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卒業パーティー
しおりを挟む「本当に大丈夫なのでしょうか?」
「あら、元女王がこれくらいで動揺するの?」
私はガーネットや他の侍女に着替えを手伝って貰いながらお母様が用意をしてくれたドレスに着替えていた。用意されたドレスは一見シンプルだけど細部が凝っていて見るからに高そうだ。
「今日は婚約者の卒業パーティーで、貴方の18歳の誕生日だもの。少しぐらい目立っても良いじゃない?」
寒い風が暖かさを取り戻したこの季節に卒業パーティーが行われた。
私はまだ卒業では無いけれど、コハクさんの卒業パーティーに同伴するべくドレスアップしている。
学生のパーティーなのに気合いの入り方が段違いで浮かないか心配だ。
皆どれ程のドレスで来るのか・・・。
「大丈夫よ、ドレスが無い学生にも貸し出しと手伝いが付くのだから。
トロルゴアの衣装やアクセサリーブランドの宣伝に貸し出しがあるの。浮かないわ。むしろ皆は今日くらい浮きたいと思っているものよ。」
「わぁ。」
祖国と違い、大きく栄えたトロルゴアは学生のパーティーでもレベルが違った。
「コハクさんにも衣装が届いているはずだから楽しみね。」
「それは凄く楽しみですね。」
「ふふっ」
格好いい姿を思い浮かべてつい緩んでしまう顔をお母様に笑われてしまった。
「同伴者が居るとすぐに分かる様に今年はお揃いの花を身につけるそうよ?女性は髪に、男性は胸ポケットに。」
ふふふとお母様が可笑しそうに笑う。
「変なヤツに絡まれる気苦労が少しでも減るようにってあの人が言っていたわ。」
「へぇー!あの学園長が・・・じゃなかった。お父様がですか?」
「ふふっ、あれでも色々とヒスイの事を考えているのよ。貴方は私の恩人であり、その自由を奪ってしまった責任をしっかり理解しているわ。」
とても意外な話を聞いた。
その他にも色々と雑談しながら準備を終えると会場へ向かう。ガーネットとメノウ。そして学園長が選んだ護衛が追加で二人。
私にどんな経緯があって学園長の養子になったかという話は色々な噂が出回っいるらしい。だから護衛が追加された。
ガーネットとメノウはイチャイチャ出来ない事の不満はあれど、私から離れるつもりは無いそうだ。
近づくにつれ、騒がしくなる会場。
ワクワクする気持ちが増すばかりだけれど、家名に傷を付けない様にシャキッとする。
賑やかだった会場にいざ!と足を踏み入れる。
「・・・これが本当に学生のパーティーなのでしょうか。」
「驚きですね。」
祖国の王城で開催されたパーティー顔負けの会場がそこにあった。私はつい、小さな声でガーネットに聞いてしまう。
引き続きシャキッとしつつ、コハクさんを探す。コハクさんから同伴者の印としてお揃いの花を受けとらなければいけないのだけれど・・・。
周囲を見渡しながら歩くと、私に気がついた人達が会話を止めてこちらをじっと見つめてくる。
やっぱりこの貴族やぞ!感が凄いのだろうか。今は本当に貴族だから多めに見てほしい。
「ガーネット、やっぱり浮きすぎみたいです。」
「美しすぎて浮いてるんですよ?」
その言葉にお父様の付けてくれた護衛を見る。
「本当に大丈夫ですか?」
「はい、とても美しいです。この様な美しい方の護衛ならいくらでもしたいぐらいに。」
にこりと微笑み私の手を取ると甲にキスをしようと顔が近づき。
「貴方は余計な事をせず護衛に専念して下さい。」
いつの間にか間に入ったコハクさんに防がれた。格好いい衣装を身につけたコハクさんをぜひ正面から見たいのだけど、背中に隠されている為に背中しか見えない。
あー、でも背中だけでも格好いいけれど。もうちょっと正面に。
そう思って彼の脇から顔を出そうとするけど再び背中に隠されてしまう。
「おや、探してもいらっしゃらなかったので今日は欠席かと思いましたよ。」
「欠席の連絡は貴方達にはしていないよ。それに君は視力も悪いらしい。」
「急病もあり得ますから。視力も良好でございます。」
目の前でバチバチと繰り広げられる会話。
「貴方は彼女の護衛には向かない様だ、他の者と交代してくれ。」
その言葉ににこりと微笑み、大人しく従った一人の護衛は下がって行った。
「ふふふっ。コハクさん試されましたね。」
「試された?本当にそうかな・・・はぁ、心臓に悪いよ。」
そう言って苦笑いで振り返ったコハクさんは光輝く様にかっこよかった。
いつも軽くセットされた髪も凄く素敵だけれどパーティー用にセットされた彼も違った輝きがある。
華やかでキラキラして王子様の様だ。乗るなら白馬ではなく黒馬って感じのかっこよさ!!
