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文化祭
しおりを挟む「わぁ!!すごい。」
見慣れた学園が学生達によって賑やかに飾り付けられて別の場所の様に感じる。
寝ている間に大きく変わった風景を眺めると何処を見ても面白くて何から見ようか悩んでしまう。
だって今日は文化祭最終日。
今日しか楽しめない。
ガーネットとメノウはせっかくの文化祭デートだからと無理矢理休暇を取らせた。
研究開発科の私の当番もメノウとガーネットがやってくれたそうだ。
メノウがガーネットの売り子姿が可愛かったと何回も言っていたな。
本当にありがとう。
私が魔石を生成した事は上位貴族の一部に伝わってしまったそうだ。これからどうなるか不安が残る。きっと、今しかこんなにゆっくり出来ないんだろうな。
それにせっかくのお祭り騒ぎを二人で楽しんで欲しかった。
私達もだけど。
「コハクさん!まずはアレ見ましょう!次はあっち。」
「そんな急ぐとはぐれるよ。」
キョロキョロ見回しては興味がある所へ駆け込んで行くとコハクさんに注意されてしまう。
だけど行儀良くしていたら終わってしまう。ウズウズして仕方ない。
「はい、これで大丈夫。」
私の考えを理解してか手を繋いでくれるコハクさん。耳に付けている互いの婚約の印が揺れて私達の関係を主張している上に手まで繋いでいる。
これってバカップル?いや、良い!文化祭とはハッチャケるものだ!!
「私に遅れず付いてきて下さいね。」
「勿論どこまでも行くよ。」
朝から私達は学園中を走り回った。
・・・
ゲーム系の出し物を見つければコハクさんと競い。張り合ってはコハクさんに負けてを繰り返す。
「コハクさん、たまには負けてやろうって思わないんですか?」
「手加減したらしたで手加減するな!って言うだろ?」
「言いますね。」
負けてムカムカするのに私の事を分かってる彼に不思議と嬉しくなる。
「はい、どうぞ。今年の学園屋台選手権優勝候補の料理を確保したよ。」
「ありがとうございます。」
遊び続け、お腹が減った所で学園の庭にある噴水の縁に腰かける。料理を眺めると見るからにどれも美味しそうだ。どれから食べるか考えて居ると、その内の一つを取り私へ差し出す。
「ヒスイ、あーん。」
周囲を見渡すと人で賑わっている。コハクさんってそんなキャラだっけ!?でもいいか!何たって文化祭だから。
「ぁーんっ。・・・うん、美味しいです。」
「・・・。」
美味しいと食べると何故かコハクさんの顔がみるみる赤くなり周囲をチラチラ確認している。
「少しからかってみようと思ったら少しも照れずに食べるなんて思わなかった。」
「それで照れてるんですか?」
「・・・うん。」
からかうつもりが恥ずかしくなるなんて。ふっと吹き出すとコハクさんも恥ずかしそうに笑ってくれる。
だから私もお返しに「あーん」とした所。
「そこのバカップルさん。こんにちは。」
「ん、あぁ。いつかのコハクさんのお友達の。」
「今、休憩入ったの?」
そこにやって来たのは貴族寮で会ったコハクさんのお友達だった。名前何だっけ、忘れた。
「そう、やっと医務室の当番終わった。それより聞いたよ、学園長の所の養子になったんだって?君の婚約者は。
で、そこにコハクは婿入りすると。俺より家格上がるじゃないか。驚いたよ。」
「成り行きでね。」
「俺の貴族マナー講座がこんな風に役に立つなんてな。だけどこれからは周りにとやかく言われず遊べるな。卒業したら飲みに行く?」
「いいね。」
冗談も交えながら気さくに話す二人が私にとっては微笑ましい。
「貴族マナー講座?」
「そうだよ。」
私が聞き返すとコハクさんの友人が返事を返してくれて、コハクさんは少し困ったように笑った。
「コハクはさ、いつか女王が帰ってきたら彼女の役に立てる存在になりたいって言って俺に貴族のマナーとか色々教わりに来てたんだよ。それで仲良くなったんだよな。」
「コハクさん・・・」
「あはは。」
私が祖国に帰ってから、そんな風に努力してくれていたなんて。
「いやー。昨日急に父親に呼び出されて、アスティリーシャ・グレングールシアの心を何としても射止めて来い!って言われた時はコハクの顔が浮かんでどうしたものかと思ったよ。穏便に済んだ様で安心した、友情は守られたな!」
「そんな話になってたの!?」
「貴族で婚約者が居ないヤツは皆が言われたんじゃないかな?具体的に何故かは話されなかったけど。」
「・・・。」
「学園長の養子になったから・・・ではないか、詮索するつもりはないけど。」
この友人はアッサリしていて助かる。コハクさんを大切に思う友人なんだなと安心しながら料理を食べていると女子生徒が目の前に飛び出して来た。
「それ、どういう事?」
可愛らしい見た目とは裏腹に鋭い眼光で睨むラピスさん。
こっわ!目付きこっわ!
