思うのに優しい彼を不気味に感じるこの目が憎い。纏う魔力なんて見えなければいい。

 そう願うと結晶化する魂から纏う魔力の見える性質が溢れ落ちる。

 あの人に会いたい。だから別の世界ではなく、やり直す・・・この世界で。


 

・・・


 あ、でも待って。こんな弱い私のままやり直しても同じ結末になってしまう。

 巻き戻る世界を眺めながら考えていると突然目の前が光る。

 『こんにちは~。』
 
 あ、あの、貴方は?

 『ボク?気になる?当ててみて~』

 ちょっとうざい性格の光る何かが・・・。

 『ひどい言い様~考えたこと筒抜けだからね~』

 ご、ごめんなさい。あの、もう一度ここに戻って来た時に生き残れる何か術が欲しいのですが・・・。

 『ふむふむ。なかなか波乱万丈な人生。じゃあ君の前世の記憶思い出させてあげる。』

 前世の・・・記憶?


 『あ、でも、前世の記憶を思い出す手伝いはしてあげるけどボクと会った記憶は前後含めて捨てさせて貰うよ。ポイッ』

 その言葉と共に魔石となった魂から一粒の欠片が落とされた。

 私の処刑されてからの記憶の欠片はコハクさんとの大切な記憶だったのに簡単に捨てられてしまい、キラキラとした色を失いながら地上に落ちる。その行方を見届ける事も出来ず巻き戻る世界を眺めた。


 ・・・


◆◆◆◆◆◆



 ハッ!と目が覚めると新しく出来た私の部屋だった。


 だいぶ寒くなったと言うのに汗をかいて衣服をじわりと湿って気持ち悪い。
 

 「おはようございますヒスイ様!・・・大丈夫ですか?顔色悪いですよ?」
 「ガーネット!メノウも近くにいますか?」

 あれは本当に夢だったのだろうか?
 多分違う、逆行が起こった時の記憶だ。私は自身の魂で魔石を生成して世界を逆行させたんだ。
 コハクさんに会うために。

 魂を魔石に変えて逆行させるなんてなかなか狂った発想だ。だけど5年程の時を戻すなんて流石は強大な魔力を与えられる我が王族。
 考え込んでいるとひょっこりメノウが顔を出す。

 「居るよぉ。」
 
 いつも通りやってきたメノウとガーネットの手を取り握る。ちゃんとここにいると感じたくて少し強く握り過ぎたかも知れない。
 二人が困った顔で笑っている。

 「今日のヒスイ様は甘えん坊ですね。」
 「女の子に甘えられると弱いなぁ。」
 「あら?ヒスイ様に手を出したらダメだよ。私だけにして。」

 いつもの会話がさっきの事はただの記憶なんだと思わせてくれる。

 「ガーネット、メノウ。生きていてくれて嬉しいんです。とても嬉しい。」

 手を離し、二人を抱き寄せると大人しくされるがままで居てくれる。

 「俺たちを救ったのはヒスイ様でしょ?」
 「そうですよ?どうしたんですか、怖い夢見たんですか?」

 怖い夢、そうだと思う。

 「貴方達を救えない、ただ愚かだった私の夢です。」

 ガーネットとメノウが私を抱き締めてくれる。

 「そうなってもおかしくなかった状況でした。」
 「そうだよねぇ。救われたって事の方が驚いたよぉ。貴女はとても年相応に見えない、人生何週かしてるんじゃないかってくらいにしっかりしてるから出来たんだろぅけど。」
 
 その言葉にドキリとして二人の顔を見ると、とても優しい表情をしていた。

 「貴女が普通の少女だったなら、死んでも仕方なかったし救われなくても貴女を恨むことは無いんだよぉ。」
 「そうですよ!ヒスイ様。」
 「メノウ・・・ガーネット・・・。」

 暫く二人の存在を確かめながら泣いた後、私はもう一人の会いたい人を思い浮かべる。

 
 早くコハクさんに会いたい。


 「ガーネット!私をとびっきり可愛く出来ますか?」
 「ヒスイ様はいつもとびっきり可愛いですが、このガーネットに任せて下さい。」

 いつものガーネットに元気を貰いながら私は身支度をした。

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