それなのに性格は優しいってさ、最強か。
「ヒスイ、いつも君は綺麗なのに今日の君は更に華やかで。近寄りがたいと思っていた人達も勇気を出して話し掛けたくなる程の魅力だ。
どっかの誰かに本気で口説かれる前にパーティーを終わりにして帰ろう。君の気が変わらないか怖くて仕方ない。」
それでいて自己評価が低い。こんな魅力的な人を前にして他に目が行く訳がない。
「私にはコハクさんしか見えませんから大丈夫ですよ。だから貴方も私だけを見て下さいね?」
コハクさんこそ心配だと思い目を見てしっかり伝えると、ポッと頬を赤らめ少し潤む瞳。どこかのヒロインなのかな?可愛すぎる。
「勿論、君しか見えていないよ。・・・そうだ、パートナー同士で身につける花。とても悩んでしまって遅くなってたんだ。この花を君に。」
差し出された花は祖国周辺にも咲いていた可愛らしい花だった。そして良く知っている。この花は私が一度目の人生で死んだ時、彼が私に飾ってくれた花だ。
「この花は俺の一番好きな花なんだ。児童養護施設で俺が子供達と育てていた花で一番綺麗に咲いたものをさっき摘んで来たんだ。取りに行ったら少しだけ遅くなってしまったんだけど。」
「この花は・・・コハクさんが好きな花なんですか?」
「そうだよ、昔からこの花は好きだった。・・・どうかな?」
花なんて貰った事が無いと思ってた。だけど貰ってたんだ。大好きな彼からたくさんのこの花を。
「とても嬉しいです。私の髪に飾ってくれますか?」
「良かった、勿論だよ。・・・ええと、この辺かな?」
私の髪に飾られた花と少しだけ肌に触れた指先があの時の記憶を鮮明なものにする。
「ありがとうございます、コハクさん。貴方に出会えて良かったです。」
「それは俺のセリフだから。」
同じ花を身に付け、パーティーが始まる。
各学科で首席の者には記念品が贈呈されるのだけど、この時にコハクさんが医療科首席だと知って驚いた。
学園長から贈呈される時に何故か学園長が誇らしげで笑ってしまう。
そして、宣言通り表彰を終えたら会場を出てしまった。その帰り際にラピスさんとベリルさんが同じ花を身につけているのを見て「案外上手くいってるんだね。」とだけ話す。
・・・
コハクさんに連れられて歩いてどれ程経っただろう。コハクさんは周囲を見渡し、何かを悩みながら歩いていた。
「何か探してますか?」
学園の中庭に来た所で話しかけてみるけれど困った顔をするだけで返事は曖昧だった。
「一応候補は考えていたのだけど来てみるとコレッ!って感じがしなくて。」
「コレッ!て所ですか?」
「・・・ヒスイはさ、トロルゴアのどこか好きな場所はある?」
好きな場所、そんな事を突然聞かれても・・・。
「強いて言うならコハクさんと相互監視人として過ごした部屋とかご飯が美味しい食堂とか・・・。」
「ご飯!!あぁ、そうだ。ご飯もろくに食べずに出てきてしまったよね・・・。はぁ・・・本当にごめん。」
中庭のベンチに一旦座らせてくれる彼の顔は明らかに落ち込んでいる。
「さっきから何を探しているんですか?」
「・・・特別な場所?・・・特別になる場所、かな?」
「特別な場所?」
特別になりそうな場所を探している?
「あぁ、もうひとつ特別な場所がありました。」
「どこ?」
パッと嬉しそうな期待の眼差しでこちらを見るコハクさん。
「医務室ですよ、私達が初めて結ばれ」
「わー!!!!止めて。特別だけど今じゃない!!」
お顔を真っ赤にして急に慌てる彼。
「貴方が居れば場所はどこであっても特別なんですよ?」
「・・・すぐそういう事を言う。甘えていたら俺がダメ人間になる。」
「ふふふっ、私が居なければダメになってしまえばいいです。そうしたら私達はずっと一緒です。」
木々がザワザワと柔らかい風に揺れて、夕日が学園の中庭に差し込んだ。パーティーの最中だから皆会場に集まっていてここには他に人が居ない。
気がつけば護衛も中庭の外で待機している。きっと気を使ってくれているんだろう。
静かで世界が私達二人だけみたいだ。
風がやみ、空を眺めるととても綺麗に赤く染まっていて夜とのグラデーションが幻想的だった。
「これからもずっと側にいてほしい。」
いつもより真剣な声色で言うコハクさんに視線を向けると私の手を握る。
「勿論です。貴方の側で無くてはダメなのは私の方ですから。」
驚いた様に目を丸くした後、ふわりと潤む瞳で微笑む彼は私の中で一番忘れたくない風景となった。
そのまま、夕日に照らされお互いに引き寄せ合うように唇を重ねる。
彼の手が私の耳に触れ、婚約の装飾品を外されるとシャリと音を鳴らし別のイヤリングが付けられる。
「これで俺のものだから。一生離さない。」
「はい、貴方だけのものです。だからコハクさんも。」
「うん、俺は君だけのもの。」
コハクさんに差し出された既婚者用のイヤリングを受けとると彼の耳に付ける。
これで正式な夫婦となる。
再び見つめ合うと口付けられると求められるまま応じた。
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