「ラピス?何でお前が怒ってるんだよ。」
「ベリル、貴方何のんきにお喋りしてるの?こんな人と。」
突然のラピスさんの登場に驚きながらも柔らかい風を感じる。多分、コハクさんが番のフェロモンを察知しないように風を作って流している。そよ風の中で食べるご飯は美味しい。
「ラピスが彼女に何かされた訳じゃないだろ?コハクがラピスの番でもそれを越えて彼女と一緒になったってのは今や周知の事実だしさ。」
「だって、だって!!この人だけどう考えてもズルいじゃない!!どっかの国の元女王ってだけで魔力にも恵まれてチヤホヤされてさ。生まれた場所が良かっただけの人じゃない。」
番を越えて結ばれたとかロマンチック。それが周知の事実だって!?ラピスさんもそこを否定しないし周囲の認識を知れて嬉しい。
「多くの貴族から縁談が見込めるんでしょ?コハクを解放して。私の番なの。」
「ラピス・・・。」
今、コハクさんが番のフェロモンも流してるはずなのに彼女はコハクさんを求めている。
それはつまり、番だとかは関係なくコハクさんが好きだという事だ。
恋が叶わない。それは本当に辛い事だと思う。私がトロルゴアに戻った時、ラピスさんが恋人なんだと勘違いしてとても辛かったから。それが運命の番という関係なら辛さも増すのかも知れない。
「・・・。」
「何か言いなさいよ、泥棒。」
だって何か言ったらきっと怒るよ?この人。どうするかな。
「ラピス、俺はヒスイと婚約解消されたとしてもヒスイの側にいて彼女の役に立つって決めているから君を選ぶ事は無いよ。それに、他人が良く見えるのは仕方ない事だけど、その人の苦労を見ようともしない君じゃないはずだよ。」
コハクさんの言葉に顔を歪める。
「私の事分かってるような事言って・・・私の事を好きじゃない癖に。」
コハクさんが自分を好きじゃないと理解しているのか。それなのにこの行動力。凄い。
「ねぇ、ラピス?番じゃなくても婚約者の居ない男なんていっぱい居るんだからさ。今は文化祭を楽しもうよ。失恋を忘れられる様にさ。」
この言葉にジロリとベリルさんを見るラピスさん。
「・・・じゃあベリル、貴方が私と付き合ってよ・・・貴族だしイケメンだし、頭いいし
。」
「うんうん、勿論・・・え?」
その返事にラピスさんが私達二人を見て勝ち誇った笑みを浮かべる。
「私を選ばなかった事、絶対後悔するから。だけど私はもうベリルとラブラブになるから後悔しても遅いからね。」
「思わぬ急展開。手間省けていいけど。」
「いこう、ベリル。」
嵐の様な感情をぶつけられ、ベリルさんの腕に自分の腕を絡めて去っていく。その姿を見ながらコハクさんが「ラピス、自分から泥沼にハマりに行ったな・・・。」と言った言葉が気になった。
そんな嵐が去ってから。
「さっき、ヒスイが言い返さなかったの意外だった。君って結構悪口をさらっと流すよね。」
「悪口は立場上、昔から言われなれてますから気にしても無駄と言いますか・・・。それに恋が叶わなかった時の辛さはよく知ってます。だから彼女も辛いだろうなって。」
「・・・それって。」
コハクさんが何か言おうとして止めた。少し悲しそうに下を向くものだから何か心配になる。
「どうしてコハクさんがそんなに悲しそうな顔をするんですか。」
「ヒスイにとって、元婚約者の事が凄く辛かっただろうなって思って。」
元婚約者の事は確かに辛かった。共に協力しながら国を良くしようと勉強して、両親亡き後は国を一緒に支えて多くの事件を防いだのだから。
そんな人に陥れられたら立ち直れない。人を信じるなんて出来ない。・・・と思ってはいた。
「辛かったですけど、そのどん底の私を救ってくれたのがコハクさんでしょう?人を信じるなんて出来ないって思いながら、コハクさんの事はあっさり信頼してしまって。これで貴方にも裏切られたら生きていけません。」
「裏切らないよ、絶対に。」
誰しもが出会ったら惹かれ合ってしまう番の存在。それにも惑わされなかったこの人なら絶対に裏切らない。そう思える人に出会えたのは幸せな事だと思う。
「だけど、元婚約者の話は信頼していた人に裏切られたらって話で失恋が辛かった話ではありませんよ。」
「恋愛経験豊富なの?」
「ぷっ、ははは。」
どことなく拗ねた表情に笑ってしまう。見ていて飽きないし感情を読むのが容易くて安心させてくれる人だ。
「トロルゴアに帰ってきた時、ラピスさんとコハクさんが良い仲なんだと勘違いして私も荒れてたじゃないですか。子供達と花束作っていたコハクさんにこの薄情者!って。」
「あぁ、あったね!あれってそういう意味で怒っていたの?」
「そうですよ。あの時の自分を思い返してみると、ラピスさんと大差無い状態だったと思います。気持ちが分かるから何も言えませんでした。」
自分は本当に性格が悪い。あの時つくづく感じた事だった。しみじみ思っているとコハクさんを見れば口元が緩み妙な顔になっている。
「ヒスイが、嫉妬してくれてる。嫉妬するのは俺だけかと思ってた。それにさっきのラピスと大差無いって・・・そんなに思ってくれてるんだ。」
口元に手を当てて、ニヤニヤするのを隠しているみたいだけど丸わかりだった。
「ラピスから向けられる激しい感情表現に困っていたんだけど、君から向けられると思うと凄く・・・良い。」
「嫉妬なんて日常茶飯事です。コハクさん、呪印が関係なくなるとモテすぎですから。角持ちはモテないって言った癖に。嘘つき。」
今度は私がふんっと息を吐いて拗ねるとニヤニヤが止まらない顔で覗いてくる。
「私達、バカップルですね。」
「そうだね。」
その後も文化祭の最後の最後まで学園を歩き回り、私達はへとへとになって帰った。
学園長邸から迎えが来て私は馬車に乗り込み、それを見届けたコハクさんは寮へ帰っていく。
明日からは片付けだとかまた色々有るだろうけど、それもまた楽しみで仕方なかった。
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