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一度目のアスティリーシャ。
しおりを挟む「ガーネット、メノウ。私、変ではありませんか?」
「身だしなみはバッチリ可愛いですよ。今日のヒスイ様に合わせて少し甘めにセットしてあります!」
「強いていうならぁ、態度が朝から変だよねぇ。ただの女の子って感じぃ。いや、気品や風格はあるから例えるなら平和な国のお姫様かな?」
「や、やっぱり・・・変、ですよね。」
悪夢を見てから、あの頃の感情が甦り「いつもどうしてたっけ?」と思うほどよく分からなくなっている。
「乙女なヒスイ様に意地悪しないの。」
「ごめんねぇ、あまりにも新鮮で。」
「今のヒスイ様は少しの悪口でも泣きそうだもんね。」
酷い言われようだ。
本当に今までどうしていただろう。
そう話している間にコハクさんの教室に着いた。
私の方はと言うと、授業内で出された課題を終わらせた者から退室していいという話だったので爆速で終わらせてやってきた。
教室の入り口が運良く空いていて、そこからチラリと覗く。
「コハクさんが真面目に授業を受けてます!」
「授業中ですからね。」
「婚約者相手に憧れの舞台役者にでも会うみたいな眼差しだねぇ。」
「婚約者・・・胸がドキドキしてきました。カッコいい。」
背後に居る二人はもはや呆れている。
だって、あの人に会う為に逆行したのに平静では居られない。
「ファンサされたら倒れるんじゃないかなぁ。」
「いつでも支えられる準備が必要ね。」
そんな話をしている二人に気をとられていると。
「ヒスイ、授業早く終わったんだね。待った?」
「っ!」
授業を終わらせたコハクさんがそこにいた。とっさにコハクさんへ向き直り笑顔を作った。ちゃんといつもの笑顔だろうか。だけど間近で見るコハクさんが眩しい。
「ぁ、ぃ、いいえ。全然待ってません!今来た所です。」
「これから初デートなのかなぁ?」
「初々しいですね。」
ボッと熱くなった顔を少しでも隠したくて視線を漂わせる。心もとなくて自分の手を握りソワソワしてしまう。そんな私の仕草に気が付かれない訳もなくコハクさんが心配そうな視線を送ってくる。
「どこか具合悪い?」
「ヒスイ様、怖い夢を見たそうで朝から乙女なのよ。」
怖い夢見て乙女になるなんて聞いた事無い。今の私がそうなのだけども。
その言葉を聞いて、コハクさんが私に触れようと手を伸ばすけれど。
「っあ、あの。人前でそんな、気軽に触れるものではありません。」
「え?あぁ、そうか。ごめん。」
すぐに手を引っ込め困った顔をさせてしまった。そんな顔をさせたくて会いに来たわけでは無いのに・・・とまた落ち込んでしまう。
「貴族令嬢らしい対応してるぅ。」
「だけどモジモジしてか弱き少女という仕草がまた・・・。いつものどっしり構えたヒスイ様と大違いね。」
はぁ、とため息が出ると自分が情けなくなってきた。
「あ、あの・・・コハクさん。」
「何?」
名前を呼んだら返事が帰ってくる。
それが嬉しい。
だけど名前を呼び、次の言葉を出したいのに緊張から出てこない。それでも彼に言い事がある。
「ずっと、ずっと前から・・・その」
「?」
モタモタする私にも急かさず、ちゃんと聞く姿勢を見せるコハクさん。眼差しが・・・優しい。好き。
「ずっと前から、好きでした!」
「え?」
言えた。言えた!!
