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魔物の使役者(笑)

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 その後、ルナスのベッドで目が覚めると夜になっていた。
 離したくないと抱き締めてくれるルナスの温かさにもう少しだけ、とのんびり幸せを噛み締める。
 お腹に違和感の残る私をルナスが付き添い、家まで送ってくれた。

 今は仮でも夫婦として認められた事を改めて両親に話をしてくれたルナスはとても頼もしい。だけど仮なので結婚式はまだ出来そうにない。私達の事を応援してくれている両親は事情を知り。「私達は二人を夫婦と認めている。頑張るんだよ。」と励ましてくれた。

 ガチガチの貴族だったら色々とこうは行かないだろうけど、柔軟に対応してくれる両親に感謝しかない。



 ◆◆◆



 次の日

 いつもの様に朝食の準備を終え、やって来たラグラ様とネムに聞かされた話は衝撃的な物だった。

 ネムが洗濯・掃除・ラグラ様との仕事をしてくれるから私の仕事は料理だけで良いと言う。

 お手伝いさんから魔物の使役者として雇用されたのに、魔物だけで良いなんて役立たずな憑き先でごめん。いや、ネムが有能なのかも知れない。

 人形に憑依出来る中級魔物になったネムはたまに私の中で休憩するだけで元気にラグラ様の所へ行ってしまう。寂しい。
 

 「だから、アタシの体がより人に近くなるように専念するじゃん♪メメとラグラと早く楽しみたいじゃん。
 でも料理だけは体が焦げたりシミついたりしたら嫌だからヨロシクじゃん!」


 今、さらりとメメだけじゃなくラグラ様の名前も出たな。三角関係なの?メメの趣味なの?
 チラリとラグラ様を見ると笑うだけで誤魔化される。大人はすぐ笑って誤魔化す。


 「ネムばかりに働かせて私はネムにとって悪い憑き先になってない?」
 「むしろオヤツが沢山でウハウハじゃん。」
 「夜中に戻ってきて私の中で休んでるのは知っているけど、オヤツって何?」

 魔物の使役者と言うよりは休憩所の方がしっくりくる状況です。

 「アタシのオヤツは人の醜い欲にまみれた感情や噂・嫉妬じゃん。アンタの周りにはそんなのばかりだから、アンタが元気だと、どろどろ増し増しじゃん。だからある程度は協力してやるじゃん。」
 「確かにアーシェリアさんの周りは多いかも知れないね。婚約者候補として選ばれた実績と、美しさ・話題性・前代未聞の魔物使役者なのだから。」

 そういえば、ネムは悪い感情向けられた時テンション上がってたな。あれがオヤツか。

 「ネムが何故アーシェリアさんを助けるのか知ればメメもと思ったが、これは難しそうだね。」
 「メメは協力してくれませんか?」
 「私の都合で動いて貰うのは出来ないな。視力もメメの気分次第でね。だからただの魔憑きさ。」

 なかなか難しいものである。

 そこにルナスがやって来た。いつもだけど今日は特に眠そうだ。
 そんな眠そうな顔だけど、私と目が合うとポッと赤くなり目を逸らすと「おはようございます。」とポツリと言う。

 ルナスが照れると昨日の情事を思い出してしまう。恥ずかしさでぎこちなく「おはようございます」と返すと、ラグラ様がニコニコと見守ってくれた。



◆◆◆◆



 朝食後、ルナスに先ほどの事を話し人形作りで何かお手伝い出来るのか聞いてみると頬をほんのり染めたルナスが「それじゃあ午後に。」と何か仕事を貰える様子だった。

 
 「いやー!連絡貰って大喜びしちゃったよー。王城の中なんて関係者以外そうそう入れるものではないしさ!中を探検したら研究室も行って良い?」
 「もちろん、お茶くらいなら出せますよ。」

 午後まで仕事が無いので以前出会った舞台脚本の作家さんココ・ツァージルさんに連絡を取ってみるとすぐに「行く!!」と返事が来て会うことになった。

 案内できる範囲で城内をココに紹介して歩いていく。そろそろ研究室にと歩いていくと研究棟からローブを身につけ深くフードを被ったルナスが姿を見せた。

 「ルナス?」
 「アーシェリア、そちらの方は?」
 「この前話していた舞台脚本作家のココ・ツァージルさん。」
 「どもー!はじめまして。」

 快活な彼女の声に少しルナスがビクリとした。野良猫みたいで可愛い。

 「ふむふむ、アーシェリアの言う通りイケメンで眼福ねー!この後3人でお茶でもどうですか?台本行き詰まってるんで、すこーしでいいので馴れ初めを丁寧に聞けませんか?」

 「これから同僚の所へ行くので申し訳ありません。」
 
 ルナスは人見知りをしているようだ。今まで嫌われてる前提で他人に会わず、隠れて生活してたから仕方ないんだろうな。

 「えぇ、と傀儡師の?」
 「そうです。だから・・・」
 「傀儡師!!凄い!ぜひ取材をさせてください!!」

 ココはなかなか押しが強い。だけど断りにくい感じが出てる訳でもなく、カラッとしてる態度に好奇心旺盛な子供の様で笑みがこぼれてしまう。
 目がキラッキラである。

 「・・・同僚に良いか聞いてみます。駄目と言われたらそこまでですが大丈夫ですか?」
 「ええ、勿論!無理を言ってるのは分かっているので断られる前提で行きますとも!」
 「ふふふ」

 ココはイキイキとした人だな。私の周りには居ない爽やかな人だ。

 私達3人は隣の研究棟へ。


 ◆◆◆


 ノックすると名乗り、返事を聞いてからルナス一人で入室。
 ココの取材を受けてくれるか聞いてくれている。

 ガジャン!!

 何だ、何かが落ちる音が・・・
 バタバタと走り回る音とズズズズーと何か引きずりバタン!と何処かのドアが閉まる音が聞こえる。

 ココと二人で顔を見合わせると、


「女性を部屋に入れる日が来るなんて思いもしなかった、どうしたら良い!」
 「気持ちは分かるけど、落ち着いてください。」

 
 部屋の中から微かに、だけどしっかり聞こえた。

 
 しばらくしてからドアが開いて苦笑いするルナスと不機嫌そうな顔の魔術師が現れる。
 私達二人の姿を確認すると目を見開いた後、キッと睨まれる。

 「どーぞ。」

 ぶっきらぼうな態度だけど入れてはくれるらしい。睨まれてるけど先ほどの言葉が聞こえた私達は何も怖くない。

 「アーシェリア・ウォルズマーと申します。いつもご協力ありがとうございます。
 こちらが、取材をしたいと言うココ・ツァージルさんです。」

 「ココ・ツァージルです。舞台脚本の作家をしています。この度は取材を受けて下さりありがとうございます。」


 「ろ、ロマーゼル・ローエンスコット。」

 彼を見ると、何か警戒している空気を感じる。まるで初期のルナスみたいな・・・。
 ここで気がついた。ローエンスコット様は尖った耳・話した時にチラリと見える牙・少し鋭い爪と【醜の象徴】を3つお持ちだ。
 この国基準だと醜い容姿と判定されるだろう。
 だけど大きくパッチリな瞳。サラサラの長い髪を品の良い色のリボンで一纏めにしている。体型はすらりとしていて、綺麗系イケメンだ。


 複数の【醜の象徴】持ちって私基準の美形ばかりなのだろうか?
 改めてこの国と美的感覚が合わないと感じた瞬間だった。
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