逆行前の人生からのこの想いを伝えられた。
「コハク君、返事は?告白の返事は!」
「ダメだよ、こういうのは急かしたらぁ。」
告白に付いてきた友達みたいな声が聞こえる。その声を背に、バクバクと鼓動する胸を抑え彼を見た。
「ありがとう、俺も好き。」
「!!」
改めて言われると照れるな、と恥ずかしそうな笑顔を見てしまい私の心臓は飛び出しそうです。
その後ろを通りすぎるついでに睨むラピスさんの怖さと、そんなラピスさんにニコリと微笑むベリルさん。笑顔を向けられているはずのラピスさんが少し青ざめた様に見えるけど気のせいだろうか。
心臓バクバクでへたりとそのまま廊下に座り込むとガーネットが支えてくれる。
「初々しいヒスイ様は可愛らしいのですが、一度コハク君に診察はしてもらった方が良いですよ?ほら、前に交わった時の子を授かっていたらそろそろ分かる頃ですし。」
「あ、あの時のですか!!」
「それ覚えてるのによくこんな初々しく居られるねぇ。」
ニヤニヤした二人はポポポッと赤くなる私を見ると更に楽しそうに笑った。
「二人にからかわれてるヒスイが新鮮だな・・・。とりあえず俺の部屋に行こう、忘れ物もあったからちょうど良い。」
「早速お部屋なんて積極的・・・。」
「違うよ!!変な事はしないから!診察の内容があれだからなだけで!!」
私がポツリと呟くと慌てる彼に少し気持ちが落ち着いた。
◆◆◆
初めて訪れた寮の部屋。突然人が来ても通せるなんて普段からしっかり整理しているのが分かる。
ガーネットとメノウは部屋の外で待機してくれているから私達二人だけなのだけど、この空間がとても緊張する。
「じゃあ俺ので悪いけどベッドに仰向けに寝て見て。診察するから。」
言われた通り、彼のベッドに仰向けになる。フワリとした寝心地の良いベッドに寝転ぶと彼の香りに包まれて幸せな気持ちになる。
「コハクさんは、子を授かるかもってお話に動揺しないんですね。」
こういう事を話すとコハクさんなら顔を赤くして照れると思っていた。
「そうなる事をしたから想定はしていたんだ。」
「そう、ですよね。」
冷静なコハクさんに何故か悔しくなる。
「出来るとしたら男の子かな、女の子かなって。名前とかも少し考えて・・・それに子を授かればヒスイを狙う人も寄ってこないし。」
凄く楽しみにしてくれている!!
婚約段階で子を授かる事も多いトロルゴアならではのゆるさ。私達は何歳だから、とかそんなの考えてはいけない。
私の手を握ってから体を風が吹き抜ける。
私の魂に希望をくれた風だ。自然と目を瞑りながらコハクさんに話始めた。
「私が、2度死んだ経験をしていて、その記憶を持ちながらここにいると言ったら信じますか?」
一度目は処刑され、二度目はニホンという国で寿命を迎え。そして今ここに居る。
「ヒスイが言うなら信じるよ。」
握られた手から気持ちが伝わる様で次第に気持ちが落ち着いた。
「今、少し変になってますがソレはその時の気持ちを思い出して、少し混乱していて。だから暫くしたら元の私に戻ると思います。」
「そうか、今のヒスイも可愛くていいけどね。」
「そう、でしょうか・・・」
今の私は処刑された情けない私に近いと思う。それを可愛いと言われた私は体が熱くて仕方ない。
「健康には問題無さそうだね。子は残念ながら授かってない。」
残念、そう思ってくれるのが嬉しい。
「コハクさん、もし良ければなのですが。頭を撫でてくれませんか?」
「こう?」
ベッドに横たわる私の頭をコハクさんが優しく撫でてくれる。目を細めてその優しさを感じると戻って来て良かったと改めて思う。
目を瞑ると私の中に残っていたキラキラとした魔石の欠片が完全に体に馴染む様な気がした。
頭を撫でる手が止まり、もう終わりか・・・と残念な気持ちで彼を見ると。
「コハクさん?」
「え?あぁ、ごめん。」
何故かコハクさんの瞳から大粒の涙が溢れていた。
「何故だろう。今、凄く悲しくなって。」
驚いてベッドから起き上がると指で涙を拭った。そのまま顔を覗きこむと赤くなった目で安心させるように少し笑ってくれた。
「大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。少しだけ抱き締めても良い?」
「勿論。」
抱き寄せられて、彼の温もりを感じて嬉しくなる。
「こうして君の熱を感じるのが嬉しくて仕方ない。」
「私も同じです。
あの時の私は貴方の優しさに触れて、私は戻ってきました。貴女に生きて会いたくて。」
「凄い殺し文句だな。それなのに悲しくて悔しい気持ちになるのが不思議で・・・。」
ぎゅっとお互いの熱を確かめながら、彼の中に残る何かの欠片を感じる。
彼は何かを思い出した訳ではない。だけど彼の中に何かが残っていた。彼にとっては決して良い記憶ではないから思い出さなくていい。
私だけ知っていればそれで良かった。
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